小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1192回

万能感がすごい。ゼンハイザーのワイヤレスマイク「Profile Wireless 2ch Set」を試す
2025年10月1日 08:00
ゼンハイからもクリエイター向けワイヤレスマイク出てた
YouTubeやVlogなど、動画クリエイターの活躍の場が広がっているところだが、もはやカメラマイクだけで集音している人はほとんどいないだろう。室内ではワイヤードのマイクを使うことも多いだろうが、屋外集音では自由に動けるワイヤレスマイクは必須である。
これまでもRODE、DJI、Ankerといったメーカーのワイヤレスマイクをご紹介してきたが、実は昨年末にゼンハイザーもワイヤレスマイク「Profile Wireless」を出していた。実売は55,000円前後。
ご紹介するタイミングを狙ってはいたのだが、そうこうしている間にバリエーションモデルの1ch Setも登場してきた。こちらは実売35,200円前後。これによって先に出ていた「Profile Wireless」は、2ch Setという名前に変更されたようだ。
今回は改めて、この「Profile Wireless 2ch Set」をご紹介したい。機能的には1ch Setもマイクが1個になるだけでものは同じなので、こちらもカバーできるはずだ。
プロ用マイクを多数ラインナップするゼンハイザーのクリエイター向けマイクとはどのようなものなのか。早速試してみよう。
見事な全部入り設計の2ch Set
Profile Wireless 2ch Setは、トランスミッターマイク×2、レシーバ×1のセットということになる。だが最大の特徴は、ポータブル充電バーと呼ばれるクレードルだ。
内部にバッテリーを搭載する全長約20cmのバー型だが、収納性がすごい。右端にマイク2つ、正面にトランスミッターを収納し、クレードル内蔵バッテリーから充電できる。しかしそれだけではない。左側にはレシーバ部のUSB-C端子やアナログ出力、ヘッドフォン端子が露出しているので、クレードルに入れた状態でも使用できる。
またマイク側にはウインドスクリーンも用意されており、これを装着するとインタビューマイクにもなる。確かに来場者インタビューなどを行なう際には、いちいちワイヤレスマイクを仕込んでもらうわけにもいかないので、ハンドマイクは必要になる。こうした様々な使い方を1つの製品で実現しようという方法論が面白い。
クレードルの背面のフタを開けると、レシーバ用のUSB-Cプラグ、Lightningプラグ、アクセサリーシューアダプタが格納されている。ここにあるUSB-C端子は、クレードル内のバッテリー充電用だ。また底部には、ワイヤレスマイクを止めるためのマグネットが2個収納できる。
アナログ接続ケーブルまでは収納できないので、付属のポーチに収納することになるが、デジタル接続であれば、このバーだけあればとりあえずどうにでもなるというのは強い。ちなみに1ch Setにはこのクレードルが付属せず、全部のパーツをバラでポーチに収納するスタイルとなっている。
では早速マイク側のスペックを見てみよう。
今どきのワイヤレスマイクとしては標準的なサイズで、上部にコンデンサーマイクと、外部マイク入力端子がある。3.5mm端子のラベリアマイクがあれば、これをトランスミッタ代わりにしてワイヤレス化できる。
底部にはUSB-C端子があるが、これは充電用のようだ。手元に同じくゼンハイザーのUSB-C接続のラベリアマイクがあったので繋いでみたが、認識しなかった。
マイク特性は周波数特性60Hz~20kHzの無指向性で、ローカットフィルターは110Hz。伝送周波数は2.4GHz帯を使用する。側面には電源と録音ボタンがあり、16GBの内蔵メモリーにローカル録音もできる。マニュアルで録音しなくても、ワイヤレス接続が弱くなった時点で自動的に内部録音が開始される。
最大録音時間は約30時間となっているが、昨今ファームウェアアップデートで32bitフロート録音にも対応したので、この場合は22.5時間となる。
背面には衣服に挟めるようクリップが付いているが、マグネットでも留められるので、挟み込むところがない衣服でも装着できる。
2ch Setには同仕様のマイクがもう一つついており、ステレオ集音のほかモノラルミックス、セーフティチャンネル集音もできる。セーフティチャンネルとは、レシーバの2ch出力のうち、片方を数段レベルを下げて出力することで、音割れしたときのバックアップとする集音方法だ。
トランスミッタ/マイク側には設定機能が何もないので、すべてレシーバ側の画面で操作することになる。ちなみに本機は本体だけで全部の設定ができるところがウリなので、スマホアプリなどは提供されない。
レシーバは、下から上にスワイプすると全体設定、左から右にスワイプすると1chマイク側の設定、右から左にスワイプすると2chマイク側の設定となる。メニューを前に戻る時には、それぞれ反対方向にスワイプする。
全体設定では、ステレオ・モノ・セーフティーモードの切り替え、出力レベル、32bitフロートモードの切り替え、バックアップレコーディングの有無などが設定できる。
各マイクの設定では、ローカルレコーディングの有無、ゲイン、ローカットなどが設定できる。機能的にはシンプルなので、設定がどこにあるかといった迷子感はない。ゲインやフィルターの有無はレベルメータを表示するホーム画面上にも表示されるので、片方だけ設定が違うといった場合も発見しやすい。
レシーバ右側はUSB-C端子とマイク出力、ヘッドフォン出力があるのは先に見た通り。底部にもUSB-C端子があるが、ここにマウントプラグを差し込んでスマホと直結したり、カメラのコールドシューに取り付けたりするわけである。
基本性能がしっかりした音質
では早速テストしてみよう。今回はマイク1chのみを使用している。使用カメラはソニーのZV-E10で、レシーバをアナログマイク入力へ接続している。したがって1ch Setと同じ状況と考えていただければいいだろう。
音声集音モードだが、「ステレオ」では当然ながらマイクを2つ使う前提なので、1chのみを使用した場合はカメラにはLchしか集音されない。一方「モノラル」に設定すると、同じ音声がカメラ側のLRに振り分けられる。
「セーフティモード」を使用すると、カメラ側のLchには通常レベルの音声、Rchには数段レベルを下げた音声が集音される。32bitフロートを設定すればレベルに関係なく音割れすることはないと思う方も多いと思うが、それはデジタル間での伝送部分の話である。レシーバとカメラをアナログ接続した場合は、そこでレベル調整が必要になるため、セーフティモードは有効な手段となる。
風に対するフカレを検証してみる。ウインドスクリーンなし、ローカットなしでは、やはり風が当たるとフカレが出てしまう。
ローカットを設定すると、ある程度は改善される。ただ強い風が吹くと若干フカレの影響は出る。音質への影響はほぼないので、音声収録に関しては常時ONでも問題なさそうだ。
次にローカットにプラスしてウインドスクリーンを装着してみたが、これはかなり良好な結果が得られた。ウインドスクリーンによる音質の影響もないので、外ロケでは基本的にウインドスクリーンありで使うべきだろう。
マイクの伝送距離は、スペックシートに記載がなかったので、実際に離れてみて調査してみた。1chでの伝送結果では、150mまでは問題なかったが、200mでは一応音声は受信するものの、切れ切れになってしまう。10mおきに集音テストしてみた結果では、180mまでは問題ないようだった。安全を考えて、だいたい150mぐらいということになるが、電波状況が悪ければもっと短くなるはずだ。
「バックアップ記録」はONにしていたが、200mの距離ではまだ伝送できているという判断なのか、自動的にローカルRecには切り替わらなかった。レシーバ側からリモートでローカルRecさせることができるので、レシーバ側でモニターしておき、怪しい場合は遠隔でローカルRecするといいだろう。
充電クレードルをハンディマイクにできる機能があるので、こちらも試してみた。録音モードはセーフティモードだが、マイクが2コ入っている関係で音圧が増すようだ。普通は1つの音源に対してマイクを2コ当てるということはないのでうっかり忘れがちだが、当然出力レベルも上がるので、マイクの入力ゲイン調整も1chだけの時とは変わってくる点に注意していただきたい。
ローカットはなしだが、全体を覆うウインドスクリーンがあるので、フカレには強い。ハンドマイクとしては若干太いが、ワイヤレスの街頭インタビューマイクとしても転用できる点は非常に面白い。またクレードル内のバッテリーから給電できるので、マイク単体のバッテリーが心もとない状態でも集音できるという強みもある。
総論
昨年末に充電クレードル付きで登場したProfile Wireless 2ch Setだが、55,000円はちょっと高いということか、あるいは2chいらないという人が多いのか、価格を下げて1ch Setも発売になった。
とはいえ、この充電クレードルの万能性を見ると、ちょっと高くても2ch Setだよなぁという気がする。ネットでのストリートプライスは、今4万円半ばまで落ちてきているようだ。
機能的にはシンプルで、DJI Mic 3のような音質が変えられるといった機能はないが、基本機能をしっかり押さえた作りは好感が持てる。設定もシンプルなので、クリエイター向けワンオペマイクとして安心して使える。また伝送距離も意外に長く、150mぐらいは普通に実用範囲である。
今回は音声入力がアナログしかないカメラを使用したが、例えばDJI Action 2などUSBオーディオ入力対応のカメラであれば、レシーバをUSB-C直結で録音できる。もちろんスマートフォンにも対応する。
ローカル録音2つとスマホに接続しての3録音がいっぺんにできること、マイク単体でもRecボタンを押すだけでボイスレコーダとして使えること、クレードルに入れればインタビューマイクにもできるということで、記者の取材用セットとしても心強い。
ゼンハイザーとしては初のクリエイター/コンシューマ向けワイヤレスマイクということになるが、さすが完成度が高い。