“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

 

第497回:【CES】2011 CESでわかったいくつかの事実

~ 日本はAV機器No.1の座を守れるか ~



■ CES 2011終了

 毎年恒例となった1月上旬のビッグイベント、2011 CESが閉幕した。昨年からは出展者の減少から、これまで並行して利用してきたSANDS Expoのような外部の会場を使用せず、ラスベガス・コンベンションセンターと隣のラスベガスヒルトンのみの展示となっている。

 しかしそのぶん、人が1カ所に集中するため、混雑も相当なものであった。CESの発表によれば、今年の来場者は予約時点で約14万人、海外からの来場者は約3万人であったという。来場者の模様を伺っていると、中国人の姿が非常に多くなっている。しかもオジサンではなく、20代の若者や女性が多い。数年前までは東洋人と言えば大半が日本人、あとは韓国人で、中国人はあまり見かけなかったものだが、近年の経済成長を裏付ける格好となった。来年、再来年あたりはインド人の姿も多く見かけることになるかもしれない。

 今回は、会期4日間を通して感じたこと、わかったことなどを総括してお送りしたいと思う。


■ 3Dは本当に来るのか?

白を基調に、空間の使い方が上手かったソニーブース

 初日と2日目は、日本メーカーが多く出展するセントラルホールを中心に取材したのだが、人の流れが明らかに変わった感じがした。いつもどおりPanasonicやSONYが会場のいいポジションを締めているにも関わらず、初日はSamsungとLG電子の韓国企業ブースに人が集中していた。一方2日目となると、今度は日本企業ブースが混雑してきた格好だ。

 すなわち米国消費者にとってプライオリティが高いのは、もはや韓国企業であるということのようだ。そして初日にそこを見たあと、日本企業に回るという状況が顕著に表われたのが、今年のCESの特徴ではなかったかと思う。これはテレビの売り上げから見ると妥当なところで、実際に米国でのテレビ市場は、韓国勢がワンツーフィニッシュを決めている。

 もちろんテレビは大きなマーケットだが、それはやはり放送がデジタル化したことによる買い換え需要の余韻が未だ続いているからである。さらにはテレビのIP化が起こり、もうしばらくテレビ市場は堅調な伸びを見せるだろう。

 日本の家電メーカーの思惑が外れたのは、3Dテレビが予想外に売れなかったことである。昨年の話では、夏頃には3D映画のタイトルが20本ぐらい出ていよいよテレビも3Dの時代という筋書きだったが、実際に売り上げのほうは、3Dテレビでは売り上げNo.1という米SONYでさえ、具体的な数字の公表は控えるような状況であった。

 たしかに3Dは、テクノロジー的には非常に面白い。まったく新しいマーケットが誕生する可能性があるのも事実だが、それにはやはりコンテンツがなければ話にならない。この滞在中に大手家電量販店FLY'sを覗いてみたが、3Dのブルーレイコンテンツは4タイトルしか並んでいない。これで3Dテレビを買えというのは、無理な相談だろう。

 そこで日本メーカーが大きくてこ入れしてきたのが、3D撮影可能なカメラとカムコーダである。ご存じのように今や世界のカメラとカムコーダは、ほとんどが日本製品で占められている。市販コンテンツに頼るのではなく、自分で3Dコンテンツを作って楽しむという路線に切り換えてきた。

 以前からPanasonicが3Dコンバージョンレンズを使って、動画でも静止画でも3D撮影できるというソリューションを提案してきた。一方SONYは、デジカメのスイング撮影機能を利用して3D撮影できるものはリリースしてきたが、動画は撮れなかった。

 しかし今回、ソニーとJVCが二眼3Dの本格的なカムコーダを登場させた。実は業務用では、すでにPanasonicが二眼3Dのカムコーダをリリースしているが、コンシューマではまだ3Dコンバージョンレンズ止まりだったのだ。それをいち早くコンシューマで展開していこうというわけである。


プレスカンファレンスで登場した二眼3Dのハンディカム「HDR-TD10」未来的なデザインのJVC「GS-TD1」

3D Bloggieは救世主となるか
 さらにSONYは、ポケットカメラのBloggieでも3Dが撮影できるモデルを発表した。4月の発売だというが、米国では元々安価なポケットカメラが好調であることから、これはヒット商品になる可能性がある。3Dテレビが普及していないことはすでに述べたが、元々Bloggieのような製品は、ネットにアップすることを目的としたカメラである。

 現在YouTubeでは、3Dフォーマットの映像をアップロードすると、サイドバイサイドやアナグリフ方式など、ユーザーの環境に合わせた方式に自動変換してくれる機能を持っている。ネットであれば、見せる環境があるわけだ。


東芝の部分駆動3Dディスプレイ。右側のウインドウで筆者の顔を認識しているのがわかる

 個人的には今さらアナグリフでもないだろうと思うので、ここはやはり3D対応のPCディスプレイの隆盛に期待したい。そういう意味では、東芝がプレス向けのパーティで展示していたPCディスプレイが面白かった。部分駆動できる裸眼3Dディスプレイは昨年のCEATECでも展示していたが、じっくり見たのは初めてであった。

 これが面白いのは、ノートPCに付いているカメラを使って、見ている人を顔認識し、そちらの方向へ向けて裸眼立体視が最適になるように駆動を変えることである。複数人が見るときにはどうすんだという課題はあるにしても、裸眼3Dディスプレイの弱点であったスイートスポットが限定されるという問題が解消できる。

 最近ネットでも話題になっているMicrosoftのKinectのように、カメラと赤外線を組み合わせたセンサーデバイスがあれば、視聴者の位置と距離を測定することは、そう難しくない。3Dに限らず、そこへ向かってディスプレイ表示を最適化するという技術は、今後芽があるだろう。


■ 期待が高まる2D-3D変換

 これから自分で新しく3Dのコンテンツを自分で作るということに興味がある人は、どれぐらいいるのだろうか。これまでいくつか3D撮影の現場に立ち会ってきたが、実はちゃんと破綻せず3Dに見えるように撮影するのは、結構大変だ。というのも、撮影条件が限られるのである。

 あまり近寄れないので、マクロ的なものは撮影できない。また風景など遠景しかない場合は、二眼カメラを使ってもあまり立体にならない。一般的に3Dカメラの2つのレンズ間は6.5cm程度が標準と言われているが、遠くのもの、大きなものを立体的に見せるためには、2つのレンズ間の距離を数メートル離す必要がある。しかしそのようにして撮影された映像はいわゆる「箱庭効果」、つまりミニチュアを見ているかのようなスケール感のない映像になってしまう。

 多くの既存3Dコンテンツはその問題をどのようにして解決しているかというと、まずは2Dで撮影しておいて、2D-3D変換を行なっている。普通に二眼カメラで撮影するカットと、2D-3D変換したカットを組み合わせて映像作品を作っているわけである。

 そういう意味で興味深いのが、JVCの2D-3D変換機能を搭載した「GZ-HM960」である。JVCには元々「IF-2D3D1」という、既に業界標準ともいえる2D-3Dコンバータがあり、プロのコンテンツ制作でノウハウを蓄積している。その技術が民生機で簡単に使えるというのは、意味がある。つまり二眼カメラでは破綻してしまうようなショットでも、このカメラなら3Dになるからである。コンシューマとしては、こちらのほうが汎用性が高いだろう。

2D-3Dコンバータ搭載のJVC「GZ-HM960」

 ただ今後の問題としては、まだコンシューマでは3D映像を記録するための共通フォーマットがないということだ。今回発表されたSONYとJVCのカムコーダは、共にH.264/MVCフォーマットで記録することはわかっているが、最初の発売ではそれぞれが独自規格にならざるを得ないだろう。これの意味するところは、しばらくは撮ったカメラで再生するしかないという状況になるということだ。付属ソフトで簡易的な編集はできるとしても、撮影時と同クオリティの映像を再生する装置がカメラしかないからである。

 また今後のカムコーダのトレンドとして、1080/60Pによる撮影はソニーが参入したことで、本格化しそうだ。しかしこちらもAVCHD規格にはまらず、各社が独自規格となっている。1080P記録を一番最初にやったのはPanasonicだが、当初はAVCHD規格を拡張する予定だった。しかしこの拡張は、どうやら頓挫したようである。


ソニーも「HDR-CX700V」を筆頭に1080/60P記録に参入

 AVCHDは元々DVDメディアにHD映像を書くという目的でスタートし、ゆくゆくはBDが普及したときにも移行しやすいような設計となっている。しかし記録・保存にBDを使うというソリューションが思ったよりも伸びてこない現状を見ると、AVCHDフォーマットにこだわる必要がどこまであるのか、という壁にさしかかってきている。

 実は1080/60iの3Dと1080/60Pは、親和性が高い。なぜならば、内部的に2ストリームになっているのが3Dというだけで、映像の総ビットレートでは同じだからである。もうそろそろDVD記録の部分は諦めて、将来の技術を睨みつつ、3D記録と1080/60P記録を内包する形の共通フォーマットの登場が待たれるところである。


■ 情報戦化するCES

 今年のCESで個人的に衝撃だったのが、会場取材もネットから情報が引き出せると全然効率が違うということであった。CESではiPhoneとAndrold用にアプリをリリースしており、会場地図をはじめCES主催者からのリリース、関連Twitter、ユーザー投稿の写真にいたるまで、手元にどんどん情報が入ってくる。Androidアプリは地図の出来が今ひとつということだったが、iPhone用アプリは大変重宝した。

完成度が高いiPhone用のCESアプリユーザー投稿の写真から面白いものを探すことも

 特に地図情報は、これまで大きな紙の地図を何枚も持ち歩いて、行きたいところに○を付けたりしていたものだが、そういうアナログな手間が一掃された。iPhone用アプリでは、行きたいブースにチェックを付けると黄色に、行ったブースをチェックすると緑に変わる。またメーカー名からブースを探す事もできる。

行きたい場所にマーキングできる地図を搭載地図上でブースをクリックするとマーキングできる

 あいにくプレス専用のツールではないため、プレスカンファレンスの情報までは載っていないが、会期中は大変役に立った。昨年からこのアプリはあるそうだが、昨年はiPhoneを持っていなかったので活用できなかったのだ。このような試みは他のカンファレンスでもぜひ取り組んで欲しいところである。

 ただ残念だったのは、米iPhoneのキャリアであるAT&Tの回線状況が悪く、初日から2日目ぐらいまでは、受信状況は悪くないように見えるのに、データが落ちてこないという状態が続いたことである。Twitterでももっと発言したかったのだが、まったく更新されなかった。日本の場合は、コミケなど大量に人が集まるイベントのとき、各キャリアが臨時車両を出して回線を確保するものだが、そういうこともないようだった。

 日本に戻ってから通信料を確認したところ、7日間の滞在で海外通信料が1万円程度ということになっていた。海外向けのデータ通信カードをレンタルしていくのとあんまり変わらない金額ではあるものの、あの繋がらなさでiPhoneしか使えず1万円かーと思うと、あんまり得策ではなかった。

 1月12日のAppleからの発表によれば、新たに2月からVerizonでもiPhoneが使えるようになるそうである。さらにVerizon版iPhoneでは最大5台のデバイスに対してティザリングできるそうなので、評判の悪いAT&Tから乗り換える人も多そうだ。日本からiPhoneを持っていく場合は、ソフトバンクがAT&Tと提携して「海外パケットし放題」を提供している関係から、AT&Tしか選択肢がないわけだが、米国のユーザーがAT&TからVerizonに逃げてくれれば、多少はマシになるかもしれない。

 またCESの公式サイトも、ネットによる情報公開がすごい。プレスディのキーノートなどは、公式動画配信を行なっている。さらにその内容も全部テキスト化(transcript)されており、ビデオ全編を見る時間がない人は拾い読みできるようになっている。

 もちろん、それらを伝えるためにプレスメディアが取材に訪れるわけで、母国語に翻訳された記事が見られるという意味では日本からプレスが出かけていくことにも、それなりの意味があるわけだが、英語圏の人はメディアに頼らず一次情報に直接触れることができる。

 SONYのプレスカンファレンスは今年もUstreamを使ってリアルタイム配信しており、執筆時点では約5万5千人が視聴している。文字と写真だけでは十分伝えられなかった興奮と感動、そしてきわだったステージングが、誰でもいながらにして確認できるわけだ。


■ 総論

 こうしてネットの利用率を調べてみると、日本で行なわれる展示会などはいかにも旧式でアナログで、情報を出したいのか隠したいのか時々わからなくなる。そりゃ人も来なくなるわなと言いたくもなるというものだ。

 ただそれも日本の立ち位置を考えると難しいところで、あんまり情報を出さない方が得策というところも確かにある。日本における資源は知財しかないわけで、新技術をバンバン発表してしまうと、海外メーカーにおいしいところを持って行かれるという可能性もあるわけだ。

 事実韓国メーカーは、技術的にイノベイティブな部分はそれほど多くないが、日本メーカーがやってきた数々のトライアルのおいしいところをまとめて、「要するにこういうことだろ」という製品を出して売り上げを稼いでいる。いわゆる2ちゃんねるよりも2ちゃんねるまとめサイトのほうが効率よく儲かる理屈と同じである。

 日本もそういう売り方で行きたいところだが、立ち止まることが許されない国になってしまっているのが苦しいところだ。今後は日本メーカーも、先へ先へと進む部分と、コンサバに攻めてがっちり稼ぐ部分をしっかり作っていく必要があるだろう。

 振り返ってみると、昨年の予想でいろいろ外れた部分が多いというのが、2011 CESの印象である。例えばワイヤレスの映像伝送やワイヤレス充電などは、今年はもっと本格的に実装されてくるかと思ったのだが、案外そっち方向でのアグレッシブな展開は見られなかった。

 さらに昨年と違ってきたのは、自動車メーカーがCESに参入してきたことである。前から出展されていたカーオーディオの話ではなく、EV(電気自動車)としての出展である。電気で動けばそういうのも家電なのか? という疑問もないこともないが、新しい方向性が出てきてCESはますます幅が広くなった。

 しかし少なくとも、この春ぐらいまでの製品はだいたい把握できたのではないかと思う。ますます面白くなるAV機器の世界を、存分に楽しみ尽くしていこう。


(2011年 1月 13日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]