“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

 

第520回:TVメディアをガラガラポン、ガラポンTV弐号機

~外出先からも視聴可能な7ch/24時間録画機~



■本当にテレビ離れか?

 6月14日に19時台の民放視聴率(関東地区)がついに全局1桁台になるという事態が起こったそうである。テレビ朝日のプロデューサー氏がTwitterにそうつぶやいたことを受けて、テレビ離れの深刻化が浮き彫りになったという見方をしているメディアも多い。

 しかし筆者はそれとは違った意見を持っており、単に人々のライフスタイルが放送を生で見るという様式に合わなくなっただけのことではないかと思っている。視聴率はナマ視聴しか計測出来ないのでこのような数字として現われるが、AV機器やITに強い人ほどタイムシフトやプレイスシフトを活用しているはずであり、それらを含めればメディアとしての接触率はそれほど悲観したものでもないはずだ。

 テレビ視聴はもはや時間を占有するものではなく、効率を求める時代に入ったのだと言える。そんなテレビへの接触を高めるAV機器としては、新しいタイプのレコーダの存在に注目したい。従来型のレコーダは単にユーザーが予約した番組を録画するだけだが、24時間全番組を録画しておき、検索で見たい番組を見つけるという製品は、今もなおユーザーのあこがれであり、注目を集め続けているという事実がある。

 過去この連載でも、ソニーの「Xビデオステーション」、PTPの「SPIDER」、ソフィアデジタルの「ARecX6」などを取り上げてきたが、そのジャンルに新たに参入してきたのがガラポン株式会社の「ガラポンTV弐号機」である。7chのワンセグチューナと映像のネット配信機能を持ったボックスで、録画用のHDDは別途自分で用意する。

 デジタルハイビジョン番組を全局録画するとなると、かなりの容量のストレージを用意しなければならないが、ワンセグであればそれほど多くは必要ない。ARecX6と機能的にちょうど被る存在となりそうだが、コンセプトは結構違っている。そんなガラポンTV弐号機を、早速試してみよう。



■AV機器には見えない無骨なルックス

シャーシ的には自作箱風

 弐号機というからには、初号機があったわけである。弐号機の発売は今年4月だが、それ以前の初号機はPC周辺機器というスタイルだったので、接続用のPCが1台必要であった。それを改良し、本体だけのスタンドアロンで動作するようになったのが弐号機というわけだ。販売はネットのダイレクト販売のみで、価格は34,500円となっている。

 外観は、あーこれ昔のアキバ・ラオックスザコンの地下んとこでシャーシ買いましたよね、これ俺も買ったことあります的な金属箱で、天面と側面にかなりの面積で空冷用のスリットが空いている。フロントパネルはロゴと電源LEDがあるのみで、スイッチ類は何もない。ACアダプタを挿せばそれで電源ONといったシンプルさだ。

 サイズ的には高さ2Uで横幅はハーフラックサイズといったところだ。奥行きは普通のレコーダ並みにある。スリットから中の基板が見えるが、未使用のPCIバススロットらしきものが見えることから、小型PCマザーボードを組み込み用Linuxで動かすといったタイプのものではないかと推測する。


中味は小型PCか?

 CPUは不明だが、ヒートシンクのみのファンレスなので、それほど高速ではないのだろう。ただ常時電源が入りっぱなしなので、筐体はかなり熱くなる。ボディ上には録画用HDDなどを置きたくなるのが人情だが、それは避けた方がいいだろう。

 背面に回ってみよう。こちらもシンプルで、地デジ用アンテナ端子、HDD接続用のUSB端子、LAN端子、それにACアダプタ用の端子があるのみだ。ACアダプタはかなり大型だが、それだけ安定した電源供給が必要になるということなのだろう。


背面もひたすらシンプルちょっと大きめのACアダプタが付属

 利用できるHDDとして同社検証済みなのは、バッファローとアイ・オー・データの3.5インチ外付けタイプ。2.5インチのUSBバスパワー型は推奨されていないが、使える場合もあるようだ。今回は手元にあったHDDがそういうタイプしかなかったので試しに繋いでみたが、問題なく使えている。このあたりは自己責任で、ということになる。



■設定は決め打ちで簡単

ガラポンWEBでID発行と本体登録を行なう

 録画した番組は、ネットワーク経由でパソコンやスマートフォンなどのブラウザから視聴することになる。設定などもすべてブラウザでガラポンにログインして行なう。

 まずは利用のためのID登録が必要だ。ガラポンWEBにアクセスして、新規IDを取得する。IDの発行にはガラポン本体のシリアルナンバーが必要になるので、ハードウェアのオーナーでなければ登録できない仕掛けだ。また同じIDを使って、同時に1つの端末からしかアクセスできないようになっている。他の端末で見ようとすると、別の端末が強制的にログアウトされる仕組みだ。

 家庭内LANだけで利用するならこれだけですぐ利用開始できるが、出先からログインして視聴したい場合は、月額380円の「エントリープラン」の加入が必要になる。ただし2011年8月いっぱいまでは無料で利用できるそうだ。とりあえず試してみて、必要ならば加入するということになるだろう。


ガラポン本体にログインしたあとのトップ画面

 IDが無事発行されると、ガラポンにWEBブラウザでログインできるようになる。すべてブラウザだけで操作できるので、極端に言えば無線LANルータとiPhone 1台あれば設置可能だ。

 接続したHDDは、暗号化のために一回初期化する必要がある。容量の目安としては、1日で約35GB、2週間で500GB程度だ。接続したHDD容量に応じて、録画保存期間を自分で設定する必要がある。この保存期間を過ぎた番組から順に消去され、新しい番組の録画に割り当てられるというループ状態になるわけだ。

 受信放送局の設定などはない。なぜならば、現在は関東圏のキー局がプリセットされているからである。今のところチャンネルをスキャンしてプリセットする機能はないようだ。

【お詫びと訂正/2011年6月24日】
 記事初出し時、番組データベースと連動すると記載しておりましたが、データベースは参照しておらず、ワンセグ内のデータを参照しているということでした。お詫びして訂正させていただきます。関係者の皆様にはご迷惑をおかけしました。


受信レベルを計る機能があるのはユニーク

 機能の中に受信レベルを計る機能があるのはユニークだ。この受信レベルが50以下の場合は、ブースターなどを入れて増幅してやる必要がある。筆者宅は自宅アンテナによる直接受信でかなり分岐もしているが、幸いなことに50を下回ることはなかった。

 屋外からのアクセスを可能にするために、家庭内のルータにポートフォワードの設定を行なう必要がある。この手順が結構ルータによって違うのでややこしいのだが、サポートページに代表的なルータの設定がある。最後にルータの再起動を忘れなければ、それほど難しい設定ではない。




■番組表に依存しない視聴スタイル

 では実際に番組の録画と視聴を見ていこう。録画と言っても設定が完了すればあとはもう自動でバリバリ勝手に録っていくだけなので、録画予約などの設定は何もない。したがって番組表表示といった機能もない。

 ガラポンへのログインは、ガラポンに割り当てられているローカルIPアドレスにブラウザでアクセスするだけである。最初に決めたIDとパスワードでログインする。

 録画された番組は、SPIDERなどでは過去の放送番組も番組表スタイルでの表示が可能だが、ガラポンにはそのような機能はない。日付、ジャンル、放送局の3タイプの一覧から探していくのみだ。各番組はサムネイルと番組紹介文面、放送局と放送時間がデータ入力されている。このあたりの設計は、ARecX6がDLNAベースで仕様を決めていたのに比べると、かなり独自である。

ジャンル別の番組表示画面トークバラエティで一覧表示した結果
番組再生画面。iPhoneで再生すると動画が画面いっぱいに表示される

 見つかった番組をクリックすると、再生画面に移って再生が始まるという段取りだ。動画ストリームはH.264で、HTML5対応ブラウザのみの対応となっている。Safariが推奨されており、iPod/iPadでの再生も可能だ。それ以外のブラウザではFlashによる再生になるが、Internet Explorerは不可、Google Chromeは非推奨となっている。Firefoxは特に問題ないようだ。ホームネットワーク内からの再生レスポンスに関しては、番組を叩くとすぐに再生が始まるためストレスはない。これはiPhoneやiPadでも同じだ。

 画質的にはワンセグなので、それほどギッシリ高画質といった感じではないが、iPhoneで視聴するぐらいなら十分だ。PCやiPadで画面いっぱいに拡大すると、ちょっとしんどい解像度である。


「お気に入り」に入れると消去されない

 番組再生画面では、「お気に入りに入れる」機能がある。通常は設定した録画期間を超えると自動的に番組が削除されるわけだが、お気に入りに入れると自動削除対象外となるので、番組を残すことができる。ただ残すとは言っても本当に消えないでいつまでも残るというだけのことで、ここから番組を何かに書き出すような機能はない。

 当然お気に入り番組が増えていけばそれだけ録画サイクルに使える領域が減るので、見たら自分で消す必要がある。ただ能動的に「消す」という機能がないので、お気に入りから外すという作業で自動的に消えるものと思われる。


URLをTwitterなどに書き出すことでユーザー同士がお勧め番組を交換できる

 再生画面では、Twitterへの投稿機能も付いている。独自のURLを生成して投稿できる機能で、他のガラポンユーザーがURLをクリックすると、その番組の再生画面に行くというものだ。URLだけをクリップボードにコピーする機能もあり、Twitter以外のSNSや掲示板などを使ってお勧め番組などを教え合うといった事もできる。

 番組を探す機能として、検索機能はぜひ利用したい。これは番組情報に含まれるキーワードを検索できるほか、番組中に出てきたテロップの文字列も検索できるというもの。例えば、今関心の高い話題として「福島第一原発」を番組情報から検索すると、1件しかヒットしない。しかしテロップ情報を検索すると、74件見つかる。番組の解説情報には入っていないが、ニュースとしてはこれだけの件数が扱われているということがわかる。

番組検索機能が充実テロップが検索できるのは強力

 また見つかったテロップのリンクをクリックすると、そのテロップの出現位置から再生がスタートする。知りたい情報を一発で探すことができるという意味では、もの凄く効率がいい。同じようなことはアナログ版SPIDERがすでに実装しているが、これはアナログ放送故にネット上のテロップのデータベースと連動させている。一方ガラポンはワンセグ内の字幕機能として提供されているテロップ情報を検索する仕組みだ。

 もう一つガラポンの特徴としては、外出先からも番組再生が可能な点が上げられる。ホームネットワークでの再生はガラポンに割り当てられているIPを直接叩いたが、外からの場合はいったんガラポンのページにアクセスしてユーザーIDでログインしたのち、改めて自宅のガラポンにログインするという段取りになる。操作自体はホームネットワークで使っている時と同じだ。


なぜかソフトバンク3G回線では再生できなかった

 ただ当然ではあるが、レスポンスはかなり異なる。今回はiPhoneとiPadでテストしたが、ソフトバンクの3G回線では再生用の画面までは行けるものの、動画の再生ボタンが出てこないという問題があり、再生できなかった。一方NTTの3G回線を使うモバイルWiFiルーターを使用した場合は、問題なく再生できた。回線スピードを計測するとソフトバンク網のほうが速いのだが、原因はよくわからない。

【2011年6月29日追記】
 記事初出し時、ソフトバンクの3G回線で再生ボタンが表示されないと指摘しましたが、2011年6月29日のファームウェアアップデートで解消されました。

 モバイル回線でもいったん再生が始まればそこそこ安定して視聴できるのだが、早送りやテロップ検索からのジャンプは、モバイルからでは結構時間がかかる。CMを飛ばすぐらいの早送りであれば、もうそのまま流して再生させたほうが速いかもしれない。WiMAXのような高速モバイル回線や公衆無線LANサービスを使えば、もっと快適に視聴できるだろう。




■総論

 テレビが好き、という人は2つのパターンに分けられる。一つはシリーズとしての番組あるいはコンテンツのファンで、何かに保存する、収集するということを目的としているタイプ。もう一つは、網羅的に探して見ることを目的としていて、見たら消すタイプである。もちろん両方を行なう人も多く、コンテンツへの思い入れの違いでアプローチが異なっている。

 さらにはこの組み合わせで、網羅的に番組を録画して必要なものだけ取り出して念入りに保存するという人もいるが、そういう人はテレビ視聴者というよりむしろ、漁業に近いんじゃないかと思う。

 24時間全チャンネル録画を謳う製品は、網羅的に探して見るタイプの人に向けたものだ。ガラポンTV弐号機は、ワンセグの24時間フル録画という機能で見るとARecX6と似たようなものと思われがちだが、番組検索のコンセプトで見るとSPIDERの方に近い。さらに外出先からの視聴手段もあるということで、この両者ともまた違った立ち位置の製品だと言えそうだ。

 テロップ検索機能は強力で、一つのキーワードを中心にいろいろな番組と出会うことができる。例えばWEBのニュースでは一つのキーワードをキーにいろいろな報道を比較して読むようなことが当たり前だが、テレビでも同じ事ができるわけだ。テレビも情報ソースの一つとして押さえとく、といったビジネスマンにも、手軽に導入できる価格が魅力である。

 またガラポンはハードウェア売りっぱなしのビジネスというわけではなく、頻繁にファームウェアのアップデートが行なわれている。この記事を執筆している20日にもアップデートがあり、Flashによる動画再生待ち時間の改善と、過剰に発熱した場合に自動シャットダウンする機能が加えられた。

 ハードウェアとしての見た目は無骨で洗練されているとは言えないが、テレビを一つの情報源に分解してみせるというサービスのほうを重視しているように見える。ワンセグという軽いデータを使って、モバイルでの利用も実用レベルに実現してみせた意義は大きい製品だと言えるだろう。

(2011年 6月 22日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]