小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第667回:これはすごい! 音声操作やリモート視聴など、いろいろ出来過ぎの全録DIGA「DMR-BXT970」
第667回:これはすごい! 音声操作やリモート視聴など、いろいろ出来過ぎの全録DIGA「DMR-BXT970」
(2014/6/18 10:00)
久々の全録機が大幅機能アップ
今回は久々のレコーダである。レコーダ全盛の2006年~2009年頃は、新製品シーズンになるともう毎週のようにレコーダをレビューしないと追いつかず、しかも新製品発表が年間4シーズンあったりして大変な活況だったものだが、最近は年1回ペースに落ち着いている。
一時期レコーダにPC周辺機器メーカーも参入するなど、盛り上がった時期もあるが、結果的に現在のレコーダ市場は老舗家電メーカー4社に絞られた。ただ人気という点では、パナソニック・DIGAはやはり強い。
そんなDIGAの全録モデルが、およそ1年半ぶりにリニューアルされて帰ってきた。「DMR-BXT970」(以下BXT970)は、パナソニック初の全録機だった「DMR-BXT3000」の後継機にあたるモデルだが、型番4ケタの高級路線ではなく、3ケタのリーズナブル路線での登場となった。
5月25日発売で、店頭予想価格は21万6,000円前後。ネットの通販サイトでは実売15万円を切り始めているところだ。なおチューナ数を絞った弟分の「DMR-BXT870」は店頭予想価格15万1,200円前後で、実売で10万円を切るところもある。
個人的にDIGAの型番970はマジックナンバーだと思っていて、2009年発売の「DMR-BW970」を以て、予約型のレコーダは完成の域に達したと感じている。そのナンバーを引き継ぐ全録機なだけに、期待も高まる。さっそくテストしてみよう。
不思議な佇まいを演出したボディ
ではまずデザインから見ていこう。前作がシンプルな箱型であったのに対し、今回は角が切り落とされたスモークの鏡面仕上げという、独特のデザインとなっている。いかにもレコーダ丸出し的なデザインではなく、外側から機能が予測できないルックスがなかなか面白い。
フロントカバーを開けると途端にレコーダっぽくなるわけだが、左側がBlu-rayドライブとUSBポート、SDカードスロットなどのメディア群、右側が表示部とB-CASカードといった具合に分かれている。
チューナは、通常録画部(予約録画)が地デジ、BS/110度CSデジタルそれぞれ3つ、チャンネル録画部(全録)は地デジが8つ、BS/CSが3つとなっている。前モデルはB-CASカードが3枚必要だったが、今回は2枚で済んでいる。
内蔵HDDは5TBで、出荷時は通常録画用に2TB、チャンネル録画用に3TBが割り当てられている。前モデルのBXT3000ではできなかったHDD容量配分も、ユーザーが自由に設定できるようになった。
天板はヘアライン模様の樹脂製で、やや光沢のある作りだ。触るといかにもプラっぽいが、見た目は重厚である。天面には電源とBDイジェクトボタンがある。昔は電源とイジェクトボタンが左右に離れていたものだが、一箇所にまとめるデザインに変わっている。
背面を見てみよう。相当いろんなことができる全録機だが、背面は結構シンプルだ。地デジとBS/CSチューナへのRF入力とスルーが1組ずつ、HDMI出力は1つだ。アナログAV出力、光デジタル音声出力、i.LINK端子も各1つずつである。
一方USB端子は豊富で、通常録画用とチャンネル録画用のUSB 3.0端子が、それぞれ独立している。さらに一般的なUSB 2.0端子も1つある。弟分のBXT870は、通常録画とチャンネル録画兼用の増設HDDポートが1つしかないので、そのあたりも選択のポイントになるだろう。なお、新モデルではチャンネル録画先として、USB HDDに最大4チャンネル割り当てられるようになっている。
今回はリモコンも大きなポイントとなっている。これまでパナソニックは、四角や円形のタッチパッド式リモコンなどいろんなトライアルをしてきたが、今回は音声コマンドによる動作を行なうために、マイクが内蔵されている。
また底部の凹み部分には「モーションボタン」が新たに設けられた。Wiiみたいに、リモコンを画面に向かって上下左右に動かす事で、レコーダをコントロールする。
そのためデザインも大幅に変更されており、比較的前の方を持って重心バランスを取る作りとなっている。10キーほか細かい機能切換ボタンは全部蓋の中にしまわれており、だいぶすっきりした。
自由度が高いチャンネル録画
では早速全録設定である。本機では、チャンネル録画用として8つ、放送波を割り当てることができる。さらに追加チャンネルとして、通常録画用に用意されている3チューナのうち2チューナも追加できるため、最大10チャンネルの録画が可能だ。地デジ全部に加えて衛星放送の有料専門チャンネルも録るといったユーザーには嬉しい設計である。
ただ有料放送の契約はB-CASカード単位になるので、チャンネル録画用のスロットに入れると、録画はできるが放送中の番組視聴ができなくなる。したがって有料チャンネルを録画する場合は、通常録画のほうに契約B-CASカードを入れて、追加チャンネルで全録するといいだろう。これなら残りのチューナーで自由にライブ視聴もできる。
録画チャンネルとチューナの関係だが、チャンネル録画用カードを使って3波自由に録画できるのは3つ、5つは地デジ専用だ。通常録画用は3波を自由に選択できる。またチャンネル録画の画質モードで、新たにDR記録が選べるようになったのは大きいポイントだ。これもBXT870にはない機能である。
なお、通常録画用チューナから2チューナをチャンネル録画用に割り当てる事ができるが、その設定時に「BDビデオ再生中などは追加チャンネルの録画を一時停止する」というアラートが出た。しかし、実際にBDを再生したところ、録画は停止しなかった。パナソニックによれば、放送を録画したBD-Rなど、市販のBDビデオ以外では録画は停止しないという。
また、他には「ディスクやSDカードに記録された撮影ビデオの再生」、「1080/60pの表示がある番組の再生時」、「AVCHD 3Dの3D再生時」「1080/60p、AVCHD 3Dの表示がある番組の編集時」、「動画や写真の取り込み時」、「写真の再生時」、「『おまかせクリップ』や『動くアルバムメーカー』の作成時」、「インターネットを使用するサービスの利用時」、「音楽CDのHDD録音時」などに録画が停止するという。これは、デコーダやCPUの負荷による制限だそうだ。
毎日メンテナンス時間がどこかに必要なので、録画停止時間内のどこかで決める必要がある。デフォルトでは午前4時にセットされているが、ユーザーが自由に変更できる。録画停止時間はおおざっぱに何時から何時まで録画するという決め方もできるほか、詳細設定で曜日ごとに設定することもできる。
基本的にはこれだけで全録がスタートする。あとは録画された番組をどう見ていくかに集約される。
新しいインターフェース体験
レコーダの操作はリモコンで行なうのが常識だ。ボタン操作でダイレクトに機能を呼び出すか、スタートメニューから選んでいくかである。いずれにせよ操作の中心は、十字キーと決定ボタンというのが現代のスタンダードだ。
テレビにしてもレコーダにしても、そういったインターフェースから一歩進めようという取り組みは、各メーカーで色々行なわれている。ただCESなどの世界的な展示会でモノを見ると、チャレンジングなことをやっているのは韓国トップ2社か、米国ITベンチャーになってしまうというのが現実である。
今回パナソニックは、新DIGAに新しいインターフェースを搭載した。その一つが、音声操作だ。音声による簡単な文字入力は、スマートフォンなどでも次第に実用的になってきている。音声をクラウド上に送って解析し、正しい文脈を理解しつつ文字変換するという技術だ。
新DIGAもこの機能を利用している。そのため、リモコンは赤外線ではなく無線接続が必須で、さらには本体がネットに接続されている事が動作条件となる。
どんな音声コマンドを認識するのか、どういうアルゴリズムなのかというあたりが気になるところだろうが、そのあたりはマニュアルにも記載がない。とりあえず何か単語を投げてみて、あとはレコーダが選択肢を出してくれるという感じだ。
例えば「今日のニュース」を音声入力すると、どこから検索するかを問い合わせてくる。次のステップもマイクから「チャンネル録画一覧」などとしゃべると、そこから検索して番組を表示する。「再生」と言えば再生が始まるといった段取りだ。音声コマンドで一発で何かをさせるというより、お互い探り合いながら目的地まで行くみたいなスタイルである。
ただ、あらゆるDIGAの機能を音声で操作できるわけではない。基本的には、番組の検索が音声でやれるというだけに留まっている。だがその検索が、従来は難関であったわけだ。複数の選択肢から順番に選んでいくか、キーワードをリモコンを使って入力する必要があったからだ。うまくいかない、あるいは面倒くさいから一覧表を出して自分で探す、という人も多かった事だろう。そのあたりを、簡単に音声検索で処理しましょう、という事である。
この音声コマンドは、4K対応VIERA「AX800」にも搭載されており、あちらのほうがもっと幅広い範囲での検索が可能だ。4K VIERAの音声検索から本機の録画コンテンツを呼び出すなど、連携もできる。同じような機能が、価格的にだいぶ違う本機でも体験できるわけだ。
もう一つの新体験は、「セレクトバー」である。リモコンの裏側にあるモーションボタンを押すと、画面の4隅からバーが出てくる。セレクトバーを押しながらリモコンを上下左右に振ると、その方向に丸いポインターがついてくるのが見えるはずだ。Wiiの操作と感覚的には同じである。ただWiiはモニターの上か下に赤外線送信機を設置する必要があるが、こちらは本体とリモコンが無線接続されているため、そのようなものは必要はない。
4つのバーのうち、上のバーで一覧したいジャンルを選択する。するとその結果が左側のバーに表示される。そこから見たい番組を選ぶと、再生が始まる。
再生が始まったら今度は右のバーに、この番組のシーン一覧が表示できるようになる。そこから見たいシーンまで一気にジャンプして視聴できる。さらに下のバーには再生中の番組に関連するものが出てくるので、同じような傾向のものを探して視聴していく、という流れだ。
これまでもシーン検索や関連番組といった機能は実装はされてきたが、パッと使えるようになっていたかというと、そうでもなかったように思う。サブメニューのような格好で、横からメニューを引っ張り出して一つずつ選択していって、というインターフェースでは、そもそもそういう機能があったことを知らなかったり、最初は使ってたんだけど途中から存在を忘れてしまったり、面倒だから使わなかったり、といったこともあっただろう。
その点セレクトバーなら、リモコンを握ってボタンを押し、リモコンごと動かすだけなので、軽い操作で利用できるところがポイントだ。初めて使うときは少し戸惑うだろうが、このインターフェスはWiiで成功実績があるので、すぐに慣れて使えるようになるはずだ。
スマホ連携も現実的に
テレビとスマートフォンとの連携は、リアルタイム情報をいかに放送と通信で同期させるかという点で、技術的ハードルの高い分野だ。今このあたりは「ハイブリッドキャスト」として、実装が始まっているところである。
一方レコーダとスマートフォンの連携では、放送中の番組とではなく、録画番組との連携なので、ある程度データ処理に時間が取れるため、様々なアプローチが各メーカー内で進められている。
本機もスマートフォンに対して多くの機能を提供している。「DIGA Remote」は、iPhoneをはじめとするiOSデバイスやAndroidで動作するリモコンアプリで、スマートフォン画面から番組一覧や検索などを行ない、DIGAに再生動作を投げる。
パナソニックのテレビ系サービスであるMeMORA(ミモーラ)が提供するサービスでは、「盛り上がりナビ」が面白い。これは各番組に関連するツイッターの発言数を計測し、総数が多いもの、平均が高いもの瞬間ツイート数が高いものに分け、ランキング形式で番組を表示する。
気になる番組をタップすると、DIAGA上で再生が始まる。さらに再生中は、どこでどれぐらいツイッターが盛り上がったかがグラフで示されるので、盛り上がっている場所を選ぶとそのポイントまで一気にジャンプする。
Twitterで話題になってるんだけど見逃した、という番組は、後から全録機で見られる事が一つのポイントだったのだが、盛り上がっているポイントを探すのは自力であった。だがこれなら盛り上がった場所をピンポイントで確認出来るので、すぐ話題に入っていける。
「Panasonic Media Access」は、6月9日に公開された新しいアプリだ。対応OSはiOS 7.0以降で、iPhoneとiPad/iPad mini、iPod touchで利用できる。
外出先から録画番組をリモート視聴できるほか、放送中の番組のストリーミング視聴にも対応する。チャンネル録画番組は、放送波、日にち、放送局、時間と絞り込んでいって番組に到達する作りで、ブラウジングとしての操作性はそれほどこなれていない。ただ検索機能があるので、iPhoneの慣れた入力ですぐに番組検索できるのは強みだろう。
宅外視聴の画質は3.5Mbps/1.5Mbps/400kbpsの3段階がある。通信状況に合わせて選択する事になる。
試しに地下鉄銀座線内で、UQ Wi-MAX回線を使って1.5Mbpsでチャンネル録画番組を視聴してみた。番組を選んで再生されるまで、およそ20秒ぐらい待たされるものの、いったん再生が始まるとスムーズだ。想像していたより画質はずっと良好で、モバイルだから画質を我慢しているという感じはない。
3.5Mbpsでは、単純な平面部分にありがちなGOP単位の画質変化もなくなり、解像感も良く出ている。電波状況が良ければ、ぜひ使いたいモードだ。一方400kbpsでは画質はガクンと落ちる。テロップの文字も読みづらく、昔のネット動画といった画質だ。
スライドバーを使っての番組の早送りは、再生されるまで10秒ほど待たされるが、へんな引っかかりもなくスムーズに再生に戻る。
この機能を使うときの注意点としては、レコーダで追加チャンネルを設定していると、ストリーミング用のチューナーやデコーダの空きがないため、番組録画がかぶっていたり、レコーダの電源が入っている時はリモート視聴ができない。本機の無操作での自動電源OFFは、2時間、6時間、切の3段階から選択できるが、この機能を使う場合は2時間に設定しておいた方が無難だろう。
なお、スマートフォンにBluetoothイヤフォンを繋いでいる場合には、再生できなかった。テストしたイヤフォンはJayBirdのBlueBuds Xで、著作権保護技術のSCMS-Tに対応しているはずだが、なぜ再生できないのかは不明である。
総論
現時点で全録機の購入するとなると、パナソニックと東芝から選ぶ事になるだろう。
東芝は5万円を切る「D-M430」など、本体を低価格でまとめ、テレビっ子が夢見た「誰でも買える全録」を実現した。一方パナソニックは東芝ほど低価格ではないが、機能+わかりやすさ、とくに今回はインターフェースの使い勝手が大きく向上し、新しい体験をもたらすマシンとして練り直してきた。
BXT970では、予約録画もなくすべての番組が1週間程度プールされるため、テレビはいつでもアクセス可能な情報となる。またネットを通じて後から知った番組も、知った瞬間にスマホからアクセスできるのも強みだ。“テレビは家で見る派”、“外でモバイルする派”の両方に嬉しいマシンに仕上がっている。
それほど安い商品ではないにも関わらず、売れ行きは好調のようだ。すでにワールドカップは始まってしまったが、決勝戦までまだしばらく番組は続くだろう。あれこれ番組予約しなくても全試合が必ず録画されている強みは、こういうワールドイベント時に遺憾なく発揮される。
今がまさに旬な商品、というわけである。
パナソニック DIGA DMR-BXT970 | パナソニック DIGA DMR-BXT870 |
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