小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第678回:撮影後にピント合わせ!? ハイレゾ+デュアルカメラが楽しい「HTC J butterfly HTL23」

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

第678回:撮影後にピント合わせ!? ハイレゾ+デュアルカメラが楽しい「HTC J butterfly HTL23」

HTCとauのコラボ

 新iPhone発表の最中ではあるが、端末メーカーやキャリアもiPhone以外の選択肢を着実に拡充しつつある。昨年まで日本はiPhoneのシェアが7割ぐらいと言われていたが、最近ではiPhoneのシェアは3割程度まで落ちてきているようだ。イノベーションはAppleにだけ起きるわけではないので、新製品が出ない間は当然そうなるだろう。

HTC J butterfly HTL23

台湾のスマートフォンメーカーHTCがauとコラボレーションして、日本向けオリジナルモデルを8月下旬から販売開始した。以前から展開しているHTC J butterflyシリーズの新モデル、「HTL23」だ。

 スマホ的にはキャリアアグリゲーションおよびWiMAX 2+対応といった見所になるのだろう、AV的にはハイレゾ対応やデュアルカメラが気になるところだ。今回はそのあたりを中心にいろいろ試してみよう。

スマートかつシンプルなボディ

 HTL23は、ルージュ、キャンバス、インディゴの3色展開である。おっさん的に言えば言えば赤白青だ。今回は白の「キャンバス」をお借りしている。他色は前面カバーが黒だが、キャンバスのみ白だ。どちらかというと女性がターゲットのようで、メーカーサイトでの露出は若い女性のみとなっている。

キャンバスカラー
厚さは最厚部で10mmだが、エッジは細身に見えるよう工夫されている

 液晶画面は5型で、昨今のトレンドからするとやや小さいほうになるだろうか。上下にあるスリットはステレオスピーカーで、横向きにしたときに均等なステレオイメージになるよう設計されている。本体スピーカーに重きをおかないモデルが多い中、AV的には嬉しい作りである。

 ボディは防水機能も備えており、IPX5およびIPX7となっている。また防塵機能はIP5X相当となっており、水辺やお風呂でも安心して使えそうだ。

前面上下にステレオスピーカーを装備
底部の端子に蓋はないが、防水機能を装備している

 内蔵ストレージは32GBで、メモリは2GB、外部メモリは最大128GBのmicroSD/SDHC/SDXCカードに対応する。バッテリー容量は2,700mAhで、連続待ち受け時間は4G LTEで約430時間。充電時間は約120分。

 Wi-Fiは802.11 a/b/g/nは当然として11acにも対応。今年発売のスマートフォンは11ac対応が増え、ルータのほうも選択肢が揃ってきている。無線でも有線並みの高速通信が、もう現実のものとなってきた。特に動画のファイル転送は、容量がでかいだけに通信速度がものを言う。

 さてカメラだが、背面に2つ付けられている。大きい方がいわゆるメインカメラで、画素数は約1,300万画素。横に2色のLEDライトがあるのもユニークだ。その上に付いているのが200万画素のサブカメラで、こちらは撮影用というよりは、メインカメラと組み合わせて後述する「UFocus」や「3次元効果」を実現するため、奥行き情報を取るのに使われる。

背面に2つのカメラを装備
LEDは2色の組み合わせでカラーバランスを調整する

 フロントカメラは約500万画素で、国内発売モデルとしては最多だという。自分撮り用としてメインカメラの性能アップが望まれている事もあり、今後女性層を取り込むならばフロントカメラの画質向上は一つの流れだろう。

 またこのモデルでは、JBL製の「JBL ハイパフォーマンス インイヤー ヘッドフォン」が標準で付属する。カラーはauカラーであるオレンジとなっているが、元々JBLもコーポレートカラーがオレンジなので、違和感はない。

JBL ハイパフォーマンス インイヤー ヘッドフォンが付属
ケーブルやノズルの中のメッシュパーツまでオレンジ色だ

ユニークなハイレゾ音源対応

 ではまずオーディオ機能から見ていこう。付属の「JBL ハイパフォーマンス インイヤー ヘッドフォン」はカナル型のイヤフォンで、若干低音過多ではあるものの、パンチのあるサウンドが特徴的だ。ただ中高域、女性ボーカルやアルトサックスぐらいの音域の抜けが良くない印象である。

 設定項目にある「JBL LiveStage」をONにすると、空間的な広がりが出て、頭内定位が解消される。ただこの機能は、ハイレゾ音源の再生時には効かないようだ。

 お目当ての機能の一つである、ハイレゾ音源の再生を試してみよう。対応フォーマットはWAVとFLACのみ、最大192kHz/24bitまでの楽曲が再生できる。ソニー、コルグらが推進するDSD系はサポートしない。

 実際にいくつかファイルを転送して再生してみた。プレーヤーは何か特別なものを使うのかと思ったら、標準の「音楽」で再生できてしまって若干拍子抜けである。ただこのアプリは良くできていて、データがあれば歌詞をネットから引っぱってきて表示してくれる。

オリジナルのサウンド補正機能「JBL LiveStage」
標準の音楽プレーヤーでハイレゾまで対応

 付属のJBLイヤフォンで聴いてみたが、ハイレゾ音源の良さはキチンと再生できていないと感じる。中にはハイレゾ対応イヤフォンが付属と誤解して報じているメディアもあるが、高域の伸びが足りず、ハイレゾ特有の空間的な広がりが感じられない。おそらくJBLの現行ラインナップ中のエントリーモデルである「J22i」と同等品だと思われる。

 別途ShureのSRH940とソニーのMDR-SA5000で聴いてみたが、アナログ出力ながら、ハイレゾらしい音が楽しめた。もちろん、プレーヤーとして上を見ればいくらでも上があるのは承知だが、良いヘッドホンさえ繋げれば、スマホで気軽にハイレゾが楽しめるメリットは大きい。さらに言えば、ハイレゾ楽曲配信サービスのmoraが提供しているアプリを使えば、PCを介さずスマホでハイレゾ音源を購入、そのまま聴けるというのもメリットの一つである。

 本体のスピーカーでも聴いてみよう。本体内蔵の小型ユニットゆえに低域の出は期待する方が野暮というものだが、人間の声の帯域の明瞭度は高い。帯域を広く使う音楽再生よりも、動画再生の方が向いているだろう。目の前20cmぐらいのところに持ってきて聴くと、なかなかのステレオ感で鳴ってくれる。低域が出ないので迫力という点では今一つだが、ドラマなど台詞が重要なコンテンツを気軽に見るときに、小音量でも明瞭に聞こえるのは重要なポイントである。

フルゼグまで楽しめるテレビ機能

 日本向けならではの機能として、テレビ放送の受信機能がある。本機はワンセグだけでなく、フルセグの受信も可能だ。

イヤフォン端子に差し込むテレビアンテナ

 多くのモデルでは、アンテナ代わりにイヤフォンを繋がなければならないため、本体のスピーカーでテレビ音声を聴くことができない。だがテレビをながら視聴するようなライトな用途では、わざわざイヤフォンまでしてガッツリ音声を耳に入れるというのも、煩わしく感じる。

 本機のいいところは、イヤフォン端子に差し込むアンテナが別途付属しているところだ。最初はこんな短い延長ケーブル何に使うのかと思ったのだが、実は延長ケーブルではなく、テレビアンテナであった。これをイヤフォン端子に差し込むと、ワンセグおよびフルセグが受信できるだけでなく、本体スピーカーから音声を出すことができる。普通はイヤフォンジャックに端子を差し込むとスピーカーからの音声出力はカットされてしまうが、その辺をうまくソフトウェアで処理しているようだ。

 イヤフォンで聴きたければ、アンテナケーブルの先にイヤフォンを繋げばいい。最初からイヤフォンで聴きたい場合は、イヤフォンだけを差し込んでも受信できる。

かなり小さいがデータ放送もちゃんと表示できる

 感度はなかなか良好だ。京浜東北線の赤羽から品川までの間で受信してみたが、ドア付近、あるいは椅子に座った状態でもフルゼグが受信できる。車両の中程まで入ってしまうとワンセグに落ちるが、切り替わりもなかなかスムーズだ。

 フルセグが受信できるということは、普通のテレビ同様L字型のデータ放送も利用できる。また4色ボタンや十字ボタンも表示できる。画面が小さいのでさすがにL字内の文字は読みづらいが、天気予報などの絵柄は確認できる。

 番組表もあり、予約録画も可能だ。外部レコーダへの予約転送もできるが、今のところパナソニックのDIGAシリーズのみ対応しているようである。

小さいながらも番組表も表示
番組情報も豊富で、テレビやレコーダより優れている面も
リモート予約は今のところメーカーにパナソニックしか表示されない

 番組表機能では、スマホとテレビが合体しているメリットを活かして、SNSの番組公式アカウントへアクセスできるのも便利だ。またTwitterのハッシュタグも検索でき、現在放送中の番組に関連する書き込みを見る事もできる。もっともこのときはテレビ画面は同時に見られないので、どちらかと言えばテレビはテレビで見ながら利用するという方法になるだろう。

番組公式SNSも一覧で表示
番組ハッシュタグで視聴者のつぶやきもすぐ確認

これはすごい! カメラ機能

 ではカメラ機能を試してみよう。メインとなる背面カメラでは、横のもう一つのカメラを使う事で奥行き情報を取ることができる。撮影時は何もすることはなく、ただ普通に写真を撮るだけだが、後付けの効果で奥行き情報を使う事ができる。

 ユニークなのは、後からフォーカス位置が決められる「UFocus」だろう。撮影後にフォーカスを自由に決められるカメラとしては、マイクロレンズアレイを使った「Lytro」や「Lytro Illum」が知られるところだが、UFoucsはちょっと考え方が違う。Lytroが撮影時にあらゆるフォーカス位置の画像を取り込んでしまうのに対し、UFocusは撮影時にはほぼパンフォーカスの画像を撮影し、奥行き情報を使って“ぼかし処理”を行なう範囲を決めるというスタイルだ。

 例えばパース感のある画像を撮影したのち、「ギャラリー」の「効果」-「UFocus」を選び、任意の場所をタッチする。するとタッチしたあたりはそのままで、それ以外を奥行き情報を元に順次ぼかしていく。ぼかしの度合いも設定可能だ。

オリジナル写真
手前にフォーカス
真ん中あたりにフォーカス
奥にフォーカス
ぼかし具合もスライダーで変更できる

 本当にレンズでボケてるわけではないため、いわゆるレンズの味のようなものは出てこないが、手軽にデジタル一眼で撮ったような雰囲気の画像に仕上げることができる。画像によっては奥行き情報が得にくいものもあるだろうが、概ねうまく動作するようだ。

 「3次元効果」もなかなか面白い。これを選ぶだけで、奥行き情報を加味してパース感を付けてくれる。さらにスマートフォンのジャイロセンサーと同期して、スマホを傾けると画像も傾くので、まるで現場に居てカメラを構えているような感じだ。指で画面をなぞっても動かす事ができる。

 現物を見ないと効果がよくわからないと思うが、表示中の動画をとってみた。これでだいたいの感じはわかるだろうか。

3次元効果でレンダリングした表示結果
「背景効果」設定中の画面

 そのほかの効果は、人物を入れ込んで切り抜くところがベース技術になっている。例えば、「背景効果」は、奥行き情報と顔認識技術を組み合わせて自動で人物を切り取り、背景のみに効果をかける。「シーズン」も似たような効果ではあるが、テストした写真では奥行き情報はうまく使われていないように見える。本来ならば、効果の花びらは人物の後ろに消えるものがあってもいいはずだ。

動画にレンダリングしてくれる「シーズン」
今一つ何をどうすりゃいいのかよくわからない「コピー・アンド・ペースト」

 「コピー・アンド・ペースト」は、人物を切り抜いて他の人物画像に貼り付けることで合成する機能。ただインターフェースの意味がよくわからず、背景に起きたい画像の選択方法が不明だ。また切り取った人物を後ろに回すこともできるので、すべての画像を奥行き情報が取れるメインカメラで撮影しなければならない。

 つまり、自分撮りのフロントカメラではこの機能は働かないので、誰か撮影係が必要ということになる。切り取れるのは顔認識できる人物に限られるため、使い方もさらに限られる事になる。切り取りの輪郭もそれほど綺麗にできるわけでもないので、合成の仕上がりもそれほど期待できない。これによって何をさせたいのかよくわからず、もう少し練り込みが必要な機能のように思える。

 なお、メーカーではメインの2カメラで撮影し、様々な効果を加える機能を「デュオカメラ」と呼んでいる。

総論

 HTCは2011年にスマートフォン市場で世界のトップブランドに躍り出たが、日本ではau以外あまり採用されず、プロモーションもそれほど積極的とは言えないため、一般の知名度はそれほど高くない。しかし実際に実機を触ってみると、作りも上質で、機能的にも満足できる。

 HTCはそれほどブランドとして立っているわけではないので、女性がどれぐらい振り向いてくれるのかは難しいところだが、女性向きの写真機能も数多く実装している。その一方で、機能に納得すれば買える男性にとっては、HTL23はなかなか狙い目であろう。

 特にハイレゾ対応は、AVファンとしてはメリットは大きい。今回オーディオまわりは米harman/kardonとの共同開発だそうだが、クオリティはなかなか良い。IFAではソニーのXperia Z3シリーズでハイレゾ再生対応という声も聞こえてきてはいるが、執筆時点では日本での発売時期などは発表されていない。LGなど他社には既にハイレゾ対応スマホは存在するが、HTL23もそれと同じく、今手に入るハイレゾ対応機だ。

 写真機能もなかなか面白い。4Kの動画撮影機能は搭載していないが、「デュオカメラ」による奥行き情報を使った様々な効果は、デジカメのような写真専用機でも実現していない機能であり、世界の最先端技術がスマートフォンにどんどん吸い込まれて行っているのを実感する。

 説明しないとなかなか技術的なすごさが伝わらないところが難点ではあるものの、日本市場をよく研究して作られたモデルだと言える。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。