小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第724回:映像配信、最強の黒船襲来!? Netflixが変える視聴体験。多デバイスでチェック
第724回:映像配信、最強の黒船襲来!? Netflixが変える視聴体験。多デバイスでチェック
(2015/9/9 10:00)
とうとうやってきた黒船
今年の頭から来るゾ来るゾと騒がれていた映像配信サービス「Netflix」が、9月2日から開始された。Webはもちろん、スマホやゲーム機など様々なプラットフォームで視聴可能な定額制サービスだ。
有料の映像コンテンツサービス自体は、過去いくつもある。もっとも古いのはケーブルテレビだし、続いて衛星放送ということになるが、これらもある意味では「定額制見放題モデル」だ。ただテレビ放送の一種なので、機器(場所)や時間に縛られる。
ネットが普及した2005年ごろからは、ブロードバンド回線を使った映像配信も多数登場した。名前を聞けばああと思い出す方もあると思うが、オンデマンドTV、4th MEDIA、OCNシアターといった、いわゆるNTT系VODがひしめいた時代もあった。昔は4th MEDIA専用のEthernet端子が付いたテレビなんてのもあったのだ。最終的にはぜんぶ「ひかりTV」に収斂したわけだが。
これら一部のVODは定額見放題モデルを採用したところもあったが、当時の主流はコンテンツ課金だった。しかし、強力な無料放送がひしめき合う日本のテレビ事情からすれば、NTTのパワーを以てしても、VODは定着したとは言えない。家電メーカー提供の「アクトビラ」は低空飛行、民放5社と電通で始めた「もっとTV」は3年弱で撤退した。視聴できる環境(ハード)や機会はあっても、いつの間にか見られる事すら忘れてたという家庭も多いだろう。
定額見放題モデルは個人的に強く支持しているので、かつてはオンデマンドTVもひかりTVも、最近ではhuluも契約していた。ただ現在、契約はhulu 1本に絞っている。マルチプラットフォームに対応し、価格的にもリーズナブルだからだ。もちろんコンテンツはテレビでも見るのだが、テレビ以外でも利用できるというのは、家族持ちにはメリットが大きい。娘もタブレットを使って、huluで昔のアニメ(タイムボカンシリーズなど)を見るのが大好きだ。
そんなhuluも順風満帆ではなく、最終的に日本テレビが買収することになったわけだが、それだけ自力での経営が難しかったわけである。
さてそんな中で、米国に限らず世界最大の映像配信サービスNetflixが、アジア圏で一番最初に日本でサービスをスタートさせた。当然、日本市場を研究した上での参入である。無料のお試し期間が1カ月あるので、試している皆さんも多いことだと思うが、ここではマルチプラットフォームの対応状況や、huluとの違いなどについて、色々試してみたい。Netflix対応4Kテレビでの視聴などについては、既にレビューも掲載されているのでそちらも参考にして欲しい。
ユーザー体験はどう変わる?
これは現時点でのNetflixの特徴であると言えるが、画質と同時ストリーム数に応じて料金プランが3つある。最も低価格なプランは、SD解像度のみ1ストリーム視聴可能なもので、650円。そこそこ画質にも期待するなら、あるいは家族で利用することを想定するならば上位2つのプラン(HD:950円/4K:1,450円)になるだろう。
プラン | ベーシック | スタンダード | プレミアム |
---|---|---|---|
画質 | SD | HD | 4K/UHD |
同時 ストリーム数 | 1 | 2 | 4 |
月額料金 | 650円 | 950円 | 1,450円 |
ストリーム数の制限は、あくまでも同時再生数であるということだ。同時に再生しないのであれば、例えば1人のユーザーがスマホ、タブレット、PCで利用するなど、複数の機器をまたいで利用することはできる。
一方huluは、料金は933円の1プランのみだ。またアカウントを家族間で共有することは可能だが、複数の同時再生を行なうというプランはなく、利用規約上は1ストリーム視聴が原則だ。FAQにも「あるデバイスでログインするとそのアカウントは使用中と認識されますので、同時に複数のデバイスでストリーミングすることはできません」と書かれている。同時再生してみたらできたという報告もあるが、長期間続くようであれば片方で見られなくなったり、一定期間アカウント凍結などもあるという。
例えば小学生の子供にも利用させようとするならば、フェアにやるなら本人のアカウントが必要になり、それに伴ってメールアドレスやクレジットカードなどが必要になってしまう。親のアカウントに子供がぶら下がって利用するケースは、当然想定される。
実際にhuluにはKidsメニューが存在し、特定の端末のクライアントをKidsメニューに固定することもできる。しかし、親も自分のアカウントであれば、自分が視聴する可能性もあるだけに、プランにも同時視聴の可能性を織り込むべきであろう。この点では、最初から同時視聴をルールに織り込んであるNetflixのほうが、曖昧さがない。
Kidsメニューという点では、Netflixにもメニューがある。WEB版の例では、毎回ログインするたびに誰が視聴するのかの問い合わせ画面が出る。1アカウントで複数人の視聴が前提になっていることがわかる。
ホーム画面構成をみてみよう。Web版で比較すると、huluの場合は上部に大きくオススメコンテンツがバナースタイルで表示される。コンテンツはテレビ番組なのか映画なのかで大項目が分かれており、そこからジャンルへ進んでいくというスタイルだ。WEB版には機能がないが、テレビクライアントではさらに国別や映画スタジオ別といったくくりもある。
Netflixも大項目として映画とテレビで分かれている事には違いないが、ジャンルも含めて割と渾然一体となっている。上部に大きなバナーもなく、すべてのコンテンツが並列で表示される。
一見すると探しづらそうだが、Netflixの特徴は、視聴を進めていくと、ユーザーの好みを分析して似たようなコンテンツをプッシュしてくれるレコメンド機能がウリだ。したがって、自力で探してコンテンツにたどり着くという導線はそれほど強くなくてもいいということなのだろう。筆者もまだそれほどの数を視聴していないのでオススメが偏っているが、時間が経つにつれて精度が上がってくるのだろう。
ただこのような画面構成は、Web版特有のものだ。PS4版ではバックグラウンドに選択中のコンテンツ情報が大きく標示される。またスマートフォン版では視聴中のコンテンツが上部に大きくフィーチャーされる。各端末の視聴スタイルに応じた構成という事だろう。
さらに違いと言えば、Netflixには同社が出資して製作したコンテンツがあるということだ。当然ながらこれは他の配信事業者には提供しておらず、Netflixでしか観られないということになる。このオリジナルコンテンツの魅力で、差別化を進めていくということになるだろう。
Netflixのオリジナルコンテンツは、サムネイルの左上にNetflixのロゴがある。また「Netflix」で検索すると見つかるという情報もあるが、試したところそれ以外のコンテンツも見つかるようだ。まあだいたいはわかるというぐらいに考えておいた方がいいだろう。
色々な端末で試す
Netflixは、日本でサービスしている映像配信事業者としては、唯一4K解像度のコンテンツ配信を行なっている。この点huluは最高でも720pなので、解像度に対する取り組みの姿勢は如実に違う。「4K」で検索すれば、4K配信のコンテンツが見つかる。執筆時点では、13コンテンツだ。
今年発売のテレビには、すでにリモコンにNetflix専用ボタンが用意されるなど、いわゆるNetflix Readyな商品も多い。一方、我が家では以前紹介したように、今年初めに4KテレビのパナソニックのVIERA「TH-40AX700」を購入しており、個人的にも4Kコンテンツに興味がある。
しかし、発売開始が昨年の「TH-40AX700」の場合、ファームアップデートなどでサービスメニューにNetflixが増えてはおらず、テレビから直接利用できない。現行製品はすでにプラットフォーム(OS)も変わっており、旧プラットフォームの製品をどれぐらいサポートしてくれるのかは、メーカーの体力にもよるだろう。
そこで方針を変更して、色々な機器を4KテレビにHDMIで接続し、コンテンツを視聴してみた。まず一番手っ取り早いのは、4K出力可能なコンピュータでフル画面再生する事である。前出の記事のとおり、現在は4K出力に対応したMac miniを4Kテレビに接続し、ディスプレイとして利用している。この状況でコンテンツがどのように表示されるのか、4K配信対応のNetflixオリジナルドラマの「デアデビル」でテストしてみた。
Webブラウザで再生し、フルスクリーン表示にすれば、4Kテレビいっぱいに画面が拡がる。だが4K解像度ではなく、HD解像度を拡大表示しているだけのようだ。Netflix対応の4Kテレビで「デアデビル」のメニューを表示すると「ULTRA HD 4K」というアイコンが表示されるが、PCではそれが出ていない。FAQページを調べてみると、UHD(4K)ストリーミングに対応した機器としてテレビの説明しか書かれていないので、PCのブラウザでは4K再生はできないようだ。
さらにFAQを調べてみるとブラウザによって違いがある事がわかった。Google Chromeでは最大720p、MicrosoftのEdge、Internet Explorer、Mac OS X 10.10.3以降のSafariでは最大1080pとなっている。
ただ、字幕に関しては、輪郭は非常に綺麗に表示される。おそらく字幕はブラウザ上でオーバーレイしているのではないか。一瞬通信速度のせいか、画像がブラックアウトして音声と字幕だけになった瞬間があった。このことから考えても、字幕はブラウザ上でオーバーレイしているということで間違いないだろう。字幕が見やすいせいか、Mac mini+4Kテレビでの視聴もそれほど画質が悪いとは感じない。
なお、画質についてはWebブラウザで、「アカウント情報」→「お客様のプロフィール」→「再生設定」に進むと、低・中・高・自動から選択できるようになっている。720p以上のHDコンテンツを受ける場合は5Mbps以上のネット回線が推奨されている。
続いてPS4で使ってみた。PS4は4K出力に対応しているものの、今のところ静止画のみの出力で、ゲームなどのコンテンツは4K解像度では出力できていない。“4K Ready”ではあるものの、現時点ではちょっと中途半端な立ち位置である。調べてみると、PS4とPS3では、1080pまでの再生ができるようだ。
デアデビルを選択すると、こちらの「デアデビル」メニュー画面にも“HD”の文字しかないので、やはり4Kでは再生できないようだ。実際このメニュー画面も解像度がやや低く、HDで出力されたものをテレビ側で4Kにアップコンバート表示しているように見える。
デアデビルの同じシーンを再生してみたところ、ガンマカーブが映像向きなのか、映像が高コントラストである。ディテールも立っており、映像そのものはWeb版よりも上質に感じる。ただ、字幕の輪郭は、Web版の方がキレがいい。
Android TV採用の「Nexus Player」でも試してみた。今年2月27日に発売された機器で、価格は12,800円。Apple TVのGoogle版のような位置づけだ。こちらは元々4K出力はできないので、画質というよりも利便性をテストしてみよう。
ホーム画面のUIはPS4と同じだ。ただし操作は上下左右とセンターボタンの光学リモコンのみで行なう。操作系は、テレビプラットフォームと同じだと考えていいだろう。動作は軽快で、早送りから再生までのタイムラグも少ない。もしお宅のテレビがNetflix対応アップデートしなさそうであれば、こういった機器を使って楽しむのも一つの手だろう。
ただ、ライバルのApple TVは、今月9日(現地時間)のイベントで新モデルが出るのではと噂になっている。Apple TVはこの手のネットワークSTBでは最もシェアの高いプラットフォームだ。もちろんNetflixも使える。購入するならその実力と価格を比較してからのほうがいいだろう。
続いてスマートフォンで再生してみた。今回テストしたソニー Xperia Z Ultraは6.4型液晶で、解像度はフルHDだ。スマホではいまどき解像度がSD(VGA)程度しかないディスプレイもないだろうから、NetflixでもHD解像度のスタンダードプランのほうが、満足度が高い。
AndoidスマホアプリでNetflixを起動、同じくデアデビルを再生。ドットがかなり詰まっているので、近くで見ても画質面で不満はない。字幕もかなり綺麗だ。Z Ultraぐらいディスプレイが大きいスマホは珍しくなってしまったが、5型前後でHD解像度を持つディスプレイなら、さらにドットピッチは狭くなる。解像感もかなり高まるだろう。
ついでにChromecastも試してみた。Chromecastをなんだったか忘れちゃった人もいるかもしれないが、2014年5月に、割と鳴り物入りで家電量販店で売られていたものだ。4,200円と安かったのも一因だろうが、かなり売れたようである。ただ、何に使えるのかよくわからずに購入した人も相当あったように思う。
Chromecastは、Andoidアプリの画面やWebブラウザのChromeの画面をテレビ出力するためのシンプルなデバイスだ。テレビのHDMI端子に直接挿して利用する。つまりChromecast単体ではアプリなどは何も動かず、言うなればワイヤレスのテレビ投影機に近い。
Chromecast経由のテレビ画質としては、Nexus Playerと同程度だ。もっともネット回線が同じWi-Fiなので、ビットレートが同じなら差は出ないだろう。どちらが快適かという問題になる。
マルチプラットフォームのいいところは、ある端末で途中までみたものを、別の端末で再生すると、その続きから再生が始まるところだ。途中までテレビでみて、続きはお風呂の中で防水スマホで、といった使い方ができる。その点では、すべてスマホで済ませる必要がないわけだ。もちろん予算を抑えたいのであれば、スマホとChromecastの組み合わせが一番安上がりではある。
総論
配信サービスの決め手は、コンテンツの数ではなく、その人にとって魅力的なコンテンツが存在するかである。すべての人を満足させるためには、どれだけ莫大な数のコンテンツを用意しても、決して足りる事はない。各事業者は、現実的にはどこかに重み付けをしていくしかないわけだ。このため米国には、複数の配信サービスを貫き検索できるデータベースも存在する。
日本におけるNetflixの配信コンテンツ数は明らかにされていないが、スタート直後としてはまずまずの数が揃っていると言えるだろう。そして特徴的なのは、オリジナルコンテンツがあることである。ニーズを自分たちで創出することができれば、話題の映画をタイムリーに配信するために高額な配信契約を結ぶ必要はない。
オリジナルコンテンツとはいっても、アメリカで制作したものは、ほぼ映画と同じクオリティだ。相当の資本を投入していることは明らかだが、実はデジタルシネマワークフローの登場により、昔の映画のように1本数百億円といった制作費はかからなくなっている。
さらに言えばカメラのセンサー感度も上がっているので、ナイトシーンの撮影でも照明をがっちり作り込む必要が減り、現場の明かりをベースに撮影できるようになってきている。特に「デアデビル」は、シナリオ上ナイトシーンが大半を占めるので、こういったデジタルワークフローのイノベーションを一番享受しやすい作品だ。
これまで映像配信サービスは、価格と品揃えのバランスでしか選択できなかった。もちろん、基本的な勝負所はそこなのだが、Netflixの参入で、切り口が他にもできた事になる。例えばレスポンスの良さや4K対応、同時再生数、プラットフォームの広さといったところだ。ユーザビリティ重視に徹するという戦略は、いかにもアメリカで鍛え抜かれたサービスらしい。
加えてオリジナルコンテンツに魅力があれば、他には移れない。オリジナルコンテンツの製作は、今後AmazonやAppleでも行なうと言われている。Amazonと言えば、プライム会員向けの映像配信サービス「プライム・ビデオ」も9月下旬にスタートと予告されている。日本でも数年後には米国のように、複数の定額見放題サービスにお金を払うという世界が来るのかもしれない。