小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第725回:世界初フルサイズ裏面照射CMOSの威力、全画素読出にも注目! ソニー「α7R II」

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

第725回:世界初フルサイズ裏面照射CMOSの威力、全画素読出にも注目! ソニー「α7R II」

あのα7RにMarkII登場

 最近ソニーのカメラでは、いわゆる「Mark II商法」が当たっている。従来のカメラ商売では、2~3年おきにシリーズをモデルチェンジするたび、型番を上げつつ中身やデザインをリニューアルするというのが通例だった。だが最近は型番とボディはそのままで、中身だけどんどんブラッシュアップするという手法に切り換えている。

ソニー「α7R II」(ILCE-7RM2)

 今年は特にその傾向が顕著で、すでにレビューもしたが「RX100 IV」、「RX10 II」と来て、今回は「α7R II」である。なお、発売は8月上旬からスタートしており、価格はオープンプライス、実売は40万円台前半といったところだ。先日の欧州では「α7S II」も発表され、今年はもっぱら「II」のカメラが話題の年ということになるだろう。

 さて今回の「α7R II」(ILCE-7RM2)の目玉は、なんと言ってもフルサイズ裏面照射CMOSの採用だろう。裏面照射、すなわちExmor Rは、画素の開口部が広いということで、小型センサーの感度アップに貢献する技術として使われてきた。

 2009年の「DSC-WX1」と「DSC-TX1」に初めて搭載され、当時のセンサーサイズは1/2.4インチであった。当時は特に夜間に強い“特別なセンサー”という位置づけでスタートしたが、最近では1インチからAPS-Cサイズぐらいまで、標準的に搭載されるようになった。

 以前は撮像面積の小さいセンサーだからこそ裏面照射構造のメリットがあるとして、フルサイズまで拡張する予定はないとしていたが、画素数が上がってくるとメリットが出てくるのだろうか、ついにフルサイズの裏面照射CMOSの登場となった。

 フルサイズのExmor Rはいったいどんな絵を見せてくれるのだろうか。相変わらず動画しか撮らないが、さっそくテストしてみよう。

微妙にボディがリニューアル

 まずデザインなど見ていく前に、α7シリーズは何がどうなってるのかをいったん整理しよう。

 そもそも初代α7とα7Rは、2013年11月に同時発売であった。α7がローパスフィルター有りなのに対し、α7Rは高画素かつローパスフィルター無しの高級機という立ち位置であった。この両機には、4K動画撮影機能はない。

 一方2014年6月に発売開始された「α7S」は、逆に画素を減らす事で高感度に振ったカメラだ。αシリーズとしては初めて4K撮影に対応したが、本体での収録ができなかった。

 そして今回のα7R IIは、高画素かつローパスフィルターレスという点ではまさに7Rの後継機だが、本体での4K収録に対応した点は大きい。欧州で発表された「α7S II」は、画素数を減らして高感度という点でまさに7Sの後継機で、これも4Kの本体収録に対応している。

モデル名α7α7Rα7Sα7 IIα7R IIα7S II
実売15万円前後22万円前後23万円前後18万円前後44万円前後国内発売
未定
センサーExmorExmorExmorExmorExmor RExmor
有効
画素数
2,430万画素3,640万画素1,220万画素2,430万画素4,240万画素1,220万画素
光学
ローパス
フィルタ
××
AF検出
方法
ハイブリッド
(コントラスト
+
位相差)
コントラストコントラストハイブリッド
(コントラスト
+
位相差)
ハイブリッド
(コントラスト
+
位相差)
コントラスト
5軸
手ぶれ補正
×××
4K収録××
(外部収録のみ)
×

 まとめると、今年発売のIIはどちらも本体での4K収録可能で、センサー側での5軸手ぶれ補正に対応というのがポイントになる。

 さてデザインの方だが、実は「II」にも関わらずボディは新設計になっている。それならIIじゃなくて「α8R」だろうと思うのだが、ソニー的にはすんごいやつにはどうしても7を付たいのだろう。ちなみに写真で見る限り、「α7S II」もまったく同じ新デザインボディのようだ。しばらくはこのデザインで行くのかもしれない。

実はボディデザインが変わったα7R II
型番がフルでわかるのは背面の小さなエンブレムのみ

 新デザインでは、シャッターボタンが軍艦部から前に出てグリップ部の上に移動した。前方のダイヤルもグリップ部の先端に移動。空いた軍艦部のスペースにはカスタムキーが2つ設けられ、トータルで4つ(以前は3つ)に増えている。

シャッター位置の変更に伴って、ダイヤル位置と形状が変更
カスタムキーが1つ増えている

 マニュアルダイヤルも、以前は厚みのあるタイプだったが、今回からは細身のダイヤルとなっている。若干ゴージャス感が減退し、他社のカメラと似てきた感は否めない。モードダイヤルは、センターボタンを押しながら回す方式となっている。またボディの厚みも従来モデルより厚くなり、いわゆるフルサイズのカメラらしくなった。ただそれでも、他社のフルサイズ機よりも小さい方だろう。

ボディは若干厚みが増した
画素数が増えたOLED(有機EL)ビューファインダ
液晶のチルト機構は以前と同様

 ではスペックの方を見ていこう。センサーは有効画素数4,240万画素の裏面照射型CMOSで、35mmフルサイズセンサーとしては裏面照射の採用は世界初。またセンサー部を駆動させての5軸手ぶれ補正を搭載、レンズ側で光学手ぶれ補正がないレンズでも手ぶれ補正が使えることになる。フルサイズEマウントレンズの数がまだ少ないだけに、重要な機能だ。

35mm初の裏面照射型CMOSを採用

 4K動画撮影は、最高がXAVC Sで100Mbps/30fpsでの撮影をサポート。ただし100Mbpsで撮影するには、SDXCのUHS-I Class3のカードが必要だ。このあたりは先に発売されているRX10 IIなどと同スペックである。ただ撮像素子はExmor RSではないので、ハイスピード撮影の能力はRX10 IIの方が上だ。

フォーマット解像度フレームレートビットレート
XAVC S 4K3,840×2,16030100Mbps
60Mbps
24100Mbps
60Mbps
XAVC S HD1,920×1,0806050Mbps
3050Mbps
2450Mbps
12050Mbps
AVCHD1,920×1,0806028Mbps
60i24Mbps
17Mbps
2424Mbps
17Mbps
MP41,920×1,0806028Mbps
3016Mbps
1,280×720306Mbps

 録画ボタンは相変わらず、背面右側の横に付いている。動画派としてはボタンが小さく、しかも出っ張っていないので、録画はやりづらい。そもそも横にボタンがあると、どうしても録画開始時と停止時にカメラが動いてしまいがちだ。

録画ボタンが横向きにあるのは従来どおり
モードダイヤルはセンターボタンを押し込んで回すスタイルに

 ボディ左側にマイク入力とヘッドフォン端子、HDMIとUSB端子もある。USBからの外部給電や充電も可能だ。反対側にはメモリーカードスロットがある。

左側に端子類が集中
右側がカードスロット

全画素読み出しの効果をテスト

 では早速撮影である。今回使用したレンズは、フルサイズ用の「FE 28-70mm F3.5-5.6 OSS」と、「Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA」の2本だ。

Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZAを取り付けたところ
FE 28-70mm F3.5-5.6 OSS

 これまでもRX100 IV、RX10 IIで4K動画を撮影してきたが、これらはセンサーサイズが1インチなので、全画素読み出しによる4K撮影が標準だ。一方今回のα7R IIでは、フルサイズとAPS-Cサイズ2つの読み出し領域が選択できる。このうち全画素読み出しは、APS-Cサイズのみだ。

APS-Cサイズに切り換えると、全画素読み出しとなる

 では全画素読み出しではない読み出しとは何か。本機のセンサーでは、フルサイズ領域で16:9を読み出すと、7,952×4,473ドットもの数になる。本来はこれだけの画素を1/30秒ごとに全部読み出し、縮小・補間処理をかけて3,840×2,160ドットに減らし、4K記録する必要がある。だが全画素を転送するには速度も足りないし、画像処理能力も追いつかないので、センサー内で4ピクセル分を1つにまとめて、転送量を減らす。

 これが全画素読み出しではない“画素加算読み出し”だ。画素数の多いセンサーの割には、その多画素を実際には使ってないということになり、SN比や解像感の面でデメリットが出る。ただフルサイズ領域を使えば、それだけレンズの全域を使えることになるので、広角側の絵を撮る際には有利だ。

 一方APS-C領域では、5,168×2,912ドットを全部読み出し、プロセッサで縮小・補間処理を行なって3,840×2,160にまとめる。したがって原理的にはSN比も上がるし、解像感も上がるはずだ。ただし読み出し領域がフルサイズよりも狭くなるので、せっかくフルサイズ用のレンズを使っても、真ん中あたりしか使われないことになり、画角としてはおよそ1.5倍狭くなる。

【センサー読み出しエリアによる画角の違い】
(28-70mmズームレンズの例)

ワイド端テレ端
フルサイズ
28mm

70mm
APS-Cサイズ
45mm相当

105mm相当

 問題は、この読み出しの違いが実際どれぐらい映像に影響があるのかというところである。おそらくSN比ということでは、暗部撮影でISO感度を上げていったときに差が現われるはずだ。そこで実際にフルサイズとAPS-Cサイズを切り換えながら、ISO感度を徐々に上げていった。サンプルは、左側がフルサイズ、右側がAPS-Cサイズである。

読み出し領域の違いによるSN比の差をテスト
iso_zooma_hd.mov(122MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 ISO 100から順に2倍ずつ上げていったが、ISO 3200ぐらいまではまだ暗部が持ち上がらないため、差がわからない。だがISO 6400以上になると、同じ条件でもSN比に大きく差が出てくる。全画素読み出しは、ISO 3200以上の場合にSN比で有利になると言えるだろう。

 ではISO感度が低い場合はどうだろうか。日中で2つの読み出しエリアを切り換えながら、同じアングルで撮影してみた。読み出し範囲が違っても画角が同じカットがあるのは、ズームレンズで同じ画角になるよう調整したからである。一方画角が違うカットは、単焦点の55mmを使用している。

 撮影日はあいにくの曇りではあったが、レンズがそこそこ明るいので、ISO感度はほとんど100~400程度である。実際に2つを見比べてみても、SN比が問題になるようなところはない。

35mmフルサイズで撮影
sample_full_4k.mov(308MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
APS-Cサイズで撮影
sample_apsc_4k.mov(150MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 一方映像のキレや輪郭を比較してみたが、筆者の目には違いはほとんどわからなかった。どちらを使っても、十分な解像感を持っているように見える。

 映像のトーンとしては色の再現性もよく、深度表現による柔らかい描写も可能なのは、さすがフルサイズといったところだろう。曇天特有の、光が回り込んでふんわりとした空気感がよく捉えられている。ただ深度はセンサーサイズというよりも、フルサイズ用レンズが使えるからという事である。

発色やコントラスト感も上々
水の細かい動きでもモワレが気になることはない
フルサイズならではのふんわり感のある動画が撮影できる

 AFは、コントラストAFと位相差AFを組み合わせた「ファストハイブリッドAF」となっている。399点もの広範囲なセンサーエリアも魅力だ。ただ深度が浅いとそれだけフォーカスにはシビアになってくる。動画撮影では被写体が動くのが当然だが、そこでAFがふらふら迷う例が少なからずあった。

 一方夜のシーンでは、全画素読み出しを使う事でかなりSN比の良い4K動画撮影が可能だ。画角がフルサイズの1.5倍狭くなってしまうが、街明かりだけで撮影したにもかかわらず、シルクのようななめらかなトーンは、α7Sとかなり近いものがある。

街明かりだけでも、まるで照明を仕込んだかのようなしっかりした絵になる
ディテールもSN比も十分稼げる
暗くなるほどAFが怪しくなるので、マニュアルフォーカスが必須

 ただシャッタースピードによっては照明のフリッカーを拾うことがあるので、その点は撮影中のモニタリングをきちんと行なう体制を作ったほうがいいだろう。

動画における5軸手ぶれ補正

 続いて今回新搭載された、センサー側の5軸手ぶれ補正を試してみよう。基本的には静止画撮影のための機能ではあるが、それが動画でどれぐらい使えるのかというのが気になるところだ。サンプルでの使用レンズは、Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZAだ。これはレンズ側に光学手ぶれ補正機能がないので、純粋にカメラボディ側での補正しか使っていない事になる。

 手ぶれ補正の設定は、Autoとマニュアルがある。マニュアルモードはマウントアダプタなどを介してオールドレンズを接続した時など、レンズの情報をカメラが得られない時にレンズの焦点距離を設定することで、最適な補正量になる機能だ。試しにAutoとマニュアル両方を同条件でテストしてみたが、手持ち固定時の補正力には、大きな違いはないようだ。

手ぶれ補正はマニュアル設定も可能
手ぶれ補正オートとマニュアルの比較。明確な違いは見られなかった
stab_zooma_hd.mov(98MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 一方歩いての撮影では、双方とも歩行の衝撃を吸収するほどには効かない。おそらく補正可能範囲を逸脱しているからだろう。フルサイズセンサーでAPS-Cサイズ読み出しの場合、周囲にはかなりのエリアが余っていることになる。この領域を電子手ぶれ補正で利用できたらかなりの補正力が期待できるのだが、これもまたフルサイズ読み出しとなれば、転送速度との戦いになってくる。画素が少なければ、あるいはフルサイズのExmor RSが登場すれば、4Kの手ぶれ補正も一段進歩するのだろうが、それにはまだ数年かかりそうだ。

総論

 α7R IIは、“フルサイズ高画素”+“裏面照射”+“フィルターレス”という点では、写真撮影に大きなメリットを寄せたカメラだ。α7シリーズとしては、文句なしの最高峰である。加えて全画素読み出しモードを付けた事で、動画でも高SN比を実現し、α7S的な要素も兼ね備えている。

 すなわち“α7Rとα7Sのいいとこ取り”を狙ったカメラと言えるわけだが、欧州でα7S IIが発表されたことにより、簡単に「動画もNo.1」と言うわけにはいかなくなった。4K動画をターゲットにするのであれば、やはりα7S IIの絵も見てみないことには、何とも言えないというのが現状である。

 個人的には、全画素読み出しがこれほど大きくSN比に関係してくるとは思っていなかったので、今回の夜間撮影比較は勉強になった。今後デジカメ動画は4K領域に突入したことで、全画素読み出しかどうかがキーワードの一つになってくるだろう。

 昼間の撮影ではあまり全画素読み出しのメリットは感じられなかったが、本機はピクチャープロファイルでS-Log2での撮影が可能だ。現像処理を行なえば、一部の階調を拡張する可能性もあるので、目で見てわからなくても、潜在的なSN比の良し悪しが効いてくる可能性はある。せっかくのフルサイズセンサーなのに全領域が使えないのは残念ではあるが、シーンによって読み出し領域を変えていくというのも、一つの作戦だろう。

 なおα7S IIには、最新のログカーブ「S-Log3」と、ガンマカーブ「S-Gamut3」、「S-Gamut3.Cine」が搭載されるようだ。これらはS-Log2よりもさらに暗部の階調の再現性を目指したもので、2013年末からプロ用シネマカメラに搭載されている。

 α7R IIもアップデートでS-Log3の搭載がありうるのかはまだわからないが、現時点で動画派はやはり、フルサイズ領域で全画素読み出しが可能なα7S IIの日本での登場待ち、というのが無難だろう。

Amazonで購入
ソニー
α7R II
(ILCE-7RM2)

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。