小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第722回:Exmor RSの本命!? 4K対応の重量級ネオ一眼、ソニー「RX10M2」
第722回:Exmor RSの本命!? 4K対応の重量級ネオ一眼、ソニー「RX10M2」
(2015/8/26 10:00)
もう一つのExmor RS
先週はソニーの新開発センサーであるExmor RSを搭載した「RX100M4」のレビューをお送りしたところだが、同じセンサーを搭載したカメラがもう一台ある。8月7日発売の「DSC-RX10M2」だ。
初代RX10は2013年11月の発売で、年末にお借りして2014年のCESの取材で試用させていただいた。このあたりの記事の写真は、皆RX10で撮影したものだ。
購入者の評判は高いカメラだが、そもそも高級コンパクトやミラーレス一眼と比べると、ネオ一眼市場が冷え込んでいる事もあり、市場にはそれほどのインパクトを与えなかったようだ。元々サイバーショットはブランド的にコンパクト機のイメージが強く、ネオ一眼は「例外」のように見える。だが尖った設計が可能、さらに4Kが撮影できるとなれば、話は違ってくる。
今回ご紹介する「RX10M2」は、ボディは前作とまったく同じという、RX100シリーズで展開中の「Mark X」スタイルで登場した。ただしセンサーは先週ご紹介したExmor RSで、4K撮影や高速シャッターといった特徴はRX100M4と同じだ。店頭予想価格は16万円前後となっており、ネットの通販サイトでも15万数千円といったところである。
もちろんこれだけボディサイズが違うわけだから、RX100M4とはカメラそのものの性能が違う。それに同じセンサーが乗るとどうなるのか、興味があるところだ。今回も動画中心のレビューでお届けする。
ほぼ一眼クラスのボディ
ボディは前作RX10と同じとはいえ、前作をレビューしていなかったので、少し細かく見ていこう。サイズ感としては、APS-Cサイズの一眼レフとほぼ同等。鏡筒部がかなり太いため、レンズ部だけ見ればフルサイズかと見紛うほどの迫力がある。サイバーショットという軽快なイメージとはかけ離れた重量級のカメラだ。
レンズはカールツァイス「バリオ・ゾナーT*」レンズで、フィルター径は62mm、画角は静止画(3:2)24~200mm、HD動画26~212mm、4K動画28~233mmの光学8.3倍ズーム。全画素超解像を使えば、約16倍のズーム領域となる。F値は開放で全域2.8と、かなり優秀なレンズだ。NDフィルターは内部に1/8(3段分)が1枚ある。
鏡筒部のリングは2つで、先端のバリアブルリングは、通常はズームで、マニュアルフォーカスの際はフォーカスリングとなる。根元側は絞りで、底部のスイッチでクリック型とフリーバリアブルに切り換えができる。クリック式だと1/3段ごとのクリックとなる。
センサーは1.0型Exmor RSで、アスペクト比は3:2。詳細は先週の記事をご覧いただければと思う。
撮影可能な動画はRX100 M4と同じだが、一応もう一度掲載しておく。
フォーマット | 解像度 | フレームレート | ビットレート |
XAVC S 4K | 3,840×2,160 | 30 | 100Mbps |
60Mbps | |||
24 | 100Mbps | ||
60Mbps | |||
XAVC S HD | 1,920×1,080 | 60 | 50Mbps |
30 | 50Mbps | ||
24 | 50Mbps | ||
120 | 60Mbps | ||
120 | 100Mbps | ||
AVCHD | 1,920×1,080 | 60 | 28Mbps |
60i | 24Mbps | ||
17Mbps | |||
24 | 24Mbps | ||
17Mbps | |||
MP4 | 1,920×1,080 | 60 | 28Mbps |
30 | 16Mbps | ||
1,280×720 | 30 | 6Mbps |
AFはコントラストAFで、αシリーズに採用が進むトランスルーセントテクノロジーによる位相差AFや、像面位相差AFではない。鏡筒部の脇にフォーカスモード切り換えスイッチがある。
ボディ左手にはマイク入力とヘッドフォン出力、USB兼用のマルチ端子とmicroHDMIがある。鏡筒部に4Kの文字があるが、ここと型番の「RX10II」という表示、モードダイヤル以外は、初代RX10と見分けが付かない。
軍艦部のモードダイヤルは先週のRX100M4と同じくHFR(ハイフレームレート)モードが加わったため、オートモードが1つに統合されている。右肩には表示パネルがあり、バックライトも使える。電源はシャッターボタンの周りにあり、ズームレバーと対を成している。±3の露出補正ダイヤル、カスタム1ボタンもある。
背面はビューファインダ近くに動画の録画ボタンがあり、コントロールホイールのほか、コントロールダイヤルも備える。メニュー項目もふくめ機能的にはRX100M4とだいたい同じなのだが、ダイヤル、ボタン類はかなり豊富で、マニュアルコントロール向けのカメラだ。
液晶モニタは3.0型(4:3)、約123万画素のエクストラファイン液晶で、チルトは上下のみ。上方向はビューファインダが出っ張っているので、自分撮りできる角度までは跳ね上がらない。ビューファインダは0.39型、約240万画素のOLED(有機EL)で、モニタ周りのスペックはRX100M4と同じである。
バッテリはいわゆる「Wタイプ」のNP-FW50で、電圧は7.2V、容量は1,020mAhだ。
本格的な4K撮影が楽しめる
ではさっそく撮影である。今回の撮影は、SDXC/UHS-I Class3のカードが手配できたので、XAVC S 4Kの100Mbpsで撮影している。とは言っても、取ってそのままのファイルは巨大すぎて掲載できないので、読者諸氏にご覧いただく動画サンプルは、再圧縮されたものとなることをお許し願いたい。
センサー、モニタ系はRX100M4と変わらないが、レンズ性能が全然違う。この点は大きなアドバンテージだ。まず撮影してみて、解像度や表現力に無理がない。細部の色かぶりも少なく、描画力に余裕がある。
撮影当日は時折日が差す程度の曇天ではあったが、高コントラストに撮影できている。ただ明るい方はやや飛びやすいところがあるため、露出補正で少し絞り目にしたほうがいいかもしれない。
手ぶれ補正も機能としては同じで、4Kでは光学のみしか効かないのは残念なところだ。ただこれだけのガタイのカメラなので、三脚併用でも全然違和感はない。操作系も充実しており、連続撮影時間も30分未満と、RX100M4の5分に比べれば余裕があるので、しっかり腰を据えて撮るのなら、RX10M2のほうが圧倒的に使いやすいのは道理だ。
一方で気になるのが、ズームレンズの動作である。RX100M4でもちょっと「ん?」と思ったところだが、光学8.3倍もあれば、動画でもズーム動作する可能性は高い。テレ端からズームアウトの動きだしでブレが出るのはRX100M4と同じだが、途中で大きくシフトする部分がある。手ぶれ補正はOFFにしている。画角にして100mmから135mmのあたりにかけて、必ず絵がシフトする部分がある。何かレンズ群の動きが切り替わる部分なのかもしれない。
これが静止画であれば、ズームの途中を記録することがないので大した問題ではないところだが、動画のズームとなればそういうわけにはいかない。しかも4Kの大画面で視聴したときに、こんなにガクガクするのでは興ざめだ。ビデオカメラでトップシェアを誇ったソニーの光学ズームがこの始末では、納得できない人は多いだろう。
夏場の屋外撮影ではNDは必須だが、4K撮影ではオートNDが効かず、手動でON/OFFすることになる。NDも1段階しかないので、割とざっくりした設定にならざるを得ない。昨年ソニーは、連続的にND濃度を変えられるバリアブルNDを開発、業務用カムコーダの「PXW-X180」に搭載したが、コンシューマ機に積むならこのカメラがチャンスだった。なんでもRX100M4と同じではなく、何か一つ尖った機能が欲しかったところだ。
高い潜在能力
この夏のRX10M2とRX100M4最大の見所と言えば、ハイフレームレート撮影とS-Log2対応ではないかと思う。ハイフレームレート撮影については、RX100M4でもテストしたところだが、今回は再生フォーマットの60pに設定して、同じく240fps、480fps、960fpsで撮影してみた。
前回は30pだったので、速度的には8倍、16倍、32倍だ。それが60fpsでは4倍、8倍、16倍となる。当然動きのなめらかさは増すが、水の流れだと4倍速ぐらいではあまりスロー感はない。やはり8倍速ぐらいが万能的な速度のようだ。
もう一つ、S-Log2での撮影は、ピクチャープロファイルの「PF7」にプリセットがある。ガンマがS-Log2、カラーモードはS-Gamutだ。
S-Logはソニーが設計したガンマカーブで、センサーからの信号をクリップさせることなく収録するために開発されたものだ。初代S-LogとS-Log2は、ビデオガンマに変換しやすいようなカーブで、最新のS-Log3は映画でよく使われるCineonのカーブに近く設計されている。
S-Gamutはソニーが定義するカラースペースで、4K放送で使われるITU-R BT 2020よりも若干緑方向が広色域になっている。最新はシネマ用に定義されたS-Gamut3.Cineだ。
これらのカーブとカラースペースで収録された映像は、人間の目には低コントラストに見えるので、望ましい結果となるよう調整(現像処理)が必要になる。各シネマ向けカメラメーカーは、それぞれ独自のガンマカーブとカラースペースを定義しているが、ゼロから現像処理しなくて済むよう、プリセットを用意しているのが普通だ。
このプリセットをLUT(ルックアップテーブル)と呼ぶが、ソニーではBlackmagic DesignのDaVinci Resolve向けのLUTを公開している。元々DaVinci Resolveには、S-Log3とS-Gamut3.cineのLUTは収録されているが、S-Log2とS-Gamut用は入ってないので、別途ダウンロードしてLUTを読み込ませる必要がある。
今回はオリジナルファイルをFinalCutPro Xで編集した後、MXFでタイムラインデータを出力、それをDaVinci Resolveに読み込ませて、LC709へ変換するLUTをベースに、見栄えよくなるよう各カットごとに調整した。
最初に掲載した4Kサンプルと比較してみるとおわかりだろうが、ピクチャープロファイルなしで撮影した映像は、かなりビデオっぽいと感じる。色味は派手で見栄えはいいが、ブラックに若干オフセットが付き、白も飛びがちだ。一方S-Log2ガンマのほうは、ダイナミックレンジを稼ぎつつ白が貼り付かないよう調整した。印象としては暗めのトーンではあるが、コントラスト感もあり、色味も深さがある。
コンシューマのカメラながら、潜在能力的には非常に高いセンサーである事がわかる。ただその能力を引き出すためには、ユーザー側にカラーグレーディングの知識とノウハウが必要になる。プロがデモリールを撮影するような用途では役に立つだろうが、アマチュアには荷が重いのではないだろうか。
将来的には、カメラ内部で標準的なLUTを当てて再生できるような機能が搭載されるかもしれないが、現時点ではプロ機でも難しいところなので、コンシューマでこのような広大なダイナミックレンジの表現が手軽に操れるようになるまでには、まだしばらくかかるだろう。
総論
前回もお話ししたところではあるが、今コンシューマにおけるビデオカメラは、新モデルも年に1度、ラインナップもハイエンドモデルのみと、市場の縮小傾向が見られる。かといってみんなが動画を撮らなくなったかといえばその逆で、SNSに投稿というルートが開けたことで、爆発的に動画を撮影する機会は増大している。
動画を撮る機器がスマートフォンに代わるのは仕方がないところだが、特にSNSで共有するものでもない、プライベートな家庭用動画を撮るのもスマートフォンで大丈夫か、という問題は残る。その時に、かつてのビデオカメラのポジションに座るのが、コンパクトデジカメか、RX10M2のようなネオ一眼になるだろう。
さすがに15万円オーバーは家庭内会議が必要だろうが、4Kできちんと撮影したいとなれば、この路線はアリのように思う。S-Log2による表現力の拡大も素晴らしい。RX10M2クラスであれば効果も高いが、コンパクトデジカメのRX100M4でも可能だ。今のところ、アマチュアの方がやったことがないような知識が必要になるのが難点だが、カラーグレーディングを勉強したい人が入門として購入する場合にも、いいシリーズだろう。
逆に、そこまでダイナミックレンジや色域に対して本格的じゃなくても、4K解像度の動画が撮れればいいというのであれば、パナソニックのDMC-FZ1000やDMC-LX100のほうが、発売から1年が経過し、価格的にはこなれてきている。
もちろん、動画性能だけで決められることではないので、静止画のレビューも参考にしながら、色々悩んで欲しい。
ソニー RX10M2 |
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