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テレビの映像設定なんて怖くない! 5大調整項目の基礎知識
2021年5月21日 08:30
映画制作者が意図した“正しい映像”を、家庭でも忠実に再現するための“画質調整方法”を紹介する本連載。前回は、取っ掛かりとして、映像全体の印象を大きく左右するにも関わらず、結構いい加減に扱われていると感じる色温度について紹介した。既に、ツウ好みの映像を満喫している読者も多いのではないだろうか?
第3回目の今回は、今後のさらなる調整に先立ち、基礎知識として把握しておくべき、テレビの主要5大調整項目とその働きについて解説する。
分かっているようで分からない調整項目。実は、落とし穴もある。初心者からマニアまで必読だ。
コレは罠? メーカーで異なる調整項目名と内容
テレビの映像調整画面を開くと、メーカーを問わず概ね、以下のような項目が出てくる。
- バックライト
- ブライトネス
- 明るさ
- コントラスト
- 色の濃さ
- 色合い
- シャープネス
読んで字の如く、なんとなく想像できて分かった気分になるが、ここに落とし穴が。
何と、メーカーによって、項目名と調整内容が異なるケースがあるのだ。また、テレビに付属する取説を参照しても、各項目について、「お好みに合わせて調整して下さい」としか解説がないケースも多々ある。調整方法までは書ききれないとしても、映像のどの部分に、どのような影響があるのかは教えて欲しいところだ。
そこで今回は、キャリブレーション(映像調整)の総本山とも言える米ISF(Imaging Science Foundation)が提唱する呼称をベースに、各社の該当する調整項目を整理していこう。
テレビの映像調整項目はメーカーで呼称が異なる
テレビの映像調整項目については特に規格が見当たらず、どれが正解ということもないが、ある1社を基準にすると紛らわしいので、以降、「この記事での呼び方」に統一して解説する。
お手持ちのテレビの映像調整項目が、映像にどのように反映されるのか参考になるはずだ。
「バックライト」や「輝度」は、オーディオで例えると音量ボリュームのようなもの。映像調整というよりは、ユーザーや環境に対応する項目と言えるだろう。
その他の、「白レベル」「黒レベル」「色の濃さ」「色合い」「シャープネス」は、昔からメーカーを問わず、家庭用のテレビには必ずと言って良いほど存在し、“5大調整項目”と言えるものだ。
表を見ると、「明るさ」というワードがあちこちに登場することにお気づきだろう。メーカーが異なると、意味合いが変わることがあるので注意が必要だ。
「色の濃さ」「色合い」「シャープネス」については、各社が同じワードを使っていて、調整内容も原則同じなので、事実上の“標準”と言える。この記事でもそのままの呼称で扱うことにする。
ちなみに、10年前の調査結果と比較すると、ソニーが「明るさ」を「黒レベル」に改めていることが分かった。筆者自身、その昔、「Black Level/黒レベル」と聞いて合点が行った記憶があり、的確なワードだと思う。
各調整項目と映像の関係
では、各調整項目が映像にどのように反映されるのか。基本的な仕組みを写真を交えて解説してゆく。手持ちのテレビにあてはめ、練習も兼ねて確認すると良いだろう。
バックライト(LCD)
LCD/液晶テレビにおける、基本となる画面の輝度設定。液晶テレビはバックライトで映像を照らし出す仕組みで、パックライト(現在はLEDが主流)の明るさを調整する。
画質を重視するなら、部屋の明るさに応じ、眩しく感じない程度に充分明るく調整すると良い。明るい程、高コントラスト表現に繋がる。
輝度(OLED)
OLED/有機ELテレビにおける、基本となる画面の輝度設定。画質を重視するなら、部屋の明るさに応じ、眩しく感じないない程度に充分明るく調整すると良い。コントラスト表現に有利に働く。
1.白レベル
各社の呼び名が異なって最も紛らわしく、注意が必要な項目が「白レベル」。
上述のバックライトや輝度とは別に、映像の「明るい部分」の“明るさ”を調整する。例えば空に浮かぶ雲や雪原などの階調に注目すると、調整による変化が分かり易い。ISFが推奨する「White Level」(白レベル)がまさにピッタリのイメージだ。
白レベルを高くすると、明るい部分の階調が白飛び方向に向かうが、映像の印象としては、バックライト/輝度の設定が同じでも、明るく感じる。低くすると、明部の階調がしっかり出てくるが、映像が暗く感じる。必要以上に暗く設定すると、コントラストの低下に繋がり、画質面で不利になるので注意が必要。
調整に際しては、テストパターンを用いるのが確実で、次回記事で解説する予定だ。
2.黒レベル
主に、映像の「暗い部分」の“明るさ”を調整する。“明るさ”と呼ぶと紛らわしいが、黒に近い部分を、凄く暗くするか、すこし明るく浮いたように見せるかの違いだ。
黒レベルの調整が必要なのは、部屋が明るく、強い外光や表面反射で、黒(輝度がゼロ)であるべき部分が、明るく見えてしまっている場合。言い換えると、外光に埋もれて見えなくなってしまう階調を、この調整で引き出すことになる。
映画のシーンに例えると、暗闇に何かが潜んでいる場合、黒レベルが適正に設定されていないと見えないことがあり、ストーリーが理解できないこともある。画質は別として、情報をきちんと表示するという点で重要だ。
調整に際しては、テストパターンを用いるのが確実。こちらも次回記事で解説する予定だ。
3.色の濃さ
字面から色の濃淡を調整する項目と想像でき、概ねその通りに調整できる。
補足するとすれば、「濃く」調整する場合は注意が必要。「濃」は色の彩度がアップして鮮やかに感じるが、色域はパネルで限界が決まってくる。赤や緑の原色に近い色は、「濃く」調整すると、彩度は変化せず、実際には明度が高くなり、蛍光色のように不自然に感じるケースが多い。
なお、現在のデジタルテレビは、出荷時設定が適正で、経時変化も少なく、調整の必然性はない。映像モードを適正に選択していれば、気にしなくてよい項目だろう。
4.色合い
通常、設定項目の「色合い」は、「緑」か「赤」のどちらかに振るようになっている。
映像を見ながら調整してみると、緑や赤に寄らない、あるいは反対側に振れたように感じた方も多いのではないでろうか?
雑学的だが、「色合い」は、仕組みを理解すると「なるほど!」と思えるはずだ。
まず、調整項目の「⾊合い」に対応する英単語は「Hue」で、日本語に直訳すると「⾊相」となる。調整は下図のように、「色相環」をベースに、左回転するか、右回転するか、というイメージ。例えば黄色に注目して「色合い」を調整すると、左に回転なら「赤」、右に回転なら「緑」に変化するという訳。しかし、シアンやマゼンタの部分に注目して調整すると、「赤」や「緑」には変化しない。これが、「色合い」調整の理解を難しくしてしまっているようだ。
つまり、「色合い」の説明としては、人種を問わず概ね肌色を基準に、「緑」か「赤」に振る、というのが適切だろう。ただ現在のデジタルテレビは、出荷時設定が適正で、経時変化も少ないので、調整の必然性はあまりない。
下3つの画像は、真ん中が映像に収録されているカメレオン。概ね茶褐色で人の肌に近いので例として選んでいる。HZ2000は「赤」「緑」ではなく、「-」「+」と表記しているが、「-」=「赤」、「+」=「緑」と伝統的な作法にのっとったものだ。
総括
今回、記事を作成するに際し、各社の取扱説明書を参照したが、全般的に解説が不足していると感じた。この記事を参考に、お手持ちのテレビの各種調整項目が、どのような役割を持っているのか、基礎知識として知って頂ければ幸いだ。
今後の目標である、制作者の意図した「正しい映像」が見られるように調整するには、この記事の基礎知識をベースに、調整用のパターンを用いるのが科学的かつ合理的。次回は続編として、調整用パターンを用いた調整方法を紹介するのでお楽しみに。
【使用した機材】
テレビ:パナソニック 4K有機ELビエラ「TH-55HZ2000」
【使用した映像】
ベンチマークディスク:「The Spears & Munsil UHD HDR ベンチマーク」。HDR10/4,000nits設定で再生している。価格は7,150円。EDIPITの直販サイトに限り、クーポンコード「avw01」を入力すると1,500円引きで購入可能。クーポン期限は2021年10月15日まで
第1回:映画を“正しい映像”で見てますか? 基礎から始める画質調整1