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テレビの画は「色温度」で大きく化ける! 基礎から始める画質調整2
2021年4月15日 08:00
丹念に作りこまれた映画映像を堪能すべく、「制作者の意図に忠実な映像=正しい映像」をゴールとして、周辺知識やその調整方法を取り上げる基礎から画質調整講座。
第2回目は、早速の実践編。先ずは手慣らしに、数ある調整の中でも最も効果的と言える「色温度」について紹介しよう。言い換えれば、「色温度」を整えるだけで、ツウ好みの映像に変えることができる。テレビのリモコンを片手に読み進んで欲しい。
「色温度」に注目する理由
“高画質”の要素や定義は様々で、テレビには沢山の映像調整項目がある。
画質と言えば、真っ先に明暗のコントラストや解像度が思い浮かぶが、実のところ、それほど大外れしたテレビや映像を見ることは少ない。そう、一般的な家庭のテレビで、調整し甲斐があるのが「色温度」という訳だ。
筆者がそう思う理由は前回にも少し触れたが、色温度は制作者の意図に大きく影響する重要な要素ながら、かなりの確率でいい加減に扱われていることが多い。
実際、公共の場所などで色温度の設定が正しくないテレビや映像を目にする機会は多く、特に最近では、Twitterに投稿されたテレビ画面の写真が真っ青に近く驚くこともしばしば。できれば“色温度警察”として取り締まりたいくらいだ。
まずは色温度について知ろう
折角の機会なので、調整方法だけでなく、色温度の正体についても解説しておこう。この後の説明が理解し易くなることに加え、雑学としても役立つはずだ。
先ず色温度の基本から。主に光源の色味を指す指標として利用され、単位はK(ケルビン)。元来、黒体(完全な黒体は存在せず、概ね電球のフィラメント、蝋燭の芯、鉄のような物体が近いとされる)を熱した時の温度と色の関係を示すもので、温度が低い時は赤味が強く、温度が上昇すると白色になり、さらに上昇すると青味を帯びる。例えば熱した鉄の温度を、色で判断するという応用もできる。
身の回りでは、照明の色味がKで示されているので、購入時の判断材料になる。最近、照明の主流はLEDで、光源の温度と色味は無関係だが、引き続き色味の指標として「K」が使われている。
少し話が長くなったが、ここでは端的に、色温度が低い=黄味を帯びた白、色温度が高い=青味を帯びた白、という理解で大丈夫。
さてここからが本題だ。
テレビにおける色温度とは、主に白色の色味を指す。世界的に2K(BT.709)と4K/8K(BT.2020)映像では白色点が「D65」と規定されていて、これは色温度で示すと6504K、厳密にはCIE 1931色度図の座標x=0.3127、y=0.3290となる。
頭文字のDはDay Lightの意味で、D65は、国際照明委員会(CIE)により定義された標準光源のひとつ。欧州および北欧地域の平均的な正午の光(直射日光と晴天の空による拡散光の合わさった光)に相当し、昼光光源とも呼ばれる。
上記の座標x=0.3127、y=0.3290は、厳密には、黒体軌跡から少し緑方向にズレていて、僅かながら緑味を帯びた白と言える。制作用のマスターモニターは確かに白が緑味を帯びて見え、民生用のテレビはD65狙いでも緑味を抑えて純白に見えるよう設定されることが多い。
後述する「色順応」との兼ね合いが重要だが、D65が純白に見える環境で、テレビの色温度設定が低過ぎたり高過ぎたりすると、下写真のように、映像の印象が大きく異なってしまうので、注意が必要という訳だ。
色温度が低いと夕景、あるいは古ぼけた印象を受ける。逆に色温度が高いと早朝、あるいは新しい印象を受ける。これでは、制作者の意図は伝わらず、映画作品の場合はストーリーの理解に支障をきたすこともあるだろう。
重要なので繰り返すが、制作者の意図した正しい映像に近づく第一歩として、「色温度」にこだわって欲しい。
D65は絶対? 色順応について知ろう
制作時の色温度はD65(6504K)という規定があるのに、なぜテレビには「色温度」設定があるのか? それは、人間の視覚に備わった「色順応」が関係する。
例えば、日中の屋外から、照明が電球色の部屋に入ると、最初は壁など白く見えるはずのモノが黄味を帯びて見え、しばらくすると気にならなくなる経験があるだろう。これは、視覚の色順応、言い換えると、白いと思うモノを白と感じようとする脳の補正機能が働くためだ。
つまり、部屋の照明色によって色順応が働くと、比較的面積の小さなテレビ画面は、相対的に色の見え方が変わってしまい、これが問題になる。
そこで、その補正を行なうのがテレビの「色温度設定」。メーカーや製品によって異なるが、概ね、高、中、低、のような設定がある。
色温度設定の設定は、照明色の色温度に対し+3000~4000K程度が適正と言われている。
例えば、青味の強い昼光色照明の元でD65のテレビ映像を見ると、相対的に黄味が強く見えてしまう。この際、テレビの色温度を「中~高」に変更すれば、概ね正しい見え方に調整できる。このように、テレビの色温度設定はD65が基準と言いたいが、色順応を考慮すると、絶対ではないのだ。
なお、最も理想なのは、照明に併せてテレビ側の色温度を調整するのではなく、照明を電球色で暗め、あるいは暗室に整え、テレビをD65相当に設定すること。
理由は、色順応が全ての色に等しく働かないため。色順応と色温度補正により、視覚上の色にねじれのような現象が生じるからだ。
いざ、ハンズオン! 実際にテレビを調整して見え方を確認しよう
では実際に、テレビを調整して見え方を確認しよう。ここでは、リファレンスとして、パナソニックの4K有機ELビエラ「TH-55HZ2000」を使って説明する。
まず、ビエラの色温度設定と、実際の色温度を、コニカミノルタの業務用色彩輝度計「CA-MP410」で測定した。なお、測定に際しては精度には注意しているが、誤差が生じることと、個体差もあるので、目安と考えて欲しい。
各色温度設定と映像の見え方は、以下のようなイメージになる。なお下写真の映像は、UHD BDソフト「The Spears & Munsil UHD HDR ベンチマーク」を使用した。
テレビの色温度設定で、白色の色味、映像の見え方に少なからず違いがあることをご理解頂けるだろう。この記事を読んでいるディスプレイの色温度設定や見え方にもよるが、写真内の白色と、画面内の白が等しく見える設定が概ね正解と言え、「低2」が適正な設定と言える。
色温度設定が「高」「中」「低」のように3段階で調整するテレビの場合、概ね「低」が6500Kに近い。世界基準であるにも関わらず「低」と呼ぶのは紛らわしいが……
照明がある場合の、色順応も加味した映像の見え方
それでは、実際の家庭を想定して、照明がある場合の、色順応も加味した映像の見え方を確認しよう。照明タイプによるテレビの色温度調整の指針となるはずだ。
色順応は、壁紙の色味と明るさにもよるので、あくまでも筆者が今回実験した結果に基づく参考イメージと考えて欲しい。なお下記の掲載写真は、実際の見え方に近くなるよう一部加工・調整している。
以上は、ビエラHZ2000を用いての一例だが、結論としては、照明色が電球色(2700K相当)の場合「低2」が最適で「低3」も許容範囲。昼光色(6500K相当)の場合、「低1」が適正で「中」も許容範囲だった。
温度設定が「高」「中」「低」のテレビの場合、電球色(2700K相当)照明下では「低」、昼光色(6500K相当)照明下では「中」が適正と推測できるが、各設定と表示の関係は各社やモデルでも異なるので、あくまでも目安と考えて欲しい。
他に考慮する要素
色温度の設定は色順応を考慮する必要があるが、実際の家庭では様々な外界要因が存在する。具体的には、以下のような要素がある。
壁紙の色
テレビ背面の壁紙の色は、色順応に影響する。白、黒、グレーなど、できれば無彩色であることが望ましい。ちなみに、写真の壁紙はニュートラルなグレーに見えるが、測定すると照明色より2000K程度低い数値が出た。
外光が明るい時
日中、正午前後、曇天時の色温度を計測すると、7000K程度で、照明よりも格段に明るい。つまり、日中、外光が入る部屋では、照明色や壁紙の色よりも外光の影響が大きくなる可能性がある。
こうした様々な要因があるので、テレビの色温度設定は難しいが、以下の対策を行なうことで、色順応の影響を抑えることができる。
- 背景壁紙の色は、白、黒、ニュートラルなグレー(無彩色)を選ぶ。
- 背景壁紙やテレビ周辺の色が目立たないように充分照明や外光を暗く整える。
さいごに
今回の記事を通じて、色温度設定が大切であること、色順応を考慮しなくてはならないこと、そして、照明色別のおおよその設定目安が伝われば幸いだ。
次回は、映像調整講座の初級編として、テレビに備わっている各種調整項目とその働き、および調整の指針を紹介する。調整項目の名称から受けるイメージと実際の調整内容は異なることが多々あるので、乞うご期待!
テレビ :パナソニック 4K有機ELビエラ「TH-55HZ2000」
プレーヤー :パナソニック DIGA「DMR-4X1000」
色彩輝度計 :画面の測定 コニカミノルタ「CA-MP410」、照明や外光の測定 コニカミノルタ「CS-200」
ベンチマークディスク :「The Spears & Munsil UHD HDR ベンチマーク」
第1回:映画を“正しい映像”で見てますか? 基礎から始める画質調整1
第3回:テレビの映像設定なんて怖くない! 5大調整項目の基礎知識