トピック

テレビで正しい白黒映ってる? グレースケールとカラーを確認しよう

カラーテレビで“白黒”を正確に表示することは、実は難しいのです

映像調整講座の第5回目は、上級編。主にグレースケール、そして業界ではCMS(Color Managing System)と呼ばれる色域(カラー)調整の2点について紹介していこう。

本来この2つの項目は、測定器を用いたキャリブレーション(較正)の領域なのだが、メーカーやプロのインストーラーがどのような調整を行なっているのか、テレビ映像への理解を深めたい熱心なマニアなら興味があると思う。

原理さえ分かれば、目視調整でも少なからず応用できるだろう。

グレースケールは“映像の背骨”

テレビ映像は白黒から始まった。黒から中間のグレー、そして白というように、明暗の輝度差だけで、画像として認識できるのはご存知の通り。

カラー写真(写真右)、色情報を取り除いた白黒写真(右)

白黒の濃淡はグレースケールと呼ばれ、筆者はカラー時代における「映像の背骨」と説明している。ところが、カラーテレビでこのグレースケールを正しく映すのは、実は難しい。

「カラーテレビの方が能力が高そうなのに何故?」という声が聞こえてきそうだが、カラーテレビは原則、人間の視覚特性を利用して、赤(R)、緑(G)、青(B)の3色を加法混色することでフルカラーに見せている。

そのためグレースケールの階調表現は、R:G:Bの割合が0:0:0なら黒、100:100:100なら白とすると、中間調のグレーは10:10:10や、90:90:90といった混合比率で表すことになる。例えば、このバランスが80:90:70のように崩れてしまうと、無彩色であるべきグレーから外れた“色”に見えてしまう。

本連載でリファレンスとして使用しているUHD BDソフト「The Spears & Munsil UHD HDR Benchmark」に収録されているグレースケールパターンの見え方。写真上はHZ2000に表示して撮影したもので、グレーの各階調も白も色温度がほぼ同じに見える。つまり、濃淡の違いで色は同じ
バランスが崩れたグレーのイメージ。明部で赤味、暗部で緑味を帯び、色付きが生じている

つまりカラーテレビの場合、RGBのトラッキングがズレてしまうと、白黒映像がピュアに表示できないのだ。この状態ではカラー表現にも影響が出るため、真っ先に修正すべきポイントとなる。グレースケールが映像キャリブレーション作業の中でも重視され、筆者が「映像の背骨」と言う理由がここにある。

RGBトラッキングがズレていると、白黒写真に色付くのはもちろん、カラー写真にも本来とは異なる色が被ってしまった(バナナの黄に赤味が乗っている)

グレースケールは2カ所でおおよそ調整できる

グレースケール調整の考え方は、映像の暗い部分から明るい部分まで、色温度を一定に揃えることだ。

一般的なユーザーがメニュー画面で調整できる「色温度設定」は、暗部から明部まで全体を調整するもの。対して「プロ設定」のような詳細設定では、明るさ毎にRGB各色を増減させて色温度を調整できるようになっている。

多くのテレビに備わっているのは、カットとゲインの2ポイントによる調整。具体的には、暗部(一般的に輝度が30IRE付近)と明部(同70IRE付近)で、個別に色温度の調整、つまりRGBの比率を調整することができる。2カ所なので“2ポイント調整”と呼ばれることもある。

たった2点だと頼りなく感じるかもしれないが、通常のテレビは、2点を調整すれば他の部分も連動するように設計されている。調整に必要な手間と結果を考えれば、合理的な方法と言える。慣れればかなりフラットな状態まで追い込むことができ、一般ユーザーには実用的だ。ちなみに、カットはカットオフまたはバイアス、ゲインはドライブと呼ばれることもある。

カットとゲインの2ポイントによる調整のイメージ。上段左はグレースケールの見え方、右はその際のRGBトラッキングの乱れをイメージとして示したもの。カット(図中C)とゲイン(図中G)の2点でRGBの比率を調整すると、下段のように理想的な色付きの無いグレースケールに整えることができる
パナソニック・4K有機ELビエラ「HZ2000」の2ポイント調整画面

ハイエンドモデルでは、さらに細かく調整が可能できる。ISF(Imaging Science Foundation)のメソッドに沿ったキャリブレーションに対応する製品では、10IRE~100IREと10ポイントでRGBの比率が調整可能。製品によっては、10ポイント以上調整できる製品も存在する。

HZ2000は14ポイントで調整が可能。0.5、1.5、2.5、5という感じで、10IRE以下の暗部が細かく調整できるようになっている。視覚は暗部の輝度差に敏感なため、特に暗部階調再現が得意な有機ELタイプで活きる調整機能と言える。外部ソフトウェア(CalMAN)を使ったオートキャリブレーションも、この14ポイントで行なわれる

余談だが、パナソニック・ビエラの対応モデルでは、アプリでグラフを見ながら、タッチ操作でも調整することが可能。

HZ2000のアプリ調整画面。10ポイントでRGB別に調整が可能

ここまで細かく調整するなら測定器が欲しいところだが、テストパターンを表示して、暗部が赤かったり、明部が緑味を帯びて見えるような大きな変調があれば、目視でも確認と調整をする価値がある。

特に、使用時間が長いプラズマテレビは、蛍光体の劣化でグレースケールが狂いやすいので要注意。白黒映像がナチュラルになるのはもちろん、カラー映像も色彩が正しく、総合的な結果として、立体感の向上も実感できるはずだ。

RGBCMYで色相・彩度・明度を調整するCMS

グレースケールが明暗表現に結びついているのに対し、CMS(Color Managing System)はカラー映像のもう一つの重要な要素“色表現”に関係している。

空や海の青、草花の緑や赤などといっても、様々な色がある。制作者の意図した色味で表示できてこそ、場所や季節はもちろん、心情などの演出も正しく伝わる。

こうした色表現に関わる調整がCMSであり、グレースケールと同様、各社テレビの詳細設定から調整することができる。

調整画面を開くと、一般的にはR(赤)、G(緑)、B(青)、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)の6軸があり、それぞれ個別に、色相、彩度、明度を調整できるようになっている。

HZ2000のCMS調整画面。「詳細設定」に入るとRGBに加えCMYの調整も可能
HZ2000とアプリを組み合わせた場合の調整画面。お馴染みの色域チャートが表示されるので分かり易い

CMS調整の考え方は、実際の表示色を規格が規定するポイントにマッチさせること。

具体的には、画面に基準となる測定用パターン(RGBCMYのカラーパッチ)を表示し、それをカラーセンサーで測定。規格のポイントから乖離している場合、彩度、色相、明度を調整して近づけるのだ。

「たった6点だけ調整すれば良いの?」という疑問が出てきそうだが、原則テレビは、この6点を調整すれば、中間の色も連動して調整される仕組みになっている。

CMS調整は本来、測定器を使うべきなのだが、手動調整を行ないたい方のために、具体的にありがちな見え方を例として挙げ、その調整方法を説明しよう。

1.赤い唇が飛び出して見える

たとえば、女性の唇の赤色。色が派手めに設定されているテレビは、赤色の域を超えて、飛び出したように不自然に見える場合がある。このような状態に見える時は、Rの明度(明るさ)を下げると落ち着くことが多い。ちなみに明るさは、色域の三角形(2次元)には表れない。

2.緑が蛍光色に見える

陽光に照らし出された木の葉や草木が、不自然な蛍光グリーンに見えるというのもよくあるパターンだ。この場合も、Gの明度を下げると落ち着く。それでも蛍光色が取れない時は、彩度も下げてみるといいだろう。色域の三角形で表すと、Gが内側に萎む方向だ。

3.肌の色が不自然

ヒトの視覚は肌色に敏感。専用の調整項目を備えたテレビもあるくらいだ。

CMS調整する場合、黄色から茶褐色の肌色で、色味が緑、または赤に寄っている場合はYの色相を調整する。色域の三角形で言うと、Yのポイントが緑側、あるいは赤側のどちらかに横移動する状態となる。

Yの色相を調整して赤側に寄せた例

CMS調整の定石は、プライマリカラー(RGB)から調整すること。RGBが大元で、セカンダリカラー(CMY)に影響を及ぼすためだ。また、プライマリカラーの調整は明度が重要で、セカンダリカラーは色相を重視すると調整しやすい。

ちなみにプロの世界では、ハードウェアキャリブレーション、またはソフトウェアキャリブレーションを使って、中間色を数百ポイントでキャリブレーションできるものもある。CalMANなど専用ソフトウェアを使用すれば、パッチの表示、測定、調整を自動で行なってくれるので、ポイント数の増加に応じて測定時間も長くはなるが、手間は掛からないのだ。

ここで思い出すのは、最近話題になった、Apple TVとiPhoneによるキャリブレーション。

基本的な仕組みは、ここで説明したグレースケールとCMSを、簡易的にオートキャリブレーションするもの。センサーにiPhoneを用いるのは精度面で不安が残るが、手持ちの機材を流用できるのは合理的でナイスアイデアと言える。

iPhoneでテレビがプロ画質に!? Apple TVのカラーバランスを試す

テレビに対してキャリブレーションを行なえば、入力ソースを選ばないという利点があるが、AppleTVの場合は、自身のHDMI出力信号を調整するため、極めて限定的ではある。しかしApple TVを利用するユーザーにとっては、キャリブレーションの手間もコストも敷居が低いのは歓迎すべきことだろう。今後、精度の向上も含め、さらなる改善と普及に期待したい。

なお中国の大手メーカー・TCLは、スマホで画面を撮影するとテレビを自動でキャリブレーションしてくれる「iPQ Engine」システムを開発済みで、既に海外モデルの一部で利用できるようになっている。精度や実用性は不明だが、面白い取り組みと思う。日本には、高性能なカメラ、スマホ、テレビ事業を行なっているメーカーがあるので、是非こうした取り組みにチャレンジして貰いたいところだ。

HDR時代のグレースケール・ガンマ

HDR10(PQ)やDolby VisionといったHDR規格には、コンテンツに絶対輝度が設定されており、階調(ビット)に、輝度(nits)が割り当てられている点が、SDR(相対的なガンマカーブ)と大きく異なる部分だ。

そのため、テレビが自身の最大輝度表示能力に応じて、メーカー推奨の見せ方を含めてマッピング(EOTF)することになる。多くのテレビは最大表示能力が1,000nits以下で、マスタリングモニタのような4,000nitsや規格上限10,000nitsに達する製品はほぼない。つまり、コンテンツの輝度情報を100%再現することは現状不可能であり、マッピングにも画一的な正解がない。

HDR信号でのキャリブレーションターゲットはメーカーの設定となり、CalMANの場合、モデル名を選ぶと、メーカー指定のターゲットが呼び出される仕組みになっている。

ビエラ対応モデルはガンマカのプリセット選択に加え、10ポイントでそれぞれの明るさを調整することが可能

さいごに

「正しい映像とは?」を皮切りに、全5回に渡って、映像の雑学と調整方法を紹介してきたがいかがだったろうか。映像調整講座としては今回で一旦終了とするが、映像に関する基礎から応用知識まで、また各種機能やサービスなど、より深く知りたいマニアに答えるべく、今後も不定期ながら関連情報をお届けしたいと思っている。

筆者としては、各テレビメーカーが現在取り組んでいる自動調整技術やDolby Vision IQなど、何を基準に、どのような要素を検知し動作させているのか、詳しく知りたいと考えている。読者からのリクエストも大歓迎だ。

鴻池賢三

オーディオ・ビジュアル評論家。 AV機器メーカーの商品企画職、シリコンバレ ーの半導体ベンチャー企業を経て独立。 THX認定ホームシアターデザイナー。ISF認定ビデオエンジニア。