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映画を“正しい映像”で見てますか? 基礎から始める画質調整1

映像の善し悪しを知るには、正しい映像を知ることから

世界で初めて4K解像度のパネルを搭載したテレビは、今から10年前に発売された東芝レグザ「55X3」(当時の価格は約90万円)だが、2021年の今となっては、各テレビメーカーはもちろん、ドン・キホーテなどで売られている格安テレビでさえ“4K/HDR対応”が当たり前になってきている。

ハイエンドのテレビには8Kモデルもあるし、コンテンツは、放送やパッケージ以上にネット動画や動画撮影で4K/8K化の動きが加速している。またゲームの世界においても、PlayStation 5やXbox Series X/SといったHDMI2.1(4K/120p、8K/60p)対応の新世代機が登場。小さなスマートフォンの画面でさえ4Kになりつつあり、今や誰もが手軽に、高品質な映像を体験できるようになった。

昔から「海外に比べて、日本のマーケットは品質・機能に対する要求が高い」と耳にするが、今もテレビメーカーのアンケートでは“購入の決め手”で筆頭に挙がるのが「映像の良さ」や「高画質」だ(もちろん、価格という方も多いだろうが)。しかし、「映像のどこを見て、または何を基準に“高画質”なのか?」と質問されたら、その理由をきちんと答えることができる方は、意外と少ないのではないだろうか。

本記事では、映像や画質に関する基礎知識をおさらいしながら、手持ちの機材を使った実践的な調整方法、そしてよりシビアに映像を確認するためのキャリブレーションまでを複数回に渡って発信していく。記事を通じて、読者の映像知識や映像を観るための目が鍛えられ、より良い製品を選ぶ際の一助になれば幸いだ。

正しい映像とは

一口に「高画質」といっても、様々な要素や解釈があり、また曖昧に使われている言葉だったりする。カメラやテレビなどの機器に限れば、解像度や色域、フレームレートといった“スペック”は粗方ながら数値で把握できるものの、キレイに見せる、またはキレイと感じさせる“画作り”は感性の領域に近く、厳密に数値化することは難しい。

例えば同じ料理を食べても、人によって感想は異なって当然で、正解もなくてよい。しかし、シェフ渾身の作品とも言える料理に、いきなり塩や胡椒を加えることはないはず。まずは「そのままの味」を確認するのではないだろうか?

映像についても同じ事が言える。画の善し悪しや好みを判断する前に、まずはできるだけノーマルな状態を把握する・確認するのが基本だ。そこで第1回目は、「正しい映像とは?」をテーマに、“原画忠実”の重要性を訴え世界中で活動する著名団体「ISF」(Imaging Science Foundation)が整理・発信している画質の考え方をベースに、そのイロハをおさらいしていこう。“正しい映像”が分かってくれば、画の善し悪しや自身の好みも見えてくるはずだ。

なお、以下からは、放送などのテレビ番組ではなく、映画を正しく観ることを前提に話を進める。

正しい映像=制作者の意図に忠実な映像

まずはクイズから。下記に「A」、「B」の2つの画像がある。2つの画像は同じで、“色の違いはディスプレイによるもの”だとした場合、どちらが正しい映像に見えるだろうか?

画像「A」
画像「B」

いきなり引っ掛け問題のようだが、正解は「どちらか分からない」。なぜなら、制作者がどちらの見え方を意図したのか、見る側は知る術がないからだ。

実際には、画像Aは無加工で、画像Bは明るく色鮮やかに加工してある。もしも制作者が自然な見え方を意図したのならばAが正解、色鮮やかに見せようとしたならBが正解と言える。

映画作品の場合、制作者の意図の多くは色調に込められている。

例えば映画「マトリックス」。全体的に緑味を帯びたトーンが特徴の作品だが、これは非現実を連想させるSFの世界観を表現する一例だ。テレビ側で、マトリックスの“緑味”を通常の色味に変更することもできるだろうが、誰もそんな事は考えないだろう。しかし、どの程度の緑味が正しいのか判断できないのも事実だ。

「マトリックス」風の色味
通常(実際に風景を肉眼で見た時)の色味

ではどうすれば視聴者が、手持ちのテレビで「正しい映像=制作者の意図に忠実な映像」を確認できるだろう。制作者が各家庭のテレビをチェックして回る訳にはいかないし、また視聴者が制作現場に立ち会うこともできない。答えは簡単。制作者とテレビの両方が、“一定の基準に沿うこと”だ。

映像には基準があり、規格や数値が具体的に決められている。これは普段の買い物で利用している「重量」や「長さ」などにも通じる。

お店で「ごはんを1膳」と頼んだ場合、ごはんを盛り付ける個人の感覚の差で多い少ないが生じるが、「ごはんを120g」と頼めば、秤を使って誤差を最小限に抑えることができる。映像も同じことで、送り手と受け手の環境が基準に沿っていれば、制作者が意図したであろう映像がそのまま視聴者に届く可能性が高まるわけだ。

例えば、色に関係する映像の基準には以下のものがある。

※D65は、国際照明委員会(CIE)により定義された標準光源のひとつ。欧州および北欧地域の平均的な正午の光(直射日光と晴天の空による拡散光の合わさった光)に相当し、昼光光源とも呼ばれる
※日本ではBT.709の表示をD93(9300K)で運用している場合が多い

規格で定められている基準は、ほかにもガンマ(EOTF)など沢山あるが、筆者の経験上、映像の印象を大きく左右するにも関わらず、曖昧なまま扱われている代表例が「色温度」だ。調整方法は次回以降の連載で深堀りして紹介するが、大切なので、ここでも簡単に触れておこう。

色温度

色温度は主に白の色味と関係するが、全ての中間色にも影響してくる。

「色温度」と呼ぶ理由は、“黒体”を熱した際の温度と色の関係に倣っているためだ。黒体に近いのがろうそくの炎や白熱電球のフィラメントで、2,000度くらいでオレンジ色の光を放つ。そして温度が上昇するほど、白い方向に変化してゆくのをご想像頂けるだろう。テレビにおいては、光源の種類や温度は無関係で、単に「ホワイトバランス」(白の色味)と覚えておくと、シンプルで頭に入り易いと思う。

色温度が高すぎる場合(色温度:13000K)
オリジナル。色温度が適正(色温度:6500K)
色温度が低すぎる場合(色温度:4500K)

D65を基準とした場合の、ディスプレイの色温度設定を模したイメージが上の画像だ。

現在この記事を見ているディスプレイの⾊温度設定が視覚の色順応も含め適正であれば、中央の「オリジナル」が真昼の印象を受けるはず。一方で、色温度が低い場合は夕方、高い場合は早朝の雰囲気に見えるだろう。

日本の場合、色順応を差し引いても、テレビの色温度設定が高すぎる状態で視聴しているケースが非常に多い。Twitterなどでテレビ画面の写真投稿を目にすることがあるが、青白を通り越して「ほぼ青」に見えることもしばしばだ。

放送番組はまだしも、高い色温度で映画作品を見ることは、制作者の意図した表示ではないため、正しい知識や設定が広がるよう日々願っている。もちろん、他の基準項目も重要なのだが、経験上、大きく外れて問題になるケースは色温度よりも格段に少ないと考えている。

制作と映像機器の状況

この記事では「正しい映像=制作者の意図に忠実な映像=基準を守る」という前提で話を進めているが、実際のところ、大元と言える制作者側が基準に沿っていないケースもある。

例えば⾊温度の基準はD65と書いたが、制作者によってはそうした意識が薄く、使⽤しているモニターの較正もいい加減など、「制作者の意図」が⽋落していることもある。また、日本映画のブルーレイ作品では、放送を予定している場合、D93でオーサリングすることもあると聞く。

実際に該当する作品をD65に調整したテレビで見たが、映像が黄味を帯びて感じる。このようなケースが発生する頻度や最新の状況が正確に分からないので何とも言えないが、視聴者としては状況に応じて判断が必要になることもあるということだ。

テレビメーカーがマスターモニターのように基準厳守⼀辺倒でなく、いろいろな映像モードを⽤意している理由は、上記のように制作側のバラつきを吸収する意味合いもある。実際に放送やネットコンテンツを見ていると、色温度、黒レベル、ガンマなどが基準に沿っていないと思われるコンテンツも多々存在する。それらも難なく表示するためには各種調整機能が必要となる。

最近では、入力映像を分析して自動調整したり、また、視聴者側でまちまちな部屋の明るさや照明の色味を検知して、色温度などを自動調整する機能も普及するなど進化している。暗室ではない一般家庭の視聴環境では、こうした機能を活用するのも一案だろう。

制作者の意図をより正しく伝えようという仕組みとしては、Netflixの取り組みが注目に値する。

彼らはコンテンツ制作に関わる認証ポスプロにおいて、使⽤するモニターを定めており、定期的な較正とレポートの提出を義務付けている。モニター以外にも撮影するカメラやデータの管理、ワークフロー、そして納品形式に⾄るまで仕様を細かく定め、規格を厳守させることで品質が保証できるという訳だ。

またNetflixは、テレビ側にも、制作者の意図した映像を忠実に届ける狙いで「Netflixモード」を提供し、搭載製品も登場している。詳しい情報が無いが、制作基準に沿って表示することに加え、画面サイズや照明など、家庭環境を想定して、制作者の意図が伝わるように微調整も加えられるようだ。少なくとも、⼊り⼝から出⼝まで⼀貫して管理することで、制作者の意図をありのままに届けようとする試みは新しく興味深い。

Netflixパートナーヘルプセンターには、ポスプロで使用するリファレンスモニタに求める性能や視聴環境を記載したガイドラインが掲載されている
ソニー・ブラビアなど、一部テレビには「Netflixモード」が搭載されている(関連記事)

視聴者側で表示基準を守るにはどうすればよいか

手持ちのテレビやPCディスプレイ、スマホなどに同じ画面を表示して見比べてみると、少なからず色味が違うことに気付くだろう。特にテレビは、明るく色鮮やかに表示するモードが一般的で、さらに店頭では他よりもキレイに、そして目立つために“映える”モードで表示されている。

しかし、メーカーが用意している映像モード(画作り)も必要なのは、上述の通り、放送やネットで流れてくる映像の多くが、映画のように厳密に意図を持って作り込まれたり、管理されていないためで、「どんな映像が来てもキレイに見せる」のも、製品として付加価値になっているからだ。

ただ、この記事に興味を持っている読者であれば、基準に沿って制作されたコンテンツを、基準に沿った状態で見ることをよしと考える方も多いはず。それが、制作者が意図した映像を、ありのままに体験するという事に繋がるからだ。

では、視聴者側で表示基準を守るにはどうすればよいのだろう。以下に要素を整理してみた。

正しい映像を見るには、ある程度のテレビ性能が必要

制作者の意図云々の前に、コンテンツを表示するテレビの性能が不足していてはどうにもならない。

輝度やコントラスト、ユニフォーミティ(画面輝度均一性)、色域、視野角特性、動画応答性などの項目は、設計やパネル性能によるもので、ユーザーが後から調整で改善できるものではない。つまり、第1歩は製品選びから始まるというわけだ。

こう言うと元も子もないが、目安としては、信頼できる大手メーカーのハイエンドモデルを選ぶのが早い。ただ、ハイエンドモデルでなくとも充分な性能を備える製品は存在するので、それらは個別に判断していくしかない。

では、どこを見ればよいのか。テレビ選びのポイントを項目毎に説明していこう。

輝度とコントラスト

映像を見た際の「感動」に最も大きな影響を与える要素のひとつが、明暗のコントラストと言われている。HDRの登場でよりダイナミックなコントラスト表現が可能になったので、テレビにおいてはより高い輝度、そして高いコントラスト性能が求められる。

暗部が十分に沈む例
暗部が浮いた例。暗部の階調が再現できていない

輝度という点では、明室環境でも十分な明るさが出せる液晶方式が有利。またコントラストという点では、黒が沈んでピークが鋭く伸びる有機EL方式が有利と言える。ホームシアターなど、暗室で映画などを視聴する場合が多いのであれば、暗部が沈んでコントラスト感に優れる有機ELが有力な選択肢になるだろう。

ユニフォーミティ(輝度の均一性)

画面の“輝度ムラ”のことで、建物に例えると基礎にあたる重要な部分だ。ハイエンドモデルは設計時の考慮はもちろん、丹念に調整された上で出荷されるモデルもある。ユニフォーミティが悪いと、下記画像のように、周辺が暗くて画面中央が明るかったり、画面の一部にスジやしみのようなムラが見える場合がある。

ユニフォーミティが悪い例(中央が明るく、周辺が暗い)
良い例(縞模様は見えるが、輝度はある程度均一)

色域(彩度)

色域が広いほど深みのある色など、豊富な色が再現できる。4K/8Kでは広色域規格「BT.2020」が加わり、人間の目で見ることができる色域を(規格上は)ほぼカバーできるようになった。テレビでBT.2020を100%達成している製品は現状存在しないが、映画作品や映画館の基準であるDCI-P3を満たしている製品であれば、概ね色域性能としては充分。ちなみに、比較的安価な製品は、効率良く高輝度を達成するために、色域が犠牲になりがちだ。

色域が広い例。豊かな色再現が可能
色域が狭い例。鮮やかさが不十分

視野角特性および動画応答性

パネル方式と性能で決まる。

解像度(映像処理)

ディスプレイの解像度は4K/8Kと高精細化が進んでいるが、肝心の映像素材はSD/HD解像度であることが多く、圧縮された状態で家庭にやってくる。HDからのアップスケーリングや、ノイズ低減といった処理は多少調整できるが、土台は映像エンジンの性能やアルゴリズムで決まる。インターレース映像のデインターレース(プログレッシブ変換)も映像エンジンの実力が問われる部分だ。

忠実な明暗および色再現

設計や設定どおりに画面に表示されるか否かは、製造装置の性能や出荷時較正(キャリブレーション)が左右する。大手メーカーのハイエンド品は、出荷時のキャリブレーションにも時間を掛けている。

パナソニックの有機ELビエラでは、パネルを1枚1枚、製造ラインで測定し、その測定結果に応じたホワイトバランス・階調表現調整を行なっている

テレビの設定次第で見え方は大きく異なる

例え高性能なテレビを購入しても、設定によって映像の見え方は大きく異なる。

家庭用テレビの場合、出荷時設定や「スタンダード」(標準)といった設定は、制作基準ではなく、各メーカーが考える“キレイな映像”であったり、省電力性能を考慮した調整値になっている。

ディスプレイ設定で注意すべき、代表的な設定ポイントを見ていこう。

映像モード

映像モードとは、複数の映像調整パラメーターを組み合わせたプリセットだ。

「スタンダード」は各社とも共通してやや色温度が高い(青白傾向)。これは、日本の一般的な試聴環境(照明色が昼白色から昼光色)において多くのユーザーが爽やか(キレイ)に感じること。そして同じ消費電力なら明るく見え、省エネ性能で有利に働くという理由がある。

主に電器店の店頭のような、非常に明るい環境での視聴を想定した「ダイナミック」は、色温度が最も高く設定されていることが多く、色域やコントラストの拡張、解像感の過度な強調、過度なフレーム補間など、「他よりもキレイ」に見せることを意図した派手な画作りになっている。

「シネマ/映画」は、慣れないと「映像が黄ばんでいる」と感じがちだが、映画を見る際は制作者の意図、つまり基準に沿ったパラメーターになっていることが多い。フレーム補間やシャープネス、超解像、色域の拡張も最小限に抑えられている。

強調のないモニター系モード(シネマ/映画など)
ダイナミックモード。くっきりで鮮明な画作り

画面サイズ(アスペクト比/オーバースキャン)

放送素材やディスプレイは、16:9の画面サイズが標準となっている。16:9の画面に、21:9のシネスコ映画を映す際は、上下に黒帯が入る。ディスプレイを設定すれば、映像を拡大して黒帯を無くすことができるが、映像の左右をカットして表示することになるため、制作者が意図した映像とはならない。4:3映像を拡大して上下をカットするのも同様。元の縦横比と画角が保たれる設定を選択しよう。

注意したいのは、「オーバースキャン」。

放送などで上下に入り込んでしまう可能性のある映像の乱れを画面外へ押し出すために、数パーセント映像を拡大する機能で、映像モードが「スタンダード」の場合は、オンになっているケースが多い。映像の周辺部がカットされてしまうことに加え、不要なアップスケーリング(解像度変換)処理による画質劣化は避けなければならない。画質を重視なら迷わずオフに設定しよう。

フレーム補間

一般的に、映画素材は24コマ/秒、放送(ビデオ)素材は60コマ/秒で構成されている。標準的なディスプレイは24~120コマ/秒の入力・表示性能を備えている。1秒間あたりのコマ数が増えると、被写体の動きが滑らかに見えるので、肉眼で実風景を見るようなリアルな見え方になる。4K/8K放送では規格上最大120コマ/秒が用意されており、最近はゲームや映画制作の現場でもHFR(ハイフレームレート)が注目されつつある。

その一方で、24コマ/秒で制作された作品を、ディスプレイ側で中間コマ生成して120コマ/秒などにしてしまうと、滑らかにはなるものの、逆にその動きがヌルヌルと不自然に感じてしまう映画の雰囲気を損ねてしまう場合がある。

映画へのフレーム補間については、以前、ハリウッドの人気俳優トム・クルーズがTwitterで「映画を見るならモーションスムーシング(コマ補間/滑らか再生)をオフに」と訴え話題になったので、記憶に残っている方もいるのではないだろうか(関連記事)。

さいごに

今回は「正しい映像とは」をテーマに、それを見るために必要なディスプレイ側の要素をざっと紹介した。各項目の解説は次回以降で詳しく紹介するので、まず最初は「正しい映像=制作者の意図に忠実な映像」を確認すること、そして、そのために「基準を理解して守る」こと、の2点が分かってもらえれば充分だ。

というわけで次回は、映像調整の第一歩として、誰もが手軽に実践できる「色温度」調整を取り上げる。色温度の基本から視覚の色順応、視聴環境に応じた調整方法までを解説するので、ご期待いただきたい。

鴻池賢三

オーディオ・ビジュアル評論家。 AV機器メーカーの商品企画職、シリコンバレ ーの半導体ベンチャー企業を経て独立。 THX認定ホームシアターデザイナー。ISF認定ビデオエンジニア。