トピック

「テレビの映像調整」実践編! テストパターンで正しい“映画画質”にしよう

今回はテストパターンを使った、具体的な調整方法の話

前回は、映像調整の前に知っておくべき、5つの調整項目とその働きなど、基礎知識を紹介した。

今回はいよいよ実践編。本連載の狙いである、主に映画作品を想定した、「正しい映像=制作者の意図に忠実な映像=規格準拠」にテレビの映像を近づけるべく、テストパターンを用いた定量的な調整方法を具体的に解説していこう。

ここではディスク再生が前提なので、プレーヤーとテストディスクを必要とするが、是非チャレンジしてみて欲しい。基礎が身に付けば、情報を読み解くのに役立ったり、自身の環境や好みに応じた「応用」もできるようになるはずだ。

調整の前に、確認すべきこと

「業界標準規格」を目指すという観点から、5大調整項目を行なう前の土台固めとして、テレビの基本設定を確認しておこう。要は、テレビ側での補正を全て“オフ”に、という確認だ。

そもそも家庭用のテレビは、様々なタイプの映像を扱うため、問題を減らしたり、なるべく見映えよく映すための各種補正機能が備わっている。出荷時の標準的な映像モードは、こうした補正機能の多くがオンになっているため、きちんと作り込まれた映画作品の場合は、余計な味付けになってしまうという訳だ。

実際のところ、映像モードでシネマ系を選ぶと、ほとんどのテレビ製品はオーバースキャン、および各種補正機能がオフになるが、それでも一応確認しておくとより安心だ。

オーバースキャン

映像を5~10%程度拡大する機能。本来、放送映像などでフレームの周囲に入ることがある余計な情報を枠外に追い出す狙いがあるが、現在のデジタル放送ではほぼ不要になっている。

UHD BDディスクなどの映画再生も、もちろん無用。映像が拡大されることで画角が変わってしまうので、むしろ映画映像では有害と言える。また、拡大のためにアップスケーリング処理されるため、変換による変質が発生する。収録映像の情報をドット・バイ・ドットで画面表示するためにも、オーバースキャンはオフにするのが基本だ。

写真は、ディスクに収録されている「Framing」を表示し、オーバースキャンがオフの状態。このパターンを使うと、オーバースキャンが働いている場合、どの程度画角が狭くなっているか分かり易い

フレーム補間

メーカーによっては、「スムース」など呼び名が異なるが、オンにすると、収録されているフレームとフレームの間に中間フレームを生成し、動きを滑らかに見せる機能。

滑らかには見えるが、テレビ側で作り出した映像であり、制作者の意図ではないのは大きな問題。ヌルヌルとして動きは不自然で、中間フレーム生成時にエラー(ノイズ等)が発生することも多い。フレーム補間機能はオフにしておこう。

色域拡張

近年はテレビで表示できる色の再現範囲が広くなってきており、従来の比較的狭い色域(BT.709など)で制作されたコンテンツに対しても、色域を拡張して色鮮やかに見せることができるようになっている。

色鮮やかに、という気持ちは分からなくもないが、この場合も制作者の意図したカラーとは異なる映像になってしまう。通常は「ネイティブ」など、コンテンツの色域を誇張しない、忠実に表示される設定を選ぼう。

HDR変換

テレビのHDR対応に合わせ、従来のSDR映像を変換して、擬似的にHDR表示する機能も一般的になってきた。この変換はあくまでテレビ側の解釈によるものなので、原則、変換機能はオフにしよう。

明るさセンサーなど、環境対応自動調整

調整時には変動要素を排除するため、明るさセンサーなどの環境対応自動調整機能は必ずオフにしておこう。調整時は、視聴時と同等の照明条件にするのも大切だ。理想は「暗室」と言いたいが、専用室以外では難しいので、「なるべく暗く」を心がけるとよい。

また、繰り返しにはなるが、映像の明るさ、色温度の設定も、再度確認しておこう。

テストディスクを使った5大調整

前置きが長くなったが、ここからテストディスクを使った調整方法を解説していこう。

テストディスクは有名なモノでもいくつか思い浮かぶが、HDRへの対応、使い易さ、日本での入手のし易さを考慮すると、「Spears&Munsil UHD HDRベンチマーク」がお勧めなので、本稿でも同ディスクを用いて紹介する。

さまざまなテストパターンを収録するUHD BD「Spears&Munsil UHD HDRベンチマーク」

もちろん、他のテストディスクでも基本的な調整方法は同じなので、手持ちのディスクがあれば、似たパターンやシーンを再生して調整することもできる。

なお、使用したテレビは、パナソニックの55型4Kビエラ「TH-55HZ2000」(以下55HZ2000)。映像モードは「キャリブレーション」を選択している。

白レベル ~ 明部の明るさを調整する

まずは、SDR映像を使った白レベル調整から始めていこう。

「Spears&Munsil UHD HDRベンチマーク」のメニュー。白レベルの調整で用いるのは「Contrast」
白レベル調整用画面(SDR)

調整に利用するのは、パターン画面の上、または下に見える白帯の部分。

背景の白帯は100%の白(映像の最も明るい部分)で、その中に、明部階調が数値入りで段階的に記録されている。数値が大きい方が明るく、パターンの中では1018が最大値になっている。

テレビの白レベル調整を高くすると、1018-1000あたりから順に白飛びが確認できるはず。逆に、低く設定すると階調飛びは抑えられるものの、映像全体が暗くなってしまう。

調整の指針だが、映像は明るい方がパネルのダイナミックレンジを活かすことができ、コントラスト的にも有利なので、明部階調が白飛びしない範囲で、できるだけ明るく表示できるポイントを探ること。言い換えると、1018-1000あたりの階調の見え方が白飛びするなど大きな変化がない範囲で、なるべく高く設定するのがベストだ。

ちなみに55HZ2000の場合、ホワイトレベルは“ピクチャー”と呼び、デフォルト値は「90」で見え方も適正だった。

「調整しなくてよいのでは?」と突っ込みが入りそうだが、これは、55HZ2000が優秀なだけ。デフォルト設定が微妙な製品は多く、また映像モードによってもことなるので、ぜひ手元のテレビで試してみるといいだろう。

「TH-55HZ2000」での見え方
ピクチャー「90」の場合。適正
ピクチャー「100」の場合。白飛びが発生
ピクチャー「60」の場合。階調は「90」とほぼ同じだが、全体的に暗い
実写映像での見え方(イメージ)
白レベル調整が分かり易い画柄の一例
白レベルが適正
白レベルが高過ぎて白飛びが発生。ディテールがなくなり、平面的になってしまった
白レベルが低過ぎて映像が暗い
※白レベルを調整した際の、変化の一般的な傾向を分かりやすく表すため一部加工を施している

なお、HDR映像での白レベル調整に関しては、指針を示し難い。HDR10の場合でも、制作時の最大輝度設定(MaxCLL)が一定でないことや、テレビの最大表示輝度性能もバラバラだからだ。

例えばMaxCLLが4,000nitsのコンテンツを、最大表示輝度1,000nitsのテレビで表示する場合、この時点で制作者の意図を100%再現できないことになる。4,000nitsのコンテンツを1,000nitsのテレビで表示する場合は、テレビ側が独自のトーンマッピングを行なうことになる。

ハードクリップ(超えた部分の階調は白飛びさせる)されるか、ソフトクリップ(白飛びしないようにトーンマッピングのカーブを丸める)されるかの主に2パターンで、特にソフトクリップの場合はその度合いなど、基準が存在しない。

現実解として、HDRの場合はテストパターンを表示したら、手持ちのテレビの「見せ方」(どのような処理を行なっているのか? などの傾向)を確認する程度に留めることになる。

HDR映像時の確認は、トップのCONFIGRATION画面で、プレーヤーからの出力値「Luminance(cd/m2)」、つまりnit値を任意に選択。その後「VIDEO SETUP」から「Contrast」を表示すると、使用しているテレビで、明部の階調がどのように表示されるかを知ることができる。

ここで白レベルの調整を行なうことも可能だが、前述したとおり、テレビが自身の表示輝度に合わせ、様々なnit値のコンテンツを最適表示できるよう、トーンマッピングが考慮されている。大幅に違和感が無い限り、触らない方が無難だろう。

もし、お気に入りのタイトルで、MaxCLLが4,000nits~と高く、明部の白飛びが気になる場合は、白レベルを下げる方向で調整すると幾らか階調を取り戻せる可能性がある。ただし、この調整で1,000nits収録の映像を見ると全体的に暗く表示されてしまうなどの副作用が考えられるので注意されたい。

黒レベル ~ 暗部の明るさを調整する

黒レベルは、中間調の明暗をつかさどるガンマ設定が影響する。今回使用した55HZ2000では、SDRと同様にHDR10信号でも、項目「ガンマ」の調整が有効だった。

ガンマの適正値は明室で2.2、暗室は2.4(製品により選択可能な場合は、最新標準とされるBT.1886)に設定するのが目安。

黒レベルの調整に用いるのは、VIDEO SETUPの「Brightness」だ。

黒レベル調整用画面

理想は、-2%と-4%が見えず、2%がわずかに見え、4%が確実に見える状態だ。

テレビの黒レベルを上下(+/-)すると、変化が分かるはず。暗室の場合、デフォルト設定で概ね良好な結果が得られる場合が多いが、実際に確認し、必要に応じて調整を行なおう。

理想的な見え方の例
実写映像での見え方(イメージ)
暗室で黒レベル「0」の場合。ほぼ適正
黒レベル「+50」の場合。黒レベルが高すぎてしまい、暗部が浮いている
黒レベル「-50」の場合。黒レベルが低すぎて、暗部が黒潰れしている

実際に黒レベルの調整が必要になるのは、部屋が明るい場合だ。

本来、映像に対して周囲の光はノイズと言える。そのため暗室が理想なのだが、専用室以外はその環境を作るのは困難だ。専用室といえども、快適性の観点から、少しは明かりを使うだろう。

こうなると、暗部階調が周囲の光や映り込みで埋もれてしまう。黒レベルを高くする方向で調整すると、映像の暗部階調が見えるため、情報の欠落が無いという点で制作者の意図した映像に近づくと言える。

明室で補正した場合の例。外光が少し入るだけで映り込みが発生する。この例では、黒レベルを「+10」に設定すると、4%が確実に見える状態になった

色の濃さと色合い

5大調整項目において、どのテレビでも「色の濃さ」と「色合い」の調整が可能だが、今日のテレビの場合、デフォルト状態で大きな違和感を感じた経験はない。よほど製品に問題がない限り、調整の不要と言っていい。

参考までに。アナログテレビ時代は、カラーデコーダーのエラーも多く、またブラウン管の劣化などもあり、カラーフィルター(主に青色のフィルム)を用いて目視で確認する方法が一般的だった。しかし、現在の高精度なデジタルテレビの場合はカラーフィルターの精度の方が怪しいほどだ。色の調整に関しては、利は少ない。

なお、テレビ側にブルーオンリーモードなどがある場合は状態を確認し、場合によって調整してもよい。興味がある場合はテストディスクのガイドを参照されたい。

シャープネス ~ 解像感を調整する

シャープネスを高く調整すると、一見、解像度が増したように感じる。しかしこれは、テレビが明暗の境界にシュートと呼ばれる輪郭線を加えることで実現しているもの。つまり、元の映像には含まれない情報なので、制作者の意図に忠実とは言えない。

専用のパターンを用いれば、シャープネスが作り出す「シュート」がはっきり見ることができるし、シュートによる悪影響も確認することができる。

シャープネスの調整用パターンは、VIDEO SETUPから「Sharpness」を選択する。

シャープネス調整用のパターン

まずは、シャープネスが作り出す「シュート」を確認しよう。

「シャープネス」を強く調整すると、黒い線の周囲に、地のグレーよりも明るい「白い線」が見えてくる。繰り返しになるが、この白い線はテレビが作り出したもので、制作者が意図したものではない。折角の4K解像度も台無しなので、シュートには気をつけよう。

シャープネス「30」の場合。微かにシュートを感じるが概ね適正
シュートが見える状態の例。この場合はシャープネス設定が強すぎる

具体的な調整方法は、一旦シャープネスを充分強くシュートを確認した後、徐々に下げる方向で調整し、シュートが見えなくなったらOKだ。低く設定し過ぎると、輪郭がボヤけてしまう製品や、“最小設定”が最善な製品など様々あるので、調整のしがいがある項目と言える。

ちなみに、下の写真が55HZ2000でのシャープネス「0」の映像。出荷設定値の「30」に対し、シュートは全く見えず、ボヤける感もない。実写映像でも確認したが、画面から数センチの近接視聴では、シャープネスが「0」のほうがむしろ情報量が多く、細部も立体的に感じられた。

製品にもよるが、シャープネス「0」がベストな場合は多い。なおPCディスプレイやスマートフォンなど、情報を表示するためのシンプルな製品は、シャープネス「0」が基本で、調整項目すら存在しないことが殆どだ。

シャープネス「0」の場合

決してシャープネスの存在が無意味、というわけではない。視聴距離が遠い場合などは、適度に利用すると先鋭感を増す効果が得られる。日常使うテレビとしては、有用な調整項目なのだ。

まとめ

正確なテスト信号を収録したテストディスクと使用すると、どのようなディスプレイでも業界標準に近づけることができる。少し費用がかかるが、せっかく高画質を期待して購入したテレビの画力をより発揮させるという点では、持っておいてもよいツールと思う。

なお、注意があるとすれば、テレビの調整項目にある「色温度」や「ガンマ」は、数値が示されていたとしても、それは目安であり、実際の表示とは多少ズレている可能性もある。厳密に「規格準拠」を目指すなら、専用の測定器を用いた「キャリブレーション」(較正)という、さらに踏み込んだ世界もある。

今回は、誰もが実践できる「5大調整項目」について解説したが、次回は、より踏み込んだプロ設定……グレースケールトラッキング、CMSとも呼ばれるRGBCMYの明度・色相・彩度などについて紹介する。厳密な調整には測定器が必要だが、知識さえあれば、違和感を感じた際の調整に応用できる。乞うご期待。

【使用した機材】
テレビ:パナソニック 4K有機ELビエラ「TH-55HZ2000

【使用した映像】
ベンチマークディスク:「The Spears & Munsil UHD HDR ベンチマーク」。HDR10/4,000nits設定で再生している。価格は7,150円。EDIPITの直販サイトに限り、クーポンコード「avw01」を入力すると1,500円引きで購入可能。クーポン期限は2021年10月15日まで

鴻池賢三

オーディオ・ビジュアル評論家。 AV機器メーカーの商品企画職、シリコンバレ ーの半導体ベンチャー企業を経て独立。 THX認定ホームシアターデザイナー。ISF認定ビデオエンジニア。