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動画撮影を止めない“GHシリーズ”、手軽なフルサイズ“S9”。LUMIXの選び方を聞いてみた

「動画撮影を意識してミラーレスカメラを選んでみたい」というニーズが増えている昨今。しかし、何を買えばいいのか、どう選べばいいのか、なかなか難しい。大きいカメラのほうが何でもできそうだが、使いこなせないのではないか。小さいカメラは発熱ですぐに止まってしまうのではないか……などなど、動画撮影以前の悩みが尽きない。

そこで、そうしたカメラの企画・開発を行っているメーカーに直接聞いてみようというのが本稿の主旨。今回は、LUMIXシリーズでお馴染みのパナソニックに話を聞いた。おすすめ機種の紹介や、動画需要のトレンドなどについてお伝えする。

今回取材の場に用意されたカメラは以下の通り。


    【フルサイズ】
  • LUMIX S1H ボディのみ直販386,100円
  • LUMIX S1RII ボディのみ直販475,200円
  • LUMIX S5II ボディのみ直販247,500円
  • LUMIX S5IIX ボディのみ直販274,230円
  • LUMIX S9 ボディのみ直販207,900円

    【マイクロフォーサーズ】
  • LUMIX GH7 ボディのみ直販274,230円
  • LUMIX G9PROII ボディのみ直販230,670円
  • LUMIX G100D レンズキット直販89,100円

    【ビデオカメラ】
  • HC-X2100 直販292,050円
  • HC-X1600 直販222,750円
  • HC-VX3 直販108,900円
パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション イメージングソリューション事業部 国内マーケティング部 課長 塩見記章氏(左)、主務 辻啓太氏(右)

エントリーしやすさなら「LUMIX S9」がおすすめ

LUMIX S9

——ずばり、これからミラーレスカメラで動画を撮りたい人にオススメの1台は?

塩見:少し前提となるお話からさせていただくと……アマチュアの方々にとっての動画といいますと、まだ市場もメーカーもVlog以外の楽しみを発明できていないと感じています。写真だと、ポートレート、風景、飛行機撮影など、様々なジャンルがありますよね。

そこで、アマチュアの方々に動画を始める動機を提供できるようなエントリーしやすさを考えた機種が、フルサイズ機の「LUMIX S9」です。写真の延長で動画を撮ってみたり、映像制作をまずは楽しんでみたいという方におすすめします。価格も比較的買いやすく、小型軽量です。

塩見氏

塩見:エントリーしやすさのために用意したのは「MP4 Lite」というフォーマットです。弊社は動画に長く取り組んでいるため、コーデックやビット深度といったオプションを豊富に用意していることがプロ向けのウリなのですが、これが逆に「どう選んだらいいのかわからない」というエントリー層の悩みに繋がると考えました。

そこでLUMIX S9では「いったんMP4 Liteを選んでもらえれば大丈夫ですよ」という形を考えたのです。ビットレートが抑えめでデータが軽いので、カメラからスマホに動画を転送して、スマホアプリで簡単に編集するといったワークフローを見据えています。

これまでのLUMIXと比べると、LUMIX S9のコンセプトは少し異質です。弊社はカメラ業界でのシェア的にはチャレンジャーの立場なので、“広くあまねく”の製品コンセプトでは他社に勝てないと考え、こうしたコンセプトに振りました。

ある動画系のイベントに出展した際、弊社としてメインに据えた機種はマイクロフォーサーズのハイエンド動画機「LUMIX GH7」だったのですが、ちょうど新機種だったのでLUMIX S9も持っていきました。すると、ブースで受けた問い合わせのほとんどがLUMIX S9に関するものでした。10〜20代の若者がLUMIX S9に興味を持って集まってくれたことは、驚きでもあり、嬉しかったです。

しかも、そのほとんどが「今はカメラを使っていない」という方々で、ミュージックビデオなどを撮影して“一発当てたい!”という目標を持っていました。リッチな画質を得つつ、自分のライフスタイルや趣味嗜好も示せるカメラという期待が、LUMIX S9に向けられていたようです。

ミラーレスに限らない、用途で選べるカメラ製品群

——パナソニックの動画カメラにはどんな製品群があるのか、カテゴリーごとに教えてください。

塩見:まずはデジタルビデオカメラです。シネマ用というよりホームビデオの延長といえるもので、ここにはHC-X1600、HC-X2100をお持ちしています。

左からHC-X2100、HC-X1600、HC-VX3

塩見:これらはセミプロユースの「ディレクターズカメラ」というイメージで、ディレクターが1人でカメラを持って取材するような使い方を想定しています。古くは「水曜どうでしょう」の番組作りが原点なのかなと思いますが、最近はディレクター自身が撮影する街録が本当に増えていますから、カメラ任せのフルオートでもそれなりに綺麗に撮影できるように設計することで、ディレクターの負担を減らします。

辻:ガンマイクを取り付けたり、LEDライトを前面に取り付けたりと工夫できる拡張性の高さがあります。

辻氏
HC-X2100
レンズ一体型で20倍の電動ズームが使える

塩見:レンズは電動ズームです。こうしたオールインワン的なカメラでいうと、デジタルカメラの中でも高倍率ズームタイプのLUMIX FZシリーズも動画を撮る方が多いです。1.0型センサーと20倍ズームレンズを搭載した「DMC-FZH1」(生産終了)も、運動会のようなイベント撮影で未だに人気があります。映像制作のエントリー機としては価値のあるパッケージングかなと思います。

あとは、いわゆる「ホームビデオ」のデジタルビデオカメラですが、これは利便性の塊です。高倍率ズーム、手ブレ補正、コンパクトな本体など、記録撮影した映像を見るという点では必要十分です。

HC-VX3
コンパクトでズーム、ブレ補正など動画撮影の利便性が詰まっている

辻:意外かもしれませんが、被写界深度が深い(ピントが合って見える範囲が前後方向に広い)というのも、好まれている理由なんです。

塩見:若い人が最近見ている写真は、パンフォーカスのものが多いようなのです。明るいレンズで背景が大きくボケた写真こそが「良いもの」だと思っているのは、我々世代の神話なのかもしれません。

そう感じたきっかけは、あるSNSの写真です。マイクロフォーサーズのGFシリーズに「LUMIX G 20mm F1.7」(筆者注:明るく描写が良く、写真好きに長年人気のパンケーキレンズ)を取り付けて集合写真を撮っていたのですが、「自分にピントが合っても、後ろの人はボケちゃう」という悩みが添えられていたのです。本格的なカメラらしく背景がボケていることが、却ってユーザーの不満になっていました。そして、フルオートでもユーザーの望みには完璧に応えられないという実態にも、まだ課題を感じています。

画質よりスピード重視の現場が増えている?

——動画機能の使われ方で、最近の面白いトレンドはありますか?

塩見:ものすごく納品スピードを重視した動画制作が求められている分野があります。音楽ライブ・フェス系のクリエイターは、画質よりとにかくスピード。イベントの当日中にアフタームービーという映像を公開しなければいけないそうなんです。アイドルイベントだと、公演後の1時間以内に動画を作って出さなければならないという話も聞きます。これが、ファンとのエンゲージメントを高めつつ、拡散されて新規客の目にも触れるという図式です。

そうなると、クイックなワークフローのためには高いビットレートは不要ですし、もっと言えばプロキシ動画をサクッと編集するような感覚に近いです。フルHDどころか720pでも、Instagramで見るには画質的に十分なんだそうです。これからの動画ワークフローは、画質重視とスピード重視で二極化していくんだろうなと感じます。

実はLUMIX GH7に、データ量を抑えた8ビットのMOVフォーマットを入れたんです。これはユーザーからの要望だったのですが、私達の想像以上にとても高く評価されました。

——画質でいうと、3月にはLUMIX初となる8K動画撮影に対応した「LUMIX S1R II」が登場しました。8Kというのは現在どんな状況なのでしょう?

塩見:編集時の自由度を高めるためのものとして使われることが多いです。最終的には4Kで出力しますが、オーバーサンプリングでより高画質を得たり、切り出しでズームを掛けたりできます。

辻:8Kの再生環境は、まだまだ普及していないと言えます。

塩見:映像コンテンツとしても、CS放送やNHKの番組に少し8K映像がある……という印象ですね。とはいえLUMIXの思想として、「クリエイターの頭の中のほうが、カメラが提供できるものより豊か」という考えがありますので、8Kのみならず、ビット深度、ダイナミックレンジ、AF、手ブレ補正といった各種の技術開発で、クリエイターをお手伝いしていく姿勢は変わりません。

“ステップアップ”の概念が通用しなくなってきている

——他社からの乗り換えでおすすめの機種はどれですか? LUMIX S5IIの発表時に「初心者が2台目のカメラに買い換えるときに選ばれたい」といったような話がありました。

LUMIX S5II(右)。左はLUMIX S5IIX

塩見:LUMIX S5II発売後の購入者アンケートを見ると、「初めてカメラを買った」という方が想像以上に多く、半数ぐらいでした。ここで考えたのは、最近はいわゆる“ステップアップ”がうまく機能していないな、ということでした。昔であれば、まずはお手頃なカメラを買って、少しずつ上位機に買い換えていくような道筋がありました。しかし今では、学生の方でも「いいな」と思えばいきなりLUMIX S5IIのようなメインストリームのカメラを手にしてもらえます。

また、入門機という概念も難しいですよね。LUMIX GH7はマイクロフォーサーズ機の中では上位機種ですが、映像制作をやりたい人にとっては入門機になります。それに、初心者ほどカメラの性能に助けられる部分が多いので、「一番の入門機はプロ機だ」という考え方もあります。

——サブ機に向くのはどれでしょう?

辻:LUMIX S9はサブ機としての需要が高いです。他社のフルサイズ機を既にお持ちで、そのサブという位置づけで購入されています。

——サブなのに、メーカーが違ったりするのですね。ちなみにパナソニックとしては、マイクロフォーサーズとフルサイズの位置付けをどう考えていますか?

塩見:他社のシステムですと、APS-Cと35mmフルサイズでヒエラルキーが感じられることが多いです。弊社ではマイクロフォーサーズのGシリーズとフルサイズのSシリーズの中にそれぞれのヒエラルキーがあって、マイクロフォーサーズがフルサイズの下位互換といったような上下関係はありません。

ご存じの通り、フォーマットが異なるので被写界深度によって表現が変わり、機材の大きさからくる機動力、長回しが得意かどうか、120pのような時間表現が得意か、などで棲み分けられています。マイクロフォーサーズも能動的に選ばれていて、特にロケ撮影が多かったり、ジンバルに載せて撮影するとなると有利です。また、交換レンズが豊富で比較的安価というのもメリットですね。フルサイズは、映像の情報量がリッチで、高感度に強く、被写界深度の浅さを生かした表現が可能です。

マイクロフォーサーズではLUMIX GH7がコンスタントに売れています。カメラの機能として、一旦のゴールに到達したのかな?と感じています。リグを共用できるなど、GH6から乗り換えやすさもあったと思います。

フルサイズのLUMIX G9PROIIは、放熱性以外の部分はLUMIX GH7に相当するぐらいの仕様を持っています。GH7とG9PROIIは筐体サイズが同じですから、同じリグを使い回せます。価格はG9PROIIのほうが3〜4万円ほど安いです。

マイクロフォーサーズなのに大柄なGH。それには理由がある

動画ユーザーに人気なLUMIX GH7(左)、右はLUMIX G9PROII

——LUMIX GH7は、マイクロフォーサーズなのにどうしてフルサイズ機並みの大きさ・重さなのでしょうか?

塩見:GHシリーズのDNAとして「動画撮影中に絶対にストップしない」が大事なんです。プロの方にとって、カメラが止まる=仕事が終わる、なので、止まらないカメラを作ることに対して意地があります。

そのために熱対策として、空冷ファンを搭載します。そしてヒートシンクも必要ですから、それぞれ場所を取ります。加えて、手ブレ補正に高精度のジャイロセンサーが必要です。動画の手ブレ補正はピタッと止めるだけが正義ではありませんから、そのジャイロセンサーの情報を使った制御には長年やってきた自信があります。このジャイロセンサーはカメラの頭頂部に入っていて、小型化しようと思えばできますが、GHのコンセプトを踏まえると少し大きさのあるものが選ばれます。

LUMIX GH7の空冷ファン

塩見:また、グリップ感も大事にしています。カメラを小型化するメリットは大きいですが、LUMIXでは現場で迷わないための「1ボタン・1ファンクション」の操作性を定義化していて、右手で操作を完了できるようにデザイナーがこだわっています。GHシリーズは、たとえサイズが大きくなったとしても機能性を優先するカメラだということです。このあたりの優先度がシリーズごとに異なります。

——ミラーレスカメラでとりあえず動画を撮ってみたい場合、どのモードや設定にすれば確実にキレイに撮れますか?

塩見:LUMIX S9の特徴として先にお話しましたが、記録方式を「MP4 Lite」にして、撮影モードをプログラムオート(Pモード)にすることをおすすめします。

——ミラーレスカメラのハードウェア設計において、動画のことを意識した仕様はありますか?

塩見:最近では、ストラップの取り付け部(吊り環)を板金製にしました。アイレットに三角環を取り付けるスタイルだと、カチャカチャと音を立てて録音されてしまう可能性があるからです。また、アイレットは本体シャーシにカシメだけで留まっていますから、強度的にもプレートタイプのほうが安心です。

アイレットに三角環を付けているタイプ
最近の機種はプレートタイプに

塩見:ちなみに機種によっては、この吊り環とイメージセンサー位置(撮像面)を合わせています。メジャーを引っかけて撮影距離を測れるようになっているんです。

吊り環部分。白いマークがイメージセンサー位置の印

塩見:加えて上位機では、側面端子に繋いだケーブルとの干渉を抑えたチルトフリーアングル液晶モニターを採用しています。また、リグに組んだ時に通常のシャッターボタンが押しづらくなるケースがあることから、カメラ前面にも録画ボタンを備えています。

チルトフリーアングル液晶モニター
フロント録画ボタン

辻:フルサイズ用LUMIX Sレンズの開放F1.8の単焦点レンズでは、ジンバルに載せるときのことを考えて、レンズのサイズ感と重心を全て揃えています。あとは、ピント位置によって増倍率が変わるフォーカスブリージングの対策を盛り込んでいます。ほかにも、AFのモーター音を静かにしたり、絞り羽根のマイクロステップ制御に対応するような工夫を盛り込んで、動画撮影にも使いやすいものにしています。

まとめ

ミラーレスカメラのみならずビデオカメラも含めたラインナップを解説してもらい、ひとくちに「動画撮影」といっても様々なシーンがあることを実感できた。ミラーレスカメラはどちらかというと、被写界深度の浅さ、ダイナミックレンジの広さ、レンズの効果を生かしたクリエイティブ寄りの映像表現に向いていると言えそうだ。その中で、日々にカメラを取り入れてみたいのであれば「LUMIX S9」、本格動画制作を始めてみるのであれば「LUMIX GH7」をまずはチェックしてみると良いだろう。

そしてもし、撮影してみたい動画が街録のようなドキュメンタリースタイルだったり、ホームビデオ的であるならば、“ディレクターズカメラ”やビデオカメラにも目を向けてみたい。ミラーレスカメラで動画を撮影する場合、フィルター類やマイク、ジンバルなど何かと撮影アクセサリーを外付けする機会が多いものの、これらのカメラであればオールインワンのシンプルな機材で、より快適に失敗も少なく撮影できるだろう。

鈴木 誠

ライター。デジカメ Watch副編集⻑を経て2024年独立。カメラのメカニズムや歴史、ブランド哲学を探るレポートを得意とする。インプレス社員時代より老舗カメラ誌やライフスタイル誌に寄稿。ライカスタイルマガジン「心にライカを。」連載中。日本カメラ財団「日本の歴史的カメラ」審査委員。趣味はドラム/ギターの演奏とドライブ。 YouTubeチャンネル「鈴木誠のカメラ自由研究」