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5万円台でもハイレゾ&ブレない音で“誰でも楽しめる”アンプを。デノン新AVアンプのこだわり

 AVアンプの多機能化が進んでいる。ネットワークプレーヤーとしてDSDを含むハイレゾファイルの再生に対応するだけでなく、無線LAN機能も内蔵し、AirPlay受信もサポート。Bluetooth機能も搭載し、スマホとアンプを直接接続できる製品もある。“AVアンプ”という名前は今まで通りだが、プレーヤーでもあり、様々デバイスから音楽を受け取るレシーバの側面も強くなっている。

左から「AVR-X2100W」、「AVR-X1100W」

 機能が追加されると高価になるのが普通だが、各社が切磋琢磨している市場でもあるため、機能が削られがちなエントリーモデルまで高機能化が波及。上位モデルとほとんど変わらないプレーヤー/レシーバ機能を備えたAVアンプが、5万円程度で購入できてしまうという、以前では考えられない、ユーザーにとっては嬉い状態になっている。

 だが、多機能になれば当然操作は複雑になり、使いこなしが難しくなる。AVアンプを何台も買い替えてきたマニアならまだしも、初めてエントリーのAVアンプを買ってみるというユーザーには不安な部分もあるだろう。また、“多機能化しましたが、音は悪くなりました”では本末転倒だ。当然ではあるが、アンプとしての“音の良さ”も気になる部分だ。

 リーズナブルな価格を維持しながら、“多機能”、“使い勝手”、そして“音質”という3つの要素を高めたAVアンプとして、デノンが7月中旬に発売する「AVR-X1100W」(57,500円)、「AVR-X2100W」(81,000円)を取材。ディーアンドエムホールディングス CSBUデザインセンター デノンサウンドマネージャーの米田晋氏(以下敬称略)にお話を伺った。そこからは、3つの要素を高めるための工夫やこだわり、そして老舗オーディオメーカーらしい思想が見えてきた。

デノン製品が世にでるための“関門”に潜入

デノンの試聴室

 お邪魔したのはデノンの試聴室。デノンサウンドマネージャーの米田氏が、デノンの製品のサウンドをチェックしながら、設計者らと意見を交わし、音質を高めていくための部屋。つまり、この部屋で米田氏のOKが出ないと製品として世に出られない、“関門”と言えるだろう。

 試聴室は2chからマルチチャンネルまで対応できるようになっており、マルチ用には38cm径ウーファがトレードマーク、B&Wの「Nautilus 801」×5台をセッティングする事も可能になっている。

 お話を聞く前に、「AVR-X1100W」(57,500円)と「AVR-X2100W」(81,000円)の特徴を簡単に振り返ってみよう。デノンのエントリーAVアンプはこれまで5.1ch仕様だったが、X1100Wは7.2ch化された。これにより、価格は前モデル「AVR-X1000」(53,000円)よりも若干アップしている。中級モデルとなるX2100Wも7.2chアンプ。どちらもディスクリートアンプとなっている。

 どちらのモデルにもネットワーク再生機能があり、DLNA 1.5に準拠。新たに、DSDとAIFFファイルの再生に対応し、AIFF/WAV/FLACは192kHz/24bit、Apple Losslessは96kHz/24bit、DSDは2.8MHzまで対応。これらロスレス音声フォーマットは全てギャップレス再生もサポート済みだ。前面USB端子にハイレゾファイルを保存したUSBメモリを接続して再生したり、iPhone/iPodのUSBデジタル接続にも対応している。

 Ethernet端子のほか、無線LAN機能も内蔵している。LANケーブルの取り回しを気にせず、家庭内のLANを介してスマートフォンやタブレットとワイヤレス接続可能だ。2本のロッドアンテナを使ったダイバーシティアンテナを採用し、通信を安定化。BluetoothやAirPlayにも対応。iOS/Android向けの制御アプリ「Denon Remote App」も用意し、スマホやタブレットから制御もできる。

 さらに、4K時代を見据えた機能として、HDMI 2.0に対応。4K/60p、4:4:4、24bit Pure Colorをサポートし、パススルーができるほか、X2100WはSD/HD映像を4K/30pへアップスケーリング出力も可能になっている。

 まさに機能“テンコ盛り”、「デノンが作っているハードウェアの機能の、かなりの部分がAVアンプの中に入っている状態」(米田氏)だ。

 こうした映像や通信系の回路や信号は、オーディオ系の回路に影響を与えるため、音質を低下させる要因にもなる。だが米田氏は、「AVアンプもアンプには変わりありません。スピーカーを鳴らす事が最大の目的です。デノンとしては、(新機能が追加されたからといって)音質に関して後ろ向きな考え方は一切許しません」と言い切る。音の面で妥協したような製品は、“関門であるこの試聴室を通さない”というわけだ。

 では、この関門を通過できる音、デノンが目指した音とは具体的にどのようなものなのだろうか。

ディーアンドエムホールディングス CSBUデザインセンター デノンサウンドマネージャーの米田晋氏

米田:デノンの発端は、日本コロムビアの音響機器部門です。元々、コンテンツを作る側でもあったわけです。ですので、AVアンプの場合でも、“AVアンプだから映画だけ再生できれば良い”という考え方は成り立たないと考えています。

 オーディオではもともとモノラル音源だったものがステレオになり、2chでどこまで空間の再現ができるかを、我々は長年チャレンジし続けて来ました。それがマルチチャンネルになると、空間を作りやすくはなります。

 しかし、逆にそれに頼りすぎてしまうという事も起こりえます。2chで作り出した空間が、マルチチャンネルになる事でさらに強化されるのではなく、空間を壊してしまうようなマルチチャンネルになってはならない。ベーシックな部分の能力をシッカリ備えた上で、色々なフォーマットに対応していく必要があります。

 映画には、音の移動を楽しんだり、低音がドーンと響くような“脅かしの世界”という側面があります。そうしたエフェクトが頻繁に使われていますが、音のベーシックな部分が再生できていなければ、エフェクトだけで動きや迫力を再現しようとしても無理が生じます。

 一方で音楽の世界は、例え静かな音であっても、聴いている人の感動を呼び起こすような音に行き着くと考えています。AVアンプでは、マルチチャンネルの音楽ソフトを再生する事もありますから、映画か音楽のどちらかではなく、両方をしっかり再生できなければなりません。種類を問わず、コンテンツのエモーションやエネルギーを、家庭の中で味わってもらいたいというのが我々の最大の目的です。

 映画館は映画を再生するための専用の器であり、コンサートホールは音楽専用の器ですよね? 家庭では、シアタールーム、オーディオルームを個別に作る事は難しい。AVアンプは家庭のリビングなどに置かれる事が多いわけですが、リビングでも、映画と音楽、どちらでも楽しめる。そういうツールを提供していきたいと考えています。

 ハイレゾファイルの再生についても同様です。ハイレゾだからと言って、音を変えるという事はしていません。もちろん製品ジャンルや価格的にできる事、できない事はありますが、基本的な音作りの考え方を変えているつもりはありません。

安定感のあるブレない音を、維持していく事

 米田氏はアンプに求められる能力として、安定感のある、ブレない音である事が大切だと言う。その音を実現するための施策として、今年のAVアンプでは、「More Energetic もっと感動的に、より大迫力、そしてパワフルに!」をテーマに掲げ、全モデルに対して、アナログ系、デジタル系、筐体を含めて部品を大幅に見直し、徹底的に改善したという。

 また、エントリーモデルも含め、ディスクリートアンプにこだわっているのも、デノンのAVアンプの特徴だ。

AVR-X1100Wのパワーアンプ部

米田:デノンブランドの単品コンポで、ディスクリートではないICモジュ―ルを使った製品は無かったと思います。全チャンネル同一クオリティという部分には、ずっとこだわってきました。今やBlu-rayなどで、フォーマットそのものが完全ディスクリートになっていますから、“そんなの当たり前じゃないか”と言われてしまうかもしれませんが(笑)、我々はドルビーデジタルなどが登場する以前からこだわっており、当時としてはかなりレアだったんじゃないかと思います。やはり、安定した力強さという面で、ディスクリート構成の利点があります。

 また、“ディスクリートだから”という以前に、デノンのアンプ構成は、いわゆる“大電流アンプ”なのです。2chのHi-Fiアンプでは、大電流増幅素子のUHC(Ultra High Current)-MOSを使っているのが特徴ですが、それ以外のモデルであっても、大電流のトランジスタを採用しています。

X1100Wの電源部に採用されている、大容量10,000uFのデノンカスタム品コンデンサ

 大電流アンプでは、小音量でも、大音量でも、音色が変わらない、ブレない音になります。音色だけでなく、音像や音場もブレずに“ピシッとそこに存在していて欲しい”という思いが大もとにあります。

 最近はエコ性能を重視して、デジタルアンプが使われる事も多くなっており、我々もトライしなければならないと考えていますが、今のところ、このランクのアンプで音をまとめていこうとした時に、デジタルアンプでは音を支える部分、安定感が出せないのです。

オンスクリーンにエコメーターを表示できる

 もちろん、不要な電力を節約するエコモードも搭載しています。常に消費電力を低減する「オン」、電源がオンのときに音量に合わせて自動的に消費電力を低減する「オート」、消費電力を低減しない「オフ」が切り替えでき、消費電力をオンスクリーンにメーターで表示する事も可能です。

 今年は全モデルでリミッターを外しているのも特徴です。AVアンプには7chものアンプが入っていますので、過剰な使い方をした時に、壊れないようにする保護回路が様々な場所に入っています。必要なものですが、音を出すという原理原則からすると、邪魔なものでもあります。ダーン!! と信号が入った時に、リミッターがあると頭打ちになり、それ以上出せなくなりますので、ダイナミクスが損なわれます。これを外す事で、ピーク電流が大幅に強化されました。

川北:(セールス&マーケティング APACマーケティンググループ グループマネージャーの川北裕司氏)リミッターを外したというのは、厳しい品質基準を変更したわけではありません。今までは安全のマージンを見て、一律に「ここでリミットをかけましょう」という形でしたが、各回路を見直し、温度変化をリアルタイムにモニタする回路を追加する事で、、「ここまではもしかしたらリミッターをかけなくてもいいのでは」という部分を外すなど、細かく検証しました。その結果、リミッタを外せる部分が出てきたのです。

 こうした細かな工夫は、前述のように“音の安定感”を出すためのものだ。しかし、米田氏によれば、デノンの音を“維持するため”の工夫でもあるという。従来AVアンプなど、オーディオ機器に使われてきたパーツが、パーツメーカー側で生産終了になるなどして、別のパーツに切り替える事も増えてきているという。

米田:新機種の開発にあたり、新しい部品に変わっていく部分もありますが、最近の部品は、試作機に使ってみると総じて音に力が無くなる方向にあります。オーディオ機器のパーツでは、できるだけ広い周波数に対して、高い値をキープしてくれるのが理想なのですが、新しいパーツの場合、測定する周波数だけ高い値が出て、他の周波数では出ないなど、我々にとっては使いづらい、そのまま使ってしまうと力の無い音になってしまうのです。

 そんな時に、どの部分に、どんなパーツを使うのか、同時に、どのパーツを使い続けていくのか。この見極めが必要になります。(デノンの音を維持する)この取り組みには、新しい製品を開発するのと同じか、もしかしたらそれ以上にエネルギーを使っているところかもしれません。

“なんでもできる=じっくり楽しめる”を実現するために。なぜ“紙製”スタンドが付属?

 映画も音楽も、ネットワーク経由でのハイレゾ再生もと、AVアンプの機能は豊富になり、様々なソースを楽しめるようになった……はずだ。しかし、米田氏は「なんでもできる=じっくり楽しめる」が、なかなかイコールにならないと指摘する。

 デノンでは、ユーザビリティをAVアンプの大きな課題と認識し、進化させてきたという。iOS/Android向けのアプリ「Denon Remote App」もその1つだが、新モデルでは無線LANも内蔵する事で、ネットワーク経由での再生や制御を行なう環境を整えるハードルを、グッと下げている。こうすることで、多機能を、より簡単に楽しめるようにしようというわけだ。確かに、どんなに機能が入っていても、使いこなせなければ入っていないのと同じ事になってしまう。

iOS/Android向けのアプリ「Denon Remote App」
左がX1100Wに付属するリモコン、右がX2100Wに付属するもの。どちらにもクイックセレクトプラス機能が搭載されている。これは、1つのボタンに入力ソース、音量レベル、サウンドモードの設定などを記憶させられるもの。次に再生するときは、登録してあるクイックセレクトボタンを押すだけで、様々な設定を一度に切り替えられる

 さらに米田氏は、ロケットのような物体を取り出した。AVアンプの新機種には、どちらにも自動音場補正技術の「Audyssey MultEQ XT」が入っている。付属のマイクを使い、スピーカーの有無や特性、距離、部屋の音響特性などを測定し、自動的に補正してくれる機能だ。

 このロケットは、その測定用マイクを立てるためのスタンドだという。一般的なAVアンプでは、「三脚などに取り付け測定してください」となっている事が多いが、三脚の代わりになるスタンドまでAVアンプに付属しているわけだ。

測定用マイクを乗せるためのスタンドも付属。紙でできており、高さのカスタマイズもできる

米田:我々のAVアンプでも、従来は説明書に「三脚に乗せて測定してください」と書いてきました。しかし、なかなかそのように測定していただけない。三脚を立てるのは面倒ですし、そもそも三脚を持っていないという方も多い。適当な場所にマイクを置いて測定しても、最終的な音に影響がなければ良いのですが、中途半端な測定をしてしまうと、逆に悪さをしてしまう事にもなります。ここまで高精度にセットアップができるように作ったにも関わらず……そうなると、何のために測定をしているのかわからなくなってしまいます。

 そこで、雑誌の付録のようなモノですが、スタンドを同梱する事にしました。高さの調整もでき、三脚で測定する場合と、測定結果は遜色ありません。

川北:我々が使っている「Audyssey MultEQ XT」は、イコライジングの部分では反響音を測定しています。反射音、二次反射、三次反射など、ずっと先まで測定します。そこで、例えばそのあたりにあるダンボールの上にマイクを置いて測定してしまうと、ダンボールの反射音も測定してしまうのです。測定後、実際に映画を楽しむ時には、ダンボールは無いので、結果的に測定しない方が良いという音になってしまう場合があります。

 営業として皆さんの声を聞いていると、「Audysseyで測定すると、ハイ上がりになってしまう」という話も耳にするのですが、キチッと測定するとそんな事はありません。ちゃんと測定されていないのでは? というケースが多く、なんとかできないかと心を痛めていました。

米田:このスタンドも一回測定したら捨てられてしまうかもしれませんが、AVアンプを家庭のリビングなどで使う場合、その環境に適した設定を行なうというのは、最低限必要な事ですので、こだわりました。

 これが高価なモデルであれば、キチンとした測定の重要性を理解しているユーザーの割合が多くなるだろう。だが、初めてAVアンプを買う人は、「よくわからないから机や床にマイクを置けばいいか」と考えてしまうかもしれない。そこにスタンドが付属していれば、確かにキチンとした測定をしてみようという気になるだろう。

川北:低価格なモデルだからこそ、付属しなければならないと考えています。ともすれば、エントリーモデルはコスト削減として、こうした要素は後回しにしがちなのですが、誰にでも使っていただける、楽しんでいただくためには大切な部分だと考えています。

 使いやすさ、設定の容易さを実現するための工夫はこれだけではない。背面に回ると、スピーカーターミナルが、接続するチャンネルごとに色分けされている。どこにケーブルを繋げば良いのか一目瞭然だ。また、スピーカー端子は横一列に並び、ケーブル差込口は真上に配置。ケーブル接続自体もやりやすくなっている。

左がX1100W、右がX2100Wの背面。どちらもスピーカーターミナルがチャンネルごとに色分けされている

 さらに、接続から初期設定を、解説イラスト付きでガイダンスする「セットアップアシスタント」機能も搭載されている。

解説イラスト付きでガイダンスする「セットアップアシスタント」

再生できる事と、楽しめる事は違う

川北:一昨年あたりからハイレゾ対応を進めており、ファームウェアアップデートなどで対応フォーマットの拡充を行なってきました。その経験の中で、“再生できる事”と“楽しめる事”は違うと考えるようになりました。

 今回の新機種ではDSDとAIFF、Apple Losslessに対応すると同時に、新対応の3フォーマットも含め、全てのロスレスフォーマットでギャップレス再生が可能です。ただ単に再生できても、ギャップレス再生に対応していないと(ソフトによっては)楽しめないですよね? そういったところまでキチンと対応しながらフォーマットの拡充を重視しました。

 4K映像への対応についても同様です。HDMI 2.0に対応し、4K/60p、4:4:4、24bit Pure Colorのパススルーができ、X2100Wは4K/30pへアップスケーリング出力にも対応しています。4K 4:2:0などでも4K映像とは言えますが、4:4:4のハイクオリティな映像に対応していなければ、4Kをサポートする意味があるのだろうかと考え、4:4:4対応のチップを採用しました。HDCP 2.2をサポートするチップは間に合いませんでしたが、4:4:4への対応を重視しました。

 機能面では、ユーザーさんが求める機能に対応していくのは重要な事です。一方で、エントリーモデルで“そこまで必要なのか”という話もあると思います。ただ、機能の有無を○/×で比較した際、×の項目があると、その事で、購入を検討しているユーザーさんの選択肢に入らなくなってしまいます。米田達が真剣に作りこんで、これだけキチンとした音が出るのに、その1項目に対応していないだけで、購入の選択肢にすら入らず、聴いていただけないというのはとても悲しい事です。ユーザーさんにそういう意味で、はねられないように頑張って対応しました。

音を聴いてみる

 では実際に音を聴いてみよう。フロント、センター、リアはNautilus 801×5台、サラウンドバックには805×2台という環境だ。こうしたハイエンドスピーカーを、5万円台のエントリーと、8万円台のミドルクラスAVアンプでドライブするというのは、実際にはありえないバランスだが、このスピーカー群を果たしてドライブ出来るのかという点にも注目したい。

 まず、AVR-X1100Wから。映画としてBlu-rayの「9 ナイン ~9番目の奇妙な人形~」を鑑賞する。

AVR-X1100W

 “9”と発明家の“2”が出会うシーン。広々とした音場に、硬質でシャープな音が散りばめられるようなシーンだが、X1100Wが展開する音場は、非常に見通しが良く、なおかつ前方、横方向、背後の空間の繋がりが自然。包み込まれるような音の空間が、等しい密度で試聴室を満たしている感覚が心地良い。

 音像の定位もシャープで細かな演技の移動感も良い。低域もタイトで分解能が高く、押し寄せるようなBGMを再生しながら、周囲に散らばる砂粒のパラパラという細かな音もしっかり聴きとれる。どちからと言えば、分解能の高さが印象的な音作りで、ハイレゾ楽曲の情報量の多さを楽しみたい場合にもマッチしそうだ。

AVR-X2100W

 X2100Wに変更すると、クールな音場はそのままだが、心臓の鼓動がドクンドクンと響く場面で、低域の音圧が大幅にアップ。グッと胸に迫ってくる音になり、肺が圧迫されるようで、自分の鼓動もつられて早くなってしまう。重低音もドッシリと腰が座り、サラウンド全体が低重心になる。このパワフルでありながら、鋭い音がグワッと出た時も安定感のある表現が中級モデルの持ち味だ。個人的にイメージする「デノンのサウンド」にピッタリ合う。そういう意味では、X1100Wは、より“今風”なハイスピードサウンドと表現できるかもしれない。

 音楽は、アイルランド出身の女性ヴォーカルグループ、ケルティック ウーマンのライヴBDで比較。女性の声の高域部分の質感が、X2100Wの方がよりしなやかで、潤いを感じさせてくれる。X1100Wのシャープな描写も心地良いが、X2100Wと比べると固く感じられる。うっとりと聴かせてくれる“余裕”のようなものがX2100Wには感じられ、クラスの違いを実感できる。とはいえ、2万円ちょっとの価格差しかないのだが……。

 いずれにせよ、2モデルともこの大型スピーカーを相手に、音像や定位、分解能などの面で、十分なクオリティでドライブしているから驚かされる。

スペック表ではわからない部分にこだわる理由

米田:スマートフォンやタブレットで手軽に映像が楽しめるようになっている事は、作品に触れるキッカケとしては素晴らしいと思います。ただ、お手軽がある一方で、本格的なものもあると知って欲しいという思いがあります。お手軽も良いのですが、そればかりになってしまうと、極論ではありますが、アートと言うか、感動の世界のようなものが、ひょっとしたら世の中から無くなってしまうのではという危惧もあります。

 4Kの登場で、Blu-rayは時代遅れなんて言う人もいますが、大半の人はまだDVDで満足していて、Blu-rayでここまでの映像と音が楽しめる事をご存じないと思います。AVアンプの価格も昔と比べると安くなっているわけですし、映画館とは別の楽しみが、家の中で、高いクオリティで堪能できる事を知って欲しい、もっともっと楽しんで欲しいですね。

 多機能化するだけでなく、増えた機能をキチンと使ってもらうための工夫をする。そして、AVアンプとして重要な音をキチンとした状態で楽しんでもらえるよう、設定や測定のハードルを下げる……。こうした施策は、購入前にカタログのスペック表を見ただけではわからない部分だ。

 だが、機能に惹かれて購入したのに、その機能を上手く使いこなせなければ意味がない。ある意味、機能の有無と同じくらい重要な取り組みとも言えるだろう。

 同時に、“こんなに良い機能を搭載したのだから、もっと使って楽しんで欲しい”、“こんなにしっかりとした音が出せるのだから、じっくり聴いてほしい”という、開発者達の機能や音への自信と受け止める事もできそうだ。

 (協力:デノン)

(山崎健太郎)