ミニレビュー
ゼンハイザーの最上位モニター「HD490 PRO」を聴く。パッド変更で鑑賞用にも
2024年3月14日 10:10
ゼンハイザーのプロ向け開放型モニタリングヘッドフォン「HD490 PRO」が日本上陸。3月21日に発売する。今回、同社より提供されたサンプル機を用いたファーストインプレッションをお届けする。
特徴はプロデュース用とミキシング用に2種類のイヤーパッドが付属しており、付け替えることで音の印象が変わること。この2種のイヤーパッドとケーブルが付属した「HD490 PRO」(店頭予想価格66,000円前後)と、3mのロングケーブルやヘッドバンド用代えパッド、ケースなどが付いた「HD490 PRO Plus」(店頭予想価格77,000円前後)の2種類展開となっている。この2つの本体に差異はない。
そのほか詳しいスペックなどについては別記事のニュースを参照のこと。
手に取ってまず思うのが、軽い。イヤーカップ部に若干厚みがあるので、頭の中で想像した重みと手に取ったときの感覚に乖離が出て「中身入ってる?」と思ってしまう。そして、装着したときの感覚も非常に軽やかで快適。
ヘッドバンドにはどんな形状の頭部にも均一に圧力が分散するゼンハイザーの特許技術が用いられた構造とのことだ。装着するときに少し広げて、スポッと耳元にフィットして、イヤーパッドがしっかりホールドしてくれるので、頭を振ってもちょっとやそっとでは落ちない。これはベロア素材のプロデュース用イヤーパッドも、ファブリック素材のミキシング用イヤーパッドともに同じような装着感。
肌感的な意味ではベロアの方が熱を持つので、冬はベロア、夏はファブリックの方が良いな、という感覚はある。音を聴くとそんな単純な話ではないことがわかるのだが。
そしてとても便利だと感じたのが、L側にある点字だ。ちょうどヘッドフォンを着けようと手に取った際に、親指を置く場所にあるので、点がある方が左、と覚えてしまえばとっさに着けても左右を間違えにくい。便利ではあるのだが、両側にケーブル端子があるため、そのときの環境に応じてケーブルを挿す方向を変えていた場合は着け間違いが起こりそうだが、この点字がそれを防いでくれる。
音を聴いてみる。イヤーパッドで印象が激変
早速プロデュース用イヤーパッドから音を聴いてみる。「カタオモイ-From THE FIRST TAKE/Aimer」を再生してみると、ギターの響く余韻の低音で量感がしっかりと出ていて、そこにモニターヘッドフォンらしい解像感の高いボーカルが再生される。高域の抜けもよく、ギターとピアノの高音がボーカルの後ろから響いてきて軽やかに抜けていく様子が感じられる。
意外だったのが低域の量感で、開放型のモニターヘッドフォンであることを考えるともう少しタイトな方が良いのでは? と感じるほど。ギターやピアノの音と、Aimerのハスキーな声が心地良く混ざり合って、音楽を楽しむのには最適な音という感覚。
音数が多く、EDM調の「唱/Ado」を聴いても、満足できるほどの低域の量感で、エフェクトのかかったAdoのボーカルや様々な音が混ざり合って、Giga作曲の独特な世界感にどっぷりと浸かって楽しめる。
ここまで感想では、「音楽鑑賞用として魅力的だけど、モニターっぽくはない」という感じなのだが、ここまではベロア素材のプロデュース用イヤーパッドでの音。
これをファブリック素材のミキシング用イヤーパッドに切り替えたら音が豹変。音が若干近くなり、量感たっぷりだった低域はほど良く締まり、一気に全体の見通しが良くなった。
プロデュース用イヤーパッドと同じ楽曲を聴くと、様々な音が心地良く混ざり合っていたシーンがより鮮明になり、音が混ざらずに各要素がしっかりと分かれて重なっている様子が見えてくる。「カタオモイ-From THE FIRST TAKE/Aimer」では、ボーカル、ギター、ピアノが完全に別のレイヤーで重なっているような感覚だ。
正直、イヤーパッドだけでそこまで変わるのか疑っていたが、心地良く混ざり合って後ろの方に抜けていった音が、混ざることなく聴こえるので、印象が全く違う。「唱/Ado」や「Bling-Bang-Bang-Born/Creepy nuts」などを聴くと、同じような音も別のレイヤーに居るという感覚になり、「ミキシングの直すべき場所がわかりやすい」という開発時のレビューに協力していたエンジニアのコメントの意味がわかってくる。
価格は“プロ用の特別なもの”感覚。実力はピカイチなヘッドフォン
音や着け心地についてはとても良いヘッドフォンなのだが、コンシューマー目線で考えると、6万円〜8万円という価格は高価に感じ、プロ向けの特別な機材という感覚になるだろう。
さらに無駄をそぎ落として堅牢性の強化と軽量化、装着感に迫ったデザインに、サステナブルの点から無塗装となっている外観、触れたときの質感から「高い物を購入した」という所有感は若干得られにくい。逆に言えば、こういった点よりも、軽さ、使いやすさ、音質という、プロが使う“道具”としての出来はとても良い。モニターヘッドフォンとして高いクオリティを実現しつつ、音楽鑑賞用にも適した音も出せる器用さも魅力だ。
なお、端子部はミニXLRとなっており、開発中のレビュー時には日本のユーザーから「バランスケーブルが欲しい」という要望もあったという。そして、その要望に応えて後日オプションとしてバランスケーブルを用意するとのことだ。
プロ用途となっているが、ゼンハイザーのプロ向けヘッドフォンは、直販サイトのほか量販店などでも販売されるため、HD490 PROも実店舗で試聴が行なえるようになるだろう。気になる人は是非パッドを交換しながらその音を試してほしい。