プレイバック2015

安くたって高音質、Shureの定番イヤフォン「SE215」をリケーブルで追い込む by 編集部:山崎

 イヤフォン新製品のレビュー記事を書く際は、一週間ほど試用する事が多い。装着感や遮音性など、静かな部屋で短時間聴いただけではわからない事も多いからだ。だが、今週はイヤフォンA、来週はイヤフォンBという具合に、いろいろな製品をとっかえひっかえ使っていると、“自分が気に入って愛用しているイヤフォン”を何週間も聴かないということになる。

UE 18 Pro

 自分に“ピッタリ”という意味では、カスタムイヤモニターの「Ultimate Ears(UE) 18 Pro」を持っている。値段は約19万円と高価だが、カスタムだけあり遮音性は究極に近く、4ウェイ6ドライバのバランスドアーマチュアが奏でる音もリッチでパワフルだ。

 だが、実は個人的な音の趣向としては、BAよりもダイナミック型の方が好きだ。BAの高精細でメリハリのあるサウンドも悪くないのだが、長時間聴いていると疲れてくる製品が多い。そんな時に聴くと、ホッと一息つけるのがShureの「SE215」だ。

 「SE215」が登場したのは2011年、実売約1万円で現在も販売されており、チューニングの異なる「SE215 Special Edition」(実売約13,000円)も2012年に登場している。5万円を超えるイヤフォンが珍しくなくなった昨今、SE215は“本格的なイヤフォン世界への入門モデル”的な位置づけになるだろう。だが、ダイナミック型ならではのバランスの良い音や、Shureらしい装着感の良さが離れがたく、ついついここに戻ってしまうのだ。

Shureの定番モデル「SE215」

SE215の音をリケーブル&バランス駆動でグレードアップ

 ここまでなら「SE215の音が好き」というだけの話だが、ダイナミック型+BAのハイブリッドイヤフォンや、テスラ技術を使ったbeyerdynamicの「AK T8iE」など、従来のダイナミック型の枠にとらわれない製品を体験していると、流石にSE215の音にも新鮮味が欲しくなってきた。

 具体的には音場の広さと、分解能のアップ。ダイナミック型ならではの低域から高域まで繋がりの良さ、低域の量感などを残しつつ、より細かな音をのびのび再生できないかと考えたのだ。

SE215はMMCX端子を採用しており、リケーブルができる

 そこで、リケーブルによる音の変化と、ハイレゾプレーヤーのAKシリーズと組み合わせてバランス駆動を試そうと、2.5mm 4極のMMCXケーブルを買う事にした。あまり高いケーブルは買えないので、予算は1万円ちょっと。専門店でケーブルをとっかえひっかえ、イベント取材の合間の時間にとっかえひっかえ……。その結果、ORBの「Clear force MMCX Balanced Ver.2」(1.2m/15,000円)と組み合わせたサウンドが気に入った。

ORBの「Clear force MMCX Balanced Ver.2」
SE215とClear force MMCX Balanced Ver.2を接続したところ
Clear force MMCX Balanced Ver.2にはイヤーハンガーも付属している

 導体に純国産高純度銅線を使ったケーブルで、入力プラグも高品質。ただ、ちょっと硬めで、Shureの純正ケーブルより“キョンキョン”しがちだ。ただ、耳の近くではケーブルが細くなっているので、“Shure掛け”して耳から浮くほどではない。ケーブルにはイヤーハンガーも付属しているので、これを使うのも良いだろう。

 この2.5mm 4極ケーブルで、AK380とバランス接続すると「お前、こんな音が出せたのか」と笑ってしまうほどSE215のサウンドが激変する。標準のアンバランスケーブルと比べると、音場の広さが1.5倍ほど広がり、ダイナミック型によくある“音の詰め込み感”や閉塞感が消え、広々とした開放的なサウンドになる。そこに定位する音像も立体的でリアルだ。

 空間は広くなったのに、低域の量感は薄まらない。むしろ沈み込みはドッシリと深くなり、上下のレンジも拡大する。期待していた分解能も大幅にアップし、「藤田恵美/Best OF My Love」のベースの弦や、ヴォーカルの口の開閉が細かく聴きとれる。BAイヤフォンで感じた、ハッとするような生々しさがSE215からも感じられるようになって嬉しくなる。「μ's/僕らのLIVE 君とのLIFE」の声の分離も格段にアップ。期待した方向に進化してくれた。

AK380とSE215、音は良いが価格的にアンバランスだ

 もっとも、約50万円のプレーヤーに約1万円のイヤフォンを接続するのはアンバランスだ。しかし、ドライブする側のクオリティがアップすると、それに応じてSE215のサウンドも大きくレベルアップするのは面白い。ダイナミック型ユニットこそ、バランス駆動の恩恵が活きるというのもあるだろう。もっと低価格なプレーヤーとして、約10万円の「AK100II」でもバランス駆動してみたが、AK380とまではいかないものの、十分なクオリティアップが確認できた。

AK100IIでのバランス駆動でも、十分SE215の良さは引き出せる

 気をよくして、「イヤフォンをSE215ではなく、SE215 Special Editionにしたらもっと良くなるのでは?」と考え、編集部にあったSE215 SEに、ORBのケーブルを接続してみた。

SE215 Special Edition

 SE215 SEは、SE215と同じダイナミック型×1基のイヤフォン。ハウジングのカラー以外の違いは、ダイナミック型ユニットの背面に音響抵抗スクリーンを配置した事。バックキャビティへのエアフローを最適化し、低域の周波数レスポンスレベルを調節。具体的には低域部分が2dB程度持ち上がっており、再生周波数帯域も、SE215は22Hz~17.5kHzだが、SE215 SEは21Hz~17.5kHzと、わずかに低域が伸びている。

 AK380でバランス駆動し、期待して聴いてみたが、音が出た瞬間に違和感が……。低域がより豊富になったのは良いが、高域との繋がりが悪くなり、中低域に谷間がるように感じる。高域も音がキツく、カサついて聴こえる。だが、標準ケーブルで比べると、SE215は高域寄りのスッキリとしたサウンド、SE215 SEは低域が豊富でメリハリの効いた迫力サウンドで、どちらかというと万人受けしそうな音はSE215 SEだ。

SE215 SEならもっと良くなると思ったのだが……

 要するに、ORBのこのケーブルとSE215は相性が良いが、SE215 SEとは今ひとつ……という事だ。頭では理解できているが、実際に聴き比べてみると、ケーブルを変えただけでこうも音の変化が起こるのか、そして市販のイヤフォンが“いかに標準ケーブル込みで音作りがなされているのか”がわかって面白い。

 こだわって探していけば、愛用のイヤフォンを、より自分の好みにマッチした音に変化させるケーブルに出会えるかもしれない。ポータブルでも、音を追い込む楽しさが味わえるのがリケーブルだなぁと、改めて感じた2015年だった。

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山崎健太郎