プレイバック2017

新生シャープの力強い回復。次の成長に向け4つの課題とは? by 大河原克行

 昨年のこの欄でも、シャープを取り上げた。その記事の後半で、「本番はこれからだ」、「2017年は、鴻海傘下でシャープがどう生まれ変わるかが注目点となる」と記した。今年はその結果を、改めて検証してみたい。

シャープ 戴正呉社長

 ひとことでいえば、その結果は「予想を上回るほどの合格点」であったといえるだろう。

 2015年度通期決算で、430億円の債務超過に陥り、2016年8月1日に、東証第一部から第二部へと指定替えになっていたシャープは、それから約2週間後に、鴻海傘下で再建をスタート。昨年の記事では、その行方を見守っている段階だったが、2016年度通期決算(2017年3月期)では、3期ぶりの営業黒字を達成。さらに、2017年度上期(2017年4月~9月)においては、最終黒字を達成し、第2四半期(2017年7月~9月)の純利益はリーマンショック以前の水準にまで回復した。そして、2017年度業績見通しを上方修正するという好調ぶりである。

 シャープ復活を象徴したのが、2017年12月7日に、東京証券取引所市場第一部銘柄に再指定され、「一部復帰」を果たしたことだ。

東証一部復帰を果たした

 戴社長は、社長就任直後の2016年8月21日に、経営基本方針を発表。そのなかで、「東証一部への早期復帰を共通目標として業務を遂行すること」をあげていた。2016年度下期からの業績回復をベースに、2017年6月30日には、市場第一部銘柄への指定申請を行なっており、それが短期間で達成されたことになる。

 戴社長が、「東証一部から二部に指定替えとなった企業が、再び一部に復帰したのは過去数10年間で1件。加えて、指定替え後、わずか1年4カ月でのスピード復帰は、過去に前例がない」というように、異例ともいえる短期間での一部復帰は、シャープの力強い回復を示すものだ。

 だが、その一方で、「中期経営計画の達成は私の使命であり、この責任を一身に背負い、最終年度となる2019年度まで全力をあげて取り組む覚悟である」と、今後の成長戦略にも意欲をみせる。

 実は、戴社長は、東証一部復帰に社長退任を決めていた。

 戴社長は、「私はもう67歳であり、目標の東証一部復帰を達成したので辞めたいという気持ちがあった。取締役会に諮ったが、業績が成長し、年度途中で社長交代をすることは異例であると言われたことに加え、社長は株主総会で選出された取締役から選出することが通例であるとされたため、その話は保留になった。本当は辞めたいが、個人のわがままでは決められない」と、東証一部復帰の会見で語っていた。

 戴社長は、もうしばらくシャープの経営に直接関わることになる。

次の成長に向けて、2018年に注目したいポイント

 では、次の課題はなにか。もちろん、中期経営計画の達成が最大の課題であることは間違いない。最終年度となる2019年度には、売上高で3兆2,500億円、営業利益で1,500億円を目指すことになる。

 この達成に向けては、いくつかのポイントがある。

 ひとつは、継続的にシャープらしい製品を継続できるかである。シャープは、経営不振に陥った際も、シャープらしい製品を投入しつづけていた。当時を振り返れば、お茶を点てることができる「お茶プレッソ」や無水自動調理鍋の「ヘルシオホットクック」、天井設置型プラズマクラスターイオン発生機「ニオワンLEDプラス」などは、他社にはない視点でのモノづくりが評価され、いずれも当初計画の数倍の販売台数を記録するヒット製品となった。そして、ロボホンのような挑戦的な製品も投入してきた。最近では、12月1日から発売となった世界初の8Kテレビ「AQUOS 8K」があげられよう。こうした製品を継続的に投入しつづけることができるかが鍵だ。

AQUOS 8K

 2つめには、ディスプレイビジネスの安定的な成長だ。

 経営不振の際に最大の課題だったディスプレイビジネスは、すでに回復している。2017年度上期のアドバンスディスプレイシステムの売上高は45.9%増の5216億円、営業利益が前年同期の146億円の赤字から、163億円の黒字に転換した。5,216億円のうち、液晶テレビが3分の1、ディスプレイが3分の2となっており、利益率が高い中小型パネルが収益を支える。上期実績で3.1%の利益率を、今後どこまで高めていくことができるか。そして、液晶テレビでは、2016年度実績の倍増となる年間1,000万台の出荷を、2018年度に目指すという高いハードルを掲げており、この達成も注目されるところだ。

 2017年度下期には、8Kエコシステム構築に向けた技術開発に、事業本部の経費とは別枠となる約47億円の社長ファンドを充当することも発表し、今後の技術開発にも余念がない。さらに、液晶および有機ELの「日の丸連合」の旗振り役としての取り組みも注目される。

 3つめが海外事業の成長だ。国内での回復は著しいが、海外での成長戦略はこれからの課題。戴社長は、2017年に精力的に東南アジアを訪問。11月にはタイ、マレーシアで戴社長自らが新製品発表会を行なった。また、米国では、11月に、石田佳久副社長が出席した全米ディーラー大会を開催し、ビジネスソリューションを中心とした海外事業拡大に向けた強い一歩を踏み出した。

 中期経営計画では、海外売上高を2019年度には、2016年度比1.8倍に拡大。日本での構成比は57%から44%に縮小するが、中国では12%から17%に拡大。米州では10%から11%に、欧州では7%から12%に、ASEANなどでは14%から16%に拡大を目指す。特にテレビ市場への再参入を図った欧州では、2019年までに3.3倍に売上高を拡大する計画だ。

中期経営計画で掲げた、海外事業の拡大

 今年3月時点で、戴社長は「日本は合格だが、海外は不合格」と自己評価していたものの、その状況はすでに大きく変っているだろう。北米でのテレビブランドの買い戻しが難航しているといった課題はあるが、鴻海との連携によって、着実に海外における事業拡大の足場を作りつつある。

 そして、4つめが、戴社長が新たに打ち出した次期社長育成のための共同CEO体制の確立だ。これまで、取締役会議長、経営戦略会議議長、オペレーション決裁のすべてを社長一人で行なっていたが、オペレーション決裁を新たに就任する共同CEOに任せることを発表している。来年早々には、その体制への移行が図られるが、どんな人物が共同CEOに就任するのか、そして、戴社長の経営手法が着実に継承されるのかが注目される。

 戴社長は、「2017年は、『シャープ復活の年』になったが、2018年を、『シャープ飛躍の年』にしたいと考えている」とする。

 成長軌道に乗ったシャープは、その勢いをどう加速するか。2018年はそこに注視したい。

大河原 克行

'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、20年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。 現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、クラウドWatch、家電Watch(以上、ImpressWatch)、日経トレンディネット(日経BP社)、ASCII.jp (アスキー・メディアワークス)、ZDNet(朝日インタラクティブ)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下からパナソニックへ」(アスキー・メディアワークス)など