プレイバック2018

「コンデンサー不足」の深刻さ。期待のaptX Adaptiveなど明るい兆し by 海上 忍

オーディオ&ビジュアルに関して、来年以降のトレンドを占う意味で示唆的な事物をいくつかピックアップして紹介したい。

製品全般について印象的だったのは「コンデンサー不足」だ。特にセラコン(積層セラミックコンデンサー、MLCC)の品不足が深刻で、メーカーの設計担当者と顔を合わせたときにはこの件がよく話題に上った。数を多く使うMP(量産)段階はもちろんとして、試作(ES)用の数十個ですらもオチオチしていられないという状況が続いたからだ。

セラミックコンデンサの需給逼迫はAV製品にも影響している

何か回路基板をつくろうとすると、いまどきは秋葉原へ買い出しに出かけるのではなく、まずDigi-KeyやMouserといった電子部品オンラインストアで物色を始めるものだが、目当てのセラコンが在庫切れということはもはや日常。リードタイム(発注から納入までの日数)が数十週ということもザラで、代替品が案内される始末だ。価格上昇も顕著で、2年ほど前までは単価数円でいつでも買えた芥子粒ほどの小さな部品が、昨日チェックしたところ@60円に跳ね上がっていた。

この影響は、AVに限らずIT、IoTや車載機器まで広範に及ぶ。筆者のような日曜電子工作レベルはともかく、いざ量産に入ろうとするとセラコンが確保できずに先へ進めないというのだから深刻だ。表向きにはされずとも、あおりを受けて発売延期/仕様変更を余儀なくされたAV製品は少なくないだろう。

直接の原因は、EVなど自動車関連やスマートフォン関連で需要が急増したにもかかわらず供給が追いついていないことにあるが、その背景には小型のセラコンに移行したいという(日系)部品メーカーの思惑がある。中国は国策によりセラコンなど受動部品の供給力強化を図りたいようだが、米中貿易摩擦による輸出減がそこにどう作用するか。いずれにせよ、セラコンの需給逼迫状況は早々には解決されないだろうし、数量的にはEV/IoTに及ばないAV製品はこの“時代の荒波”に翻弄されるしかなさそうだ。

中国系メーカーはAV分野における重要プレーヤー、というよりその存在感はここ数年で主役級にまで至ったが、4月にその潮目を感じさせる出来事があった。米OPPO Digital(中国OPPOとは別会社だが創業者は同一人物)の新規開発終了宣言だ。UHD BD再生対応「UDP-205」などのユニバーサルプレーヤーでは機能面で業界をリードするほどの開発力を持ち、「Sonica DAC」のような人気製品を生み出す企画力を備えた企業が、今後新製品を出さないという。もちろん、いいニュースではない。

OPPO UDP-205

新規製品開発停止の理由としては、「世界的なストリーミングコンテンツサービスの流行を背景とした(特に米国の)ディスクプレーヤー市場の縮小」が挙げられていたが、スマートフォンの世界展開を進める兄弟会社・OPPOとの関係も取り沙汰されている。資本関係は公表されていないため、推測でしかないが、成長スピードの鈍い分野に見切りを付けグループ全体での資産(知的財産や人的リソース)の有効活用を図ったと考えるのが妥当だろう。

そのときは、中国系企業らしい割り切ったビジネスをするものだ、AV系から手を引き始める企業が増えるかなと思ったものだが、夏頃から雰囲気が変わってきた。先ほども触れたが、互いに高率の関税をかけあう米中貿易摩擦の勃発だ。

報道が始まった時期と前後して、まったく面識のない中国人から(筆者のアカウントをどこで見つけたのかは知らないが)TwitterやFacebookメッセンジャーを通じて「私たちの製品を使ってみませんか」という連絡が複数入り始めた。製品のジャンルはいろいろ、AV系もあればPC系もあり、共通するのは米国への輸出が大きなウェイトを占める(であろう)事業分野の会社で深センに拠点を持つということだけ。米中貿易摩擦が長引くと確信したからこその日本市場開拓なのかもしれない。メリットがないのですべて断ったが、この国境・言葉の壁をも軽々超えるフットワークたるや畏るべし。来年以降、AV市場撤退どころか参入する企業が増えるのでは、という気すらしてくる。

一方、数年先の明るい未来を見通せる“兆し”が現れたのも2018年という年だ。

ワイヤレス/Bluetoothオーディオ関連では、クアルコムを中心に期待が持てる新技術が登場した。ビットレート可変の新コーデック「aptX Adaptive」はその筆頭で、来年後半には対応製品も登場することだろう。今年後半に完全ワイヤレスイヤフォンに搭載され話題を集めたBluetooth SoC「QCC3026」も、左右チャンネルの信号を分けて送信する「TrueWireless Stereo Plus」対応のスマートフォン/アプリが登場すれば、真の実力を発揮する。2019年のワイヤレス/Bluetoothオーディオは、おもしろくなることだろう。

ポタフェス2018冬のクアルコムブースで実施されていたaptX Adaptiveのデモ。リアルタイムにビットレートが変動していた

世間全体での反応は薄めだが、新4K8K衛星放送も明るい話題だ。衛星放送未導入の世帯は多く、アンテナ設置や受信料の増加など普及へのハードルは高いが、H.265/HEVCの3,840×2,160ドット/60pという映像がもたらす満足感は高い(8Kはさすがにまだ先か)。地デジのMPEG-2/1,440×1,080/30pという映像でメリットを説明することは難しいが、実際の映像を見れば、誰もがクオリティ差を認めるはず。受像機側の価格問題は概ねカタが付いているので、来年にはブレイクするかも……コンテンツ増加のためにも、そう期待したい。

いよいよ新4K8K衛星放送がスタート、来年はブレイクする?

海上 忍

IT/AVコラムニスト。UNIX系OSやスマートフォンに関する連載・著作多数。テクニカルな記事を手がける一方、エントリ層向けの柔らかいコラムも好み執筆する。オーディオ&ビジュアル方面では、OSおよびWeb開発方面の情報収集力を活かした製品プラットフォームの動向分析や、BluetoothやDLNAといったワイヤレス分野の取材が得意。2012年よりAV機器アワード「VGP」審査員。