プレイバック2020
「マイクと録音」から見えたニューノーマル by 西田宗千佳
2020年12月28日 10:00
今年も買ったものはけっこうある。が、書くべきものは「これが音質が良かった」とか「これが画質が良かった」という話ではないような気がする。それは来年でも書ける。
やっぱり今年書くべきは、「今年ならではの変化に推されたもの」のことではないか。となると、圧倒的に「マイク」と「音声」の話になる。
PCの「カメラとマイク」の品質が見直された1年
多くの人がそうであるように、筆者も今年はビデオ会議が増えた。おそらく今後、感染症の影響が小さくなっていったとしても、ビデオ会議がなくなることはないだろう。
正直なところ、昨年までは、PCなどの話をするときにカメラやマイクの品質に言及することは少なかった。注目されることが少なかったからだ。
ビデオ会議が増えるとまず一般には「カメラ」が注目された。それは確かに重要な話だが、筆者はそれほど興味がなかった。おっさんの顔が圧倒的に綺麗になっても、まあたかがしれている。ただ、暗いところでの写りが悪く、ノイズが多いカメラは使いづらいと思っていた。
むしろ重要なのはやっぱり「マイク」だ。色々な会議に出て、声が聞きづらいのは苦しいと感じた。筆者の場合、取材だけでなく「オンライン登壇」も(そこまで頻繁ではないが)ある。
筆者は普段、MacBook ProとSurface Laptop 3を使っている。幸いなことにこの2機種は、標準搭載のマイク品質が比較的良い。Surfaceシリーズはマイク品質が特にいい。今もMacBook Proより良いと思う。
カメラについては、インテル版Macの時代にはちょっと厳しかったが、11月発売のM1版MacBook Proになってから、明るさなどがかなり改善した。
この2機種は、「カジュアルに使う」ならかなり満足できる範囲だとは思っている。
なお、Bluetoothヘッドフォンを使うのは総じてマイナスだ。音声に使える帯域が狭くなるためだろう。筆者の場合には、PCなどのマイクに向けてちゃんと発声する方が音質が良いと感じている。
ビデオ会議のために「H2n」を購入
とはいえ、やっぱり外部マイクがあった方が音質は良くなる。カメラも同様だ。
この辺のノウハウは、結果的にだが、数年前からYouTuberやゲーム実況者が追いかけていた部分そのものだ。コロナ禍で皆が映像でコミュニケーションするようになって、YouTuberのノウハウを追いかけるようになっていると思うと面白い。
筆者が取り込んだのは「マイク」だ。先ほども述べたように、カメラの方はそこまで凝ってもしょうがない、という意識がある。重要だけれど、YouTuberのように放送クオリティを目指す価値は薄い。一方、音声はコミュニケーションに確実に重要だ。
筆者が選んだのは、ボイスレコーダーとしても使える、良いマイクを搭載した製品だ。ZOOMの「H2n」がそれである。
これまでもボイスレコーダーは使っていた。ソニーの「PCM-A10」はコンパクトで音質も良く、PC連携も簡単で気に入っていたのだが、コロナ禍以前の製品ということもあってか、「PCにつないでマイクとして使う」ことができない。その点「H2n」は大丈夫だ。これは予測だが、デジカメが会議用USBカメラとして使われたように、2021年以降に出る高音質ボイスレコーダーは、「PC接続によるマイク化」機能が再び注目されるような気がする。
「H2n」を選んだのは、今だけでなく今まで通りに戻りかけた時期、すなわち、リアルでの取材が増えた時のことも考えてだ。リアルでの取材では、自分と相手の両方の声をちゃんと記録する必要がある。ある程度360度しっかりと音を取れるマイクの方がいい。
ただ、ちょっと面食らったのは、インターフェースが「USB mini B端子」だったことだ。「H2n」は2011年発売で、新しい製品ではない。その時期ならmini Bでも不思議はない。今は流石に自宅ではmini Bのケーブルを処分済みで、わざわざケーブルを調達する必要があった。
今も「PCM-A10」と「H2n」は、手軽さに応じて使い分けている。立ったまま囲み取材を録音したり、どこかに置いて記録に使うなら、「PCM-A10」の方がいい。
「キータイプ音キャンセル」が録音の意味を変えた
PC接続を重視するようになったことには、ビデオ会議以外にも理由がある。正確に言えば、ビデオ会議に関係あるのだが。
筆者はメモをPCもしくはiPadで、キーボードを使いタイプして残す。そうすると宿命的に「キーのタイプ音」が出る。全ての録音には、声の他にタイプ音も入っている。それはある意味しょうがない、と思っていた。
ビデオ会議ではタイプ音が特に不快に感じる。そのためある種のマナーとして、「自分が話す時以外はミュートする」という行為が定着した。だがこれもちょっと変な話。「相槌」を伝えることができなくなるからだ。
ではどうするか?
そこで登場するのが「キータイプ音をキャンセルする技術」である。いわゆるノイズキャンセル技術の一つだが、位相が逆の音をぶつけるNCヘッドホンとは違い、機械学習を使って「声以外の音を小さくする」ことで成立している。
いろんなソフトがあるが、筆者が選んだのは「Krisp」だ。WindowsとMacの両方に対応していて、かなりスッキリと音が消える。声は若干劣化するが、タイプ音が消えることに比べればずっといい。
ビデオ会議中にタイプ音を消せるなら、その取材記録用の録音や、対面取材での録音からもタイプ音を消せるのではないか? そう考えるのは自然なことだ。
筆者が使うメモソフト「Notability」は、メモをタイプしているときに同時に録音できる。メモをクリックすると、「メモしていたときに話されていたこと」が再生されるようになっている。こういう同期型メモソフトとしては、マイクロソフトの「Onenote」が有名だ。
PC内のマイクでは、話し相手の声を良い音で録音するのに限界がある。USB接続マイクを使うのがベストだ。
そういう使い方をするには、色々とソフト的な工夫がいる。現状では、Macで「Loopback」というソフトを使って、ビデオ会議の音と自分の声を一緒に記録したりしている。Windowsでも同じことはできるはずで、その辺のノウハウは休暇中にでも考える予定だ。
会見のメモから、取材録音からタイプ音が消えるのは思いの外快適だ。あたり前だと思っていたが、やはり自分たちは「我慢」していたのだろう。
趣味性が高いノウハウが「一般のノウハウ」になるニューノーマル
Microsoft Teamsが「サービス内に標準でノイズキャンセル機能を取り込む」とアナウンスしており、こういう地道な工夫は不要になっていくのかもしれない。だが、「マイクやカメラの用途」として、純粋な趣味とは異なるものの、定着していくのは間違いない。
YouTuberのノウハウがビデオ会議で一般化したように、趣味としてのオーディオビジュアルが、ニューノーマルの時代により一般的なものになる。そういう流れは、2020年の一つの特徴なのではないか。今、そんな風に思うのだ。