ズーム、「XY + MSマイク」搭載の4ch PCMレコーダ「H2n」

-23,100円。4マイクで広がりのあるステレオ録音が可能


H2n

 ズームは、24bit/96kHzのWAV(リニアPCM)録音に対応したポータブルレコーダ「H2n」(H2next)を8月に発売する。価格は23,100円。

 4基のマイクを備え、ステレオで最高24bit/96kHzのWAV(リニアPCM)録音、または320kbpsまでのMP3録音に対応したポータブルレコーダ。4chモードでは最高24bit/48kHzとなる。業務用フォーマットのBWF形式にも対応する。記録メディアはSD/SDHCカード(最大32GB)で、2GBのカードが付属する。

 内蔵マイクは、位相ズレが無く立体的なステレオ感が得られるXYマイクと、ステレオ幅をコントロールできるMS(Mid-Side)マイクを組み合わせた方式。プリモ製の国産エレクトレットコンデンサーマイクを使用している。開発にあたり、プロ用のワンポイントマイクで、左右の広がりを録音後に変更可能な独ノイマン製「SM69」をリファレンスとした。

 H2nには、基本となるXYマイクに加え、センターの音を録る「Mid」(単一指向性)と、左右側面の「Side」(双指向性)のマイクを内蔵。録音データはRAWファイルとして保存でき、後から付属ソフト「WaveLab LE」で調整して書き出せる。MSマイクのミックスバランスにより、PCソフト側で自由に広がり感を決めることができ、Sideマイクのレベルを上げると音場を広く、下げると狭く(モノラルに近く)なる。これに、奥行きと定位に優れたステレオ録音ができるXYマイクの音を組み合わせて4ch録音が行なえる。


天面のダイヤルで、マイクを切り替えられるXYマイクとMSマイクを組み合わせて、目的に合った録音が可能ノイマン「SM69」をリファレンスとして開発した
Mid-Sideマイクのミックスバランスで、音の広がり感を録音後に調整できる

 マイクの切り替えは天面のダイヤルで行なえる。全体のゲインは側面のダイヤルで調整。RECボタンは、手持ちだけでなく机の上などに置いた状態でも押せるデザインとなっている。

 RECボタンを押す2秒前までさかのぼって録音する「プリレコード機能」や、入力ゲインを自動調整する「オートゲイン機能」、一定の大きさ以上の音を検知して録音を始める「オートレコード機能」も搭載。ローカットフィルタや、コンプレッサ/リミッタの各機能も装備。

 再生時の機能としては、50%~150%の速度調整や、ピッチ調整のキーコントロール機能、A-Bリピートを搭載。楽器練習向けのチューナ/メトロノーム機能も利用できる。本体での編集機能は、分割やノーマライズ、WAVからMP3へのエンコードを搭載。

 ステレオミニのマイク/ライン兼用入力を備え、内蔵マイクと外付けマイクの同時入力が可能。例えば、ライブ録音でミキサーからの音をライン入力し、内蔵マイクで会場のアンビエントを録音することや、練習スタジオで内蔵マイクにより演奏を録音、外部マイクでボーカルを録ることで、後からボーカルのレベルを調整することなどが可能となる。ヘッドフォン/ライン兼用出力を装備するほか、出力400mWのモノラルスピーカーも内蔵。

 インターフェイスはUSB 2.0。パソコンと接続してUSBマイクとしても利用できる。USBオーディオインターフェイスとしての利用時は16bit、44.1/48kHzに対応する。

 ディスプレイは128×64ドットのバックライト付き液晶。電源は単3電池2本。アルカリ電池での連続録音時間は約20時間(16bit/44.1kHzのWAV)。外形寸法は113.8×67.6×42.7mm(縦×横×厚さ)、電池を除く重量は130g。

側面にマイクゲインダイヤルなどを装備反対側にライン/マイク入出力、USB端子ディスプレイの下部にRECボタンがある。スピーカーはZOOMロゴの真上あたりに内蔵

 バンドルソフトの「WaveLab LE」により、波形編集やマスタリングが可能。H2nで録音した音のうち、MSマイクからのデータをWaveLab上でステレオのL/Rに変換する「MSデコーダ・プラグイン」もズームから提供予定となっている。

 アクセサリは別売で、リモコン、ウィンドスクリーン、三脚、マイククリップアダプタ、ソフトケース、ACアダプタ、USBケーブル、リモコン延長ケーブルがセットになった「APH-2n」を3,990円で発売する。

底面にSDカードスロットと三脚穴背面USBマイクとしても利用可能
別売のアクセサリセットリモコン接続時WaveLab LEが付属


■ 実売2万円で「プロの世界でも通用する」

行方洋一氏

 製品発表会には、レコーディング/サウンドエンジニアの行方洋一氏がゲストとして登場。ズームのレコーディング関連製品のサウンドアドバイザーも務めている行方氏は、H2nで録音した音声を会場でデモ再生しながら、特徴を紹介した。

 まず、あらかじめ用意した音源で、MSマイク利用時とXYマイクのみのものを比較して再生。MSマイクを加えて録音した音は明らかに広がりが増しており、まるでスタジオの天井が一段高くなったような印象。一方で、XYマイクだけで録音したものは、定位に優れたステレオが実感できた。

 行方氏は「XYとMSのいいところを合わせればいいじゃないか、と考えており、それだけの実力を持っているのがこのH2n。プロの世界でも通用する」と語る。


行方氏が、H2nなど様々な機器で録音した音源をデモ

 これまでクラシック、ジャズ、ポップスなど数々のアーティストのCDを手掛けた行方氏だが、今回のデモでは野鳥のさえずりや、浅草三社祭の模様、電車の通過する音など身の回りの様々な音を録音したものを披露。「一番好きなのは、蒸気機関車の音を録音すること」という。

 H2nの新たな使い道として行方氏は「ピアノ教室にセッティングして、成長記録を残しておけば、卒業祝いにCDとして『こんなに上手くなったね』と言ってあげられる。2万円ちょっとの機械で、腕がもっと上達する」と提案。実現の暁には「私がアップライトのピアノにセッティングします」と笑顔を見せた。

 ズームの飯島雅宏CEOは、上位モデルのH4など、90度のXYマイク搭載モデルを振り返りながら「H4を発売してから、コピー商品も多く出回った。H2nは、こういった競争を終わらせる」という意味を込めて“Game Over.”と宣言。


ズームの飯島雅宏CEO

 国産であるプリモのマイクを採用したことについては「中国製も模索した。彼らは作れます、というが試作機では性能が出なかった。『残留ノイズが多い』と言ったら、マイクメーカーなのに無響室や測定器が無いとのことだった。パソコンや携帯電話に膨大な数のマイクを供給するメーカーすら、こうした環境。MS方式に対応したマイクは、プリモの協力で実現できた」と述べた。

 また、実売2万円という価格について「アーティストに大切な才能や感性が、お金で制限されてはいけない。アーティストの格差是正を目指して、手ごろな価格で提供する」とした。



(2011年 7月 14日)

[AV Watch編集部 中林暁]