プレイバック2021

ベンチマーク導入で我が家のステレオ再生環境完成! by 鳥居一豊

我が家のシアタールームへと続く“廊下ギャラリー”。エヴァンゲリオンによる新旧劇場版ポスター、主題歌ジャケットが勢揃い

今年のアニメは大豊作。オーディオ・ビジュアルの世界への影響も大きい。

コロナ禍のなか強行された東京五輪を筆頭に、世の中も激動の1年だったが、個人的にも話題の多い1年だった。まずはアニメ。昨年の興行収入400億円を記録した「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」も強烈だったが、新型コロナウィルスの蔓延という逆風の中、今年もアニメの躍進が続いた。ついに完結した「シン・エヴァンゲリオン劇場版」は、興収100億円を突破、もはや“ただのロボットアニメ”の枠を超えた作品になった。コロナ禍の影響もあってのこととはいえ、劇場公開が終わるやいなや、早いタイミングでの全世界での配信開始というのも異例。だが、この動きは今後の多くの作品での劇場公開や配信、パッケージの発売に大きな影響を与えることになると思う。

今年のアニメについては語り出すとキリがないのだが、厳選していくつか紹介しよう。「シドニアの騎士 あいつむぐほし」の出来も素晴らしかった。ハードSFと言うと堅苦しいイメージがあるが、本作はハードSF的な世界観の中でそのセンス・オブ・ワンダーを実にわかりやすく物語に取り込み、滑稽とも思える身長差15mのラブロマンスにさえ説得力を持たせてしまう素晴らしい作品。

なにより、Dolby Atmosの音響が素晴らしく、壮大な宇宙を舞台にしたバトルの迫力と感涙必至のドラマを彩ってくれた。「竜とそばかすの姫」は歌と音楽が一体となった物語に感激した。この作品のちょっと面白いところは主演はもちろん、主要な人物に大物を含む実力派の歌手がたくさんキャスティングされていること。こうした意味のあるキャスティングは実に興味深い。

「EUREKA エウレカセブン・ハイエボリューション」も良かった。アクの強い作品ではあったが心に刺さるものがあり、今後も忘れられない作品になるだろう。どれも感涙モノの作品ばかりで、さまざまな苦しい状況の中で奮闘してきた作り手の熱意が伝わりすぎるほどに伝わってきた。

『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』4K ULTRA HD Blu-ray版ジャケット
(C)創通・サンライズ

そして、「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」。30年振りに富野由悠季氏の小説も読み直し、改めて現代にマッチする物語だと実感したし、30年前に今の状況を予測していた氏の先見性にも敬服するばかりだ。作品の出来も素晴らしく、キャラクターの心理描写、モビルスーツの緻密かつダイナミックな作画など、見れば見るほど面白い作品となっていた。筆者自身も驚いたのが、ドルビーシネマでの上映。旧作を中心にドルビーシネマやIMAXといったリッチな映画館での上映をする動きは増えてきていたが、新作のアニメをドルビーシネマで上映というのはなかなか大胆だ。なぜならアニメはHD解像度での制作が基本で、4K HDRの映像やDolby Atmos音響を意識した作品は決して多くはないし、わざわざアップコンバートで4K HDR化して上映する意味があるのかと疑問に思う人も少なくないだろう。

しかし、「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」はドルビーシネマでの上映を見据え、制作時から4K HDR化とDolby Atmos音響を意識した作りで、アニメらしくないと言っていいほどに明暗のコントラストの広いリアルな描写と、巨大なモビルスーツを見たときの迫力を伝える立体音響で、今までにない「ガンダムという体験」を味わわせてくれた。

そして、副次的な効果として、4K HDRやDolby Atmosといった、オーディオ・ビジュアル好きならば知っていて当然だが、世間の多くの人はあまり意識していない言葉が一気に知名度を高めたと感じている。「ガンダム」の名の偉大さを改めて実感するが、4Kテレビやホームシアターシステムなど、環境はすでに整っていたが一般への普及はあまり活発でなかったように感じていたところ、今春のドルビーシネマでの上映や配信の開始、そしてUHDブルーレイを含むパッケージ版の発売と段階を重ねるに至り、TwitterなどのSNSの書き込みをはじめとして、画質・音質的な評価がかなり多く見られた。

ちょっと前までは「鳥居はアニメで画質やら音質やら語っているよ」と笑われていたものだ。それが今では多くの人がアニメ作品について思い入れのあふれた作品の評価だけでなく、熱心に画質・音質的な評価をしている。当然ながら、家庭で最新の映画館に近い環境を実現するための4Kテレビやホームシアターシステムへの関心も高まり、普及にも弾みがついたという実感がある。

これは大きな事件だ。筆者も大好きな「ガルパン」など、アニメ作品でDolby Atmos音響を採用する作品はすでに数多くあり、その下地はできていたが、一般の人へアプローチできる共通言語としての「ガンダム」がこのムーブメントを顕在化させたのだと思う。自分のようなAVライターはもちろんだが、テレビメーカーやオーディオメーカーは「ガンダム」に足を向けて寝られない。

そんな筆者は、アニメに興じる一方で、ここ最近都内に次々にオープンしたドルビーシネマやIMAXシアターの最新の映像と音響に圧倒されていた。コロナ禍の下での営業は大変だったと思うし、応援の気持ちも込めて自分が見たい映画はなるべくドルビーシネマやIMAXシアターで見るようにした。「鬼滅の刃」や「シン・エヴァンゲリオン」、「ガンダム」などは、通常の上映の映画館でも見た。このあたりはAVマニアの面倒くさいところなので、真似する必要はないが、改めてドルビーシネマやIMAXの良さを理解できる。

もはや最新鋭の映画館に追いつき、追い越そうという無謀な挑戦はしないが、それでも映画館がアップデートを続けている以上、自分の試聴室もアップデートしたい。なにより、映画館で感動した作品をパッケージ発売後に自宅で見て“これは「鬼滅の刃」ではない!”などと絶望したくなかったのだ。

というわけで導入したのが、ベンチマークの「HPA-4」と「AHB2」×2台。すでに長々と語っているので簡単に説明すると、スペックはモンスター級、サイズはハーフサイズのコンパクトなプリアンプとパワーアンプだ。その音は、往年の名機であるB&W「MATRIX801 S3」の音を一変させた。音質は良いが現代のスピーカーと比べると性能的な差をどうしても感じてしまうところを、音楽的な表現力はそのままに現代的なスピーカーと遜色のない解像感や音場再現を手に入れた。ようやくMATRIX801 S3本来の音が出たとも思う。

聴かせてもらおうか、その性能とやらを! Benchmark超高性能アンプで「TENET」

ベンチマークのHPA4とAHB2。コンパクトなサイズなので機材が増えても見た目はむしろすっきりとした。奥に見えているのが、ブルーサウンドのNode2i。ラックはTAOCのCSR-2S-Dとしている

ベンチマークのプリアンプとパワーアンプを導入したもうひとつの成果が、AV系を排除した純粋なステレオ再生環境の完成だ。これまではステレオ再生でもAVアンプを経由するなど、基本的にホームシアターのためのシステムだったので、仕事上でもオーディオ再生的にもやや劣等感があったのは事実。そんな劣等感からも解放された。

ステレオ音楽再生の入り口は、主にパソコン(WindowsおよびMac)を使っていたが、新たにBluesoundの「NODE 2i」を導入。オーディオ機器らしからぬモダンなデザインでしかもコンパクト。決して高価な機器ではないが音質的な実力も十分優秀で、しかも各種音楽サービスへの対応やプレイリスト作成などの操作性の出来の良さなど、かなり満足度の高いモデルだ。ここに従来から愛用している「CHORD Hugo2」を介してベンチマークに接続し、純粋なステレオ再生ができるようになった。

もちろん、ステレオ再生においてより純度の高い音が楽しめるようになって音楽を聴くのがとても楽しい。“これで我が家のホームシアターは完成!”と言ってもいいくらいなのだが、ホームシアター追求の道にゴールなどない。次の目標は映像系だ。来年も素晴らしい作品や優れたオーディオ・ビジュアル機器との出会いに恵まれた1年になると思う。読者の皆様にも、素敵な作品や製品との出会いがあることを心よりお祈りいたします。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。