レビュー

小型でもパワフル高音質、“THX AAA”搭載アンプ4機種に迫る

「Liberty HPA」のフロントパネルには大きく「LIBERTY THX AAA HPA」と書かれている

このところ、高音質をアピールするオーディオアンプやヘッドフォンアンプに“THX AAA”という、あまり聞き慣れない名称の技術を取り入れた製品が増えてきた。たとえばMYTEKのエントリーレベルであるLibertyの新製品で、同社初という注目のヘッドフォンアンプ「Liberty HPA」(オープンプライス/実売約19.8万円)のフロントパネルには、LIBERTY THX AAA HPA と誇らしげに記されている。

プロフェッショナル仕様のコンパクトなパワーアンプとして注目されている米Benchmark Media Systemsの「AHB2」(実売約39.8万円)も、THX AAA技術を採用した製品。AHB2はステレオで130W+130W(6Ω負荷)を出力し、ブリッジ接続モードでは実に480W(6Ω負荷)のモノーラル出力を叩きだすという、小型ながらもパワフルなパワーアンプだ。Benchmarkでは、ペアとなるプリアンプのLA4にヘッドフォンアンプ回路をプラスしたHPA4でも、そのヘッドフォンアンプ部にTHX AAAを採用している。

Benchmarkのステレオパワーアンプ「AHB2」
プリアンプのLA4にヘッドフォンアンプ回路をプラスした「HPA4」も、ヘッドフォンアンプ部にTHX AAAを採用

THX AAAとは、THX社が特許を取得しているフィードフォワードの回路技術だという。いったいどんな技術で、どのようなサウンドなのか? 興味が湧いてきた私は、MYTEKとBenchmarkの輸入元であるエミライの協力を仰いで、THX AAA技術を採用している対象製品の音を聴いてみた。以下が借用させていただいた機種である。

  • Benchmarkステレオパワーアンプ「AHB2」(モノーラル駆動も考慮し2台借用)
  • Benchmarkステレオプリアンプ兼ヘッドフォンアンプ「HPA4」
  • MYTEKヘッドフォンアンプ「Liberty HPA」
  • FiiO 新製品のES9038PRO搭載DAC内蔵ヘッドフォンアンプ「K9 Pro ESS」
FiiO 新製品のES9038PRO搭載DAC内蔵ヘッドフォンアンプ「K9 Pro ESS」

THX AAAとは何か?

THXという名前で私がすぐ思い出すのは、映画でおなじみのルーカスフィルムが主導する音響技術の専門会社。社名はTHXの中心人物だったトムリンソン・ホルマン氏に由来する。それに彼が提唱したクロスオーバー回路、もしくは実験を意味する“X”を加えてTHXになったらしい……(ジョージ・ルーカス初の長編映画「THX1138」からという説もアリ)。

大画面ホームシアターの黎明期には、ルーカスフィルムでTHX認証を得たというAVアンプやスピーカーシステムがいくつも登場していた。当時のTHXは映画館や家庭用AV機器の音質や性能を審査する、クオリティチェックを主業務としていたのだ。

1983年に誕生したTHXは長らくルーカスフィルムの一部門であったが、2002年に独立。それから10年後の2012年にはシンガポールにあるクリエイティブテクノロジー社(クリエイティブメディア)に買収され、その4年後の2016年には同じくシンガポールに本拠を置き世界的にゲーミングPC関連のビジネスを行なっているレイザー(Razer)が所有して現在に至っている。THX社は米サンフランシスコにある。

FiiOの「K9 Pro ESS」の天面にあるTHXマーク
「AHB2」の背面にもTHXのマーク

THX AAAの“AAA”とは、アクロマチック(A)・オーディオ(A)・アンプリファイア(A)の略。アクロマチックとは無色透明を意味する。さきほど私は「特許を取得しているフィードフォワードの技術」と述べているが、回路技術としてのフィードフォワードは歴史がけっこう古く、1950年代にベル研究所(米国)のH.S.ブラック氏が発明したことまで遡る。当時は電話の音声品質を改善するために考案された、巧妙かつ画期的な技術だったのだ。

さて、ごくシンプルな話から始めよう。トランジスター(半導体)であれ古典的な真空管であれ、それらを使って音声信号を増幅する電子回路を構築していくと、どうしても元々の信号にはなかった成分が僅かながらも発生してしまう。歪=ディストーションの発生である。

それを解決するために発明されたのがフィードフォワード技術であり、もっともポピュラーなのがフィードバック技術ということになろう。両技術を発明して最初に特許を取得したのは、前述したH.S.ブラック氏だ。

フィードフォワードとフィードバックの手法は似通っている。前者のフィードフォワードがディストーションを補正するための信号を増幅回路に送り込む(フォワードする)のに対して、フィードバックはディストーションを補正するために出力信号を増幅回路に少し戻す(バックする)のである。雑音成分を補正することを、エラーコレクションともいう。補正するための信号は位相を180度ずらした逆位相になっている。

フィードバックがポピュラーなのは回路が比較的シンプルだから。パワーアンプを例にその概念を述べておこう。最終的にスピーカーへ出力する音声信号の僅かな量を逆位相にして信号の入力部に戻してやるのである。こうすることで雑音成分が相殺=キャンセルされるというのがフィードバックのベーシックな理論だ。

いっぽう、フィードフォワードでは相殺=キャンセルするための信号を生成する専用の回路が必要になる。THX AAA技術の核心はその専用回路なのだ。THX AAAではスピーカーやヘッドフォンを駆動するアンプのプッシュプル出力回路で生ずるクロスオーバー歪も解消することを特徴として挙げている。

THX AAAを採用したアンプの音をチェック

さて、THX AAAのフィードフォワード技術である。前述したようにフィードフォワード技術そのものは歴史が古い。私のような還暦を迎えた世代の読者なら、サンスイの高級アンプで展開されたスーパー・フィードフォワードの名称に懐かしさを憶えるのでは? スーパー・フィードフォワード回路を考案したサンスイの技術者は米国に赴いてフィードフォワードの発明者であるH.S.ブラック氏を表敬訪問したという。サンスイは日本と米国で特許も取得した。オーディオアンプとしてフィードフォワードの先駆けだったのは、静電型スピーカーでも有名な英QUADの「405パワーアンプ」といわれている(カレントダンピング技術)。

このように歴史あるフィードフォワード技術であるが、たとえば英Chord Electronicsはフィードフォワード技術を使っているし、ノルウェーのHEGELミュージックシステムも独自のフィードフォワード技術を採用している。

これらに対して、THX AAAは立ち位置が異なる。ChordやHEGELのそれは自社製品で使うためのものだが、THX AAAはシステマチックにパッケージ化されたライセンス目的の技術。THX自体はアンプやヘッドフォンアンプを製造しておらず、彼らが開発した先進的なフィードフォワード技術を、必要とする会社に提供しましょうという姿勢なのである。それを採用しているのがBenchmarkやMYTEK、そしてFiiOというわけだ。他にもTHX AAAを採用している海外メーカー(日本未紹介)もある。

では、アクロマチック=無色透明を標榜するTHX AAAの特徴とは? 彼らが掲げているのは以下の4項目だ。

  • 低損失であること
  • 低歪&低雑音であること
  • 省面積であること
  • 高周波雑音が皆無なこと

THX AAAには「モバイル/ワイヤレス製品」「オーディオファイル・モバイル」「オーディオファイル・ハイパワー」というグレードに合わせた製品体系が用意されている。なかでも注目すべきは、ハイエンドな「オーディオファイル・ハイパワー」に属している3つの回路モデルだ。

  • THX AAA 888
  • THX AAA 788
  • THX AAA 688
THX AAAアンプのグレードと性能

このうちの最高グレードは、THX AAA 888である。BenchmarkのAHB2ステレオパワーアンプとプリアンプ兼ヘッドフォンアンプのHPA4、そしてMYTEKのLiberty HPAには、そのTHX AAA 888が使われている。特にBenchmarkは、THXがフィードフォワード技術を開発中の初期段階から綿密に連絡を取り合ってパワーアンプの試作を始めたという。

Benchmarkの開発陣は2012年にはプロトタイプを仕上げて翌年のAESでデモンストレーションを行なっている。当初はBenchmarkにとって2作品目のアンプなのでPA2(パワーアンプ2)という仮称だったが、市販化に際してはベンチマーク社の創業者ですでに現役を退いていたAllen H. Burdick氏のイニシャルを冠したAHB2と命名した。現時点でTHX AAA技術を採用しているパワーアンプは、世界を見渡してもAHB2だけだ。

AHB2

さて、THX AAAを採用している製品の音である。借用できた4機種に共通している音の傾向は、音の鮮明さとメリハリの効いたダイナミック感の豊かさ。いずれも現代的といえる音ヌケの良さに加えて、力強く透明感の高さを印象づける清潔(クリーン)さを特徴としていた。アクロマチック=無色透明というネーミングどおりといっても過言ではない、聡明なサウンドを特徴としている。瞬発力に優れた溌溂とした音といってもいいだろう。

最初はヘッドフォン(一般的なシングルエンド接続)でTHX AAAのサウンド傾向を探ってみた。試聴した3機種はいずれもXLR端子によるバランス接続にも対応している。

MYTEKのLiberty HPA

MYTEKのLiberty HPAは、最高グレードのTHX AAA 888を採用。ヘッドフォン出力を装備する同社製品が多いなか、本機だけがヘッドフォン専用のアンプだ。しかも、THX AAA技術を採用している唯一の製品というセールスポイントがある。

FiiOのK9 Pro ESS

FiiOのK9 Pro ESSは、その前作にあたるK9 PRO LtdでもTHX AAA技術を採用していた。前作は旭化成のAK4499電流出力DACの搭載が話題だったが、限定数(Limited)に達して販売完了。そのリプレースというかたちでESSの最高峰ES9038PRO電流出力DACを搭載して登場するのが、K9 Pro ESSである。使われているTHX AAA技術は、THX AAA 788をベースにFiiOとTHXが共同開発して完成させたTHX AAA 788+というもの。

左からK9 PRO Ltd、K9 Pro ESS
BenchmarkのHPA4

BenchmarkのHPA4は、前述したようにTHX AAA 888を採用。MYTEKのLiberty HPAと同じ技術である。ちなみに、MYTEKもFiiOもそうであるが、ラインレベル出力の回路にはTHX AAA技術は反映されていない。THX AAAは、あくまでもスピーカーやヘッドフォンを駆動する回路に使われる技術なのだ。

ここではすべて同じ条件にして音を聴きたかったので、3機種ともラインレベルのアナログ入力で聴いている。すなわち、K9 Pro ESSのDAC回路は試さなかった。試聴に用いたヘッドフォンはbeyerdynamicが製造を担当したAstell&Kernの「T1p」である。

音源の送り出しはMYTEKのThe Manhattan IIにした。ヘッドフォンアンプの試聴ではRCA端子からのシングルエンド出力を接続。音源はオーディオ専用NAS(DELA N10)から。The Manhattan IIはRoon Ready機ということもあり、音源再生のオペレーションはRoonで行なっている。Roon CoreはNucleus+(Rev.A)でiPad ProのAppからの操作だ。ヘッドフォンの音を比較する参考機として、私は普段使いしている米Pass LaboratoriesのHPA1を用いた。

エリック・クラプトン/ザ・レディ・イン・バルコニー

エリック・クラプトンの最新作「ザ・レディ・イン・バルコニー」のハイレゾ(96kHz/24bit)では、K9 Pro ESSは音の緻密さや音場空間の拡がりを感じさせる心地よい音だった。これは高性能なボリュームICの功績もあるのかと思いながら聴いていたが、クラプトンの声色の滑らかさとリラックスしながらも真剣に演奏を繰り広げる場の雰囲気に好感を抱いた。

同じ曲がLiberty HPAでは力強さがやや増したストレートな音の語り口。広い音場空間の提示はK9 Pro ESSのほうが得意といえるが、私は鮮やかに音像を描いてくれるLiberty HPAの音が気に入った。Liberty HPAにはアルプス製の2連アナログボリュームが使われている。

Liberty HPA

BenchmarkのHPA4はLiberty HPAと音の傾向が似ているが、一音一音に芯があるというか音楽の土台がしっかりとしている音という印象。全体的にカチッとした硬質感が漂っており、ダイナミックな演奏を聴かせてくれる。音量調整は固定抵抗器をリレー切換している方式。ライン出力とヘッドフォン出力を独立して操作できるのも便利だ。

内田光子とサー・サイモン・ラトル指揮ベルリンフィルのベートーヴェン:ピアノ協奏曲集(2010年ライヴ収録)

ベルリンフィルのHPからダウンロード購入した、内田光子(ピアノ)とサー・サイモン・ラトル指揮ベルリンフィルのベートーヴェン:ピアノ協奏曲集(2010年ライヴ収録)から聴いた。ピアノ協奏曲 第1番の最終楽章(48kHz/24bit)は、K9 Pro ESSではピアノの響きの繊細さと演奏空間のスケールを感じさせる。雰囲気を良く伝えてくれる丁寧な音の表現を得意としているようだ。

いっぽうのLiberty HPAは、少しモニター的といってもいい視覚的な描写能力が感じられて、こちらも無意識的に惹かれる音だった。クラプトンのときもそうだが聡明な音というイメージで、ストレートな音というイメージに変わりはない。情報量の多さも特徴であり大編成のオーケストラならではの臨場感が楽しめた。

BenchmarkのHPA4は音楽を精密に構築していくという印象で、抑揚(ダイナミクス)の豊かさに感心させられた。微小領域での細やかな音の表情も素晴らしく、そしてフォルテシモでの堂々とした鳴りっぷりの良さは圧巻。しかも音色の柔らかさや陰影表現も優れている。HPA4はスイッチング方式の高効率電源を搭載している(Liberty HPAとK9 Pro ESSはトロイダル型トランスのアナログ電源)。それと増幅回路のコンビネーションも秀逸なのだろう。

大型スピーカーをグイグイ鳴らすAHB2

借用した機種のなかで真打的な存在は、もちろんBenchmarkのAHB2。いまのところ世界で唯一のTHX AAAフィードフォワード技術を採用したパワーアンプである。その回路技術が完成する前から搭載することを前提に開発が進められてきたという、まさにTHX AAA 888のリファレンスといえるステレオ/モノーラル・パワーアンプ。

発表されたのは2014年だったから、すでに8年が経過しているロングセラー機だ。これほど継続しているということは、改良の余地がないほど完成度が高いということだろう。AHB2はスイッチング方式の電源部を搭載する、AB級動作のアナログ増幅パワーアンプである。実はスイッチング方式の電源部というのが本機では特に重要な要素らしく、BenchmarkはAB級の増幅とH級のトポロジーを組み合わせているというのだ。

H級とは聞き慣れない言葉では? 私もそれほど詳しくはないのだが、低い電圧の電源供給をベースにすることでノイズレベルを下げており、プログラムソースが大音量を要求した場合に高い電圧の電源供給にスイッチしてハイパワー駆動するという2段階の巧妙な電源供給らしいのだ。興味深いことに米国ではH級と呼ばれていて、日本やヨーロッパではG級と呼ばれている方式だという。昨年発売されたJBLのインテグレーテッドアンプSA750はTHX AAA技術を採用していないが、G級アンプである。

送り出し機のThe Manhattan IIとAHB2は、ダイレクトにバランス接続して聴いている。スピーカーシステムはマジコのM3である。幸いにも2台のAHB2を借りることができたので、最初は1台のステレオ駆動で鳴らしてみた。AHB2は一般的なパワーアンプよりもゲイン設定が低いのも特徴で、ここでは3段階のうちのミドルゲイン(17dB)に設定。アナログ方式に設定しているThe Manhattan IIのボリュームをあまり絞らない状態で使うことができる。

AHB2の背面。XLR端子も備えている
イーグルスのライヴ音源「ホテル・カリフォルニア」

まずはイーグルスのライヴ音源「ホテル・カリフォルニア」から聴く(44.1kHz/16bit)。先程までヘッドフォン試聴していたHPA4とMYTEKのLiberty HPAに一脈通じるような、目鼻立ちが整っていて明瞭さを感じさせる元気のいい音だ。右チャンネルからのギターの音色も鮮やかで倍音成分もキッチリ聴かせてくれる。

なるほど応答性が優れていると想わせるのは、拍手や口笛などのライヴ収録らしいオーディエンスの存在感。しかも背景の静寂さが保たれているように演奏の音が浮き彫りのように出現してくる。ズンと鈍い重さを感じさせたり薄暗い音の雰囲気とは対照的な、ポジティブシンキング的(?)といいたい陽性の音なのだ。

チェスキー・レコーズの35周年アニバーサリー・コレクション

強弱のコントラストが高いジェン・チャピン(女性ボーカル)の「ユー・ハヴント・ダン・ナッシング」は、ウッドベースとサキソフォンが伴奏するチェスキー・レコーズの音源(192kHz/24bit)。これはHDtracksからダウンロード購入したチェスキー・レコーズの35周年アニバーサリー・コレクションに含まれている。

ここでもAHB2はダイナミックでボーカルと演奏者の音像を鮮明に描写してくる。それほど音量を上げて聴いているわけではないけれども、音離れも良くワイドレンジな印象を与えるハイレゾ音源だった。

ダニエル・バレンボイム指揮ベルリン国立歌劇場管弦楽団のエルガー:交響曲 第1番

クラシック音楽は、ダニエル・バレンボイム指揮ベルリン国立歌劇場管弦楽団のエルガー:交響曲 第1番の第2楽章を聴いている。この楽章は迫力あるリズミカルな低音域と弦楽器群を中心とした雄大な旋律が聴きどころ。AHB2は細部まで丁寧に、しかも臨場感たっぷりに描いていく。

やはりS/N感の優秀さを滲ませているクリアーな音の佇まいが印象的だ。見かけはコンパクトなパワーアンプなのだが、しっかりとM3を駆動しているのが凄い。AHB2はダンピングファクター値が370だという。適度に締まった低音域のコントロールが得られており、音楽再生に重要なリズミカルな表現も十分といえる。

12のストラディヴァリウス

ジャニーヌ・ヤンセン(ヴァイオリン)と指揮者としても知られるアントニオ・パッパーノがピアノ伴奏した「12のストラディヴァリウス」から、クライスラー34と呼ばれるストラディヴァリウスを弾いたファリャ:スペイン舞曲(96kHz/24bit)も聴いている。指で弾いた切れ込みの鋭いヴァイオリンと打鍵の強いピアノによる色彩感の豊かさで始まるこの曲も、まったく臆することなく積極的に鳴らしてくる。特にヴァイオリンの情感がこもった音色の陰影はすばらしく、音楽に没頭しながらエンディングまで聴き終えてしまった。

実際にはヘッドフォン試聴でも多種多様な音源を聴いていたのだが、THX AAAのフィードフォワード技術が使われている製品の音質はぼんやりと把握できた感がある。最後に、2台のAHB2を借用できたので、ブリッジ接続によるモノーラルアンプ状態の音を確認してみた。

2台のAHB2を使い、ブリッジ接続でも聴いてみる

この場合は電源オフ&電源ケーブルを抜いた状態で、AHB2の背面右にあるMODEのスイッチを「MONO」に設定し、バランスのライン入力は同じく右側の「1 IN/MONO IN」に入れる。そしてスピーカーケーブルはプラス側を右から2番目の「1+/M+ OUT」の端子にして、スピーカーケーブルのマイナス側を左にある「2+/M- OUT」に接続するといい。正しい接続になっているかを確認したら、電源ケーブルを差しこもう。

AHB2の背面右にあるMODEのスイッチ

基本的にステレオ状態で聴いた音源を同じ順番で聴いてみたが、やはりというべきかドライブ感が倍増して音場空間の左右+高さの拡がりと奥深さもグンと向上したではないか。

イーグルスは格段に駆動力が増したことで音楽のリアリティが倍増した印象だし、ジェン・チャピンの歌声が生々しく高音質録音にこだわっているチェスキー・レコーズらしい自然な場の雰囲気(この曲はニューヨークにある教会で収録されている)がストレートに伝わってきた。

圧巻はバレンボイムのエルガーである。低音の沈み込みが向上して実在感に優れたオーケストラの迫力が凄いのだ。ジャニーヌ・ヤンセンの楽曲も繊細さと鮮やかさが共に向上するとともに、演奏の安定感が高まっている。効率の高いスイッチング電源部も音の躍動感にかなり貢献しているのだろうとも思わせた。

AV Watchに執筆されている鳥居一豊さんは、昨年2台のAHB2とプリアンプ兼ヘッドフォンアンプのHPA4を導入してB&W「MATRIX801 S3」を鳴らしていると「プレイバック2021」で紹介していた。マジコM3をグイグイと鳴らした音を体感した私は、鳥居さんがBenchmarkのプリアンプとパワーアンプを選んだのは大正解だったろうと確信した次第。Benchmarkのプリアンプには専用機のLA4とここで登場いただいたHPA4があるがプリアンプとしての機能や音質は同格ということもあって、価格は8万円ほど高価になってしまうけれども市場ではHPA4が主流になっているという。

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本稿を締め括ることにしよう。音質について述べる立場としては、ここで借用した4機種だけで「THX AAAのフィードフォワード技術による音は“こうだ”」と断定するわけにはいかない。ごく一部の管球式アンプではフィードバックのON/OFFスイッチを設けて聴き比べができたりするが、THX AAAのON/OFF機能はないのだから比較できないことは御理解いただきたい。

しかし、いずれの機種でも“聴感上での歪の少なさ”や、抽象的だけれども“音の良さ”を強く意識させたことは事実。これを機会に、私はTHX AAAのフィードフォワード技術を採用する製品が増えていくことを期待したい。

(協力:エミライ)

三浦 孝仁

中学時分からオーディオに目覚めて以来のピュアオーディオマニア。1980年代から季刊ステレオサウンド誌を中心にオーディオ評論を行なっている。