プレイバック2023
やってくれたぜ東京現像所。平成ゴジラがバキバキだよ!! by 樋口真嗣
2023年12月29日 09:30
いんやあ…すいません。すいません。今年は流石に言い訳が立ちません。 コロナとかインフルのせいにはもはやできません。
このクラスで国内生産、白河ワークス製という言葉に心の堤防が決壊してアップグレードしちゃったデノンのAVアンプ「AVR-X4800H」とか、「シン・ウルトラマン」の円盤発売時のタイアップキャンペーンで取材したパナソニックの4K有機ELビエラ「TH-65MZ2500」とか、新機材導入実績もあるんだからそのレポートをしなさいよなどと思いながらも、自分なんかの百万倍も表現力が豊かなAV Watchの執筆陣の皆さんの名文に毎度のことながら気圧された挙句がこのザマ。月刊とか季刊じゃないよもはや。連載をなんだと思ってるんだ? おっしゃる通りですすいません。
鬼門の“高感度フィルム&増感現像作品”のアーカイブ
しかもそんな中、数えきれないほどの作品の仕上げでお世話になっただけでなく、本サイトの連載でも取材させていただいた東京現像所がこの11月いっぱいで68年の歴史に幕を下ろしました。
この数年は本来一番の得意技でありながら時代の趨勢でその受注もほとんどなくなってしまったフィルムの現像に代わって既存のフィルム原版といった映画資産をデジタルデータ化してアーカイブする事業にシフトしてきました。
それなら別に広い敷地を要する化学工場の認可を取った土地でなくてもできる、という経営的判断の末の幕引きであります。変革と進化の結果がもたらした便利で快適な未来の影には、不要となり処分されていく過去があるのです。
別れを惜しむセンチメントに終始しがちであまり脚光を浴びませんがこの数年の高解像度アーカイブ化は目を見張るものばかりでした。
五〇年代後半から六十年代にかけての黄金時代を築き上げた低感度フィルムとそれを支えた大規模な照明のおかげで、ネガに記録されていた芳醇な情報は4Kの解像度によって製作当時に視認できなかったディティールまで見ることができるようになりました。
しかし八〇年代に入ってからの日本映画のほとんどは逼迫した予算の中で製作するために切り詰めなければならない撮影環境の中、それでもなんとかして画にするために頼らざるを得なかったのが、その頃市場に出回り始めた高感度フィルム。
そしてそれでも感度が足りない局面でフィルムの層に微かに残っている像を化学的に無理矢理引っ張り出す増感現像で照明機材を絞り込み、下手すりゃノーライトで撮ったものを「リアリティ」という言葉で己を欺瞞し限りある予算と闘いながら作り続けてきたツケを払わなければならなくなったのか。
この時代に作られた映画が高解像度でデジタルデータにコンバートされたらもう目も当てられないぐらいのノイズ感というか、フィルムの粒子がザラザラに浮き上がり、それを軽減するためにフィルターをかけるとなんか階調差を誤魔化したCGみたいになっちゃって、結局何もしないほうがいいという結論になったり、なかなかの鬼門でした。
「未知との遭遇」の4K版なんてこれをどう楽しめばいいのか? ってくらい大粒のフィルムグレインにびっしり覆われてるし、1983年市川崑監督の名作「細雪」もシルキーなハイトーンにはビッシリとノイズが。ハイクオリティなソフト化で定評のあるアメリカのレーベル、クライテリオンですらこの有様でした。
凄いぞ「ゴジラvsビオランテ」。東京現像所が最後にやってくれた!
ところがこの年末にリリースされた平成ゴジラシリーズ第一弾(1984年公開の「ゴジラ」を第一弾と言う人もいますが、1984年は昭和59年なんですよね)「ゴジラvsビオランテ」が凄いんですよ。
あの時期特有のフィルムのグレインを誤魔化すための柔らかめに焼いたプリントのおかげでなんとも眠たいトーンで、それもまた平成ゴジラらしさなのかなと諦めてどんなもんかいなとディスクをかけたら、もう目が覚めるようなエッジ感。これ凄くないですか? 今まで見ていた映画と別物ですよ。
もちろんどんなに高画質になっても外国人キャストによるギャング映画みたいな銃撃戦とかウケ狙いのゲストキャストとかの脱力感は変わらないけども、今見ると高橋幸治さん演じる白神博士のサイコパスっぽい立ち振る舞いはやっと時代が追いついた! って感動があります。すごい! 東京現像所、最後にすごい可能性を示して散っていきました。ありがとう!
来年はちゃんとやりますが、年明けすぐから次回作の撮影が始まるので半年お預けです。
どんな内容、なんのプラットフォームになるかはまだ言えませんがプラットフォームと言ってる時点でネタバレかもしれませんのでこの辺で。良いお年を!