樋口真嗣の地獄の怪光線

第24回

フィルム映画はこうしてキレイに生まれ変わる! ~東京現像所潜入レポ・ファイナル

東京現像所

さて、第3回目になりました東京現像所ミステリーツアー(違)。いよいよファイナルステージです(前回はコチラ)。

古い映画が記録されているフィルムを最高の状態でデジタルデータ化したとしても、その経年劣化からくる物理的損傷。フィルムそのものに傷がついたり、ワンカットずつつなぎ合わせられた編集点の、接着の劣化から生じる断裂……切れてはいけない方向に切れたり、裂けたり、書いていてその悍ましさに書く手も止まろうってものでございます。

でも現代は、その被害もデジタル技術で庇護することができるのです。

スキャンした映像をデジタル修復する「レストア」

映像本部映像部 アーカイブ2課 レストアグループ係長の加藤良則氏(写真中央)

加藤:ここはレストアルームです。スキャンされて受け取ったDPXデータの映像をデジタル修復する場所です。主に行なう作業としては、スタビライズと呼ばれる揺れ止め、古い作品でのあおりやスプライス。他にはパラと呼ばれるフィルムに付着したゴミ、傷、窓ゴミなどを修正しています。

樋口:揺れ止めですか……懐かしいです。フィルムで撮影すると、フィルムに起因する場合とカメラに起因する場合のどちらかになるんですけど、ゆらゆらと揺れちゃうんですよね。そう言うコンディションのフィルムを合成するとどうしてもガタガタして、NGを食らうわけですが、主に予算と時間という避け難い事情のせいでそのまま出さざるを得なくなると、お客様から「日本の特撮ダセエ」との烙印を押されるわけです。

そうならないように、カメラだったらパーフォレーションが安定しているミッチェルのマークIIを使ったり、フィルムも撮影前に何十種類のフィルムをぶれテスト(※)して、選ばれたフィルムのみを使って合成用カットを撮影していたものです。

※フィルムタイプでなく生産された時期、そのロールの中でも品質が安定している場所をメーカーから提供してもらい、罫線の入ったチャートをわざと二重撮影して重なった線の状態でフィルムがどのぐらい揺れるかを確認する。

樋口:もう今ではデジタルデータ上で揺れを止めるスタビライズが当たり前にできるようになって問題は解決……つまり仮に撮影時に撮った画が揺れていても簡単に止められるようになり、それ以前にデジタルカメラになったのでそもそも画が揺れるハードウェア的な原因がなくなったので、だれも気にしなくなっちゃいましたが……便利だけど、簡単過ぎるのもどうかと思いますよね。。。いや、それでも簡単ってことじゃないんですよね? 技術者が一コマ一コマ見つけては加工して……

加藤:そうですね。DRS NOVAという修正ソフトを使い、一コマ一コマ加工しています。今お見せしているのは、ネガについた傷を前後のコマから埋め合わせる作業を行なっています。単純にそのまま貼ってしまうと、粒子が止まってしまうため、ミックスさせています。レストア専用ソフトでは、ミックスや位置の判断を自動で行なってくれます。合わない場合もあるため、技術者が指定したコマから持ってくることもできます。

基本的には、スプライスやパラ消しは前後のコマから持ってくればよいのですが、同じ位置にずっと出ている傷などは、スクラッチツールで埋め合わせします。これも自動的に両サイドから埋め合わせします。

樋口:今ではほぼ自動でできるようになったのですね。デジタルの画像加工って、どうせコンピュータでボタン押したら出来ちゃうんでしょ? みたいな世間の偏見がずっとあって、そんな話を聞く度に「違うんだよ。コンピュータは使うけど、人間がこつこつ手作業でやってるんだよ!」ってハラワタ煮えくり返して来たのに。これからどうしたらイイの?

加藤:スクラッチが太すぎる場合は自動で消えない場合もありますから、そのときは根性で消します!(笑) 自動ではカバーできない、技術者の腕が問われるところもありますよ。

縦に走る傷を発見
「モスラ」©1961 TOHO CO., LTD.
傷範囲を指定し、ボタンを押すと……
「モスラ」©1961 TOHO CO., LTD.
傷が埋まり見えなくなった
「モスラ」©1961 TOHO CO., LTD.

樋口:おお! カーソルで指定しただけで、キズが自動的に消えていく! 昔の映画でよくあった、現像ムラで画面があおったりしている場合も修正できます?

加藤:あおりの修正は、時間がかかりますね。黒澤明監督の「生きる」(1952年)はあおりが強く、コーディネーターの小森から何度も修正を要請されました。

それから「キングコング対ゴジラ」(1962年)の場合は、コマが欠けている場面をここで解析して作りました。12コマ作りましたね。前後のコマから作って、違和感のないようにしています。

樋口:12コマ!? 一体どのシーンですか?

加藤:キングコングがゴジラから放射熱線を受けウワーッとなる、第2ラウンドのシーンですね。あとは……スキャンを行なうと粒子が目立つ場合もあります。解像度がよくなった分、ザラザラして見えてしまう場合もありますから、その時はグレインを調整します。逆に、シャープネスを加える時もありますが。

「キングコング対ゴジラ」TM & ©1962 TOHO CO., LTD.
「キングコング対ゴジラ」で欠けていたシーンがコチラ。写真上と下が現存するコマ。東京現像所のレストアチームは、この間に存在したであろう12コマを作成。「12コマ(0.5秒)埋めるのは、弊社では新記録です」(清水氏)とのこと
「キングコング対ゴジラ」TM & ©1962 TOHO CO., LTD.

樋口:日本映画専門チャンネルで放送した東宝チャンピオンまつり版は、オリジナルネガだからあれだけキレイということですか?

清水:「モスラ対ゴジラ」と「怪獣大戦争」はチャンピオンまつり版がオリジナルネガで短縮されていまして、これをスキャニングして使用しています。

加藤:この時代のネガを高解像度にスキャニングすると、クオリティは全く違いますね。

樋口:昔聞いた話だけど、昭和30年代後半の日本映画って、低感度のフィルムでめちゃくちゃライトを当てて光量を稼いでたそうなんです。おかげで撮影現場はとんでもない暑さになって大変だったそう。その後の時代は、フィルムを増感現像しちゃってるから、粒子が荒れてしまったそうです。

清水:ゴジラもシネスコ時代の方がキレイなんですよね。逆に平成シリーズの方が画が甘くぼやけている。

樋口:やはり増感しちゃイケなかったんでしょうね。現場は灼熱地獄になっちゃいますけどね。

映像全体のカラーを整える「グレーディング」

映像本部映像部 映像制作課 デジタルイメージグループ カラリストの山下純氏

山下:ここはグレーディングルームです。レストア後、最終的にキレイになったものをここでグレーディングします。

樋口:新作であればカメラマンや監督が「あれはこうしてほしい」等の要望があると思いますけど、旧作の場合は何を参考に判断するのですか? ある意味、いくらでも調整できてしまうと思うけど……。

小森:カメラマンが健在の場合は、こちらへ来て頂きます。

樋口:健在だとしても、身体の衰えって誰でもありますよね? 例えば老眼。老眼てピントだけでなく、感度やゲインも衰えてしまう。私もとうとうそれが始まりつつあって、今まで見えていたギリギリのローキー部分が全く見えなくなるとか。「もうちょい上げてよ」とか指示を出すと、みんなにドン引きされるわけです。笑

つまり基準て、凄く難しいなと思うんです。例えば「日本のいちばん長い日」(1967年)の4Kリマスター版を劇場で観たときに「うわスゴイ、こんな情報量があったのか」と驚いたのです。でも「昔見たオリジナルは、そこまで見えてないから」と、この部屋でスポイルすることもできてしまうわけで。私はこの作品を見たときに、全員の目の芝居の凄さや汗まみれ感、そして口の汚さまで、様々な新しい発見がありました。オリジナルを損なうことなく、アップグレードしなきゃいけないって、そのさじ加減が難しいですよね。

清水:カメラマンが健在な場合は、同時にチェックしてもらいますが、いらっしゃらない場合は、プリントや過去の文献を総ざらいして、基準を決めています。

山下:そうですね。基本的には、プリントやブルーレイなどのパッケージも見ながら、基準を決めます。それに、弊社が関わった作品の場合は、タイミングデータが残っています。どのシーンでどのような補正をしたという情報がありますから、そうしたものをベースに微調整を行ないます。

小森:「日本のいちばん長い日」に関しては、増感しているという文献がありましたから、当時から粒子は多いだろうと類推。通常に比べて粒子を残し気味にしています。

清水:「用心棒」の三十郎がずたぼろの格好で逃げる場面。夜なのに昼間みたいな照明になっていて、当初は方々から「明る過ぎるのではないか」との指摘を受けました。でも小森が当時の文献や台本を調べたところ、“昼間のような月光の中、三十郎が逃げる”との一文を見つけたので、そのままにしています。疑似夜景での撮影ですので当然明るくなる部分はありますし、プリントも実は明るいんです。

樋口:遺跡を復元する考古学者みたいな世界ですね。

映画音声を高品質に蘇らせる音の「リマスタリング」

映像本部映像部 アーカイブ2課 サウンドコーディネーターの森本桂一郎氏

森本:“旧作のデジタルリマスター”というと、画に注目が集まりがちなのですが、音も本腰を入れてやっています。ご承知の通り、映画のサウンドトラックは光学で記録されていた時代が80年以上続いてきました。

樋口:磁気テープは高品質である一方、コストがかかる。映画の音響は、光学式といってフィルムに記録した白黒の波形の幅の大小を映写機のピックアップで読み込んで再生する方式が主流だったんですよね。

森本:旧作のサウンドトラックをリマスタリングする場合は、画ネガと一緒にセットで保管されている音ネガからスキャニングしたものを使用することが多いです。光学録音の技術として、入力音が小さい時、ノイズの発生源である白の領域を狭くします。つまり、ネガの状態では、白黒が反転することによってノイズを多く拾ってしまうわけです。ですから、スキャナーで取り込む際はデジタルの画像処理で反転させる必要があります。

ただし、この黒と白の間の部分は、多くの細かい情報が入っています。特に音ネガは光学的な滲みの影響を受けていないのでポジフィルムよりも多くの情報が存在します。単純に反転させるだけではなく、その情報を損なわないよう、像をポジの状態の時のように再現させないといけない。すでに劣化している状態から後処理でカバーするのは、やはり限界がありますからね。

画面左が音ネガのスキャニング画像。右がデジタル処理で反転させた状態

音ネガを単純に取り込んだ場合と、高品位に取り込んだ場合で音を聞き比べてると、ノイズやSN比が全く変わっていることがお分かりになると思います。シンバルなどはかなり強調された音質ですが、これはフィルムに記録されているままのドルビーをエンコードした状態ですから、きちんとデコードすれば、フラットな状態になります。

樋口:ドルビーも少し音圧を上げると、すぐに赤いランプがね。で、音圧を下げるとテスト試写の方が好印象だったという事もざらにありますよね。

森本:ドルビー以前のモノラル作品では、音が大きく歪んでいる作品もありますね。大きい音が欲しい、という監督の希望だったのかも知れません。

樋口:午前十時の映画祭で上映した「用心棒」も、ここでスキャンしたのですか?

森本:はい。ネガに残っていたパースペクタ信号(※)も取り出しています。

※パースペクタ・サウンドとは、1950年代の一部映画で採用されていた“疑似ステレオ”規格の1つ。モノラルトラックには、3つの制御信号が合成して埋め込まれており、インテグレータと呼ばれる装置を通すことで、制御信号によって音量操作されたモノラル音声がLCRスピーカーに振り分けられ、立体音響を擬似的に作り出す。

樋口:東宝パースペクタ・サウンドって、磁気録音方式かと思っていたけど違うのですね。

森本:はい。この方式は聞こえない帯域のところに制御信号が3本入っていて、これがLCRの其々の音量を調整する仕組みです。LCRから全部同じ音が出ているんですよ。セリフが主体の時は、センターがメインに鳴っていて、LRはすこしフォローする程度です。音楽が鳴ってくると、LRの音量が上がる、というイメージですね。当時は、東宝スコープなどのワイドスクリーンの時代でしたから、音を横長の画に合わせて埋め尽くそうというサウンドデザインだったのではないでしょうか。

樋口:へえええ! 知らなかった、大発見だ! というか、もう次の映画はそれがいいなぁ……5.1chとか、無理してやらなくてもいい気がする……。

森本:当時はモノラルでも、パースペクタでも、音圧勝負なところもあって。光学録音の制約の中、今のサウンドデザインとはコンセプトが違いますね。

森本:映像と違い、音は様々なフォーマットが存在していて。光学録音だけでなく、例えば「モスラ」とか、「影武者」とか、「八甲田山」などは磁気4chもあったりします。

樋口:磁気録音テープの保存状態はどうですか?

森本:デジタイズを行なった時期にもよりますね。テープそのものが残っていない場合もありますし、加水分解でテープがダメになってしまっている事もあります。テープがヨレヨレになって、ヘッドに当たらず、音が拾えなくなってしまう。オーブンに入れて復活させる方法を用いる場合もあります。

樋口:古くてヨレヨレになった6mmの磁気テープをオーブンで低温で焼くと元通りになるやつですね。

森本:ダビングステージで聞いていた音を聞きたいとなると、シネテープや6mmとかになるので、捜索をかけるしかないですね。光学録音は画ネガとセットなので、ある意味見つけやすいのですが。

樋口:そうなると、やはり最後の砦は光学録音か! ところで、ネガのスキャンには、どのような機器を使っているのですか?

森本:digital film technologyの「Sondor resonances」というスキャナーを用いています。以前は、音を取り出すために一度プリントする必要がありましたが、Sondorのおかげでネガから直接取り出せるようになりました。

スキャナー「Sondor resonances」
フィルムに記録されているサウンドトラックを取り込む

森本:ポジでも良いのですが、ネガの方がダビングマザーにより近い音が取り出せます。ポジだと現像によるロスや映写機の再生によるロスが強いからです。ネガの状態から取り出せると、より監督と録音技師さんがダビングステージで作り上げた音に迫る事ができます。

映像のスキャナーにも、サウンドピックアップは付いてますが、音を聞きながら調整できるマシンは少ない。その点、Sondorであれば、サウンドトラックの状態に合わせた調整がかなり細かく行なえます。未来に音を残すには、この機械、音専用のアーカイブ機が必要ですね。

樋口:いやあ、シビれますね!

取り込んだデジタル音声を“整える”「整音ルーム」へ

森本:スキャナーで取り込んだデジタルの音声データは、この整音ルームで粗調整し、最後は試写室にProToolsを持ち込み、微調整を行なっています。整音ルームにはSondorでは抜け出せない音源、例えば6mmだったり、Hi-8だったり、DATだったり。そうした様々なフォーマットの音源が取り出せるように、機材を揃えています。

樋口:これは……?

森本:フィルムからドルビーSR-Dのような、デジタルで記録されている音声を取り出す装置です。今やフィルムに記録されているデジタルの音声をリマスタリングする時代になっています。アーカイブする際デジタルのまま取り出す装置が必要になり、特別に作成しました。

写真中央にある縦長の装置が、フィルムからデジタル音声データを取り出すためのスキャナー

森本:ドルビー音声は規格化されているため、専用の機械を通さないと音が出ません。ただ、そうした機材も古いものしかなく新たに作られているわけではありません。部品のストックもありませんから、機材が壊れる前に、早くフィルムからデータを取り出す必要があります。記録されたままのLt/Rtの音声は、ノイズリダクションデコードは勿論、チャンネルデコードされた4chの音に早くしましょう、と言いたいですね。

実は、デジタルの方が音の取り出しがシビアなのです。残っていると思ってたら、フィルムしか残ってない場合も多い。特にSR-Dの初期の頃は、ProTools等の機材も満足になかった頃なので、WAVファイルデータにもなっていないものも多いのです。

樋口:先日ガメラで使った敵怪獣の音源をDATで持っていったら、DATの再生環境がすでにヤバいのですよね……。

森本:DATはテープに記録されている情報の面積が小さいので、少しでも劣化すると音の欠損がし易いですね。音がミュートされて出なくなり、音が頻繁に途切れる事も多いです。テープだけでなく、デッキも限界があります。20年近くも前の機材がほとんどですし、回転部は摩耗が激しかったり、使用していないと固着していたりしていますね。

光学録音機。定期的にメンテナンスを施し、いつでも稼働できるようにしているという

森本:これが光学録音機です。リボンという金属の薄い板が震えたのを像にして焼き付けます。なぜこの録音機があるかというと、フィルムで残したいからです。

既に日本国内においては、きちんと動く光学録音機が数台しか無いと聞きます。この火を絶やしてしまうと、このような機材を無くしてしまうと、技術だけでなく、フィルムのサウンドトラックの知識も忘れ去られてしまう。

樋口:東宝映画に使われる爆発音は、戦争中に録音したという逸話があるのだけど、あの頃って磁気が無いから、ポータブルの光学録音機があったとか。

森本:ポータブルといっても、それなりの大きさ・重量だったと思います。昔はそのような録音機を現場に持っていって記録していたと聞いてます。そのため、ロケのシーンはアフレコになる場合も多かったと。

樋口:その爆発音は音が足されたりして、今も使われている。継ぎ足し継ぎ足しで、伝統の味を受け継ぐ“うなぎ屋のタレ”みたいなね(笑)。

森本:整音ルームでどのようなことをしているか、少しお見せしますね。音ネガは「さしすせそ」が強く聞こえます。これは光学録音の特性でして。整音時には、一部の帯域を落とす処理を行ないます。あとは、カメラノイズを抑えるのも主な作業の1つです。

樋口:昔の映画を見ていると、カメラの動作音が入っている場合がありますね。

森本:カメラノイズのある帯域部分のみを処理します。セリフのある箇所はとても細やかな作業になります。

樋口:整音前・整音後の音を聞き比べると、音のリマスタリング効果って、非常に大きいですね。整音後は「ブーン」というハムノイズも消えてる。

森本:劇場で鑑賞すると、こうしたノイズがより感じやすい。昔の劇場システムはここまで聞こえなかったかもしれませんが、今はフラットに出てしまいますから、様々な事を考慮しながら整音をしています。

わたしは静かなシーンが好きで。でも最近の多くの映画館は静かなシーンがちゃんと聞こえてこない。隣のスクリーンの音とか(笑)。なので、静かなシーンのバランスが再現できる劇場が増えてほしいなぁ、と。迫力のある音も魅力なんですけどね。

パースペクタ信号を分離するインテグレータ

清水:ちなみに、ここにあるのがインテグレータです。この装置を通して、パースペクタ信号を分離します。黒澤映画のDVDを作るときに新たに作られ、使用されました。映画撮影時に使っていたインテグレータは、世界を探しても無いようですね。

我々が確保したこの装置も当初は壊れていたのですが、製造メーカーを調べたところ、その会社が現存していることが判明しまして。その会社に突撃して、直してもらいました。左側のVUメーターで入力信号、右3つのVUメーターは分離されたLCR信号が確認できるようになっています。

樋口:パースペクタの映画は結構な本数ありますからね。「用心棒」や「椿三十郎」とか。「妖星ゴラス」は、磁気4chとパースペクタの両方があるので、聞き比べてみたいなと思いますね。

森本:磁気4chはチャンネル間のポラリティがおかしくなっている場合もあるため、リマスターはけっこう苦労しますね。「キングコング対ゴジラ」は、チャンネル間のポラリティがセリフ・効果音・音楽毎にしかも違うチャンネル間で逆になっていました。海外の作品でも映画の立体音響の初めにはこのような症状が多いみたいです。最終的に直しましたけど……笑

樋口:いやぁ~、すごい。フィルムで保存することも大事だけど、そこに記録された情報をいかに正確に拾いあげるか、その時代の最新技術であるがゆえに淘汰されがちなフォーマットだったりするから大変なんですよね……。たいへん面白かったです。面白がってばかりじゃダメなんですけど、本当に感謝です。これからもいっぱいの映画を救い出してくださいね!

最後は東京現像所の清水俊文さんと記念撮影。現像所の皆さま、取材協力ありがとうございました!

――なんて楽しい話をしてから数カ月後には、全国の映画館で映画が上映されなくなるという事態になるなんて。何が起こるかわからないのは映画の中だけだと思って、安心して映画を観て楽しんできたし、作る側に回ってもそれが一番楽しいことだったりしてました。

いつまでも同じことが繰り返されることはないとはわかっていたけど、まさかこんなことが起きるとは、いまだに心が受け付けてくれないでいます。

それでも自分はその事態解決に関わる立場ではない、単なる傍観者として毎日を過ごすことしかできません。今なお、目に見えない人類の敵と闘っている大勢の人たちがいます。感染の矢面に立って私たちの暮らしを支えてくれている人たちもいます。

どんな未来が、どんな将来がやってくるのか分かりませんが、かつて、というか今まで、ついこの間まで私たちが見て喜んで楽しんできた色々なものを、同じように楽しんで受け継いでくれるような未来にしたいと心から願います。心から祈ります。

樋口真嗣

1965年生まれ、東京都出身。特技監督・映画監督。'84年「ゴジラ」で映画界入り。平成ガメラシリーズでは特技監督を務める。監督作品は「ローレライ」、「日本沈没」、「のぼうの城」、実写版「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」など。2016年公開の「シン・ゴジラ」では監督と特技監督を務め、第40回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞。