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樋口監督、デノンサウンドバーに寝返り!?「シン・ウルトラマン」を「X4800H」でも堪能

いきなりで恐縮だが、AV Watchの連載記事「地獄の怪光線」でおなじみの樋口真嗣監督は、生粋の“アトモス禍威獣(かいじゅう)”である。

樋口監督が事務所兼創作スタジオをアトモス(Dolby Atmos)化したのは、今から5年前のこと。

はじめは5.1.2chで楽しんでいたが、「モアチャンネル、モアパワー、モアフェディリティ」を求め、徐々にシステムを拡張。前壁に続いて、気合いと根性で天井にも穴を開けてスピーカーを設置したり、デノンのAVアンプ「AVR-X4700H」を導入してサウンド品質を向上させたり、プリアウト出力の2chパワーアンプを追加投入したりして、“漢のロマン”と語る7.1.4chの立体音響システムを昨年完成させた。

今では、BDやUHD BDなどの愛しの円盤視聴はもちろんのこと、配信のアトモスコンテンツなどを、爆音で夜な夜な食す日々を過ごしている。

そんな、樋口監督が庵野秀明氏(企画・脚本)と共に手掛けた長編最新作が、昨年劇場公開された映画「シン・ウルトラマン」だ。

「シン・ウルトラマン」は、オリジナルである「ウルトラマン」の企画・発想の原点に立ち還りながらも、現代日本を舞台に、未だ誰も見たことのない“ウルトラマン”が初めて降着した世界を実写化。ウルトラマンと禍威獣たちとの闘い、そしてウルトラマンと人類の交流を描いた感動と興奮のエンタメ作品となっており、興収44億円ものヒットを記録した。

映画「シン・ウルトラマン」
(C)2022「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C)円谷プロ
シン・ウルトラマン Blu-ray特別版 4K Ultra HD Blu-ray 同梱4枚組
(C)2022「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C)円谷プロ

「シン・ウルトラマン」は今年4月、待望のパッケージ版が登場。しかも“Blu-ray特別版 4K Ultra HD Blu-ray 同梱4枚組”には、4K解像度のドルビービジョン映像とドルビーアトモス音声という、オーディオ・ビジュアルファンの心をくすぐるバージョンが収録された(新作邦画劇映画のUHD BDとしては初)。期間限定上映でしか味わえなかったドルビーシネマレベルの画質・音質が、いよいよ家庭でも味わえる日がやって来た。

これはガチで再生せねばなるまい。そこで、監督の創作スタジオのメインAVアンプ「AVR-X4700H」の次世代機として1月に発売された9.4ch AVアンプ「AVR-X4800H」(313,500円)を用意。

さらに、より手軽なアトモス再生環境として、デノンが今春に発売したサウンドバーセットをスタジオに召集。「シン・ウルトラマン」のアトモス音声を使って、超本格的なAVアンプと、手軽なサウンドバーシステムの両方で実力をチェックしてもらった。

AVR-X4800Hを設置する樋口監督
デノンサウンドバーシステムの実力をチェックした

創作スタジオのメインAVアンプ、世代交代

AVR-X4800Hの価格はミドルクラス。だが、これまでのミドルクラスとは大きく違う。それは内部写真を見るとわかる。小さな基板が9枚、ズラッと並んでいる。この1枚1枚が、パワーアンプ基板だ。

AVR-X4800H
AVR-X4800Hの内部
同一のアンプ基板が9個ズラッと並んでいる

今までのAVR-X4700Hは、5chと4chの基板に分けた2枚構成で、こうした構成はミドルクラスAVアンプでは一般的。対して、X4800Hのように独立した基板にすると、電源供給もそれぞれ独立させる事ができ、チャンネル間の干渉、クロストークを排除できる。ただ、当然ながらコストも、製造の難易度も高くなり、通常はハイエンドモデルしか使えない手法だ。

しかし、円安などもあり、X4800Hは福島県にある白河ワークスで作られる国産となり(X4700Hベトナム工場製)、それならばとハイエンド機種で培った技術が大量に投入。その結果、「チャンネルを減らしたハイエンド機」「9.4chアンプの最高峰モデル」として誕生したのがAVR-X4800Hというわけだ。

さらに、パワーアンプは9ch分だが、最新のDSP「Griffin Lite XP」を採用する事で、信号処理能力としては上位機に匹敵する11.4chプロセッシングが可能。背面には11.4chプリアウトも備えるなど、監督の創作スタジオに向いた能力を備えている。

AVR-X4800H

とはいえ、ポジションとしてはこれまでのX4700Hと同じミドルクラス。監督も「そんなに違わないのでは?」と思っていたようだが、X4800Hを音を出して見ると……。

「X4700HとX4800Hとでは、情報の濃密さが全然違いますね。X4800Hは音が凝縮されているというか、密度も高いし一つ一つのキレというかスピード感も違う印象です。音場も広くて、聴いていて気持ちがよいからついつい音量を上げたくなってしまう。予想以上の違いを目の当たりにして、まさに今は“パンドラの箱”を開けてしまった感覚です」と頭を抱える樋口監督。

「一度X4800Hを聞いてしまったら、もうX4700Hに戻すことなんでできませんよ。取材と言えど、ホントどうしてくれるんだ、って気持ちになっています」と、後継機の変貌ぶりに、完全に打ちのめされてしまった様子だ。

X4800Hのボリュームノブを愛おしそうに触る姿は、すっかり心を奪われてしまった乙女のようである。

恋する樋口監督

サウンドバーとリアスピーカーならではのサラウンド体験

衝撃的な進化を見せつけた、AVアンプ「AVR-X4800H」。

だが、AVアンプとスピーカーを何台も用意するホームシアターか、なかなかハードルが高い。そこで、アトモスをより手軽に、かつ本格的な音で楽しめるのがサウンドバー「DENON HOME ワイヤレスサラウンド・スタートセット」だ。

本機は今年3月に発売した商品で、ドルビーアトモス/DTS:X対応サウンドバー「DENON Home Sound Bar 550」と、小型ワイヤレススピーカー「DENON Home 150」(2台)が1セットになったモデルだ。価格はオープンプライスで、店頭では現在12万円前後で販売されている。

DENON HOME ワイヤレスサラウンド・スタートセットは、サウンドバー「DENON Home Sound Bar 550」と、小型ワイヤレススピーカー「DENON Home 150」(2台)が1セットになったモデル

実はこのセットモデル、これまでそれぞれ単品で発売していた製品を1パッケージにしたもの。もちろんサウンドバーとワイヤレススピーカーをそれぞれ別々に購入する事もできるが、セットの方が数千円も安く購入できるのがポイントだ。

ただ、セットモデルの本当の魅力はその“お得さ”ではなく、サウンドバーとワイヤレススピーカーの組み合わせでしか得られないサラウンド体験やその手軽な接続・設置性にある。

サウンドバーのDENON Home Sound Bar 550は、外寸650×120×75mm(幅×奥行き×高さ)という比較的小型サイズに6基の真円形状ユニットを搭載。しかも全ユニットを個別のアンプでドライブするという、音質最優先のチャンネル独立駆動型を採用している。

加えて、ドルビーアトモスやDTS:X、MPEG-2 AAC、MPEG-4 AAC、リニアPCMなどの主要サウンドフォーマットを網羅。Wi-Fiも内蔵し、Bluetooth受信も可能。

ネットワーク音楽再生の「HEOS」にも対応し、Amazon Music HD、AWA、Spotifyが楽しめるほか、AirPlay 2や、Alexaからの音声コントロールもサポートも行なえる……など、サウンドバー単体としての性能・機能的に抜かりはない。

DENON Home Sound Bar 550
背面端子

こう書くと、「DENON Home Sound Bar 550だけでいいじゃない」とも一瞬思ってしまうが、テレビの前に置いたサウンドバー1本だけでは、真横や後方の音の再現にどうしても限界があるのも事実。

そこで“その限界を手軽にカバー”するためのアイテムが、セットで一緒に付いてくる2台のワイヤレススピーカー「DENON Home 150」。これを視聴位置の後ろ側(左右)に置いて“リアスピーカー”として使用することで、音場再現を一気に高めるわけだ。

DENON Home 150。セット本体には、2個付属している

しかも、サウンドバーと前述の2台のワイヤレススピーカーは無線で接続されるため、部屋の中に長いスピーカーケーブルを通す必要がない。サウンドバーとテレビをHDMIケーブルで接続し、後方に置いたワイヤレススピーカーの電源コードをコンセントに差し込むだけで接続が完了。あとは、専用のリモコンアプリ「HEOSアプリ」でサウンドバーとワイヤレススピーカーをグルーピングするだけで、3台のスピーカーによるリアルサラウンドが楽しめるようになる。

2台のワイヤレススピーカーは、単体のスマートスピーカーとしても使用可能。例えば、普段はダイニングや寝室で音楽再生に使って、映画やゲームを迫力あるサラウンドで楽しみたい時だけリビングに移動させて、リアスピーカーとして使うことができる。

背面

また、さらなるサラウンド体験を求めるユーザー用として、別売の専用サブウーファー(「Denon Home Subwoofer」)も用意。サブウーファーをシステムに組み込めば、低音を増強しつつ、システム全体の高音質化も行えるようになっている。

サウンドバーに対するイメージが変わった

というわけで、樋口監督の創作スタジオにDENON HOME ワイヤレスサラウンド・スタートセットに持ち込み、映画「シン・ウルトラマン」の4K Ultra HD Blu-ray版を試聴してもらった。

冒頭でもふれた通り、樋口監督は12本のスピーカーで7.1.4chのサラウンドを夜な夜な楽しむ、いわゆる“ガチ勢”。そのため試聴前は、ワイヤレスリアがあるとはいえ、サウンドバーのサラウンドは「『そんなに凄くはないだろう……』というイメージを持っていた」という。

ところが――

「サウンドバーが割と小柄なボディなのに、パワフルな音と低音が出てビックリしました。セリフも明瞭だし、何より後ろにリアスピーカーを追加する事で、(サウンドバー1本の場合と比べて)空間の包囲感というか、音の密度感、サラウンドの再現性がまるで違いました。3本のスピーカーに囲まれた“サラウンドの箱庭”の中で、音が周辺に配置されている様子が分かるんです」。

「音が空間の中を動く様も、明確でした。例えば、映画冒頭のウルトラマンが降着する際に発生する爆風やメフィラス戦で放つウルトラスラッシュなど、効果音が右から左、前から後ろへと移動するのがハッキリと感じ取れます。このシステムでしばらく聞いていると、『これでいいんじゃん?』なんて気持ちにも一瞬なってしまうくらい(笑)。サウンドバーでもこのレベルまでサラウンド感が再現できるのだなと、認識を新たにしました」と、サウンドバーに対するイメージが変わったことを告白。

映画「シン・ウルトラマン」
(C)2022「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C)円谷プロ

高さ方向の再現についても「このサウンドバー、天井に向けたスピーカーはついてないんですよね。けれども、ネロンガが電力設備を破壊する際の効果音や、ゾーフィとウルトラマンのプランクブレーン内での対話など、音が上の方で鳴っている様子が再現できていて驚きました。『あ、ちゃんと上で回ってる』って」。

「それにアトモス音声から通常の5.1ch音声へ切り替えると、高さ方向の空間が急に狭まってしまう事がはっきり分かるのも、このシステムがアトモス対応できていることの証なのかなと思います。やはり一度アトモスの空間の広さを味わってしまうと、もう後には戻れないですよ」と、バーチャルながらもアトモスの高い再現性に驚いた様子だった。

誰でも手軽に“本気”が味わえるサウンドバー

監督がもう1つ驚いたという出来事が、スタジオにしばらく設置していたサウンドバーに対する周りの反応だったという。

「実は、このシステムをしばらくスタジオに置いていたら、来訪者の多くから『これって何ですか?』と尋ねられたんです。『これはサウンドバーとワイヤレススピーカーのセットで、この3本で手軽にサラウンドが楽しめるんだよ』と伝えると、『スピーカーを前や後ろや天井に何台も置かなくていいんですね』だとか、『サイズがコンパクトでいいですね』だとか、『(リアスピーカーを)結線しなくていいのが凄く魅力的』といった反応で、皆からすごく好評だったんです。サウンドバーのすぐ後ろに置いてあった僕のAVアンプには、興味を示してくれなかったんですけど(苦笑)」。

映画「シン・ウルトラマン」
(C)2022「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C)円谷プロ

そんな反応を目の当たりにして、「同居人に怒られずに折り合いを付けるというか、リビングのような普段の生活環境の中に置くサラウンドシステムとして、このカタチってアリなのかもしれない」と、監督は感じたという。

「だって、3本のスピーカーでアトモスのサラウンドも楽しめるし、映画などを楽しむための音の迫力も十分。それなのに、リアスピーカーの設置は電源ケーブル以外は有線で繋がなくていいだなんて、とても手軽じゃないですか。それに、このサイズであれば、サウンドバーとワイヤレススピーカーをラジカセ感覚で抱えて友人や知人の家へ持って行ける。そうしたら、サラウンドやアトモスの布教活動にも使えますよね(笑)」。

「このサイズであれば、ラジカセ感覚で抱えて友人や知人の家へ。サラウンドやアトモスの布教活動にも使えるよね」と樋口氏

そして、サウンドバーセットに対しては、「個人的には、漢のロマンの、リアルなサラウンドやアトモスを楽しむ仲間が増えて欲しいなという気持ちは正直あるんです。でもそれはハードルが高いということも分かってます。けれど、このサウンドバーセットなら友達にもお勧めできるなと思いました。いい音で楽しみたいという方はもちろんなんですが、オーディオビジュアルにそれほど“本気”じゃない方でも、これがあれば、誰でも手軽に“本気”のクオリティを手に入れられるモデルですね」と感想を話した

樋口監督渾身のアトモス作品「シン・ウルトラマン」を堪能あれ

日本の著名な映画監督の中で、自宅等にアトモス環境を構築している人は「もしかしたら、俺だけ? かもしれない…」と少し寂しそうに話す、アトモス禍威獣の樋口監督。

事実、劇場向けのアトモスデータをミックスできるのは、国内でもまだ数か所。パッケージ版の「シン・ウルトラマン」は、樋口監督たっての希望でドルビービジョン・ドルビーアトモスとい仕様で収録が叶ったが、(海外の映画やドラマ作品と異なり)邦画作品におけるアトモスのラインナップは、まだ道半ばという状況だ。

その一方、テレビやAVアンプ、サウンドバーなどのAV機器ではアトモス対応が当たり前になりつつあり、その性能や機能、使い勝手もどんどん進化している。

今回取り上げたAVアンプAVR-X4800Hは、家庭内で楽しめるアトモスサウンドの1つの究極を体験させてくれる。同時に、DENON HOME ワイヤレスサラウンド・スタートセットは、その“美味しいところ”を、使いやすく、邪魔にならないサイズで味わわせてくれる、それぞれに魅力を備えた製品だ。

設置場所の制約でマルチチャンネルを諦めてきた方も、テレビのスピーカーやサウンドバー1本で楽しんできた方も、アトモスをまだ体験したことが無い方も、DENON HOME ワイヤレスサラウンド・スタートセットで、樋口監督渾身のアトモス作品「シン・ウルトラマン」を味わってみてはいかがだろうか。

そして、既にAVアンプを使っている、またはサウンドバーから本格的なAVアンプへステップアップしたい人は、ハイエンドなシアターの世界を、現実的な価格で楽しめるAVR-X4800Hに要注目だ。