レビュー
NEWSの名曲「チャンカパーナ」に合うイヤフォンは? 1万円以下の完全ワイヤレス4機種で聴き比べ
2025年3月18日 08:00
“チャンカパーナ界隈”にいる君へ
あれは2024年末のこと。SNSで突如、“チャンカパーナ界隈”という言葉がトレンドになったのをご存知だろうか? 男性アイドル「NEWS」が2012年に発表した楽曲「チャンカパーナ」にまつわる、ある種の概念の言語化である。
NEWSの14枚目のシングル曲であり、今や同グループの代表作となっている「チャンカパーナ」は、リリースから13年近くを経てなお、“謎の中毒性”を持つ楽曲としてJ-POP界に君臨している。正直、タイトルも歌詞の内容も、色々と不思議な曲だ。
しかし、「なんだこのトンチキなヤツは……」と軽い気持ちで曲を再生しようものなら最後。NEWSメンバーの伸びやかな声と並走するエキゾチックなサウンドの勢いと、楽曲全体から溢れるインド映画のような謎のエネルギッシュさに飲み込まれ、ひたすらヘビロテしてしまうのだ。
2024年9月15日にNEWS楽曲のサブスクが解禁されたのを皮切りに、どうもこの状態に陥った人が多かったようで、Apple MusicやAmazon Musicなど各種サブスクの再生ランキング(日本)では、同曲が長期間TOP10入りを果たしていた。
そしてこれと並行するように、NEWS公式アカウントのSNS投稿によって“チャンカパーナ界隈”というワードが同年末に爆誕。それまで人々の潜在意識下にあった、“NEWSのディープなファンではなくとも「チャンカパーナ」だけは異様に好き”という感覚が表立って言語化されたことで、「そうか、私は“チャンカパーナ界隈”だったんだ」と自覚する人が続出し、最終的にSNSで “チャンカパーナ界隈”がトレンド入りするに至ったのである。
読者の中にも、ここで自分が“チャンカパーナ界隈”であることを自覚した人は多いのではないか。そこで今回は、この“謎の中毒性J-POP”「チャンカパーナ」を試聴曲にして、完全ワイヤレスイヤフォンをご紹介してみたい。つまり、「チャンカパーナ」の聴き心地のみでイヤフォンをレビューするというチャレンジ企画だ。
企画上、本記事が一般論としてイヤフォン選びの参考になるかは、正直わからない……が、“チャンカパーナ界隈”の皆さんに対しては、全力で美しい恋にすることを約束する。
深夜バスで君を見た
さてこの「チャンカパーナ」、男性アイドル楽曲の世界においては、伝統の“トンチキソング(=すごく真面目なテイストだが、よく聴くと実は何を歌っているかわからない曲)”に位置づけられる1曲と言える。レビューに入る前に、その世界観と聴きどころについて語りたい。
第一に多くの人が惹きつけられるのは、タイトルの「チャンカパーナ」という謎の響きだろう。実はコレ、作詞家による造語らしい。意味合いとしては、“愛しい人”を指す言葉として生み出されたという。
しかし、そう聞いても「そうなんだ……でもなんで“チャンカパーナ”っていう響きになったんだろう」とうっすら思う人は多いのではないか。この“由来がないゆえ答えを持たないタイトルの謎”は、多くの人が本曲に惹きつけられてしまう要素のひとつだと思う。
続いて歌詞を読むと、どうやら男女の出会いに始まる心の機微を綴った内容であることがわかる……が、一行目の出だしからいきなり「深夜バス」という、ワンナイトラブを歌うにしては少々渋いワードが飛び出してきて、コレどういう話……? と謎が膨らむ。
そしてメロいBメロを経て勢いのままサビの「チャンチャンチャンカパーナ チャンカパーナ」にノリノリで突入して、気づけば1曲聴き終わっているという具合だ。
このワードセンスとサウンドの相乗効果で一気に聴かせるあたりがスゴいのだが、歌詞について調べてみると、ジャック・ケルアックの小説「オン・ザ・ロード」へのオマージュなのではないか? との指摘で、リリース当時にネットを中心に話題になっていたことがわかった。
確かに「オン・ザ・ロード」(河出書房新社/青山南による2007年新訳版)に目を通すと、「チャンカパーナ」の歌詞と言葉のモチーフに共通点が見られ、自分もオマージュの線は濃いのではないかと思っている。
1950年代にアメリカ大陸を横断する旅を描いたケルアックの文章(を日本語訳したもの)が、2012年にJ-POPアイドル楽曲の歌詞に転生した……という見方ができるなら面白いし、個人的にこういうのは大好きだ。あとLA行きのバスを日本の深夜バスに置き換えたのが熱い。
何より素晴らしいのは、ここまでいろいろな周辺情報を知ったとて、最終的に「なんで“チャンカパーナ”なんだろう?」と最初の謎に戻ってこれることだ。結局「チャンカパーナ」という不思議な響きのタイトルが付いた時点で、本曲が“謎の中毒性J-POP”として唯一無二の存在感を誇る未来は約束されていた。
そんなわけで少々長くなったが、本曲の聴きどころは、これらの背景情報を含む世界観の表現だ。NEWSメンバーの歌声の質感や距離感と、アグレッシブなエキゾチックサウンドの“チャンカパーナ的世界観”。この辺を軸に、イヤフォンをレビューしていこう。
もう ジン ジン 燃えている
みなさんご存知のとおり、完全ワイヤレスイヤフォンの世界は近年、大きな盛り上がりを見せている。しかしあまりにも注目製品が多すぎるので、今回は“1万円以下で買えるコスパの良いモデル”をテーマに絞り込み、AV Watch編集部で4機種をセレクトしてもらった。以下、モデルごとに紹介する。
プレーヤーは筆者の私物であるスマートフォン・Google Pixel 8aを使用して、Amazon Musicで「チャンカパーナ」(HD音源 44.1kHz/16bit)を再生した。
・ag「COTSUBU MK2+」
1機種目の「COTSUBU MK2+」は、パステル調のカラーが目を惹く超コンパクトなイヤフォン。累計50万台販売した既存モデル「COTSUBU MK2」にマルチポイント機能を追加した新機種として、2025年1月に発売された。
本体重量3.5gという極小設計を採用していて、耳から飛び出さないディープフィット設計によって遮音性も高めている。対応コーデックはSBC/AAC。丸みのある本体形状が可愛いし、実際に装着性も高い。
独自開発の粉雪塗装仕上げによるサラサラの手触りも良く、7種類のカラバリから選べる楽しさもあり、見た目だけで言うと本機が優勝だ。ノイズキャンセリング機能などは非搭載だが、約7,000円の価格帯からいってそれも妥当。
早速「チャンカパーナ」を鳴らしてみると、優しく太い低音が印象的。ドライバー口径などは非公開のようだが、低音の輪郭が太く、本曲のエキゾチックな空気感を濃ゆく聴けるのが結構オツだった。濃いのだが、鋭さや勢い方向の音ではなく、全体的にジェントルでまとまりがある。
だからといって音が平坦というわけではなく、ボーカルはやや遠目でありつつバックミュージックとの位置関係もちゃんと感じられるのが良い。引っかかりが少ないので、スムーズに聴きやすいのもポイントだ。
・Anker「Soundcore P40i」
2機種目の「Soundcore P40i」は、約8,000円の完全ワイヤレスながらノイズキャンセリング機能や外音取り込みにも対応するなど、機能面でコスパの高さが光る1台。マルチポイント接続や、アプリを使ったカスタマイズやイコライジング機能、ゲーミングモードも搭載している。
対応コーデックはSBC/AAC。丸みのあるミニマルデザインな充電ケースは、スマホスタンドにもなる。
さらにバッテリー駆動時間はイヤフォン単体で最大12時間、充電ケース併用で最大60時間(いずれも標準モード使用時)に対応する強力仕様で、モバイルバッテリーを手がけるAnkerらしさも垣間見える。
内部には、11mm口径のドライバーを搭載。音を聴くとわかりやすいドンシャリサウンドで、低音の押し出し感が強く、とにかく勢いがある。上述のCOTSUBU MK2+が、低音が太くてジェントルなイメージだったのに対し、Soundcore P40iの方が鋭さがある方向で、ズンズンと低音をアピールしてくる感じだ。
「チャンカパーナ」はエキゾチックなディスコサウンドっぽく表現され、曲が持つインド映画的なエネルギッシュさが強く感じられて、これはこれで良い。ボーカルの距離はすごく近いわけではないのだが、強い低音に埋もれず聴こえやすくて◎。
・SOUNDPEATS「Air4 Pro」
3機種目の「Air4 Pro」は、Qualcommの高性能チップ「QCC3071」を採用し、「Snapdragon Sound」に準拠したモデルだ。Bluetoothコーデックは通常のSBC/AACのほか、通信状態に応じてビットレートを自動調整するaptX Adaptiveと拡張機能のaptX Losslessをサポートし、ロスレスクオリティや96kHz/24bitのハイレゾ相当のデータ伝送に対応する。
さらにノイズキャンセリング機能や外音取り込み、マルチポイントや低遅延モード、アプリからのサウンド調整機能も搭載しており、8,000円台中盤のイヤフォンとしてはコスパが高い1台と言える。丸みのあるコンパクトな充電ケースも手に馴染みやすくて好感触。
内部には、独自開発のバイオセルロース複合振動板を採用した、13mm口径のドライバーを搭載する。「チャンカパーナ」を再生すると、全体的にバランスが良く、バックミュージックの高音が綺麗なのが印象的。楽曲の持つアクの強さは少し薄れ、代わりにキラキラとエモい雰囲気で聴ける感じだ。
低音ズンズン系ではないが、リズムのキック感が爽快で、エネルギッシュな空気感もちゃんと伝わってくる。ボーカルの中域も聴こえやすく、メンバーによる「美しい恋にする」の一連のセリフが艶っぽいし、ラストの「チャンカパあナああああああ!!!」のシャウトも綺麗に伸びる。
・Earfun「Air Pro 4」
4機種目の「Air Pro 4」は、 Qualcommの最新チップ「QCC3091」を採用するイヤフォンで、業界最新のBluetooth5.4をサポートし、上述のAir4 Proと同じ「Snapdragon Sound」に準拠している。しかもaptX AdaptiveとLDACに両対応しており、aptX Losslessもフォロー。さらにLC3やLE Audio Auracastにも対応するという盤石ぶりだ。
もちろんノイズキャンセリング機能やマルチポイント接続にも対応し、アプリからのサウンド調整も行なえる。バッテリー駆動時間もイヤフォン単体で11時間、充電ケース併用で最大52時間(いずれも通常モード時)に対応する強力仕様。このスペックで価格は9,990円と、ギリギリ1万円以下で購入できるのはかなり最強に思える。
内部には10mm口径のドライバーを搭載。「チャンカパーナ」を再生してみると、まず全体的に見通しが良く、キレのあるサウンドで好印象だ。低域の量感が適度にありつつ、中〜高域も聴きやすくて、とにかくバランスが良い。
ボーカルの再現力もあり、メンバーそれぞれの歌声の個性・質感まで伝わってくる。楽曲が持つポテンシャルが、ストレートに表現されているイメージだ。勢いというよりは、「チャンカパーナ」の世界と距離が近くなる感じ。
聴き手の中でその世界の解像度が上がって、エキゾチック感を作り出す各メンバーの歌声から、直接エネルギッシュさを受け取れるとでも言おうか。シンプルに“1万円前後の良質なイヤフォン”としてもオススメしたい1台だった。
約束するよ、チャンカパーナ
もはやこの原稿で何回「チャンカパーナ」と書いたかわからないが、今や筆者のパソコンはキーボードでc・h・a・nを打った時点でスラッと「チャンカパーナ」をサジェストしてくれるまでにはなった。
さて、今回取り上げた4機種のイヤフォンは、それぞれに「チャンカパーナ」という楽曲の魅力を引き出し、筆者のリスニングタイムを美しい恋にしてくれた。「愛は決闘だから」とは、上述の「オン・ザ・ロード」に出てくる言葉だが、オーディオ趣味もある種、自分の理想の音と対峙する情熱のバトルみたいなものだから、“チャンカパーナ界隈”の皆さんが今後イヤフォンを選ぶ際の参考になれば幸いだ。