トピック

“LUMIXは動画に強い”その理由は何か。S1H/S5/BGH1どれを選ぶ?

変わる動画撮影のスタンダード

“動画を撮る”といえば昔はビデオカメラだったものだが、今となってはデジタル一眼がビデオカメラの性能を追い越してしまった感がある。その中でもパナソニックのLUMIXは、動画撮影機能強化に取り組んだのが早かった。2009年発売のGH1では、デジタル一眼ではじめてフルタイムAFを搭載。絞りやシャッタースピードをマニュアルで操作できるなど、当時ビデオカメラでもなかなかできなかったフルマニュアル撮影を実現した。

以降GHシリーズは、「動画一眼」としての地位を確立していく事になる。もちろんこのDNAはフルサイズのDC-Sシリーズにも受け継がれ、現在に至るというわけである。

気軽に撮影できるという事ではスマートフォンで動画撮影する人も多いが、“光学ズームができない”、“動画では背景が思うようにぼかせない”といった欠点がある。また撮影中にSNSやメッセンジャーでのお知らせが届いたりして、おちおち撮影もしていられないという気ぜわしさがある。外出する機会が貴重になりつつある今、せっかく動画を撮影するならデジタル一眼を持っていきたいところだ。

加えて昨今、リモート会議が増加し、パソコンのカメラで自分を撮るという機会も多い。しかしパソコン内蔵カメラの性能はスマートフォンにも遠く及ばず、どうにかならないかと思っている方も多いと聞く。そして、自分のデジカメを使ってリモート会議に参加しているという方も出てきている。

カメラは映像を伝える装置であるが、その使われ方は急激に変わってきているのを感じる。

「動画に強い」とは何か

デジタル一眼において「動画に強い」というのは、具体的にどういうことなのか。ポイントごとにご説明しよう。

  • 【1. 多彩なレンズ群でバリエーションが出せる】

一番のポイントは、多彩なレンズが使えるということである。GH1以降のマイクロフォーサイズだけでも41本のレンズ(生産完了を含む)がある。多彩なレンズ群は、単に焦点距離のバリエーションだけでなく、明るさと表現力、さらに重量やサイズなどの面で幅広い選択肢があることを意味する。

フルサイズのSシリーズ用Lマウントレンズもすでに8本がラインナップされている。フルサイズ動画は、その浅い被写界深度ゆえのボケを生かした表現力で、まるで写真のような動画が撮れる面白さがある。

豊富なレンズ群
  • 【2. 動画ならではのAF動作】

AF動作も重要だ。動画においては、撮影中に被写体との距離が変わることが多く、ターゲットへの追従性が課題になる。例えばカメラ前を誰かが横切っても特定の被写体を追従し続けるのか、あるいは次の被写体に素早く反応できるのか。LUMIXではそのバランスを自分で調整できる。

AFの反応を自在にコントロール

フォーカスの話が出たところでついでにお話ししておくと、レンズ設計において、写真では問題にならなかった部分が動画では問題になることがある。例えば「フォーカスブリージング」だ。これはフォーカスを変えると画角まで変化してしまう現象で、レンズの設計によってはこうした現象が見られる。

一方パナソニックのレンズ、特にSシリーズのレンズはフォーカスブリージングを抑え込んだ設計となっており、フォーカス送りのようなテクニックを使っても、ナチュラルな映像が撮影できる。

  • 【3. マニュアルフォーカス撮影も快適】

さらに、マニュアルフォーカス時には、フォーカスリングの回転動作が設定できる機能がある。「ノンリニア」はリングを早く回すことでフォーカス移動量が大きくなる設定で、多くのミラーレスはノンリニアしか採用していないものが多い。一方「リニア」は回転速度と関係なく常に一定の変化量なので、フォーカス送りのスピードを変えても、常に同じ角度だけ回せば確実に追従できる。リハーサルと本番で、同じフォーカス送りがしやすいわけだ。

フォーカスリング動作はリニア・ノンリニアに変更可能

さらにパナソニックのレンズ、例えば「LUMIX S PRO 50mm F1.4」には、フォーカスリングのスライドで2通りの動作ができる「フォーカスクラッチ機構」が搭載されている。AFとMFの切替スイッチみたいなもので、目盛りが見えている時にはリニア動作に、見えていないときはノンリニア動作に切り替えて使うという方法もある。

またリニアでも、動作を「最大」にセットしておけば、目盛りが見えているリニア動作で素早くフォーカスを近くまで寄せておき、「リニア最大」側に切り替えてフォーカスを微調整するなど、車のクラッチに似た動作も可能だ。

後述する長時間記録とカスタマイズ可能なフォーカス操作は、ドキュメンタリー撮影でも威力を発揮するはずだ。

「フォーカスクラッチ機構」を使えば、2スピードでフォーカシングができる
  • 【4. 連続撮影時間】

カメラ選びで注意したいのが、動画撮影の時間制限である。デジタル一眼では、連続で30分以上動画撮影できないモデルがまあまああるのだ。“1カット30分もカメラ回さないよ”と思われるかもしれないが、例えばスポーツや演劇の撮影、インタビュー収録では、ノンストップで30分以上回すことはザラにある。

この30分制限、元を辿れば昔はEU側の関税の都合で連続動画撮影時間を制限したカメラが多かったのだが、関税が撤廃されてからも30分の制限は残った。

この理由は、主に動画を前提とした放熱設計にある。厳しい条件下で大型センサーと画像処理エンジンを連続で動かすと、どうしても放熱処理が問題となる。それゆえ、多くのモデルではだいたい30分ぐらい撮れればいいんじゃないか、として設計されている。

しかしLUMIXの「DC-S1H」や「DC-BGH1」では、すべてのモードで時間制限なしを実現した。小型フルサイズの「DC-S5」も、4K/60pと4K/10bit撮影時のみ制限があるだけで、他のモードでは時間制限がない。これは入念な放熱設計によるもので、オーバーヒートしないカメラだけが、30分の壁を越えられるのだ。

入念に放熱設計されたDC-S1Hのボディ

話題の3モデル、それぞれのお勧めポイント

フルサイズのLUMIXことDC-Sシリーズは、2019年3月の「LUMIX S1」及び「LUMIX S1R」からスタートした。そして同年9月、動画撮影に最適化されたフルサイズ「LUMIX DC-S1H」が登場。以降、フルサイズもマイクロフォーサーズも、動画に強いモデルが次々と登場している。今回は特に動画撮影に強い「DC-S1H」、「DC-S5」、「DC-BGH1」をピックアップして、それぞれの強みを解説しよう。

  • 【DC-S5】

ハイクオリティな4K動画に興味がある方やビデオクラファーなど、幅広い層にお勧めできるのがDC-S5だ(オープンプライス/実売約24万円)。フルサイズ機としてはS1シリーズに続くモデルである。S1Hの機能を凝縮したボディサイズはマイクロフォーサーズ機とあまり変わらないコンパクトさで、ハンディ撮影でも取り回しが楽だ。

同じフルサイズながらS1H(右)の機能をコンパクトに凝縮したS5(左)
フルサイズズームレンズと合わせても軽快に撮れる

動画撮影は、フルサイズ撮影時では最高で4,096×2,160ドット/29.97p/4:2:2/10bitで撮影できる。シネマライクな映像の制作にも十分だ。また、センサー出力はAPS-Cサイズにクロップされるものの、このサイズで4K/60p撮影が可能な点も大きい。

今回は4K/60pでHLG撮影してみた。HLG対応テレビにHDMIで繋げば、気軽にHDR映像を楽しむことが出来る。また4:2:0/10bitの広帯域記録は、SDR用に変換する際にも十分なSNを確保できる。

「DC-S5」で撮影したサンプル。4K/60p/HLGで撮影

また名機GH5Sで初搭載された「デュアルネイティブISOテクノロジー」は、今回紹介する3モデル全部に継承されている。これは低ISO感度用と低ノイズ・高ISO感度用の2系統の専用回路を搭載し、撮影環境に応じて自動で切り替えるので、特に設定など気にすることなく、存分に暗所撮影が行なえるという心強い機能だ。

V-Log撮影時はISO 4000以上で高感度回路に切り替わるが、ISO 3200と比較すると、感度を上げているのに暗部ノイズは逆に減っているのがわかる。

デュアルネイティブISOテクノロジーの動作
ISO 51200で撮影してもこのSN比の良さ
  • 【DC-S1H】

DC-S1H(オープンプライス/実売約55万円)のポイントは、優れた放熱設計による長時間撮影と、6Kシネマ撮影まで対応できる幅広い録画モードだ。6Kで撮影しておけば、編集時に不要部分をクロップしても、4K解像度が確保できる。多くのプロ用シネマカメラが6Kをサポートしている理由がこれだ。

今回は一部のショットで6K撮影し、クロップしているが、4K撮影のショットと違和感なく繋がっているのがご覧いただけるはずである。

放熱設計に優れたDC-S1H
最高6Kでの撮影が可能

サンプル動画では10bitのダイナミックレンジを利用して、V-Logで撮影を行なってみた。V-Logとは、センサーから得られる映像のダイナミックレンジを最大限保持する記録方式。撮影後にカラーグレーティングすることで、HDR化したり、雰囲気のある色味に作り替えたりといったことが可能になる。またハイスピード撮影にも対応しており、1台で多彩な表現が可能になるのも魅力だ。

DC-S1Hで撮影したサンプル。V-Logで撮影後、カラーグレーディングで作品に仕上げた

また、ミラーレスでは珍しい「10bit」のモードが豊富なのも魅力だ。シネマカメラ「VARICAM」と同じガンマカーブなので、プロ機の中に混ぜても同じLUTでカラーグレーティングできる。

さらも、S1HとS5では動画撮影中、モニターに赤枠を表示できる。モニターを見れば録画しているかどうか確実にわかるので、「録画ボタンを押したつもりが、録画がスタートしていなかった」というミスを防げる。

S1Hで動画撮影中のモニタ。赤枠が表示されている
  • 【DC-BGH1】

DC-BGH1(オープンプライス/実売約25万円)の魅力は、なんといってもその「振り幅の広さ」であろう。ボディに多数あけられたUNC1/4インチねじ穴により、アクセサリを付けて本格撮影用大型カメラにビルドアップできるだけでなく、全部を取り外せば手のひらサイズにまで小さくできる。マイクロフォーサーズの多彩なレンズで、どんな撮影環境にも適応できる柔軟性が魅力だ。

GHシリーズの新機軸ともいえるボックスカメラ「DC-BGH1」

ボディにはモニターがないが、スマートフォンアプリ「LUMIX Sync」を使ってのモニタリングや撮影のスタート・ストップ、設定変更などがリモートで行なえる。ワンマンでの2カメ撮影でも重宝するはずだ。

最小構成ではこのサイズ

さらにPC向けソフトウェア「LUMIX Tether for Multicam」を使えば、最大12台のDC-BGH1を、1台のPCから制御できる。PCと各カメラをPoE+対応HUBで接続すれば、ケーブル1本で電源供給まで可能だ。少人数によるマルチカメラ撮影や、バレットタイム(タイムスライス)撮影でも重宝する機能である。

同じくPC向けの「LUMIX Webcam Software」を使えば、超高画質Webカメラとしても利用できる。モニターもないコンパクトボディは設置も簡単で、ボケ味も含めて高級感のある映像が配信できる。

今回はZoomによる配信を想定して、DC-BGH1と一般的なWebカメラでの違いをご覧いただければと思う。DC-BGH1ならズームレンズも使えるので、カメラ設置位置に関わらず望んだ画角で撮影する事ができる。また背景のナチュラルなボケもあるので、背景まできっちり作り込む必要もないのがメリットだ。

一方Webカメラでは、画角が広くてもズームできないので、必要のない背景がかなり広範囲で入ってしまうことや、背景までフォーカスが合ってしまうので、背後をかなり綺麗に片付けないといけないこと、また肌色の発色や質感などが劣るなど、比べてみると大きな違いがある。

DC-BGH1を使ったZoom会議映像のサンプル。一般的なWebカメラとクオリティの違いに注目

リモート会議だけでなく、最近は有料ウェビナーも盛んになってきているが、業務でのライブストリーミングなら、これぐらいの画質で提供したいところである。

「動画も撮れる」どころではない、LUMIXの動画設計

今デジタル一眼カメラで、動画撮影機能がないカメラというのはほとんどないと言っていい。だが元々は静止画を撮るためのカメラで、プロにも通用する動画を撮るとなると、専用の設計が必要になる。

元々ミラーレスは、ビューファインダーやモニタの映像を直接センサーからリアルタイムで取りだしているので、構造的にはビデオカメラに近い。動画撮影機能は強化しやすいのだ。LUMIXは早くからここに気づき、妥協のない動画撮影に向けて取り組んで来た。

現在でも名機との誉れ高いGH4、GH5から得られた知見と、プロ用カメラ「VARICAM」シリーズで培われた技術を合流させ、ハイアマからプロまで、動画クリエイターに自信をもってお勧めできる最新モデルが、上記3機種だ。

動画カメラとしての完成度の高さを、ぜひ皆さんにも体験していただきたい。