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JBL TOUR PRO 2を超える? ディスプレイ付きLDAC対応で低価格“下剋上イヤフォン”「JBL LIVE BEAM 3」

JBL LIVE BEAM 3のブルー

あのJBL定番イヤフォンに下剋上モデル登場!?

最近、友人・知人から「いい感じの(完全ワイヤレス)イヤフォンが欲しいんだけど……」と相談を受けた時に、オススメしているのはJBLの「TOUR PRO 2」だった。装着感が良いのと、充電ケースに搭載したディスプレイでバッテリー残量の確認や再生制御ができるのが意外に便利なのと、なにより“万人受け”する音質の良さを兼ね備えていたからだ。

JBL「TOUR PRO 2」

さらに重要なのが価格。音質を追求するなら、4万円、5万円といった高級機があるのはご存知の通りだが、マニアでない人にいきなり高価なモデルはオススメしづらい。TOUR PRO 2は定価33,000円で、JBL完全ワイヤレスの最上位機種だが、実売は2万円台後半になっており、「高すぎないけど、安すぎもしない」という絶妙な位置にいたからだ。

「いたから」と、過去形で書いているのには理由がある。そんな“オススメイヤフォン”の立ち位置を脅かす新機種が登場したのだ。しかも“JBL自身から”。

それが6月7日に登場したばかりの「JBL LIVE BEAM 3」。詳細は後述するが、ディスプレイが付いた充電ケース、進化したアクティブノイズキャンセリング機能とパーソナライズ機能、さらにTOUR PRO 2が対応していなかったLDACをサポートする事で、ハイレゾのワイヤレス再生も可能。それで価格はオープンプライス、直販28,050円と、まさに“下剋上的”なイヤフォンなのだ。

本当にTOUR PRO 2の牙城を崩す存在になるのか? 使ってみよう。

ディスプレイ付き充電ケースとLDAC対応

JBL LIVE BEAM 3のブルー

JBL LIVE BEAM 3は2022年に発売されたミドルクラス「JBL LIVE FREE 2」の後継機種なのだが、前述の通り、充電ケースのディスプレイなど、TOUR PRO 2の特徴も多く取り入れるだけでなく、それを超える部分もあるなど、後継機種の枠を越えて「TOUR PRO 2とLIVE FREE 2を融合させた新機種」のような存在だ。

一番目につくのがディスプレイを搭載した充電ケースなのだが、実はこのケースもTOUR PRO 2から進化。ケースの胴体ではなく、蓋の部分に搭載されるようになったほか、ケースのサイズが体積で6%減、重量も5%減と、小さく軽くなった。さらにストラップホールも備え、可搬性がアップしている。

JBL LIVE BEAM 3の充電ケース
TOUR PRO 2の充電ケース
ストラップホールも追加された。先着となるが、アルティザン&アーティスト製のオリジナルストラップと、充電ケースの保護フィルムがセットでプレゼントされるキャンペーンも実施される。詳細はキャンペーンサイトを参照のこと

ディスプレイに表示する機能も進化し、日本語に対応。再生制御、音量調整、外音取り込みのON/OFF、ノイズキャンセリング機能の操作、イコライザー、タイマーなど、様々な機能が利用できる。

イコライザー設定画面
ノイズキャンセリング機能の切り替えや、外音取り込み機能のONF/OFF

個人的には、スマホが大型化している昨今、スマホよりも小さな充電ケースをサッとポケットから出して、再生制御や音量調整できるのが便利だと感じる。さらに、電車に乗る時に、アナウンスを聞くために外音取り込みをONにしたり、「30分で降りる駅に着くから、降り忘れないようにタイマーを設定する」といった機能を活用している。アプリからでも設定可能ではあるが、スマホを取り出さずにできるというのは、実際に体験してみると想像以上に便利だ。

寝過ごしたくない時にはタイマー設定が便利
ディスプレイ前面が白く光、簡易的なライトになる機能もある。深夜に帰宅して、玄関の鍵穴がわからない……なんて時にも便利だ

また、机の上に充電ケースを置いた時に、ディスプレイが蓋に移動した事で、ディスプレイが視認しやすくなった。例えば職場で集中したい時に、LIVE BEAM 3を装着してノイズキャンセリング機能を活用しつつ、机に置いた充電ケースのディスプレイを操作するといった使い方ができる。これもかなり便利だ。

左からJBL TOUR PRO 2、JBL LIVE BEAM 3。ディスプレイが移動した
JBL LIVE BEAM 3の充電ケースは、卓上に置いたままでも視認性が高い

イヤフォン部分の進化も見ていこう。

振動板にPU+PEEKを採用した新ドライバー

ドライバーは10mm口径。振動板の素材には、PU+PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)を採用している。初採用のPEEK素材はスーパーエンジニアリングプラスチックとして近年注目されているもので、剛性に優れた樹脂だ。これに柔軟性の高いPU素材を組み合わせる事で、力強い低音、クリアさを備えつつ、小音量でも大音量でも安定したサウンドを実現したという。

JBL LIVE BEAM 3

音質面でさらに注目は、BluetoothのコーデックがSBC、AACに加え、LDACに対応したこと。これにより、最大で96kHz/24bitのハイレゾでワイヤレス再生ができる。最近、AndroidスマートフォンでLDAC対応の機種が珍しくなくなってきたので、この対応は非常に嬉しい。

LIVE BEAM 3はカラーバリエーションとして、シルバー、ブラック、パープルも用意している

進化したANC

アクティブノイズキャンセリング(ANC)性能も進化している。新しいマイクで耳内の騒音レベルを検出し、アルゴリズムを使って騒音レベルが安定した最小値になるまでANCフィルタリングを繰り返すという仕組みになっているが、従来のLIVE FREE 2では9バンドのEQでANCの最適化をしていたところ、LIVE BEAM 3では13バンドを使用。低音域で9dB、中音域で4dBのANC改善を実現したという。

実際に屋外で使ってみた

実際に、幹線道路沿いを歩きながらANCを使ってみたが、なかなか強力。「ゴーッ」と横を通り抜ける車の音から中低域部分がゴッソリ消えて非常に静かになる。「シュー」という高域だけがわずかに残るので「車が通り過ぎたな」という事はわかるが、「うるさい」という感覚は綺麗に無くなる。

地下鉄でも効果を発揮

地下鉄でも同様で、トンネル内や車体で反響する「グァアーー!」という中低域のノイズが消えるので、ストレスが無くなる。「クゥオーン」という床からのモーター音と、線路のつなぎ目を超える「カタンコトン」の高音部分だけが残るだけだ。それも、音楽を再生してしまえばほとんど気にならない。

特筆すべきは、強力なANC効果を発揮しているのに、鼓膜を圧迫されるようなANC特有の不快感がまったくない事。アダプティブノイズキャンセリングをONにしておくと、騒音が多いところではANCを強く、静かな場所では弱くと、自動的にANCレベルを調整してくれるが、ANCレベル最大でも不快感が無いのが優秀だ。

騒音が多いところではANCを強く、静かな場所では弱くと、自動的にANCレベルを調整してくれる「アダプティブノイズキャンセリング」

装着感は良好。ショートスティックタイプなので装着した後の安定感が高く、適正なサイズのイヤーピースを選んでいれば抜け落ちる心配なく外を歩きまわれる。また、耳穴の周囲にスポッと筐体が入り込む形状なので、必要上にイヤーピースを耳奥に押し込まなくても良い。カナル型イヤフォンの閉塞感が苦手という人にも使いやすいだろう。

付属のイヤーピースは4サイズ

マイクの進化と低ノイズ化により、通話の品質も高められている。通話相手の越えを調整して聞きやすくしたり、ユーザー自身の声を届けやすく調整する「通話音声イコライザー」や、相手の声が大きすぎる/小さすぎる場合、自動で音量バランスを調整する「サウンドレベルオプティマイザー」も備えている。

音質のパーソナライズを行なう「Personi-Fi」も最新の「3.0」になった。新しいアルゴリズムと改善された計算方法を採用しており、従来の9チェックポイントから12チェックポイントになり、より正確なパーソナライズサウンドを実現するという。この機能も、後ほど使ってみよう。

音質のパーソナライズを行なう「Personi-Fi 3.0」も搭載する

ミドルクラスとは思えない圧巻のサウンドクオリティ

では実際に使ってみよう。スマートフォンは、LDAC対応のGoogle Pixel 8 Proを用意。JBL LIVE BEAM 3の充電ケースを開けると、スマホの画面にLIVE BEAM 3が表示され、セットアップをスタートできる。

アプリから各種設定が可能

アプリが起動すると、イヤーピースのサイズが耳にマッチしているからのフィット感チェックがスタート。それが終わればもう音楽が楽しめるのだが、LDAC対応のスマホを使っている時はその前に、アプリの「オーディオ」タブに移動し、「ハイレゾオーディオ」をONにしよう。これを設定しないとLDACで接続できないからだ。

「ハイレゾオーディオ」をONにするとイヤフォンが一度再起動し、LDACで接続される。なお、個人最適化の「Personi-Fi 3.0」や空間サウンドなどは、LDAC接続時は使用できないので注意が必要だ。

「ハイレゾオーディオ」をONにすると使えない機能が出てくる
「ハイレゾオーディオ」をONにすると、LDACで接続できた

では音を聴いてみよう。Amazon Musicアプリから、「ダイアナ・クラール/月とてもなく」を再生する。

LDAC対応のGoogle Pixel 8 Proと組み合わせた

一聴してわかる特徴は、音が非常にクリアである事。SN比が良く、無音の部分からベースやピアノの音がズバッと鋭く立ち上がる様子が良く見える。音のコントラストが深く、音像の輪郭がシャープなので細かな音も聞きとりやすい。目の覚めるような、自分の耳の性能がアップしたように感じるイヤフォンだ。

例えば、ダイアナ・クラールが歌い出す直前に「スッ」と鼻から息を吸い込む音、歌い出す瞬間に口を開ける時の「んぱ」という音にならないような小さな音まで聴き取れる。こうした細かな音が聞こえる事で、耳から入ってくる情報量が増え、本当に歌手が近くにいるかのようなリアリティが感じられるようになる。

クリアで解像度が高いのは中高域だけでなく、低域もだ。アコースティックベースは「ズズンズズン」と地を這うように深く沈んで迫力満点。それでいて、その低域の中に注意を向けると、弦がブルンブルンと細かく震える様子もキッチリ聞き取れる。

張り出しの強い低域が押し寄せている間でも、その背後で、ボーカルの声やピアノの響きが左奥の空間へと広がり、スーッと消えていく様子が聞き取れる。全帯域で解像感や音色が一致しているのは、ダイナミック型ユニット1基で再生している利点だ。

JBL LIVE BEAM 3

「米津玄師/KICK BACK」のような、激しい楽曲も最高にマッチする。地面をえぐるような強烈なベースラインと、無数のSEが乱れ飛ぶ空間描写、強烈な1つ1つの音が、しっかり全て聞き取れ、情報の洪水に正面から襲われているよう。頭がクラクラしてくるほど強烈な体験が味わえる。

この低域の解像度の高さ、細かな音も聞き取れる微細な表現力は、振動板にPU+PEEKを採用した効果だろう。とてもミドルクラスの完全ワイヤレスとは思えない圧巻のサウンドクオリティだ。

強烈な音から、微細で小さな音まで再生できるので、イヤフォンでは苦手とされるクラシックも十分楽しめる。「展覧会の絵」(ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団)の「バーバ・ヤーガの小屋」を聴いたが、ズンと沈む低域と、その上に展開するストリングスの繊細な音、音がホールの天井に抜けていく空間の広さが、LIVE BEAM 3でしっかり味わえた。

TOUR PRO 2とLIVE BEAM 3どっちがいい?

左からTOUR PRO 2、LIVE BEAM 3

気になるのは「TOUR PRO 2とLIVE BEAM 3、どっちの音がいいか?」という事。

「とはいえ、TOUR PRO 2の方が上位モデルだから……」と思っていたのだが、実際に2機種を聴き比べると、非常に面白い。なお、コーデックはTOUR PRO 2がAAC、LIVE BEAM 3はLDACだ。

まずTOUR PRO 2は、ワイドレンジかつナチュラルなサウンドで、冒頭でも書いたように非常に万人受けする音になっている。

その傾向はLIVE BEAM 3も踏襲しているのだが、前述の通りLIVE BEAM 3は初採用のPEEK素材を活用した振動板により、音のメリハリ、解像感がかなり向上している。そのため、LIVE BEAM 3の方が、よりクリアでキレの良い、気持ちの良い音に聞こえる。

低域の深さは、TOUR PRO 2の方がわずかに深い。そこは上位機種だと感じられる部分だが、LIVE BEAM 3の方が解像感が高いので、低域にもタイトさがあり、例えばロックのライブ録音などで、低域がよりソリッドに、鮮烈に感じられる。

そんなLIVE BEAM 3を試聴したあとで、TOUR PRO 2を聴くと、少しおとなしく感じられてしまう。良くいえば「おだやかな描写で、アコースティックな楽曲のしなやかさ、質感はよく伝わってくる音」なのだが、悪く言うと「LIVE BEAM 3よりもちょっと眠い音」に聴こえてしまう。

そこで、サウンドをユーザーに最適化する「Personi-Fi」も試してみた。というのも、LDACに対応していないTOUR PRO 2では、「Personi-Fi 2.0」が使えるからだ。

アプリで最適化をスタートすると、測定音が流れ、聴こえている間にボタンをタップ。それを異なる帯域で繰り返す事で、最適化が完了する。

実際に最適化してみると、再生音のコントラストが深くなり、低域のパワフルさもアップ。少し眠いと感じていた音がシャッキリして、LIVE BEAM 3のサウンドに近づく。ただ、LIVE BEAM 3のシャープさ、切れ味の鋭さにはやや届かない……という印象だ。

ちなみに、LIVE BEAM 3もPersoni-Fi 3.0でパーソナライズしたら、さらに良くなるのでは? と、LDAC接続をやめて、最適化してみたが、より低域が沈み込むようになり、パワフルさがアップした。変化としては悪くないのだが、LDAC接続の情報量の多さと、LIVE BEAM 3の高精細な描写の組み合わせを一度聴いてしまうと、「最適化よりLDAC接続の方がいいかな」と感じた。

まさに下剋上イヤフォン「LIVE BEAM 3」

LIVE BEAM 3をしばらく使った印象は、「一切の隙がない完成度の高さ」だ。

TOUR PRO 2で驚きの使いやすさだったディスプレイ付き充電ケースを採用しつつ、そのケースはよりコンパクトかつ軽くなった。ちなみに、バッテリー持続時間もANC ON時でTOUR PRO 2は本体8時間、ケースで24時間の計32時間だが、LIVE BEAM 3は本体10時間、ケース30時間で計40時間と、よりスタミナ仕様になっている。

そして音質も、個人的にはLIVE BEAM 3のシャープで高精細なサウンドの方が気に入った。低域の深さだけで言えばTOUR PRO 2に貫禄を感じるが、トランジェントに優れ、聴いていてより気持ちが良いサウンドだったのはLIVE BEAM 3だ。

冒頭に記載した通り、実売が2万円台後半になっているTOUR PRO 2と、直販28,050円のLIVE BEAM 3、どちらを選ぶか悩ましいところ。ただ、LIVE BEAM 3はAmazonなどの通販サイトでは実売がさらに下がると思われるので、コストパフォーマンスの高さという面ではLIVE BEAM 3がかなり魅力的だ。

普通のメーカーであれば「後から開発されたとはいえ、上位機種には上位機種の良さがあるよね」という結論になる事が多いが、LIVE BEAM 3は完全に上位機を倒す勢いで作られている、まさに下剋上イヤフォンだ。今度から「いい感じのイヤフォンが欲しいんだけど……」と相談されたら、「JBL LIVE BEAM 3がいいよ」と即答してしまうだろう。

山崎健太郎