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小型でも中は“ガチHi-Fi”。CDからレコード、配信も高音質デノン「RCD-N12」を使い倒す

右がデノンの「RCD-N12」

“小さいけど高音質なコンポ”が話題だ。片手で持てるサイズながら、高音質なアンプとネットワーク再生、HDMI ARCも搭載したマランツ「MODEL M1」(154,000円)や、デノン「DENON HOME AMP」(121,000円)が、新たなオーディオのトレンドになりつつあるほど注目を集めている。

これらの製品は、スピーカーを接続するだけで、Amazon MusicやSpotifyなどの音楽配信サービスを再生でき、AirPlay 2やBluetooth、Spotify Connectもサポート。テレビとHDMIケーブルで接続すれば、テレビ番組や映画、ゲームのサウンドも高音質で再生できる。小さいが非常に便利なコンポだ。

一方で、「CDは聴けないんでしょ?」という不満がある人も多いだろう。いくら音楽配信が普及しても、まだまだ再生されていない曲はあるので、手持ちのCDライブラリーは捨てられない。かといって、昔と違ってパソコンにCD/DVD/BDドライブが搭載されなくなり、“気がついたら家の中からCDを再生できる機器が無くなっていた”なんて人も多いはずだ。

場所をとらない小さなコンポで、音楽配信が楽しめ、HDMIでテレビとも連携でき、CD再生もできる……そんな製品はないかと探してみると、そのものズバリな製品があった。デノンの「RCD-N12」(110,000円)だ。

「RCD-N12」

CDプレーヤーを内蔵しているので、DENON HOME AMPやMODEL M1よりは大きいものの、RCD-N12の外形寸法は280×305×108×mm(幅×奥行き×高さ)と十分にコンパクト。AVラックはもちろんだが、ちょっとした棚の上や、出窓、ベッドサイドのサイドテーブルなどにも設置しやすいサイズだ。

DENON HOME AMPやMODEL M1よりも低価格で、デザインもシンプルなので、「ああ、オシャレなミニコンポ的なやつか」と思われるかもしれない。だが実はこのRCD-N12、済ました顔をしているが“中身はかなりのバケモノ”なのだ。

中身はガチなHi-Fiアンプ

音の責任者は、AV Watch読者にはお馴染み“デノンの音の門番”ことサウンドマスター・山内慎一氏だ。

開発チームが設計・試作した製品を受け取った山内氏は、様々なパーツを交換したり、定数を変えたり、ノイズや振動対策を施すなどして、音質を高めていくのが仕事だ。高価なハイエンドモデルであれば、高級なパーツを使うなど、使える手段は増えるが、RCD-N12のようなエントリーモデルではそうはいかないので、開発の難易度は上がる。

しかし、小さいとか、コストがかけられないとか、難易度が高いほど「そういうの、逆に燃えるじゃないですか」と笑うのが山内氏。RCD-N12では、試作の前の設計初期段階から参加し、高音質化のアイデアを反映させていった。

また、御存知の通り、デノンは長年AVアンプも手掛けている。AVアンプは“一体型の筐体にデジタル回路とアナログ回路を詰め込んだ製品”であるため、AVアンプの設計チームは「限られたスペースの中でデジタル回路とアナログ回路を同居させつつ、それが干渉して音が悪くならないようにするノウハウ」や「放熱ノウハウ」を膨大に持っている。山内氏のアイデアと、AVアンプ設計チームのノウハウも多数投入して、RCD-N12が作られたわけだ。

搭載しているアンプは、2chのデジタルアンプ。従来モデルから進化したパワーアンプICを採用することで、出力MOSFETの低インピーダンス化しつつ、ICの内部設計も最適化することで、さらに効率もアップ。ノイズフロアを低減し、よりクリアな再生になっている。

また、このアンプ部は通常の2chではなく、内部はBTL接続になっている。これは、2台のパワーアンプを互いに逆相で駆動し、それぞれの出力にスピーカーを接続する方式で、理論的には1台使う時よりも、4倍の出力が得られる。これにより、コンパクトな筐体からは裏腹に定格出力65W + 65W(4Ω)、最大出力80W + 80W(4Ω)を実現している。

アンプで重要な電源回路も一新され、オーディオグレードのパーツを山内氏が厳選して投入。ミニコンポではなく、完全にHi-Fiアンプと同じ感覚で、妥協なくチューニングしたそうだ。

さらに、配線パターンも見直し、不要な部品を取り除くことで最短経路を徹底。低インピーダンスを実現したという。

インシュレーターも素材を見直し。安定供給の観点から3種類の素材を候補として選び、山内氏が試聴してその中から選定。結果的には、ハイクラスなA110シリーズや、2500NEシリーズに使われているものと同じ素材になったという。

インシュレーターも改良された
HEOSのアプリから操作も可能だが、リモコンも付属する
天面のフロントよりに、タッチ式の操作ボタンも備え、直感的に音量調整などが可能。よく聴くソースを登録できるダイレクトボタンを3つ備えているのも便利だ

CDプレーヤーの搭載方法にも工夫

RCD-N12最大の魅力がCDプレーヤー機能だが、これも小型筐体に搭載するのは難易度が高い。CDは回転するため、ドライブメカも振動する。それがアンプなど、他の部分に伝わると音質低下の原因にもなるからだ。

RCD-N12では、ドライブメカを筐体に保持するためのメカベース部分も改良。従来は左右に分かれたパーツだったが、RCD-N12では1ピース構造になった。これにより、ベースの剛性がアップしている。

従来モデルは左右に分かれていたメカベース
RCD-N12では1ピース構造になり、剛性が向上した

また、このメカベースにそもそもドライブメカの振動が伝わらないようにワッシャーを配置しているのだが、その素材も、ゴム、プラスチック×2種類、銅、アルミ×2種類、ステンレスと7種類も集めてテスト。最終的に山内氏が試聴を経て、ステンレスに決定したそうだ。

音を聴いてみる

B&W「804 D4」

B&Wの「804 D4」(ペア253万円~)と接続し、CDを聴いてみる。組み合わせとしては現実的ではないが、RCD-N12のBTL接続アンプであれば、フロア型スピーカーでも鳴らせる駆動力があるかもしれない。

まずCDから聴いてみる。音楽配信されていない「山下達郎/COZY」から1曲目の「氷のマニキュア」を再生。

冒頭のカッティングギターから、このRCD-N12がミニコンポという枠に収まらないアンプだとわかる。ギターのトランジェントが抜群で、鋭く切り込むようなソリッドな描写がメチャクチャ気持ちが良い。

その背後にドラムがあるのだが、低域が肉厚に迫りつつ、アタックの鋭さも同居。こちらもハイスピードで鮮烈なので、聴いていると思わず体がリズムを刻んでしまう。

何も音が出ていない状態から「ズバッ」と音が立ち上がるわけだが、それだけではこの音にはならない。音が無くなった瞬間に「スパッ」と音が消えることも、ソリッドな描写には不可欠だ。アンプの駆動力が弱いと、ユニットをビシッと止められずにフラフラ動いて余分な音が出てしまうが、RCD-N12にはそれが無く、駆動力の高さが実感できる。

また、音場の広さも見事だ。小さなコンポは、音の広がりも限定され、ちょっと窮屈に感じる事が多いが、RCD-N12ではボーカルやギターの音が気持ちよく左右や後方へと広がっていく様子がわかる。奥行きをしっかり描写できると、前に定位するボーカルや楽器に立体感が生まれ、ミュージシャンが眼の前で演奏しているかのような実在感が高まる。

この空間描写の広さは、山内氏の得意とするところで、上位モデルでも追求されているが、その特徴がRCD-N12でもしっかり聴き取れる。サウンドは完全にHi-Fiアンプだ。

音楽配信サービスも聴いてみよう。

スマホにHEOSのアプリをインストールし、対応機器の検索をスタート。RCD-N12の背面にある「CONNECT」ボタンを押すと、アプリからRCD-N12が見つかり、家の無線LANにRCD-N12が接続できるようになる。Wi-Fiだけでなく、有線LANも搭載しているので、そちらを使うのもアリだ。

背面にある「CONNECT」ボタン

あとは、HEOSアプリからAmazon MusicやSpotifyなどにログインし、再生したい曲を選べば、RCD-N12から再生できる。

音の傾向はCDの時と同様で、音場が広くてクリア。「ダイアナ・クラール/月とてもなく」を聴くと、女性ボーカルの声やピアノの響きが、奥の空間へと広がっていく様子がハッキリ聴き取れる。

同時に、中央に定位するダイアナ・クラールの口が、空中に浮かんで見えそうなほど描写が細かい。歌声はもちろんだが、歌い出す瞬間の口を開ける「ンパ」という音にならないほどかすかな音が、聴き取れる。近づいたら吐息が感じられるのではと思えるリアリティは、ミニコンポの域を越えたものだ。

もちろん、より高価なフルサイズのアンプなどと比べると、低域の沈み込みの深さや、音圧の強さなどでRCD-N12が負けている部分もある。ただ、情報量の多さや、色付けの少なさ、空間描写の広さといった部分では、上位機に見劣りしない。

実際にRCD-N12と組み合わせるスピーカーはブックシェルフが多そうなので、その場合は、スピーカー側で低域の再生能力に限界があるので、上記のような部分も問題にならないだろう。

また、RCD-N12にはサブウーファー出力も搭載されている。もしブックシェルフとの組み合わせで、低域がもっと欲しいと感じたら、サブウーファーを追加するというステップアップもできるわけだ。

背面。サブウーファー出力も備えている

テレビとのHDMI接続やレコード再生も試してみる

HDMI ARCでテレビとも接続してみたが、これも簡単。テレビのHDMI ARC端子と、RCD-N12のHDMI ARCをケーブルで接続するだけ。テレビの音が伝送されるだけでなく、HDMI CECにも対応しているので、テレビのリモコンからボリューム調整ができ、テレビのON/OFFとRCD-N12の電源ON/OFFも連動してくれる。

テレビの設定でスピーカー出力をHDMI ARCに

「RCD-N12を導入した事による音の変化」という意味では、テレビが一番鮮烈だろう。

ちょうどTVアニメ「僕のヒーローアカデミア」第147話「EXTRAS」を放送していたので、テレビ内蔵スピーカーとRCD-N12を切り替えながら試聴したが、RCD-N12から音を出すとまさに“激変”する。

テレビ内蔵スピーカーでは「なんとなく放送されているテレビアニメを見ている」感覚だったのだが、RCD-N12 + ブックシェルフスピーカーから音を出すと、音の広がり、解像度の高さ、音圧の肉厚さ、低域の迫力といったものが大幅にグレードアップされ、そのサウンドに圧倒される。

とても「なんとなく見てる」というスタンスでいられなくなり、画面に一気に引き込まれる。エンデヴァーとオール・フォー・ワンが壮絶なバトルを繰り広げるシーンでは、壮大なBGMをバックに、2人が戦いながら喋るのだが、大塚明夫演じるオール・フォー・ワンの声が、本当に低く響き、オール・フォー・ワンの邪悪さ、恐ろしさ、別格の強さが声でしっかり伝わってきて手に汗握る。なんというか「普通のTVアニメが、ホームシアターで楽しむ映画に」クラスチェンジしたような感覚だ。

テレビの音も激変する

チャンネルを変えると陸上競技大会が中継されていたが、これも凄い。テレビ内蔵スピーカーでは、実況アナウンサーの説明くらいしか耳に入っていなかったのだが、RCD-N12 + ブックシェルフスピーカーに切り替えると、アナウンサーの声が前に定位しつつ、その背後に、現地の競技場で流れているBGMが広がるのが聴こえる。これにより、競技場の広大さが伝わってきて、自分も観覧席に座っているような気分になる。

テレビは“画面の大きさ”“綺麗さ”も大事だが、サウンドもそれに負けないほど重要だというのを痛感する。

アナログレコードとも接続

RCD-N12はこのサイズで、MM対応のフォノイコライザーも搭載しているので、ターンテーブルも接続してみた。

「結束バンド<アナログレコード盤>」から「星座になれたら」を聴いたが、前述のCDやHEOSのネットワーク再生とひと味違うサウンドが楽しめる。

CDやネットワークは、クリアでソリッド、高精細な描写だったが、アナログレコードは肉厚で質感豊か。こちらもリアリティのある描写なのだが、聴いていると安心する耳障りの良さがあり、「やっぱレコードも良いよなぁ」と、アナログの魅力がしっかりと伝わってくる。

それにしても、この小さな筐体で、デジタル回路も搭載したコンポで、これだけクリアなレコードの音が聴けるというのも凄い。というのも、レコードの信号は非常に繊細なので、ノイズの影響を受けやすいのだ。

ノイズが乗らないように、シールドとフォノイコライザー回路のレイアウトを工夫したそうで、何度も試作・検証を繰り返すなど、かなり苦労したそうだ。その効果が音にも現れているので、CDや音楽配信よりも、レコードをメインに楽しみたいという人にもRCD-N12は魅力的だろう。

こうしてRCD-N12の機能を一通り聴いてみると、改めて“現在の環境にマッチしたミニHi-Fiシステムだ”と感じる。CDからレコード、音楽配信、そして映像配信と、デジタルとアナログ、ディスクと配信が混在する中で、その全てを楽しみたいというニーズに応えつつ、Hi-Fiレベルの音質も実現している。これは凄い事だ。

それでいて、価格は110,000円、実売では8万円台の店舗も多く、手が届きやすい価格なのも魅力だ。これ1台あれば、懐かしのソフトから最新の配信まで、とりあえず全部良い音で聴けるので、家に1台あれば、なにかと重宝する存在になるだろう。

山崎健太郎