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デノン、HDMIも搭載した、最強“ミニ”Hi-Fi「RCD-N12」のコスパに驚く
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- デノン
2023年10月2日 07:00
AV Watch読者の皆さんには説明不要だが、オーディオにおいて“HDMI搭載の2chアンプ”がいま人気だ。昔は「HDMI搭載アンプ」と言えばAVアンプだったが、ホームシアターはハードルが高い……という人に、テレビやゲームのサウンドを手軽に、しかも良い音で楽しめるとことがウケている。
一方で、現在のHDMI搭載2chアンプは「フルサイズのピュアオーディオ用2chアンプにHDMI ARCを備えた製品」が多い。サイズが大きく、価格もやや高価で、「興味はあるんだけど、ちょっと手がでない……」という人も多いだろう。
理想を言うならば、「高くても10万円くらい」「設置しやすいコンパクトさ」で「HDMIだけじゃなく音楽配信やBluetoothも聴ける」、ついでに「まだライブラリが残っているCDも再生できる」そんなオールインワンコンポがあったら超テンション上がりそうだ。
と、思ったらホントに出た。10月上旬に発売されたばかりの、デノンHi-Fiミニシステム「RCD-N12」だ。価格は11万円。
ミニコンポではなく“Hi-Fiミニシステム”
外形寸法は280×305×108mm(幅×奥行き×高さ)とコンパクトなので、ちょっとしたスペースにも設置できる。良い意味で目立たないので、リビングであまり主張して欲しくないという人にもマッチするだろう。
ちなみにスピーカーは別売だ。デノンから発売されている「SC-N10」(ペア22,550円)というスピーカーを組み合わせるのがメーカーから提案されているが、スピーカーターミナルはバナナプラグにも対応したスクリュータイプなので、よりハイグレードなピュアオーディオ用スピーカーと組み合わせるのもアリだ。試聴ではSC-N10だけでなく、Bowers & Wilkinsのスピーカーも使ってみよう。
小さな筐体に、HDMI ARC端子、CDプレーヤー、ネットワーク再生、2chアンプ、Bluetooth、USBメモリー再生、FM/AMラジオ、さらにはMMカートリッジ対応のPhono入力まで備えている。テレビやゲームのサウンドから、アナログレコードまで楽しめるわけだ。
音楽ストリーミングサービスはAmazon Music HDやAWA、Spotify、SoundCloudなどをサポート。BluetoothとAirPlay 2もサポートして、手軽にスマホなどの音楽を再生できるほか、Bluetoothの“送信”機能も備えている。N12で再生しているテレビの音を、手持ちのBluetoothヘッドフォンにワイヤレスで飛ばして聴く……なんて使い方もできる。
見た目としてはミニコンポのように見える。だが、開発の流れや、内部に使っているパーツを見ると完全に“ガチなHi-Fiアンプ”として作られているのがわかる。それもそのはず、設計の初期段階から、デノンのお馴染み、サウンドマスター・山内慎一氏が参加。エンジニアと共に、「ミニだけど、もっと追求できるはず」と、かなりやりたい放題やったらしい。
最大の特徴はHDMI ARCを搭載している事だ。サウンドバーのように、テレビのARC対応HDMI端子とHDMIケーブル1本で接続して、テレビ番組の音をRCD-N12 + スピーカーから再生できる。もちろんテレビに接続しているゲーム機の音や、テレビで観ているNetflixやYouTubeなどのサウンドをRCD-N12から再生する事も可能だ。
ただし、対応するのはステレオPCM音声のみ(192kHzまで)。AVアンプではないのでドルビーデジタルとかDolby Atmosデコーダーなどは搭載していないわけだ。まぁ2chアンプなので、当たり前と言えば当たり前だが、ここがAVアンプと大きく違うところだ。
一方で、“AVアンプの技術が活用されている部分”がある。
前述の通り、小さな筐体に大量の機能やパーツを搭載しているので、熱の管理やノイズの抑制など、開発の難易度が高い。そこで、グラウンド処理を含むデジタルノイズ対策について、多くのノウハウを持つAVアンプの設計チームと意見交換を重ねて作り込んだそうだ。
さらに大変なのがフォノイコライザーだ。レコードの信号は非常に繊細なので、ノイズの影響を受けやすい。スイッチング電源のSMPSと、ネットワーク再生用のHEOSモジュールからノイズの影響を受けないように、何度も試作・検証を繰り返したとのこと。この部分は、Hi-Fi設計チームがサポート。シールドとフォノイコライザー回路のレイアウトを工夫する事で、目標スペックをクリアしたそうだ。まさにデノンの技術力を小さなボディに結集した製品と言える。
小さな筐体にCDプレーヤーを搭載するテクニック
筐体内で大きなスペースを占めているCDドライブメカにも工夫がある。前モデルの「RCD-N10」とドライブメカ自体は同じだそうだが、それを筐体に保持するためのドライブメカベースを進化させた。写真の黒いパーツがそうだが、このメカベースは、回転して振動するドライブメカの振動を、筐体に伝えないようにするためのパーツだ。
従来は2ピース構造だったが、RCD-N12では1ピース構造にする事で剛性がアップ。さらに、メカベースとドライブメカの間に金属のワッシャーを配置して振動の伝搬を抑えているのだが、そのワッシャーの素材も、ゴム、プラスチック×2種類、銅、アルミ×2種類、ステンレスと7種類も集めてテスト、3種類に絞り込み、最終的に山内氏がステンレスに決定したそうだ。
キャビネットの剛性にもこだわっている。従来は複数のパーツを組み合わせて作られていたが、N12では一体成型にしている。当然ながら剛性がアップするのだが、作る難易度も大幅にアップしてしまう。キャビネットは金型を使って作られるわけだが、上から金型を押し付けて成型した後、完成したキャビネットを下の金型から取り出すために、側面のパネルにわずかな勾配をつける必要がある。要するに“末広がり”にする。そうしないと、金型からキレイにキャビネットが抜けないわけだ。
しかし、デザイン的には勾配をつけたくない。そこで、複数の金型を様々な方向から押し当ててキャビネットを成型する方法に挑戦。複雑な金型デザインや、繊細な温度管理などが必要になる作業だが、剛性の高さとデザインの良さを両立するため、あえてそこにこだわったという。
実はBTL接続のアンプ部
2chのアンプ部分も進化した。N12の内蔵アンプはデジタルアンプなのだが、パワーアンプのICが次世代になっている。出力MOSFETの低インピーダンスを実現しているほか、IC内部設計が最適化されたことで、効率も向上しているそうだ。
ちなみにこのアンプ部、通常の2chではなく、内部はBTL接続になっているそうだ。BTLは、2台のパワーアンプを互いに逆相で駆動し、それぞれの出力にスピーカーを接続する方式で、理論的には1台使う時よりも、4倍の出力が得られるもの。駆動力を高める秘密だ。
オーディオ機器では電源回路も大事だが、ミニコンポではなかなかこだわれない部分でもある。しかし、N12ではここも一新。山内氏が試聴を繰り返しながら、オーディオグレードのパーツを厳選して投入。Hi-Fi製品と同じようにチューニングし、大幅に音質を向上させたそうだ。
他にも、OFCワイヤーを使ったデノンオリジナルのインダクタや、高音質フィルムコンデンサー、低ESRの電解コンデンサーなど、オーディオグレードのパーツを大量に投入。スピーカーターミナルも、より太いケーブルやバナナプラグにも対応するものに変更されている。
パーツが追加された印象だが、山内氏が得意とする“シンプルへの徹底”も同時に行なわれている。例えばN10では、電源供給ラインに、0Ωの抵抗を入れていたそうだが、N12では不要として配線パターンを書き直し、抵抗も取り除いている。Hi-Fiと同じミニマムシグナルパスを徹底したわけだ。
インシュレーターも改良。床と接するパッド部分の素材を、山内氏が厳選。エンジニアが細かく説明せずに3種類の素材を候補として用意したそうだが、山内氏が選んだのは、PMA-A110や2500NEシリーズなどで使っている素材と同じものだったという。
音を聴いてみる
まず、N12になってどのくらい音が進化したか。N10とN12をCDで聴き比べてみた。楽曲はお馴染み、「イーグルス/ホテルカリフォルニア」だ。スピーカーは別売のデノン「SC-N10」を使っている。
N10から聴いてみる。冒頭、ギターからスタートするが、テレビの両脇に設置したスピーカーの、少し横まで音場が広がる。そこにギターやベース、そしてボーカルが入って来るわけだが、解像度の高いサウンドで、ミニシステムとは思えないほど情報量が多い。繊細な描写に驚くが、中低域の張り出しは少し弱め。このあたりはスピーカーがコンパクトだからというのもあるだろう。
N12にチェンジすると、最初のギターの段階で「!?」と驚く。ギターの響きが広がる空間が、N10よりも明らかに広大になり、“スピーカーの横”どころか、もっとグワッと広がり、音場が自分の真横あたりまで展開する。
横方向だけでなく、奥行きも一気に深くなり、ステージに奥行きが生まれる。これにより、定位する音場も立体的に感じられるようになり、一気にサウンドがHi-Fiっぽくなる。
空間が広大になっただけでなく、そこで響くギターやベースの音、ドン・ヘンリーの声といった各音像もパワフルになり、伸びやかに聴こえる。血が通ったというか、音楽がグッと気持ちよく、楽しく聴ける音になる。
N12の進化がわかったところで、そのままN12 + SC-N10を使い、HEOSのネットワーク再生機能を用いて、Amazon Music HDから「Yosi Horikawa/Wandering」や、「Stella Jang/Colors」を聴いてみたが、こちらも音の純度が高い。1つ1つの音が鮮烈でパワフル。広大な音場に、ストレスフリーな音像が舞い踊るようなサウンドだ。山内氏が、より高級なアンプやプレーヤーで追求している“ビビッド & スペーシャス”な世界が、この小さなN12と、2万円ちょっとのスピーカーから出現している。このコストパフォーマンスの高さは、驚きのレベルだ。
なお、N12にはサウンドをSC-N10に最適化するモードがデフォルト設定となっているが、今回はOFFにして試聴してみた。
ここまでで十分満足度は高いのだが、同時に「N12の音はまだまだこんなものじゃないな」という予感もする。そこで、値段的にはちょっとアンバランスになってしまうが、スピーカーを変更。Bowers & Wilkinsのブックシェルフ「707 S3」(ペア293,700円)に変えてみた。
結論から先に言うと、衝撃的だった。
同じアカペラの「Stella Jang/Colors」を再生したのだが、まったく世界が変わる。空間の広さ、深さがさらに広大になる。そして定位がよりシャープになると共に、音像自体にも厚みが生まれ、より立体的に生々しい音へと変わる。「ボーカルがここにいる」という定位がさらに高まり、「ボーカルの口がここに浮いてる」と指させるほどのシャープさだ。
この曲は、後半にクルミを手でいじっているような「カラコロ」みたいなSEが入っているのだが、あまりに音がリアルなので、“音楽の中に含まれている音”ではないと思い、自分が床にペンでも落としたのかと一瞬下を見て確認してしまうほどリアルだった。
アカペラのように、無音の空間が広がり、そこに人の声だけが展開するシンプルな楽曲の場合、他の音で誤魔化せないため、オーディオ機器のSN比の良さや、人の声を色付け無くリアルに再生できているかというのがよくわかる。
「B&Wのスピーカーってスゲェな」と思うと同時に、「このクオリティでスピーカーを再生・駆動できるRCD-N12がヤバい」という結論に至る。見た目はミニコンポだが、N12のサウンドは“本物”だ。
HDMIの音も聴いてみよう。テレビとHDMI ARCで接続し、テレビ側のYouTube再生機能で、THE FIRST TAKEの「安田レイ/Not the End」を聴いてみたが、これも凄い。
歌い出す前の、スタジオの静けさや、かすかな息遣いといった細かな情報がしっかりと聴き取れる。そして歌い始め、素晴らしい歌唱力で一気にヒートアップするのだが、その勢いが、トランジェントの良いサウンドでズバッと描かれるので聴いていて非常に気持ちが良い。「YouTubeってこんなに音が良かったんだ」と驚いてしまうと同時に、「こんな音で聴けるなら、YouTubeのライブやミュージックビデオをもっと再生したい」という気持ちになる。普段のテレビ番組や、週末の映画など、映像コンテンツの楽しみをグッと深めてくれるのは間違いないだろう。
オーディオ入門に最適なシステム
山内氏は「開発のかなり前の、設計の段階、回路図レベルから参加した事が、とても良かったと思います。(ミニマムシグナルパスの徹底など)後から手を加えてどうにかできない部分も、最初の段階から対策ができました」と語る。アンプとしても、このサイズを超える実力を備えた事で、「精度の高い音になったと自負しています。開発時は色々なスピーカーで試聴しましたが、(B&Wのハイエンドで数百万円の)801でも普通に鳴らせるポテンシャルがありますよ」と笑う。
試聴する前だったら「まさか」と思うが、RCD-N12 + 707 S3を聴いた後だと、山内氏の話にも頷けてしまう。それだけのクオリティとパワーをRCD-N12は備えている。
サイズが小さいので「ミニコンポで11万円は高いな」と思われるだろう。しかし、音を聴くと「スゲェ音の良いアンプと、ネットワークプレーヤーとCDプレーヤーとラジオとかいろいろセットにして、こんなに小さくして11万円って激安なのでは?」と、まったく別の印象を持つ。ちょっと驚きのミニシステムだ。
本機は“オーディオ入門”に間違いなくオススメできるモデルだ。同時に、サウンドバーを考えている人も、ぜひN12 + ブックシェルフスピーカーの組み合わせも聴いてみて欲しい。「サウンドバーじゃなくてもいいのでは?」と、考えが変わるかもしれない。もちろん、別途スピーカーを用意する必要はあるが、例えば、昔のミニコンポに付属していたスピーカーが残っていたら、それをN12でドライブするだけでも、十分驚くような音が得られるだろう。
唯一の心配は、RCD-N12のクオリティが高すぎて、入門どころか「もうこれでいいじゃん」とオーディオ趣味が完結してしまう事だ。AV機器の媒体としては、これをキッカケにより上位モデルへステップアップ……みたいな話に繋げたいところなのだが、聴いていると「これでいいのでは」という納得感に包まれてしまう。これは一度、お店などで体験して欲しい。きっと驚くはずだ。