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マランツ「CD 50n」に驚異の連携機能。“可変出力”でピュアオーディオとAVの架け橋に

マランツ「CD 50n」

CD 50n発売時に間に合わなかったマランツ製アンプとの連携機能が完成

マランツの「CD 50n」(231,000円)はCDプレーヤーに、多彩なネットワーク機能、USB DAC機能にHDMI ARCまで備えた高機能プレーヤーだ。

現在、HDMI ARCを備えたコンポというとマランツならば「MODEL 40n」や「MODEL M1」などプリメインアンプが多い。何故にプレーヤーにHDMI ARCが? と感じる人もいるかもしれないが、ネットワークプレーヤー機能で自宅のNASに保存したデジタル音源を再生できるほか、Amazon Music HDやSpotifyなどのストリーミングサービス、インターネットラジオ、スマホと連携するAirPlay 2などと同じように、テレビと連携するHDMI ARCも多彩なデジタルソースの1つとして対応したと考えればいい。

CD 50nのバックパネル。ネットワーク端子やUSB端子に加えて、HDMI ARC デジタル入出力、USB DAC入力などがある

つまり、CD 50nがあれば、現在のオーディオシステムに、CDプレーヤーもネットワークプレーヤーも追加でき、ついでにUSB DAC機能でパソコンとも繋がるし、HDMI ARCでテレビとも繋がる……。自宅のシステムへ、一気に最新機能を追加できるというわけだ。

実はこのCD 50nだが、昨年10月の発売時点では間に合わなかったものの、その後のアップデートによって“アンプ連携機能が強化された”という。アップデートはすでに実施済みで、CD 50nをネットワークに接続していれば最新のものに更新されているはずだ。

このアンプ連携機能、説明を聞くとこれはかなり魅力的な機能なのだが、いかんせん、説明が難しい。そこで、この新しいアンプ連携機能を実践しながら体験してみようというのが、この記事の趣旨だ。

ステップ1:アンプとの接続

左からプリメインアンプMODEL 50、CD 50n

アンプ連携機能ということで、同クラスのプリメインアンプであるMODEL 50(231,000円)を使って実践してみよう。MODEL 50は電流帰還型パワーアンプとHDAM-SA3回路を搭載した純粋なアナログアンプだ。アンプとの接続なんてマニュアルさえ不要で簡単にできるという人は多いと思うが、ちょっと普通とは違う接続を行なう。

まずはCD 50nの固定出力をMODEL 50などのプリメインアンプのCD(LINE)入力に接続する。これだけなら普通と何も変わらない接続だ。

続いて、CD 50nの背面にある“可変出力”を、MODEL50のPOWER AMP入力に接続する。これはMODEL 50nをパワーアンプとして利用するときの接続で、ボリューム調整はCD 50nの内蔵ボリューム回路を使用する。

CD 50nの背面左側をアップにしたところ。CDプレーヤーとして、可変出力と固定出力を備えているのが見える
MODEL50の背面。CD 50nの固定出力は、MODEL50のCD(LINE)入力と接続。CD 50nの可変出力は、MODEL50のPOWER AMP入力する

固定出力と可変出力の両方を使用するというのもなかなかやらない接続方法だが、ひとまずは説明を続けよう。最後にCDプレーヤーとプリメインアンプの連携操作を実現する「リモートコントロール」端子を接続すれば完了。これは一般的なRCAケーブルを使えばいい。

電源ケールの左に見えるのがリモートコントロール端子。この端子をRCAケーブルで、アンプ側のリモートコントロール端子と接続する

ステップ2 CD 50nの設定を変更する

続いてはCD 50nの設定を変更する。セットアップで設定を呼び出し、「オーディオ」の項目から「ライン出力レベル」を選択すると、可変/固定の切り替えのほか「カスタム」という表示があるのがわかる。これがアップデートで新たに加わった部分だ。「カスタム」を選択すると、ソースごとに独立して可変/固定を選ぶことができるようになる。

「ライン出力レベル」でカスタムを設定
丈夫に「HDMI」、「HEOS」と表示されているが、ソースごとに可変/固定を選ぶことができる

マランツ推奨の設定としては「HDMIを可変」、「HEOSは可変でも固定でもよい」、「BT(Bluetooth)は可変」と選択する。こう設定すると、CD再生時は固定出力だが、ソースがHDMI ARCやBluetoothの時は可変出力になるわけだ。これはつまり、“CDプレーヤーとプリメインアンプのどちらのボリューム回路を使うか”の違いと考えていい。

ピュアオーディオのコンポーネントがテレビのリモコンで動く!!

接続も設定も含めて少々わかりにくいが、ひとまずこれで準備は完了。この時点では筆者も「こんな複雑怪奇なことをして、いったい何ができるのだろう」と思っていたので、読者も安心してほしい。とにかく実際に試してみることにしよう。なお。スピーカーはB&W「603 S3」を使った。

まずはCD 50nでCDを再生。

マランツのリモコン(CD 50n、MODEL 50の両方に付属するリモコン。どちらでも両方の機器を操作可能)で音量を調整すると、MODEL 50のボリュームが動いていることがわかる。これがCD再生時などのソースの固定出力 + ライン入力の動作だ。なお、MODEL 50は上述したCD 50nとちょっと複雑な接続をした以外はごく普通の使い方だ。

続いてテレビの電源をオンにする。HDMIのCEC機能が働いてCD 50nのソースがTV(HDMI ARC)に切り替わる。これはHDMIの連携機能による挙動で、設定しておけばCD 50nがスタンバイ時でも自動的に電源オンになる。

すると、なんとテレビの音がさっきまでCD 50nでCDを再生していたB&W 603 S3から再生される。しかも、テレビリモコンのボリュームボタンを押すと、オーディオの音量が変化している!! オーディオのことをそれなりに詳しいと思っている人ほど、いったい何の手品を見せられているのかと正直動揺するはずだ。

テレビのリモコンで、CD 50nの音量が変えられる

さてタネ明かしをしよう。CD 50nがHDMI連携機能でソース切替が行なわれると、切り替わったソース(この場合はHDMI ARC/テレビ音声)に応じて設定した通りに、出力が可変出力端子へと切り替わる。

さらにCD 50nは、リモートコントロール端子からMODEL 50に対して「POWER AMP入力に切り替えろ」と指示を出す。これできちんと音が出る。操作はテレビの電源をオンにしたこと、そのままテレビのリモコンで音量を操作しただけだ。

MODEL 50がパワーアンプ動作に切り替わる

もう少し詳しく解説しよう。

リモートコントロール端子による連携は、電源、入力切り替え、音量の機能を遠隔操作できる。すべての機器が電源オフ(スタンバイ)の場合、テレビの電源オンでCD 50nが連動して起動(HDMI CEC)、ついでMODEL 50が起動(リモートコントロール端子)。CD 50nのソースがHDMI ARCに切り替わる(HDMI CEC)、MODEL 50の入力がPOWER AMP入力に切り替わる(リモートコントロール端子)。

結果としてテレビのリモコン操作でテレビの音声を操作すると、HDMI CEC機能でCD 50nの音量を操作。CD 50nは内蔵ボリューム回路で音量を調整して可変出力から信号を送り出す。MODEL 50はPOWER AMP入力からの信号を増幅してスピーカーに信号を出力。結果、テレビのリモコンでオーディオ機器のボリューム調整ができるというわけだ。

CD 50nはHEOSアプリからも操作できるが、HDMI ARCを可変出力にしておけば、アプリからもCD 50nの音量調整が可能だ

つまり、CD 50nでアップデートされた新しい連携機能というのは、HDMI CECによるいわゆるHDMI連携機能と、リモートコントロール端子によるマランツの製品間での連携機能が融合したものというわけだ。

これにより、テレビとの連携機能など持たないアンプのMODEL 50も、あたかもテレビのリモコンで動作したかのような挙動を実現できるようになった。なお、リモートコントロール端子による電源や入力切り替えの連動はすでに実現されていた機能で、マランツ製品のプリメインアンプならば同様のことが可能。入力切り替えなどの仕様が異なる「PM10」のみは対象外となるが、それこそ上級機の「PM-12OSE」でも同様のことが可能だ。

HEOSアプリからの操作も可能

まったく同じように、今度はスマホの音楽をBluetoothで聴いてみよう。操作はCD 50nのリモコンでBluetoothを選択するだけ。これできちんと音が出る(Bluetoothのペアリング設定などが済んでいる場合)。スマホ側で音量を調整すれば、CD 50n側のボリュームが動作するので、スマホ操作でありがちなおおざっぱなボリューム調整ではなく、0.5dB単位の細かなボリューム調整が可能。

HEOSのネットワーク機能でAmazon Music HDを再生

続いてHEOSのネットワーク機能でAmazon Music HDを聴いてみる。操作はCD 50nのリモコンでHEOSを選択するだけ。HEOSアプリをリモコンとして使い、CD 50nの入力をHEOSに切り替える事もできる。

HEOSアプリはボリュームを細かく調整することもできるので、ボリューム操作は可変出力でも固定出力でも構わない。こだわるならば両方を試して音質の良い方を選んでもいい。

HEOSアプリからボリューム調整も可能

結果だけ見てしまえば、テレビの音声も、ネットワーク機能も、Bluetoothも、CD再生も、テレビのリモコンやCD 50nのリモコン、あるいはスマホ操作で手軽に行なえるようになる……という話だ。

だが、内部的にはテレビやネットワーク機能では可変出力としてCD 50nのボリューム回路が動き、CD再生時はより高精度であるだろうMODEL 50側のボリューム回路が動作する。その動作はボリューム操作時にアンプ側のディスプレイを見ればどちらのボリュームが動いているかを視覚的に確認することもできる。

これはまるで、ソースに合わせていちいち接続をつなぎ替え、最良の経路によるような接続でリモコンはテレビ用とCD用とアンプ用の3つを使い分けて複雑な操作をしているのと同じではないか。見た目的には地味ではあるが、人類の技術はここまで進んでいたというのか! などと大げさに感激してしまう。

本格的なHi-Fiコンポーネントだからこそ、テレビの音もネットの音楽も格別

せっかくなので、CD 50nとMODEL 50、B&W 603 S3によるテレビやネットの音も聴いてみよう。まずは、テレビ音声。テレビ側のYouTubeアプリを使って「The First Take」の動画から安田レイの「Not the End」を聴いた。

テレビ内蔵スピーカーとは格段の差だし、画面の前に定位するボーカルの鮮明度、ニュアンスの豊かな歌声など、Hi-Fiコンポーネントならではの質の高い音だ。

基本的な音質としても、音色の正確性や細かな音の再現性など、単純にテレビ用スピーカーをつないだだけの音は格が違うと感じる。これだけの音質になると、サラウンド音声ではないステレオ再生でも映画を見ればその音の生の迫力というか、リアリティーのある音になるとわかる。

続いてはAmazon Music HDで、宇多田ヒカルの「Beautiful World」を聴く。

声の再現性や実体感のある定位はもちろんのことだが、伴奏の広がりや包囲感も豊か。ストリーミング音楽サービスの中ではAmazon Music HDは決して音質的な評価は高くないが、これだけの音質で楽しめれば、むしろ間口が広く楽しめる楽曲も膨大というメリットが勝つ。もちろん、CD 50nはRoonなどへの対応も万全なので、高音質を求めてよりプレミアムなサービスを利用するのも良い。そうした優れたクオリティを存分に味わえるはずだ。

ジャズ映画「BLUE GIANT」の「N.E.W.」を聴く。高校生トリオと馬鹿にしている観衆の度肝を抜いてやる、そんな意志を込めた冒頭のテナーサックスの迸るようなエネルギーがしっかりと出る。厚みがあってパワフルだ。ピアノも繊細にして知的なテクニックをみせつつ、低音のパートの芯の通った太い鳴り方で力強さも満点。テレビの両側にスピーカーを置いたリビングオーディオのようなスタイルで、スマホ片手の気軽な音楽再生なのに、音は本格的なHi-Fi。この贅沢な感じがいい。

なお、これらのテレビからの音やネットワーク再生(固定出力を選択しても同様の操作は可能)では、CD 50nの内蔵ボリュームを使用するが、実はこのためにCD 50nには高性能なボリュームコントロールICとHDAM-SA2による出力バッファーアンプで構成した高音質なボリューム回路を備えている。

HDAM-SA2搭載のアナログ回路。GNDラインにはバスバーを採用して強化

音質を仕上げたマランツのサウンドマスターである尾形好宣氏によれば、固定出力と可変出力のどちらもマランツクオリティの音質を実現しているという。一般的には固定出力の方が音質は良いといわれるが、そういった差を感じさせないようしっかりとコストをかけて作っているそうだ。巧みな連携機能を見据えて、しっかりと作り込まれた製品であることがよくわかる。

最後はCD再生。SACDの「オフコース/over」から「言葉にならない」を聴く。名曲中の名曲で若い人でも知っていると思われる曲だが、オリジナル盤の良さをとことんまで引き出した名盤。今回はCD層を再生しているがCDとは思えない音質だ。小田和正の高い声がきれいに伸び、曲に込めた思いや叫びたくなるような情熱がよく伝わる。

マランツのCDとアンプにB&Wという、ほぼ純正に近い組み合わせは色づけ皆無のストレートな音が特徴のひとつだが、味も素っ気もないなどと揶揄される一方で、音楽そのものを感じるダイレクト感があると思う。どちらかというとしっとりとしたバラードと感じがちなこの曲が、ここまでダイナミックで力強く鳴るのは、元の音源の質だけではないだろう。

Hi-Fiとテレビの音をつないでくれる貴重なコンポーネント

テレビ放送にもサラウンド音声が採用され、動画配信の映画でもサラウンドが当たり前という時代に“ステレオ再生は古い”と思う人もいるだろう。

しかし、本格的なHi-Fiの音質でテレビの音を聴いてしまうと、安易に後ろにスピーカーを置いただけのサブシステム的なサラウンドでは満足できないだろうというのもよくわかる。むしろステレオ再生の方が純度が増してより没入感があるじゃないかと思うくらいだ。

こうしたトレンドに合わせて、HDMI ARCを備えてテレビとの連携を実現したHi-Fiコンポーネントが増えてきている。優れたステレオ再生の装置を持っている人には気になるところだろう。

しかし、その多くはプリメインアンプなので、すでにオーディオを楽しんでいる人の場合、メインの高級アンプと切り替えて使うことになる。すると、音質差が気になって新しいHDMI ARC付きプリメインアンプを使わなくなってしまうかもしれない。逆に、利便性が高いので、すっかり以前の高級アンプを使う機会が減ってしまうかもしれない。どちらもありうるが、買い換えなり買い足しを考えた時に、そんな不安が頭をよぎるだろう。

しかし、CD 50nならば、これまでのシステムをなにひとつ犠牲にすることはない。追加するだけだ。例えば、アナログレコードにFM/AMチューナー、カセットデッキもある、そんな昔のアナログメディアが中心のシステムであっても、CD 50nを追加すると、最新のネットワーク機能やUSB DAC機能、薄型テレビとの連携機能まで付いてくる。アンプを変えないので、音がランクダウンする事もない。

CD 50nはマランツ同士(PM10は除く)ならば最高の連携機能が実現でき、CD 50nとMODEL 50の組み合わせならば機能的には最新鋭ながらも純粋なアナログアンプを中心としたピュアなステレオ再生システムが構成できる。だが、勘の良い読者はもうお気づきだと思うが、別にマランツのアンプでなくても構わない。

もちろん、連携操作は若干制限が加わる(プリメインアンプの操作が手動になる)が、他社製のアンプを使ったシステムに組み込むことも十分できるのだ。HDMI ARC付きプリメインアンプが気になってはいるが、現在使っているプリメインアンプ、あるいはセパレートアンプと入れ替えることを考えると、おそらくはグレードダウンになってしまうと考え、購入を躊躇している人は決して少なくないはず。CD 50nならアンプはそのままで薄型テレビとの連携やネットワーク機能が使えるようになる。

これこそ、高級オーディオによるシステムを使っている人の望みを叶える製品だろう。CD 50nは機能的には十分だが、20万円を超えるとなるとSACDも再生できてほしいとか、CDプレーヤーとして見るとやや高価な印象があったが、追加された連携機能により魅力が高まった。従来の純粋なアナログ主体のステレオ装置を所有する人にとっても、CD 50nは見劣りがしない

10万円以下のお手頃価格で製品化されても音質的に物足りないのではないだろうか。個人的にも中途半端な価格という印象のあったCD 50nなのだが、今回の優れた連携機能を知ってまさにベストな価格帯だと実感した。約23万円という価格も、高級機主体のシステムに組み合わせるにもあまり見劣りがしないものだろう。

例えば、PM-12OSE(385,000円)とB&Wの800シリーズによるシステムを組んでいる人がCD 50nを導入すれば、そのHi-Fiな音質で薄型テレビの音が楽しめるようになる。

CD 50nは多彩なデジタルソースに幅広く対応する総合的なプレーヤーとしてよく出来ているし、マランツらしい音質を楽しめるモデルだが、優れた連携機能を実装したことでまた新しい可能性を拓くオーディオコンポーネントであることが実感できた。テレビ連携やネットワーク機能に興味はあるものの、なかなか使っているシステムに見合う製品がないとお嘆きの皆様は、ぜひともCD 50nに注目してほしい。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。