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憧れのBowers & Wilkinsに“手が届く”TWS、「Pi6」がオススメな4つの理由

Bowers & Wilkins「Pi6」

仕事柄、人から「完全ワイヤレスイヤフォンのオススメを教えて」と聞かれることがよくある。それだけだと漠然としていて難しいが、最近増えているのが「最初に買ったものが壊れたから、次はちょっと良いやつが欲しい」というオーダーだ。

完全ワイヤレスイヤフォンの市場もだいぶ成熟してきた。性能の水準も上がってきて、1万円切りでもノイキャン搭載、1万円台なら多機能であることが当然のように求められるようになっている。一方で、イヤフォンで一番重要なのが“音質”。低価格イヤフォンより、音質の向上をハッキリ実感できるモデルを考えると、やはり3~4万円台くらいから選ぶのが良いと思う。

そこにはソニーやボーズ、ゼンハイザーにJBLなど、定番ブランドの売れ線モデルが揃っている。よりどりみどりだが、わざわざ聞いてくれたのだから、こちらとしても「アップルのAirPods Pro 2でいいんじゃない」みたいな無難な回答を返したくない。まさに「いまならコレ!」というモデルをオススメしてあげたい。

そこでチョイスしたのが、Bowers & Wilkins(B&W)の「Pi6」だ。色々考えると、自分だったらコレが欲しい。その理由を紹介していこう。

所有欲を満たせるB&Wの完全ワイヤレスイヤフォン

まず1つめの理由は、B&Wというブランドにある。

何度その音を聴いても惚れ惚れする、英国スピーカーの名門。まさに憧れのブランドの1つである。一般の人もブランド名までは知らなくても、テレビなどでスピーカーを見たことがあるのではないだろうか。

そんなB&Wが手掛ける完全ワイヤレスイヤフォン、というだけでオーディオ好きとしては価値を感じる。そして、「そのイヤフォン、どこの?」と聞いてほしくなるのだ(誰かにうんちくを語りたいから)。

ハウジングにある「Bowers & Wilkins」のブランド名にグッとくる

価格を見ても、Pi6の実売価格はおよそ45,100円前後。決して安価ではないが、憧れのB&Wを身にまとうと考えれば、十分納得できる価格設定といえる。また上位モデルのPi8がおよそ72,600円のため、価格差が大きい。Pi8には手が届かないけれど、Pi6ならなんとかなる、という人も多いのではないだろうか。

2つめの理由は、Pi6のデザイン。

シンプルだが、上質で飽きのこないルックスだ。ぶっちゃけ、街なかで見かける謎ブランドのイヤフォンとは別モノ。遊びの時だけでなく、出勤時や、フォーマルな服を着ている時でもマッチする。見た目だけでちゃんとしたものを使っていることが伝わるのは重要だ。

シンプルなデザインはともすれば安っぽく見えてしまうものだが、光沢仕上げのPi6には高級感がある
手のひらにすっぽり収まるサイズの充電ケースにも、ブランド名が品よく印字されている

カラーバリエーションはクラウド・グレー、ストーム・グレー、フォレスト・グリーン、グレイシャー・ブルーの4色をラインナップ。いずれも落ち着いた色合いで、男女問わず着けやすいだろう。クラウド・グレーがいわゆるブラックなので人気がありそうだが、個人的にはグレイシャー・ブルーが透明感もあって気に入った。

Pi6のカラーバリエーション。左上から時計回りにグレイシャー・ブルー、フォレスト・グリーン、ストーム・グレー、クラウド・グレー
写真左がPi6(クラウド・グレー)、写真右がPi8(アンスラサイトブラック)。見比べてみると、Pi8は側面にメタリックの装飾があり、よりラグジュアリーだ。どちらが良いかは完全に好みの世界だろう

3つめの理由、“しっかりとした基本性能”を挙げたい。

Qualcomm製チップセットによるワイヤレス接続は、aptX Adaptive(96kHz/24bit)によるハイレゾ再生に対応。最大2台のデバイスと同時接続できるマルチポイントをサポートする。

ドライバーには旧フラッグシップモデル「Pi7 S2」のドライブユニット技術を活用した、12mmのバイオセルロース・ドライバーを搭載している。この植物由来の繊維を混合した振動板は、高剛性と軽量化の両立が図られているそうで、歪みの低減と高域のディテール改善によって明瞭な音楽再生を可能にしたという。

アクティブ・ノイズキャンセリング(ANC)機能は、特別な設定なしで周囲の環境に合わせて自動的に効果を最適化してくれる。あわせて、外音を取り込むパススルー機能も搭載。片側あたり3つのマイクを内蔵することで、通話性能も高められている。バッテリー持続時間は、ANCオンでイヤフォン本体だけで8時間、充電ケース併用で合計24時間の使用が可能だ。

イヤフォン本体はIP54準拠の防塵・防滴性能を備えるため、使用時に神経質にならなくて済むのも嬉しいポイント。操作はハウジングの大型静電容量式タッチボタンから行えて、音量調整やノイキャン/パススルーの切り替えができる。なお、スマートフォンアプリ「Music | Bowers & Wilkins」から、低音および高音のトーンコントロールや、タッチボタンの機能割当調整、イヤフォンのアップデートなどが行なえる。

「Music | Bowers & Wilkins」アプリからはトーンコントロールなどの機能設定が可能だ

このあたり、完全ワイヤレスイヤフォンの機能としては、スタンダードなものだ。ユーザーごとのパーソナライズ化などの最先端機能は無く、機能重視派の人には物足りないかもしれない。だが、これは個人的にはネガティブなポイントではないと思っている。

実際のところ、最新イヤフォンやアプリに搭載される多くの機能は、最初にちょっと試したら、ほとんど使わなくなることが多い。なんなら、日常使いとしてはANCしか出番がないくらいではないだろうか。

それらにコストを使わず、いい意味で割り切って音質を最優先にしたPi6の設計は、ピュアオーディオブランドらしく、むしろ好感が持てる。

音質に影響の少ない優秀なANC。そしてパススルー機能がかなり使える

音質チェックの前に、ANC性能を確認してみよう。

Pi6の形状は、性別や民族による人間の耳の形状の違いに関する研究結果を応用したものだそう。装着すると、たしかに耳にちょうどよくフィットしてくれる。そのおかげもあって、ANCオフでもそれなりに遮音性が高い。

イヤーピースはXS/S/M/Lの4サイズが付属する

外を歩きながらANCをオンにしてみると、スッと雑音が減るのがわかる。小学校の校庭で遊ぶ子どもたちの声が半分以下になり、側を走る車のロードノイズなどはほぼ聞こえなくなる。低音域へのノイズ減少効果がより高い印象だ。

外でPi6のANC性能を確かめた

ANCオンの状態で音楽を再生してみると、外音はまるで気にならなくなる。地下鉄のようにノイズが多い空間でも、これなら音楽に集中できるだろう。ナチュラルな効き具合でANC特有の圧迫感も少ない。上述したような効果によるものか、ANCオン/オフで音楽を聴き比べると、ANCオンの方がほんのわずかに低音域が強まって聴こえる。ただ、これは室内の静かな環境でようやくわかる程度の違いでしかない。ANCを一番の武器にしているようなモデル群には及ばないにしても、これなら不満はまったくない。

また、パススルーをオンにした状態の再生音が、ANCオンの状態の再生音と聴こえ方がほぼ変わらないことには驚かされた。

これまでパススルーは、音質への影響が大きいので音楽を聴きながら使うものではない、と思っていた。だから外音を聞きたいときは毎回、ANCオフ&音楽再生ストップするか、いっそイヤフォンを耳から外していた。しかし、例えば初めて乗った電車でアナウンスを聞き逃したくないときなど、パススルーが必要なシーンはよくあるので、本当は音楽を流した状態で使いたかったのだ。

せっかくの機能なのに……と、もったいなく感じていたが、Pi6のパススルーなら、音楽を聴きながらでも気にせずガンガン使える。先ほど機能が多くてもANCしか普段は使わない、と書いたが、Pi6はそれに加えてパススルーも出番が多そうだ。

とんでもないリアリティ、惚れ惚れするような美音サウンド

それではPi6が欲しくなる4つめにして最大の理由、音質についてレポートしていきたい。

aptX Adaptiveで聴いたPi6のサウンドは、LDACなどに対応する同価格帯のモデルと比較して情報量はイーブン。ただ、その音の上質さがPi6を特徴づけている。

上質、と表現するとなんとなく柔らかなサウンドをイメージされるかもしれないが、そうではない。滑らかではあるが、柔らかさより鋭さの方が感じられる。非常にシャープなのだ。音像がタイトで、解像感が高い。そのため、ひとつひとつの音がキレイに描き分けられ、見通しが良い。

また、再現性は素直だが、モニターライクというよりは、音楽の面白みを大切にしたバランスに思える。そのうえで、迫力を感じさせながらも低音域や高音域を強調させたような表現にならないのは、この”美音”のおかげだ。

aptX Adaptive接続でPi6のサウンドを確かめた

Creepy Nuts「オトノケ - Otonoke」は、再生して数秒でPi6の実力が発揮されていることがわかる。繰り返される「ダンダダン」のフレーズ、そのバックに流れるおどろおどろしいサウンドが明瞭に聴き取れるからだ。Aメロに入ってからも、R-指定の常人なら舌を噛み切りそうな驚異的な滑舌に、BGMが負けなくなる。すると、この曲の展開の豊富さがよりハッキリと感じ取れるようになった。低音ブンブンでノらせてくれるタイプのモデルで聴いても楽しくはあるが、それだとこの曲の一種の気持ち悪さと爽快感が薄まる。それよりPi6で聴いた方が、気持ちよさが上だ。

tuki.「晩餐歌(弾き語りver)」では、ボーカルとギターのあまりの生々しさにクラクラする。「目の前にボーカルが現れた」どころではない。もう腕を掴まれて強制的にボーカルの前に座らされたかのような、強烈な没入感を引き起こす。極めてナチュラルな再生音によるところも大きいが、優れたS/Nが生み出す、音の響きと余韻がとんでもなく良いからだろう。この空気感のリアリティには、B&Wのスピーカー再生に通ずるものが感じられる。

色々なジャンルの曲を聴いても、苦手そうなジャンルが見当たらないのもポイントだ。逆に上述のような傾向から、生楽器を用いたホール録音の楽曲や、小編成のボーカル曲、クラシック、インストゥルメンタルとの相性はさらに高いように思う。

ちなみに、上位モデルのPi8と聴き比べた印象もお伝えしておこう。

美音系のサウンド傾向は両モデルとも共通しているが、Pi8はよりフラットな再現性で、細部に至るまで恐ろしく緻密に描写される。分解能が極めて高く、どの帯域もまんべんなく鳴らす。さすがB&Wの最上位だけあって、素の実力はPi6よりも上だ。

とはいえ、絶対にPi8が良いとも言い難い。忠実な再現性は、ときに聴き疲れにつながってしまう。Pi6のサウンドはPi8ほどシビアではなく、肩の力を抜いて聴くことができる。そのためシーンを問わずに聴いていられるという面では、Pi6が勝っているように思う。それなりの価格差もあるなかで、コストパフォーマンス的にも日常使いに向いたPi6は選択肢として大いにアリだろう。

自信を持ってオススメできる出来の良いモデル

改めて、Pi6はぶっちゃけ自分が欲しくなる要素が満載の完全ワイヤレスイヤフォンだ。だからこそ、自信を持って人にもオススメできる。

エントリーモデルからのステップアップとして、クオリティの違いが実感できること間違いなし。Pi8に注目していたオーディオファンにも、Pi6は一聴の価値ありとお伝えしたい。B&Wサウンドを体感するのに、必ずしも上位モデルでなくともよいのはイチ消費者として大変ありがたい。

ただ、最初の一台としてプレゼントするには向いていないのかもしれない。初心者がPi6からスタートしたら、良いモノしか耳が受け付けなくなってその後が大変になるだろう。そんな心配をしてしまうくらい、出来の良いモデルだ。

小岩井 博

カフェ店員、オーディオビジュアル・ガジェット関連媒体の編集・記者を経てライターとして活動。音楽とコーヒーと猫を傍らに、執筆に勤しんでいます。