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解像度と迫力の“神バランス”、B&Wの手に取りやすいTWS「Pi6」の実力

Bowers & WilkinsのPi6。背後にあるのはBowers & Wilkinsのスピーカー「804 D4」だ

ピュアオーディオファンにはお馴染み、英国のスピーカーメーカーBowers & Wilkins。私も家で同社のスピーカーを使っているが、離れて聴くスピーカーなのに、まるでヘッドフォンで聴いているかのように微細な音まで聴き取れ、「この曲にこんな音が入っていたのか」と、未だに新しい発見がある。

そんなB&Wはヘッドフォンやイヤフォンにも力を入れており、特にヘッドフォンではスピーカー譲りの高音質と、デザインが超ラグジュアリーでカッコいい「Px8」や「Px7 S2e」が話題。すっかり“ポータブルオーディオも手掛けるB&W”というイメージが定着した。

そして、そんなハイクラスなヘッドフォンで培った技術を投入した、全く新しい完全ワイヤレスイヤフォンも9月中旬に発売。それが「Pi8」(オープンプライス/実売72,600円前後)と、「Pi6」(同45,100円前後)の2機種だ。

Pi8

先日、この中の上位機Pi8をレビューしたが、Px8譲りのカーボンコーンを搭載した高音質と、iPhoneとUSB接続してaptX Adaptive(96kHz/24bit)でワイヤレス伝送できるトランスミッター機能など、「これ最強じゃん」と言えるイヤフォンに仕上がっていた。

……ただ、Pi8の実売は約7万円。Px8(実売約117,700円)と比べると低価格ではあるが、完全ワイヤレスイヤフォンとしては高価であり、「欲しいけど、なかなか手が出ない」という人も多いだろう。

そこで気になってくるのが、下位モデルの「Pi6」(同45,100円前後)だ。上位機の影に隠れたような存在だが、実際に使ってみると、「え、これヤバくね?」というハイコストパフォーマンスなイヤフォンに仕上がっていた。

Pi6

Pi8とPi6の共通点

試聴の前に、Pi8とPi6の共通点を振り返ろう。

まず、2機種を並べてみると、イヤフォンや充電ケースに至るまで、形状やサイズはほぼ同じ。細かく見比べると、Pi8の方がハウジングまわりにメタリック塗装のパーツを配して高級感をアップさせているが、Pi6もハウジングは光沢のある仕上げになっており、これはこれで質感が高い。

左からPi6、Pi8

Pi6のカラーバリエーションは、ストーム・グレー、グレイシャー・ブルー、クラウド・グレー、フォレスト・グリーンで、フォレスト・グリーンのみ12月下旬発売となる。

Pi6のカラバリ。左からストーム・グレー、グレイシャー・ブルー、クラウド・グレー

Pi6は価格帯として、2023年に登場したこれまでのフラッグシップモデル「Pi7 S2」を置き換えるモデルだ。Pi7 S2は、イヤフォンと円柱が融合されたような奇抜な外観だったが、それと比べるとPi6は“そら豆”っぽいオーソドックスな形状。装飾も派手ではないので「イヤフォンはさりげなく装着したい」「それでいて高級感は欲しい」という人には、Pi6がハマるだろう。

左がPi6、右がこれまでのフラッグシップモデル「Pi7 S2」

Pi6/Pi8のスペック的な共通ポイントは、どちらもBluetoothコーデックのaptX Adaptive(96kHz/24bit)に対応し、ワイヤレスでハイレゾ音源の高音質再生が可能な事。最新のQualcomm製チップセットを採用し、2台のデバイスを同時に接続して切り替えられるマルチポイン ト接続にも対応する。

ハウジングには、操作性を高めるために、大型の静電容量式タッチボタンを搭載。より高精度なセンサーを使うことで、タッチ操作の反応や信頼性を高めている。

アンテナとマイクの配置も刷新して、通信の安定性向上や、通信性能も高めた。ユーザーがイヤフォンを装着しているかどうかを検出する近接センサーも赤外線式に刷新されている。

Pi6

Pi8とPi6の違い

Pi8とPi6の大きな違いは、ドライバーとコーデックだ。前述の通り、どちらのモデルも最大96kHz/24bitのaptX Adaptiveに対応するが、Pi8はさらにaptX Losslessもサポート。Pi6は非対応だ。確かにaptX Lossless対応は魅力的だが、まだスマートフォンなどの送信側で対応機種が多くないので、そこまで重視しないという人も多いだろう。

音質面でのポイントは、ドライバーの違いだ。どちらも新開発の12mmダイナミック型ドライバーを搭載するのは同じだが、振動板の素材が違う。Pi8は独自のカーボンコーンを使っているが、Pi6はバイオセルロースを使っている。

Pi6のイヤーピースを外したところ。このノズルの奥にバイオセルロース振動板のユニットがある

イヤフォンやヘッドフォン、スピーカーの振動板は、それ自体が振幅して音を放出するので、音質にとって重要なパーツだ。理想的な素材の条件としてよく挙げられるのが、軽量かつ剛性が高く、物性値(伝搬速度・内部損失)が良いこと。

例えば、剛性がイマイチな素材を使うと、振幅している途中で振動板が変形して音に歪が出てしまう。ではガチガチに硬ければ良いかというと、そうでもなく、剛性を上げた結果重量が増えると、俊敏に動けなくなってしまう。また、適度な内部損失が無いと、例えば金属の響きが出てしまうなど、振動板固有のキャラクターが音に乗ってしまう。

Pi8はそこで、カーボンを採用。Pi6は、植物由来の繊維を混ぜ合わせて作るバイオセルロース振動板を使ったというわけだ。

実際に両モデルの振動板に触れてみたが、一般的なPETフィルムの振動板と比べ、どちらも驚くほど剛性が高い。振動板が柔らかいと、指で触れた時にペニョペニョと容易に変形してしまうのだが、Pi8/Pi6の振動板は、指に少し力を入れたくらいではまったく変形しない。それでいて軽量な振動板に仕上げているのがミソだ。

Pi6のバイオセルロース・ドライバーは、繊維の配分などを工夫する事で、剛性を高めつつ、軽量さも追求。歪みを低減し、高域のディテールを高めるとともに、描写の明瞭さとディテールも向上させたそうだ。音は後ほど聴いてみよう。

装着感とノイズキャンセル機能をチェック

ではPi6を装着する。前述の通り、形状としてはオーソドックスなそら豆型で、全体的にコンパクトになったため、従来のPi7 S2と比べて、スッと耳に挿入しやすい。突起が無いので、装着後の見た目もスマート。

片側7gと、非常に軽量なので、装着後に、自重で耳からズルっと抜け落ちそうになる事もない。装着しながら立ったり座ったり、歩いたりしたが、装着安定性は良好だ。付属のイヤーピースは、標準で装着されているMに加え、L、S、XSが付属する。

B&Wによれば、イヤフォンの形状は、性別や民族による人間の耳の形状の違いに関する研究プロジェクトから生まれたものだそうだ。海外ブランドのイヤフォンだと、日本人の耳ににはちょっと大きい……みたいな事もたまにあるが、コンパクトなPi6なら問題ないだろう。イヤーピースに小さめなXSもあるので、耳が小さめな女性にもマッチすると思われる。

音楽を聴く前に、室内と屋外でアクティブノイズキャンセリング(ANC)機能を試した。

まずは騒音が激しい地下鉄で試したが、ANCをONにすると「グォオオオ」というトンネルに響く風の音や、電車のボディが振動する低いノイズは大幅に消え、「クォーン」というモーターの高音が残る程度。残ったノイズも、音楽をかけるとほとんど気にならなくなる。

幹線道路の近くを歩いている時も、車の低いエンジン音は消え、「シュー」という感じのタイヤの走行音が残る程度までノイズを抑えてくれる。従来モデルPi7 S2よりもNC効果は高くなっており、他社も含めて“ANC効果最強レベル”とまではいかないが、必要十分な効果がある。

それよりも見事なのが、音楽を流しながらANC機能のON/OFFを切り替えた時の“音の変化の少なさ”だ。ぶっちゃけほとんど違いがわからない。

他社のイヤフォンでは、ANCをOFFにすると素っ気ない音で、ONにすると急に派手な音になって「ANC ONを前提とした音作り」になっているものも多いが、Pi6はまったく異なる。TWSでもまずはイヤフォンとしての音作りを追求し、ANCは搭載するが、重要な音質に影響が及ばないレベルに留める……という作り方をしているのだろう。ピュアオーディオメーカーらしさが感じられる部分だ。

ANCのON/OFFや外音取り込みモードへの変更は本体からも可能だが、アプリの「Music | Bowers & Wilkins」をインストールすると、そこからも切り替えられる。また、アプリにはEQ機能もあり、低音と高音の調整も可能になっている。

アプリの「Music | Bowers & Wilkins」
低音と高音の調整も可能

バッテリー持続時間は、ANC利用時でイヤフォン単体で8時間、ケースで充電するとさらに16時間の使用が可能で、合計24時間使用できる。通勤や通学で平日に2時間聴く場合でも、1週間くらいは充電せずに使えるだろう。

音を聴いてみる。Pi7 S2を超えた? Pi8との違いは?

では、音を聴いてみよう。

まずは新旧比較として、aptX AdaptiveでPi6をじっくり聴いたあとで、従来のハイエンド機Pi7 S2にチェンジ。両者の違いを体験してみた。

まずPi7 S2だが、「ダイアナ・クラール/月とてもなく」を聴くと、色付けの少ない、極めてナチュラルな音で、人の声や生々しく、アコースティックベースの木の響きも非常にナチュラルで、当然ながら、音質はかなりハイグレードだ。

「これでも充分満足できる音だな」と思うのだが、Pi6に切り替えると、「!?」と、すぐに違いがわかる。バイオセルロース振動板を使っているだけあり、色付けの少ないナチュラルな音という方向性はPi7 S2と同じだ。しかし、明らかにSN比と解像度がPi6の方が上がっている。

例えば、ピアノやボーカルの響きが、周囲の音の無い空間にフワッと広がり、消えていくのだが、Pi6で聴くと、静かな部分がより静かになり、その無音空間に響きが広がる様子がクリアに見える。まるで視力が良くなったような感覚だ。これにより、音場に奥行きが生まれ、音楽が立体的に感じられるようになる。

また、ボーカルが口を開閉する時のかすかな音や、合間に漏れるブレス、ベースの弦が震える様子など微細な音の描写は、Pi6の方が細かい。そのため、聴きながら「こんな音が入っていたのか」と気がつく瞬間が多く、生々しさにドキッとする瞬間もPi6の方が多い。

純粋に、イヤフォンとしての描写力が進化しているので、ムソルグスキーの「展覧会の絵」より「バーバヤーガの小屋」など、沢山の楽器が鳴るオーケストラでも、個々の楽器の音が細かく聴き取りやすい。また、響きが広がる空間の広さから、コンサートホールのスケール感も、Pi6の方が広く感じられる。

新たなハイエンドイヤフォンとしてPi8が存在するが、その下位モデルであるPi6でも、既存のハイエンド機Pi7 S2の音質を上回っている事が実感できた。

では気になるのが「Pi8とPi6はどっちがいいの?」という部分だろう。

いや、Pi8の方が上位モデルなので、実力は上なのは間違いない。ただ、聴き比べてみると、この違いが実に面白い。

まず、解像感という面では、カーボンコーンを採用したPi8の方が一枚上手で、より描写が微細で、音像の輪郭もさらにシャープだ。ただ、前述の通りPi6も充分に高精細な描写力は持っており、決してPi6のフォーカスが甘いという事はない。

むしろ、高精細過ぎない事で、聴いていてホッとするというか、より落ち着くのはPi6の方かもしれない。

特に違いが大きいのは低域。Pi8は中高域だけでなく、低域まで非常に分解能が高く、「米津玄師/KICK BACK」のように、ベースが唸るような激しい楽曲でも、そのベースラインをタイトに、鮮烈に描写してくれる。

一方で、Pi6は分解能では一歩劣るものの、ベースやドラムのパワフルさ、低音がガッと前に飛び出してくる激しさは、Pi8よりも優れている。要するに、Pi8はよりモニターライクな、解像度重視のバランスであるのに対し、Pi6は低域のパワフルさ、迫力といった面を大事にする事で、聴いていてより楽しいサウンドになっている。

優劣つけがたいPi6の魅力

イヤフォンとしての総合的な実力という意味では、確かにPi8の方が上であり、そこは上位モデルとしての貫禄を感じる。

ただ、聴く人の好みにマッチするかどうかで評価が変わってくるのも、オーディオの面白いところ。実際に聴き比べてみると、解像度の高さと元気の良さのバランスがうまく取れているPi6のサウンドは、想像以上に魅力的であり、「Pi8はもちろん良いんだけど、Pi6もこれはこれで超良いな」と優劣つけがたい。

Pi8(実売約7万円)、Pi6(同45,100円前後)と価格差はあるが、2機種を聴き比べて「Pi6の方が気に入った」という人も、おそらくいるだろう。個人的にも「曲によってはPi6で聴きたいな」と思う事も多かった。この違いは非常に面白いので、ぜひ、店舗などで聴き比べてみてほしい。

いずれにせよ、Pi8が気になっているが、ちょっと手が出ないという人はPi6も検討すべきだ。Pi6の価格帯には、他社の実力派イヤフォンも多く存在するが、そうした中にあっても“B&Wのポータブルオーディオの凄さ”をしっかりと感じさせてくれる。コストパフォーマンスに優れたモデルだ。

山崎健太郎