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“2.1chオーディオ計画”、学生でも買えるPolk AudioサブウーファとDENON HOME AMPで省スペース高音質

一番左がサブウーファーPolk Audio「ES8」、その上にあるのがブックシェルフスピーカーPolk Audio「ES10」。中央の小さい箱が「DENON HOME AMP」

振り返ると、今年のオーディオ界のトレンドは“小型ピュアオーディオ”だった。従来から小型の単品コンポは盛り上がりつつあったが、夏頃に登場したマランツの「MODEL M1」と「DENON HOME AMP」のヒットで、大きくブレイクした印象だ。

左からデノン「DENON HOME AMP」、マランツ「MODEL M1」

これらの小型コンポは、2chのフルデジタルアンプとネットワーク再生機能、HDMI ARCなどを備えているため、「スピーカーさえ買い足せば、音楽配信やテレビの音をピュアオーディオのクオリティで楽しめる」のが魅力。価格も10万円台と、ピュアオーディオとしては手が届きやすかったことも人気に拍車をかけた。

そして、Polk Audioなど、コストパフォーマンスに優れたブックシェルフスピーカーが相次いで登場したことも、小型ピュアオーディオブームと無関係ではない。小型コンポと同じくらい手軽に手に取れる価格で、机や棚など、ちょっとしたスペースに置けるスピーカーがあってこその、“省スペースでピュアオーディオブーム”というわけだ。

だが、実際にこの小型コンポ + 小型ブックシェルフスピーカーを実践してみると、クオリティは高いのだが、特に低音において、「もうちょっと迫力が欲しいな」と思っている人は多いのではないか。

“デカいスピーカーに買い換える”も良いのだが、1つ、やってみたいことがある。それは“サブウーファーの追加”。つまり、2.1chピュアオーディオの世界だ。

2chオーディオをデスクトップで実践してみる

「サブウーファーって、AVアンプとかスピーカーいっぱい並べたホームシアターで使うやつでしょ?」と思ったアナタ、確かにその通り。ただ、サブウーファーは別に5.1chや7.1ch環境だけで使うものだけではない。

また、以下は前述の小型コンポマランツMODEL M1、DENON HOME AMPの背面を撮影したものだが、右下を見るとわかるように、どちらのコンポも「サブウーファーアウト」を備えている。つまり、AVアンプでなくても、サブウーファーは使えるわけだ。

背面。左がデノン「DENON HOME AMP」、マランツ「MODEL M1」
DENON HOME AMPのサブウーファーアウト

実際にやってみよう。用意したのは以下の3機種だ。

  • ブックシェルフスピーカーPolk Audio「ES10」 37,400円(ペア)
  • サブウーファーPolk Audio「ES8」 72,600円
  • 小型一体型オーディオ「DENON HOME AMP」 121,000円

Polk Audio「ES10」

Polk Audio「ES10」

コスパの良さで、人気を集めるブランドPolk Audio。ミドルクラスの「SIGNATURE ELITE」シリーズの一番小さなブックシェルフが「ES10」だ。価格はペアで37,400円と、ピュアオーディオ用スピーカーとしては“激安”と言っていい。

外形寸法は137×158×213mm(幅×奥行き×高さ)と小さく、男性であれば、手のひらで上からガシッと掴んで持ち運べる。注目は“奥行きが短い”こと。オーディオ用ブックシェルフの場合、横幅は小さいのに、奥行きが長くて机に置けない事も多い。ES10の奥行きの短さであれば、デスクトップオーディオ用としても使えるわけだ。

持ち上げてみると、片側2.72kgとズッシリ重くて“凝縮感”がある。エンクロージャーは単純な“四角い箱”ではなく、端を“R”形状にして回折を防ぎ、強度をアップ。ユニットを取り付けたバッフル面もエンクロージャーから一段高くしてこちらも回折を抑えるなど、コストがかかっている。

背面も面白い。リアバスレフだが、背面に穴は見えず、代わりにフィンのような大きなパーツがついている。Polk Audioの特許技術であるパワーポートと呼ばれるもので、パーツの向こうにあるポートから、出入りする空気の流れをスムーズにするために、このパーツが取り付けられている。

パーツを横から見ると、ポートから放出された中低域を拡散させるためと思われる、山型のリフレクターがチラッと見える。

このパワーポートにより、歪みや乱流を大幅に抑えながら、開口部の表面積を拡張。一般的なバスレフポートに比べて約3dBの出力アップを実現しているそうだ。

背面にバスレフポートがあるスピーカーは、ポートを塞ぐように壁にピッタリ寄せると、低域が出なかったり、反射が増えて低音がボワッと不明瞭になるなどの弊害が出る。ES10のパワーポートは、“いい感じに低域を増幅させる壁”を自分で背負っているようなものなので、背後の壁の影響を受けにくいのもポイントだ。

ペアで37,400円と激安なので「チープな感じなのでは?」と思いがちだが、実物を見ると「この値段でどうやって作ってるの?」と聞きたくなるほどクオリティが高い。Polk Audioは、市場規模が日本より大きい米国でシェアを獲得しているため、そもそも作っているスピーカーの数が桁違いに多い。その量産効果でコストを下げらるのが、コスパが強い理由なのだ。

Polk Audio「ES8」

Polk Audio「ES8」

Polk Audioの「ES8」は、前述のES10と同じ、ミドルクラス「SIGNATURE ELITE」シリーズのアクティブサブウーファーだ。

正面右上に20cm径のウーファーユニットを搭載。剛性を高めつつ、軽量なマイカ強化ポリプロピレンコーンを採用している。エンクロージャーはフロントバスレフなので、前述のES10と同様に、壁際にも設置しやすい。また、低域を再生すると、そのパワーによって筐体が振動するが、それを抑えるために筐体内を補強している。

マイカ強化ポリプロピレンコーン

アンプを内蔵したアクティブ型で、クラスDアンプを搭載している。定格出力は100Wだ。ウーファーを最適に駆動できるよう、あらかじめDSPによる最適化が施されている。正確な位相調整を行なうためのタイムスマート・フェイズコントロール機能や、メインスピーカーとシームレスに音を繋ぐための4次ローパスフィルターも搭載している。

ローパスフィルターは50Hz~160Hz。入力端子はLEF入力とステレオラインレベル入力を搭載。外形寸法/重量は352×386×383mm(幅×奥行き×高さ)で12.6kgだ。

サランネットを装着したところ

DENON HOME AMP

DENON HOME AMP

DENON HOME AMPの外形寸法は217×242×86mm(幅×奥行き×高さ)と、ちょっとした弁当箱くらいのサイズ。重さは約2kgあるが、こちらも男性なら片手で持ち運べるだろう。

この小型筐体に、定格出力125W + 125W(4Ω)、100W + 100W(8Ω)のフルデジタルアンプを搭載。内部でBTL構成にすることで、コンパクトながら出力を高めている。オランダのAxignのClass Dアンプソリューションを使っている。

完全なデジタルアンプなので、音楽配信やHDMI/光デジタルなどから入力されたデジタル信号は、スピーカー出力のフィルターまで一度もアナログ信号に変換されることなくフルデジタルで処理。アナログRCA入力も備えているが、アナログ信号はデジタル化され、以降はデジタルで処理している。

内部には、デノンのサウンドマスター山内慎一氏が、試聴を繰り返して決めた高音質パーツも投入。もっと高価なモデルにも使われている、山内氏こだわりのオリジナル高級パーツ「SYコンデンサー」も投入されている。

コスパの面では、「価格も性能」を掲げるデノンも、Polk Audioに負けていない。そもそも、マランツMODEL M1(154,000円)と同じプラットフォームを使って作られているが、DENON HOME AMPの方が121,000円と、MODEL M1より約3万円安い。

コストを押さえる工夫として、MODEL M1は日本の白河工場で作られているが、DENON HOME AMPはベトナムの工場で作られている。さらに、既発売のCDプレーヤーも内蔵した小型コンポ「RCD-N12」で培った技術や、ハイエンドターンテーブル「DP-3000」の時に開発した大型カスタムコンデンサーを採用。筐体の仕上げも、MODEL M1が表面にサラサラとした質感のソフトフィールフィニッシュであるのに対し、DENON HOME AMPは樹脂そのままなど、コストを抑える工夫が随所にある。

つまり「音に大事な部分にコストを全振りし、その他はできるだけ抑えて買いやすくした」事自体が、DENON HOME AMP最大の魅力と言うわけだ。

2chでも十分ハイクオリティ

サブウーファーを使う前に、まずはES10とDENON HOME AMPを組み合わせて、2chオーディオをやってみよう。設置場所も、スタンドが要らない机の上だ。

前述の通り、ES10もDENON HOME AMPもさほど奥行きがないため、卓上に設置しやすい。DENON HOME AMPは背も低いため、パソコンのディスプレイの下に配置する事も可能だろう。

ただ、DENON HOME AMPにはUSB DAC機能は無いので、PCのサウンドを聴くためには、PCのアナログ出力を使うか、別途USB DACを用意する必要がある。

ES10は、そのまま机に置くよりは、インシュレーターを噛ませたほうがいい。エンクロージャーの剛性は高いが、音楽を再生すると振動はするので、その振動が机に伝わると、机が“鳴いて”余分な音が混じってしまう。それを防ぐためのインシュレーターだ。

使い方は簡単。スマホにHEOSアプリをダウンロードし、画面の指示通りにDENON HOME AMPをセットアップ。あとはAmazon Musicなど、契約している音楽配信サービスにログインし、そこから音楽を選べば、ES10から音が出る。

「ダイアナ・クラール/月とてもなく」を再生する。

デスクトップ環境で、スピーカーとの距離も近いが、それでも十分な音場の広さが感じられる。机の上にステージが出現したような感覚で、ボーカルは綺麗に中央に定位。その左右にベースやピアノの音像が浮かび上がる。

ニアフィールドリスニングであるため、まるでステージにかぶりつきで鑑賞しているような、ステージに半分顔を突っ込んで聴いているような、贅沢な気持ちになる。音像との距離も近いため、ベースの弦をつまびく様子や、ボーカルの口の動きなど、細かな音も聴き取りやすい。

音色はナチュラルで、アコースティックな楽器や人の声に、ホッとする温かさがある。解像度は十分高く、ハイレゾ音源の情報量も再生できているが、カリカリシャープに輪郭を強調するような鳴り方はしない。音楽と対峙するというよりも、ゆったりとした気分で、リラックスしながら聴ける音。これはPolk Audioのスピーカー全体に共通した傾向だが、低価格なES10でも同じだ。

上にツイーター、下にウーファーを搭載した2ウェイスピーカーをニアフィールドで聴くと、頭の高さによって聴こえ方が変化することが多いのだが、ES10はスピーカー自体が小さいためか、そのあたりはあまり神経質になる必要はない。

小さい筐体を活かし、気持ちの良い音の広がりが体感できる。机の上が狭い人こそ、逆に机の範囲を超えて広がる音場に感動するはず。開放的な気分で音楽が楽しめるだろう。

余談だが、DENON HOME AMPはフロントにボリュームとダイレクトボタンがあるので、ニアフィールドで聴きながら、音量を変えたい時などに、すぐボリュームに手が届いて便利だ。アプリからも操作はできるが、やはり筐体にボタンを備えていると、ストレスが少ない。

サブウーファー追加で一気にスケールアップ

ぶっちゃけ、ES10 + DENON HOME AMPだけでも満足度は高い。細かく聴けば、「アコースティックベースの低域はもう少し重さが欲しいな」とか「ボーカルもお腹から声が出ている厚みが欲しいな」みたいな不満はなくはないが、かといって、極端に音がスカスカで痩せている、なんてことはないので、“ピュアオーディオの楽しさ”を味わう事はできる。

ではここに、サブウーファーのES8を加えるとどうなるのか。机の下にES8を配置した。なお、ES8は標準でしっかりとしたインシュレーターを備えているので、そのまま床に設置可能だ。

ES8の脚部

接続は簡単。ES8の背面に、LFEという端子があるので、これをDENON HOME AMPと接続する。すると、サブウーファーがこの接続を検知し、自動的にLFEモードに設定され、ローパスフィルタをバイパスする。

ES8の背面
RCAのライン入力と、LFE入力がある

あとは、HEOSアプリからDENON HOME AMPの設定画面に入り、「有線サブウーファー」の項目にある「ローパスフィルター」を設定する。ES10の再生周波数範囲は78Hz~40kHzなので、DENON HOME AMP側のローパスフィルターは80Hzに設定。サブウーファーのレベルも調整できるので、ここは音を聴きながら最適と思うところを選ぼう。

DENON HOME AMPのローパスフィルター設定
サブウーファーのレベルも調整できる

なお、接続するコンポ側に独自のローパスフィルターが無い場合に、ES8の背面にはローパスフィルターの調整機能も備えている。

コンポ側に独自のローパスフィルターが無い場合は、サブウーファー側で設定できる

いい感じに設定した状態で、「ダイアナ・クラール/月とてもなく」を再生すると、音がかなり変化する。

サブウーファーと聞くと、どうしても映画の爆発シーンで「ドカーンみたいな音を出す装置」という印象があるかもしれないが、良い意味で、そのイメージが裏切られる。派手に音が激変するのではなく、ES10の音はそのままで、低域だけを黒子のようにそっと下支えするような、“さりげないアシスト”をしてくれる。

例えば、冒頭のピアノでは、サブウーファーを追加した方が、左手の低域がより力強く、エネルギッシュに演奏されていたのがわかるようになる。アコースティックベースの音も、ES10だけの時は、弦をつまびく様子にばかり意識が向いていたが、サブウーファーを加えると、その弦の響きが、ベースの大きな筐体で増幅され、グッと胸に迫る低域の響きも生まれていた事が、しっかり聴き取れるようになる。

ボーカルも違う。ES10だけの時は、空中に口が浮いているように感じられていたが、サブウーファーを追加すると、その口のまわりに頭があり、喉があり、上半身があって、そのお腹から低い音が生まれているのがわかるようになる。それを見上げながら「人間の身体って、厚みがあるんだなぁ」と当たり前の事を実感できる。

藤井風の「満ちてゆく」も聴いたが、サブウーファーを追加すると、男性らしい声の低音がしっかり出てきて、音像にも「喉仏がある」ように見えてくるから面白い。

「ジョン・コルトレーン・カルテット/ベッシーズ・ブルース」のような、力強いジャズは、サブウーファーを追加した方が圧倒的に良い。吹き上がるサックスの音が、よりパワフルで鮮烈になり、こちらに音がグイグイと押し寄せてくるのが気持ちが良い。

音楽全体も低重心になり、深いビートに身をまかせやすくなる。演奏の熱気みたいなものが、中低域に豊富に含まれていたというのが、サブウーファーを追加すると、よくわかる。

「米津玄師/KICK BACK」のような、ロックを聴くと、迫力が段違いだ。地を這うようなベースが、文字通り地鳴りのように押し寄せてくるし、それでいて低域にはタイトさがあり、疾走感のある楽曲のスピード感に拍車をかけている。あまりに気持ちが良いので、サブウーファーのレベルをもっと上げたくなるが、あまりやりすぎるとバランスが崩れるし、近所迷惑になるので注意が必要だ。

スタンド設置で、映画やゲームも楽しんでみる

デスクトップから移動し、ES10をスピーカースタンドに設置。その間にES8とDENON HOME AMPを置き、よりピュアオーディオ寄りなセッティングでも聴いた。

スタンドに設置し、ある程度距離をとって聴いてみると、小型スピーカーであるES10の魅力がさらに高まる。先程は、机の上に展開していた音場が、部屋全体にまで広がり、部屋の中にアーティストが出現したような、リアリティを感じるからだ。

距離をとる事で、ES10の中高域と、ES8の低音の繋がりも良くなり、低い音から高い音まで、音楽が一体となってこちらに吹き付けてくる。まさに“音の波に身を任せる気持ちよさ”が味わえる。Polk Audioの、ホッとする音の傾向とも、マッチした聴き方だろう。

恐ろしいのは、サブウーファーをOFFにした時だ。音楽が急に軽くなり、先程まで「ズズン」と胸に響いていた美味しい部分が消え、ゆったりとした安定感も減ってしまう。なにか、大事な部分が抜け落ちてしまったような、さみしい気分になる。

ES10だけ聴いていた時は「これでも満足度は高い」と言っていたくせに、「だめだもう戻れない」とサブウーファーの電源をONにしてしまう。良い音は、一度体験してしまうと、前の音には戻れなくなってしまうのだ。

音に迫力と安定感が出ると、映画やゲームの印象も違ってくる。

DENON HOME AMPにはHDMI ARCがあるので、プロジェクターと接続。Netflixで映画を再生したり、ゲーム機も接続したが、ある意味で、音楽を聴いていた時よりも「サブウーファーの重要さ」を強く実感できる。

特に映画は、シリアスなシーンで重厚なBGMが低音と共に響き、「これからどうなるんだろう」と心拍数が上がったり、「ズン、ズズン」という地響きで、巨大モンスターが近づいてくる恐怖を演出したりするが、そうした映画ならではの演出が、サブウーファーの重低音を前提に作られているのがよくわかる。

音楽がよりリッチに楽しめるだけでなく、映画やゲームでも使いたいと思える音に進化するのが、サブウーファー追加の醍醐味と言っていいだろう。

なまじ、ES10とDENON HOME AMPがメチャクチャ小さいので、全部並べるとES8が巨大に見えてしまうが、サブウーファーの中では、さほど大きいわけではない。ES10を、フロア型スピーカーに買い換えた場合と比べれば、むしろ小さいものだ。

「大きなユニットと筐体サイズが無ければ出せない音」は確かにあり、その「低音の重要性」を再確認させてくれるのが、ES8と言える。その重要な低音を、最小のスペースで、既に持っている小型スピーカーを無駄にせず、賢く追加できるのがサブウーファーの魅力だ。

価格も、ES10が37,400円(ペア)、ES8が72,600円、DENON HOME AMPが121,000円なので、合計で231,000円で揃えられる。これだけ本格的な音を、サブウーファー無しで出そうとしたら、もっと高価で、もっと大きなフロア型スピーカーを買ってこなければならないだろう。

山崎健太郎