レビュー

オーディオスピーカーPolk Audio「ES10」を、PC用スピーカーにしてみた

「家でパソコンを使う時間が増えた」という人は多いだろう。リモートワークもそうだが、サブスク音楽配信やNetflixやYouTubeなどの動画配信が人気になり、テレビよりもPCの前に座っている時間が長いという人もいるはずだ。

そうなると気になるのが“PCの音”。良いコンテンツが配信されてるのに、ノートPCの内蔵スピーカーじゃショボいし、家でヘッドフォンってのも……。Bluetoothスピーカーは持ってるが、PCではなんか使いにくい。どうせなら、本格的なオーディオスピーカーで聴きたい。だが、高いのは買えないし、そもそもデカいスピーカーをPCデスクに置くスペースも無い。

そこでふと考えた。オーディオ用だけど、めっちゃ小さいスピーカーを探して、小さいアンプでドライブしたら、いい感じのPCスピーカーになるのではないか? ということで、実際にやってみた。

機材選びのポイントとして考えたのは以下の2点だ。

  • スピーカーとアンプ合計で10万円以内
  • アンプとスピーカーがPCデスクの上に置けるサイズ
  • 小さくてもある程度低音が出る
  • オーディオ入門として発展性がある

一番簡単なのは、アクティブスピーカーを購入する事だ。ただ、将来的にアンプを変えたり、スピーカーをグレードアップするなど、オーディオ趣味として発展性のあるシステムにもしたい。そこで今回はアンプとスピーカーをあえて別にした。

だが、そうなると予算やサイズの制限が厳しくなる。良いスピーカーとアンプを買うと、すぐ10万円くらい超えてしまうが、PC用スピーカーに10万円はちょっとツライ。加えて、スピーカーとアンプ両方机の上に置くならば、どちらも非常に小さな製品でなければならない。

アンプはともかく、スピーカーは小さくなると低音が出にくくなる。PCで映画を楽しんだり、ゲームなどもやると考えると、ある程度の低音は欲しい。自分で条件を出しておいてなんだが、なかなかの難問だ。

価格も大事だが、“奥行きの短さ”が大事

Polk Audio「ES10」

選んだスピーカーは、コスパの良いオーディオ用スピーカーとして話題のPolk Audio。モデルはミドルクラスの「SIGNATURE ELITE」シリーズから、一番小さなブックシェルフ「ES10」とした。価格はペアで37,400円だ。

外形寸法は137×158×213mm(幅×奥行き×高さ)と非常にコンパクトなので、これなら机の上にも置ける。なにより嬉しいのは奥行きが短い事。オーディオ用ブックシェルフの場合、正面から見たサイズは小さいのに、奥行きが長くて、机に設置できないことも多いので、“奥行きの短さ”はPC用スピーカーとして重要だ。

「ES10」は奥行き158mmとコンパクト

SIGNATURE ELITEを選んだのにも理由がある。実は、一番低価格なのは「MONITOR XT」シリーズであり、同シリーズで一番安い「Monitor XT15」(MXT15)はペア27,500円と、ミドルクラスのES10(ペア37,400円)よりもさらに安い。

「Monitor XT」シリーズのブックシェルフ「MXT15」

しかし、MXT15の外寸は166×183×270mm(幅×奥行き×高さ)と、ES10よりも一回り大きいのだ。

さらに、以前MONITOR XTとSIGNATURE ELITEの比較試聴をした時に、ワンランク上のシリーズなので当たり前ではあるが、低域から高域まで全体的な解像度の高さや、低域の締まりの良さなどで、SIGNATURE ELITEの方に、価格差を超える魅力を感じたから……というのもある。

学生でも買える! 超コスパスピーカー「Polk Audio」聴き比べ

組み合わせるアンプは、フォステクスの「PC200USB-HR」とした。理由は簡単“安い”“小さい”“USB DACも入ってる”だ。外寸は95×86×52mm(幅×奥行き×高さ)と衝撃的な小ささで、このサイズに15W+15Wのデジタルアンプを内蔵。背面を見ても、「よくこの小ささでスピーカー端子を搭載できるな」と関心してしまう。

フォステクスの「PC200USB-HR」
小さいが、スピーカー用のUSB DACアンプ。ヘッドフォン出力まで備えている

さらに96kHz/24bitまでサポートするUSB DAC機能と、にヘッドフォン出力まで搭載。天面に大きなボリュームノブを備え、それが少し前方に傾いている。デスクトップに設置すると、すぐに手をのばしてボリュームを触れるデザインで、まさに“PC用アンプ”として理想的だ。

これだけいろいろ入って、小さいのに26,400円と値段が安いのも良い。これなら、ES10(ペア37,400円)と合わせても63,800円で収まる。PCとオーディオスピーカーの橋渡し役として、頼りになる製品だ。

ボリュームノブが天面に露出しているので、サッと音量調整できるのも便利

見た目は小さいのに、持つとズッシリなES10

ではさっそく設置してみよう。

スピーカーのES10は、木目がカッコいいブラウンをチョイス。まさにオーディオスピーカーという風格。ただ、そんな見た目なのに、大人の男性なら片手つかんで持ち上げられるであろうコンパクトさなのが良い。

ただ、実際に上からガシッと片手でつかんで持ち上げようとすると「うぉっ!!」みたいな声が出る。重いのだ。片側2.72kgもあるので、ぶっちゃけ片手で持ち上げるのはオススメしない。

片手で持ち上げても、思わず反対の手を添えてしまうくらい重い

こんなに小さいのに、こんなに重いので“凝縮感”が凄い。Polk Audioは買いやすい価格のスピーカーにこだわり、それが支持されて米国でトップシェアにもなったブランドだが、市場規模が日本より大きいため、作っているスピーカーの数もメチャクチャ多い。それゆえ、量産効果でコストを下げられ、低価格なスピーカーであっても、内部に投入している物量が凄いのだ。

そのため、ペア37,400円のスピーカーは、オーディオ用としては“激安”と言っていいが、実物を前にするとまったく安っぽさが無い。

筐体も単純な“四角い箱”ではなく、端を“R”形状にして回折を防ぎ、強度をアップ。ユニットを取り付けたバッフル面もエンクロージャーから一段高くしてこちらも回折を抑えるなど、見た目からして“ちゃんとお金がかかってるスピーカー”なのが凄い。本当にこの値段で利益が出るのか不思議なレベルだ。

端が“R”形状になったエンクロージャー

ユニットは、高域用が2.5㎝のテリレン・ドーム・ツイーターで、40kHzまでの再生が可能だ。ミッド・ウーファーは10cm口径と、この筐体からすると十分大きい。

2.5㎝のテリレン・ドーム・ツイーター
ミッド・ウーファーは10cm口径

注目は背面だ。リアバスレフなのだが、後ろを見ると、穴は見えず、ガードするような大きなパーツがついている。これはPolk Audioの特許技術であるパワーポートで、ポートを出入りする空気の流れをスムーズにするため、形状を追求したもの。パーツの隙間から見ると、穴が空いているのが見え、さらにそこから放出される中低域を拡散させるであろう、山のようなカタチのリフレクターもチラッと見える。

このパワーポートにより、歪みや乱流を大幅に抑えながら、開口部の表面積を拡張することにより、一般的なバスレフポートに比べて約3dBの出力アップを実現しているそうだ。

背面にあるのがPolk Audioの特許技術であるパワーポート
中低域を拡散させるであろう、山のようなカタチのリフレクターもチラッと見える

ES10が、PCオーディオに向いていると感じる理由は、小さいだけでなく、このパワーポートにもある。背面にバスレフポートを備えたスピーカーの場合、背中を壁に近づけていくと、壁面での反射により、低域を増強できるという利点がある。低域が不足しがちな小型スピーカーでは有用なテクニックなのだが、かといって、近づき過ぎるとポートを塞いでしまったり、低域が逆にボワッと不明瞭になるなどの弊害も出てくる。

「そうは言っても壁ギリギリに設置したい」というスペース的な誘惑もある。そんな時に、ES10のパワーポートであれば、“増幅させる壁”を自分で背負っているような形状であるため、かなり壁に近づいても、低域増強に必要なポートまわりのスペースが最初から確保されている。これは非常に使いやすく、PC用スピーカーに向いた特徴と言えるだろう。

USB DACアンプのPC200USB-HRは、小さく軽いので、設置は超簡単。付属のスピーカーケーブルでES10と接続、Windows PCとUSBケーブルで接続すれば、ドライバーなどをインストールしなくても、すぐに準備OKだ。

ボリュームノブが電源ON/OFFも兼ねているので、ボリュームをまわして「カチッ」と電源をONにして、そのまま回していけば、ES10からPCの音が流れ出した。

“PCスピーカーの域”を超えたクオリティ

試聴の前に、比較相手のPCスピーカーとして、2006年に発売されたボーズ「M3」(Micro MusicMonitor)も用意した。コンパクトながら音の良いアクティブスピーカーとして人気のあった機種で、発売当時の価格は約5万円。人気の高さから復活発売もされたモデルで、個人的にも思い出深いスピーカーだ。

なつかしのボーズ「M3」(Micro MusicMonitor)

まずはAmazon Musicのアプリで、ハイレゾ楽曲を聞いてみる。「藤井風/まつり」 を再生する。

ES10から音が出てまず驚くのは、展開する音場スケールの大きさだ。M3の音場と比べても、左右に広がる範囲がES10 + PC200USB-HRの方が圧倒的に広い。

M3は、ノートパソコンの画面や、キーボードのあたりに音が広がる感覚だが、ES10 + PC200USB-HRでは画面の遥か上空にボーカルが定位し、その左右にもブワッとステージが展開する。M3が「手元に広がる音場を見下ろす」感覚なのに対して、ES10 + PC200USB-HRは「デスク上にはみ出す勢いで広がる音場に、顔をつっこんでいる」感覚になる。

比較試聴するつもりでM3を用意したが、低音がどうの、高音がどうのと細部を比べる以前に、モロに“格の違い”が出てしまう。まるで大人 VS 子供のような感じで、「これがオーディオスピーカーとPCスピーカーの違いか……」と唸ってしまう。

音の広がりだけでなく、藤井風の声の“ナチュラルさ”もまったく違う。M3の音はシャープでメリハリがあり、これ単体で聴いていると「いい感じ」に聴こえるのだが、ES10に切り替えると、人の声の温かさ、生っぽさがグッと出る。「ああ、リアルな人間の声ってこれだ」と、思わず膝を打つ。これを一度聴いてしまうと、M3の音は金属質な響きが声にまとわりつき、それが鋭さや清々しさを演出しているのが理解できるが、“作られた音”に感じてしまう。

かと言って、ES10は“角が丸くて眠い音”ではない。ボーカルとビート、ボーカルとコーラスなどの分離はM3より明瞭で、音楽の中にどんな音が含まれているのかがよくわかる。また、途中に入るエレキギターの鋭い音は、キレキレに描写されており、“人の声のナチュラルさ”と“楽器の鋭い音”といった異なる音色をしっかり描きわけられている。このあたりの描写力も、さすがオーディオスピーカーという印象だ。

一方で、「ES10が何もかも最高」というわけではない。特に低域は、オーディオスピーカーとは言え、この小ささなので、あまり過度な期待は禁物だ。つまり、ホームシアターのサブウーファーが鳴らすような、地を這うような低音は出ない。

ただ、ここからが重要なのだが、ES10は、このサイズのスピーカーの低音イメージを超える低域はしっかり出せており、なおかつその低音の“質”が非常に良い。例えば「藤井風/まつり」では、重く鋭い低域のビートが絶えず刻まれているが、その低域が「ズン、ズン」と力強く押し出されており、肺を「トン、トン」とノックされているよな迫力がしっかり伝わってくる。

そのため、ES10の音を聴いていて「低音が出てないな」とか「スカスカした音だな」みたいな印象はまったくない。このサイズのスピーカーとして、非常にバランスの良いサウンドが出ており、満足感は十分にある。

また、この低域の締まりが良く、ビートのキレが鮮烈だ。例えばM3は、小型ながら非常に野太い低音を「ズーン」と響かせるスピーカーで、「こんなに小さいのにこんな低音が出てる!」と驚きが感じられるのだが、ES10と比べると、その低域が野太過ぎて大味に感じられる。「ズーンズーン」と迫力はあるのだが、「ズーン」の中身がよく見えないので、聴いていると単調に感じてしまうのだ。

ES10は、ビートの中に「ああ、これはドラムの音だな」とか「このチッチッて細かい音はスティックから出てる音だな」とか「いま、ビリビリって小さく聴こえたのはドラムが震えた音だな」みたいな情報が聴き取れる。聴き慣れた曲であっても、より深く味わえる喜びがあり、聴いていて面白い。大味なスピーカーは飽きてしまうが、ES10のように基本的な描写力の高いスピーカーであれば、ずっと愛用したくなるだろう。

聴く音楽のジャンルも増える。前述のように、音場の広さがしっかり出るため、「展覧会の絵」(ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団)から「バーバ・ヤーガの小屋」のようなクラシックを再生しても、ホールの大きさや奥行きなどが味わえるため、クラシックの雄大なスケール感がキッチリ楽しめる。これは、そこらへんのPCスピーカーや、ましてやノートPC内蔵スピーカーでは難しい事だ。

映画やゲームも迫力アップ

映像はどうだろうか。

Netflixで配信が開始され、ライアン・ゴズリング VS クリス・エヴァンスという豪華な配役でも話題の『グレイマン』を再生したが、こちらも面白い。序盤に、花火が打ち上がるクラブ(?)で、ガンアクションや肉弾戦が繰り広げられるが、音場が広いので、手前で会話する人の声、奥で割れるガラス、上空で「ドンドン」と炸裂する花火、といった、立体的な音像の定位がしっかりと感じられ、映画の世界に引き込まれる。

鉄の棒で殴った時の「ギコン!」という鋭い痛そうな音や、ガラスを突き破った時に散らばる細かい破片の音など、小さな音もシャープに描かれるので臨場感がアップ。映画の音楽を楽しむにはサウンドバーやシアタースピーカーを用意しなければならないというイメージがあるが、しっかりとした2chスピーカーで再生すれば十分“映画になる”。

YouTubeの動画も効果絶大だ。最近、eスポーツで盛り上がっている「Valorant」というゲームの動画配信を良く見るのだが、これもES10で再生すると情報量が凄い。普段、ゲーミングヘッドセットで聴き分けている「ザッザッ」という足音での敵の位置が、スピーカー再生でも「あ、右の壁の向こう側にいる」と、しっかり聴き取れる。ノートPCのスピーカーで見ている時など、方向どころか、敵の足音が鳴っているかもよくわからないので、この音の細かさは感動的だ。

また、プレイ中に「これでいい」「準備はできた」など、プレーヤーキャラクターがセリフを喋るのだが、ES10で聴くと、その声がリアルで、声の低い部分もしっかり出るので「チェンバーの声って、こんなにイケボだったんだ」と驚いてしまった。

オーディオ沼への入り口にも

ES10 + PC200USB-HRの音が想像よりも良かったので、試聴を終えたのに「インシュレーターで浮かせたらどうなるかな」とか「今まで内振りで設置してたけど、外振りにしたら立体感がアップするかな」とか、細かなセッティングが気になりはじめて、時間を忘れていじり倒してしまった。

スピーカーとしての素の実力があるので、セッティングを変えると、音がかなり変化するので、“いじる事”が面白くなってしまうのだ。こうなったらもう、“オーディオ沼にようこそ”状態だ。

想像通り、背面にパワーポートがあるので、背後の壁にかなり近づけても、低域は不明瞭にならなかった。また、インシュレーターでデスクから“浮かせる”と、音場の立体感や、音の輪郭のシャープさに磨きがかかる。

インシュレーターも本格的なものは高価だが、ぶっちゃけ、スピーカーの振動をデスクに伝えず、スピーカー底面の響きを殺しすぎないものであれば、例えば小さな木のブロックとか、ゴムの板などでも効果があり、“デスク直置き”から音が変化する。このあたりを試行錯誤し、自分の音を追求していくのは、オーディオの楽しさそのものだ。

いずれにせよ、10万円を切るES10 + PC200USB-HRの組み合わせで、一般的な“PCスピーカーの音”を大きく超え、“オーディオの醍醐味”を味わえるところまでレベルアップできた。PCを使って楽しむコンテンツが増えた今、PCディスプレイを大画面にするのと同じように、音もグレードアップすると、毎日の楽しさが倍増するのは間違いない。

(協力:ディーアンドエムホールディングス)

山崎健太郎