レビュー

普通の机×Polk Audio「ES10」でデスクトップオーディオ始めたら凄かった

Polk Audio「Signature Elite」シリーズのブックシェルフ「ES10」

筆者はこのところ、「デスクトップオーディオ」というスタイルの追求と提案に力を入れている。机があれば始められるというスペース的なハードルの低さ、そしてPCとの親和性の高さから、時代に即した現実的なオーディオのスタイルだと考えているからだ。

日常生活の中で長い時間を過ごすPC環境の音が良くなれば、PCを中心としてあらゆる映像・音楽コンテンツの楽しみが著しく増大する。「現代のオーディオ入門」として、デスクトップオーディオはまさに格好のスタイルだといえる。

年末年始に筆者が個人的に行なったアンケートによると、デスクトップオーディオを実践する人が使っている机のサイズの平均は横幅129×奥行71cmだった。対して、10年以上前から筆者が仕事場として使い、同時にデスクトップオーディオの舞台となっている机のサイズは160×80cm。一般的な机よりはだいぶ大きい机を使っているのだろうと思っていたが、案の定その通りだったようだ。

それにくわえて、筆者のデスクトップオーディオは機材の価格を度外視した、ある意味「レギュレーション無し」のシステムとなっている。よって、これをそのまま「これからオーディオを始める人」にお出しすることはできない、との思いも当然あった。

筆者のデスクトップオーディオのセットアップ

というわけで、これからオーディオを始める人に対しても説得力を持ち得るように、現実的なサイズとして120×60cmの机を使い、“オーディオ入門”を意識したトータル10万円で揃うシステムを構築することにした。そこで机とあわせて購入したスピーカーが、今回紹介するPolk Audioの「Signature Elite」シリーズのブックシェルフ「ES10」(ペア37,400円)である。

ES10(ブラウン)

机とオーディオが無理なく融合してこそのデスクトップオーディオ

ES10の紹介をする前に、デスクトップオーディオにおける「机」の話をしたい。

まず筆者のポリシーとして、デスクトップオーディオとは単なる「机を置き台として使ったオーディオのシステム」ではなく、「生活空間としての机を中心にしたオーディオのシステム/スタイル」だと考えている。つまり、オーディオ機器を置いた結果スペースが専有され、机が机としての機能を失うようでは、それはもはやデスクトップオーディオではない。生活の場としての机に無理なく融合できてこそのデスクトップオーディオ、という考え方である。

今回設定した120×60cmというサイズは、あくまでも机として見ればそれなりの大きさだが、スピーカーを含む機材すべてを机の上に置くことを考えると、必ずしも余裕のある大きさとはいえない。

フルサイズの機器(プレーヤーやアンプ)を使うのは現実的に困難というのは最初から明らかだし、組み合わせるモニターのサイズにもよるが、スピーカーもブックシェルフならば何でもよいという話にはならない。

また、デスクトップオーディオのシステムを構築するうえで、机の作業スペース(特にキーボードやマウスの置き場所)を損なわないという観点から、「機器の奥行き」は横幅と同様に大きな問題となる。特に近年のスピーカーは、ブックシェルフも含めて横幅よりも奥行きを大きくすることによって容積を確保するというデザイン上の傾向があるため、ますます「小さな机でも使いやすいスピーカー」の選択肢が狭まってしまう。このように、デスクトップオーディオに適したオーディオ機器というのはおのずと限られてくる。

オーディオ入門というレギュレーション設定、そしてデスクトップオーディオならではの事情もすべて考えたうえで、筆者が選んだスピーカーがまさにES10なのである。

それでは、そんなES10について紹介していこう。

ES10は現在日本に導入されているPolk Audioの3つのシリーズのうち、中間にあたる「‎Signature Elite」シリーズの中で最もコンパクトなブックシェルフスピーカーだ。価格はペア37,400円で、オーディオの世界からするとエントリークラスの価格帯に位置する。

オーディオ入門に適した価格帯とはいえ、Polk Audioの最廉価な「‎Monitor XT」シリーズのデザインがごくシンプルな「箱」であるのに対し、ES10のデザインは随所にオーディオ的なこだわりが投じられている。付属するサランネットがマグネットキャッチ仕様であることも含め、いわゆる「安っぽさ」はない。この辺りの「価格に対する内容の充実」は、さすがはスケールメリットを強く受けるPolk Audioといったところだ。

キャビネットは丸みを帯びた形状となっている
ES10の背面。スピーカー端子はスクリュー式で、バナナプラグにも対応する

Signature Eliteシリーズの他のブックシェルフと比べてES10の大きな特徴となるのが、ずばり「奥行きの短さ」。ES10の奥行きは157mmであり、これはサイズ的にひとつ上のモデル「ES15」の259mmに対して約10cmも短い。さらに、後述する「パワーポート」部を除けば、実質的なES10の設置面積は精々13cm四方におさまる。前述したように、デスクトップオーディオを実践するうえでスピーカーの奥行きは極めて重要であり、その点、ES10はサイズの時点で「デスクトップオーディオに好適」なスピーカーだといえる。

横から見たES10

もちろん、単に省スペースというだけでは話にならないわけだが、ES10はユニットに40kHzに至る高域の再生が可能な2.5cmテリレン・ドーム・ツイーターと10cmのマイカ強化ポリプロピレンドライバーのウーファーを搭載し、コンパクトなブックシェルフとしてじゅうぶんな再生帯域を確保している。今までの経験上、ウーファーサイズが10cmあるかどうかが本格的な低域再生の目安になると筆者は考えており、この点もES10はクリアしている。

ES10のユニットの拡大

他の大きな特徴として、ES10を含むSignature Eliteシリーズは「パワーポート」という技術を搭載している。

ES10の天面にある「PowerPort」のロゴ

パワーポートはバスレフポートとスピーカー背部のプレートを組み合わせる構造で、ポートを出入りする空気の流れをスムーズにすることで歪みや乱流を大幅に抑え、さらに開口部の表面積の拡張により出力アップも実現すると紹介されている。

背面にバスレフポートがあるスピーカーは背後の壁との距離によって再生音が変わる度合いが大きく、設置場所に気を配る必要がある。一方、このパワーポートはある意味バスレフポートと背後の壁の距離が常に一定のため、設置場所の影響を抑えてスピーカーの実力を発揮することが可能になる。それこそデスクトップオーディオのように、スピーカーと背後の距離の距離が近くなりがちなシステムでは、実使用上の大きな強みとなる。

ES10の「パワーポート」

Signature Eliteシリーズのパワーポートは必ずしもデスクトップオーディオを意識して作られた技術ではないと思うが、結果としてES10をデスクトップオーディオに好適なスピーカーたらしめるうえで、大きな役割を果たしているというわけだ。

なお、ES10には底面に貼るゴムパッドが付属しているが、これを含め、別途インシュレーターやスタンドなどを使うことを強く推奨する。ベタ置きではスピーカーの実力を発揮できない、というのはデスクトップオーディオにおいてもまったく同様だ。一例として、筆者は背の低いES10にあわせて、Amazonで購入した卓上用のスタンドを使用している。

ES10の底面(付属のゴムパッドを四隅に貼ってある)
ES10と卓上用スタンドの組み合わせ

ES10と組み合わせるUSB DACとアンプは?

ES10と組み合わせる機器には、「可能な限り机としての機能を損なわない」ことと「システムトータルで10万円」の両立を意識して、iFi audioのUSB DAC「ZEN DAC」(実売約33,000円)とフォステクスの小型アンプ「AP20d」(実売約24,200円)を選択。ZEN DACは最大リニアPCM 384kHz/32bitとDSD256に対応しているため、最高スペックのハイレゾ音源を聴きたいという用途にもばっちりだ。AP20dの出力は20W+20W(4Ω)と小さいが、ES10との組み合わせでは爆音と呼べるレベルまで音量を出せるため、実用上の問題はまったくない。

写真を見てわかるように、ES10は120×60cmの机に置くスピーカーとして、大きすぎず小さすぎずの絶妙なサイズ感といえる。ZEN DACもAP20dもモニターの下にすっきりと収まり、作業スペースへの侵食は最低限。我ながら非常に収まりのいいセットアップができたと思う。ちなみに今回は23インチのモニターと組み合わせたが、27インチや31.5インチのモニターも無理なく設置が可能だ。

120×60cmの机にES10をセットアップ。モニターのサイズは23インチ

この環境で、筆者のいつものリファレンス曲であるCorrinne Mayの「Angel in Disguise」を聴く。冒頭のピアノの鮮やかさは素直に感嘆するレベルであり、ボーカルの伸びやかさやスピーカーの中央にぴたりと定位する様は、掛け値なしに「本格的なオーディオ」のそれと通じる。曲が展開してドラムやベースが入ってきても、それぞれの楽器はしっかりと分離を保ちつつ確かな存在感がある。また、机の横幅120cmをめいっぱい使っていることも奏功して、ステレオ再生ならではの空間の広がりや立体感も感じられる。

同系統の曲としてVanessa Carltonの「A Thousand Miles」や、昨今のアニソン代表としてアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』から「結束バンド」の曲も聴いてみたが、ES10の鮮明な中高域と良好な分解能は価格帯を越える充実感があるという印象だ。低域の量感はウーファーサイズの限界もあって豊かとはいえないが、そのぶん輪郭のくっきりした「見える低音」が繰り出され、ある程度音量が出せるならじゅうぶん満足がいく。

総じて、「この再生音のクオリティなら、趣味のオーディオ入門として申し分ない」という実感がある。モニター内蔵のスピーカーと隔絶しているのは至極当然として、3万円程度のUSB DAC内蔵型アクティブスピーカーと比べても、このシステムで鳴らすES10の再生音は格の違いを感じさせる。120×60cmの机に構築したトータル10万円に収まるシステムで、これだけの音が出せるなら万々歳だ。

ちなみに、機材を置くスペースが問題なら、そもそもアンプを内蔵するアクティブスピーカーを選んだ方がよいのではないか、という意見もあることは重々承知している。

アクティブスピーカーを使えば別途アンプを用意する必要もなく、USB DACを内蔵する製品もあるため、省スペースという点では明らかに優れている。その一方で、スピーカーをそのままに組み合わせるアンプをアップグレードしたり、アンプをそのままにスピーカーを上位機種に替えたりといった、システム構築の発展性や柔軟性はパッシブスピーカーに軍配が上がる。

スペースの問題で、デスクトップオーディオにおいてパッシブスピーカーの導入が困難を伴うことは確かだが、それでも「アクティブスピーカーとパッシブスピーカーではどちらが上」と単純に決まる話ではなく、システム構築の面白さを求めるなら、パッシブスピーカーを選ぶ意味はおおいにある。

ES10の実力をさらに引き出してみる

ここでES10の実力を深掘りすべく、今度は筆者が普段使っている160×80cmの机にシステム一式をセットアップしてみた。

160×80cmの机にES10をセットアップ。モニターのサイズは31.5インチ

このサイズの机からするとES10は少々小さく感じるが、「置けるから」といって必ずしも大型のブックシェルフスピーカーを選ぶ必要はない。例えば「デスクトップオーディオの導入による作業スペースの減少をできるだけ抑えたい」という理由で、あえて小型のブックシェルフを選ぶという場合もあるだろう。実際、机の奥行きが80cmもあると、今回の機材の組み合わせなら、作業スペースが狭くなるという印象はほとんどない。

この環境でもES10で音楽を聴いたが、やはりスピーカーの間隔も含めて空間に余裕があるおかげか、先の机で聴いた時からさらに音の広がりが増し、音量を上げても音が飽和してやかましくなる感覚が低減される。

さらにデスクトップオーディオの応用編として、マランツの薄型AVアンプ「CINEMA 70s」と組み合わせて「ゲームの音」との相性も探ってみた。タイトルには2022年のGOTYを数多く受賞し、先日DLC『Shadow of the Erdtree』が発表されて再び大きな注目を集めた『ELDEN RING』をチョイス。

クリア済みのデータで世界のあちこちをうろついたり、周回プレイで序盤のボス戦を一通り体験したりして、そのうえでES10に抱いた印象は「分解能の高さ」と「情報量の多さ」というもの。

CINEMA 70sと組み合わせ、「ゲームの音」をチェック

基本的に、ゲームの音とはプレイヤーの操作に応じてインタラクティブに効果音が積み重なっていくものなので、真っ先にスピーカーに求められるのは、とにかく細かい音をしっかりと描き分ける能力ということになるだろう。これはまさにES10が得意とする点であって、フィールドに流れる環境音だけが空間を埋める「静」から、大小の敵が周囲を埋め尽くして死闘を繰り広げる「動」にいたるまで、様々な効果音を整然と描き分け、結果的にそれが豊かな情報量という印象に繋がる。ステレオ感もしっかりと出るので、ゲームならではの「音によって位置を探る」ことだって容易だ。比較するのもおかしな話かもしれないが、サラウンドではないステレオ再生でも、PCモニターの付属スピーカーとはまったく次元の違う体験が味わえる。

一方で、ダイナミックレンジの広さや低域の充実という点では物足りなさも感じた。ES10のウーファーのサイズが10cmということを考えれば仕方がない部分もあるが、ゲームを含む映像音響の再生用途としては、もう少し迫力がほしかったというのが正直なところだ。

最後に、デスクトップオーディオの枠を離れてES10の実力を確かめるべく、テレビと組み合わせるリビングオーディオのセットアップでも聴いてみた。組み合わせるアンプはCINEMA 70sが続投で、ネットワーク機能「HEOS」を使って様々な曲を再生した。

リビングオーディオでES10を聴いてみる

スタンド設置のES10はここにきて本領発揮といわんばかりに、特に音離れと空間の広がりの点で著しい改善を示し、この小さなスピーカーが鳴っているとにわかには思えないほどに伸びやかな再生音を聴かせた。また、机という巨大な反射がなくなって帯域バランスが改善された結果だろうか、聴いていて高域から低域まで過不足を感じることがなかった。

この記事では常にES10を「デスクトップオーディオに好適なスピーカー」と紹介してきたが、それは決して“デスクトップオーディオにしか使えない”という意味ではなく、あくまでもスピーカーとしての純粋な素性の高さがあってこその特徴なのだとあらためて確認できた。

サイズをはじめとしてデスクトップオーディオに適した素性を持つことと、オーディオ入門として満足のいく再生能力を持つこと。このふたつを兼ね備えるスピーカーとしてES10を見出し、選んだことに筆者は満足している。

(協力:ディーアンドエムホールディングス)

逆木 一

オーディオ&ビジュアルライター。ネットワークオーディオに大きな可能性を見出し、そのノウハウをブログで発信していたことがきっかけでライター活動を始める。物書きとしてのモットーは「楽しい」「面白い」という体験や感情を伝えること。雪国ならではの静謐かつ気兼ねなく音が出せる環境で、オーディオとホームシアターの両方に邁進中。個人サイト:「Audio Renaissance」