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音質、高級感、カスタマイズ性、全部そろって“1万円以下”。最強コスパ、TWISTURAイヤフォン「D-MINOR/D-MAJOR」

TWISTURAのイヤフォン。左からD-MINOR、D-MAJOR。手前にあるのは交換用ノズルフィルター

低価格なDAPが相次いで登場したことで、再び注目を集めてている“有線イヤフォン”。普段、完全ワイヤレスイヤフォンを使っている人の中にも、「高音質な有線イヤフォンが1個欲しい」と考えている人はいるだろう。ただ、何万円もする高価なモデルはちょっと手が出ない。できれば1万円台……いや、理想を言えば1万円以下で音が良く、それでいてカッコいいイヤフォンが無いものか。

我々のワガママな要求に、応えてくれるブランドが登場した。その名は「TWISTURA」(ツウィスチュラ)。名前からだと、どこのブランドかわかりにくいが、中国のブランドだ。

「ああ、中国の安いイヤフォンの話か」と思ったアナタ、ちょっと待って欲しい。このTWISTURA、ただの低価格ブランドとは一味違う。実は、人気ブランド・水月雨(MOONDROP)において、サプライチェーンの管理を担当していた人物が、その経験を活かして自ら立ち上げたブランドなのだ。

TWISTURAというブランド名は、革新、変化、独自性を意味する「TWIST」と、ムード、感性、個性を意味する「AURA」を掛け合わせた造語だそうだ。「ユニークで感動的な音楽体験を創造する」というビジョンを掲げている。日本ではMUSINが代理店で、昨年から一部モデルを試験的に導入したところ、評判が良かったため、2025年に本格的に日本上陸した……という流れだ。

TWISTURAのラインナップ

本格上陸した第一弾製品は、「D-MINOR」と「D-MAJOR」という2モデルのイヤフォン。各モデルにマイク付きのバリエーションモデルも用意しているので、全部で4モデルとなる。さらに、後述するがリケーブルも1モデル用意している。

  • 「D-MINOR」(実売6,435円前後)、
  • 「D-MINORマイク付き」(実売6,930円前後)
  • 「D-MAJOR」(実売8,800円前後)
  • 「D-MAJORマイク付き」(実売9,790円前後)
  • リケーブル「String」(実売13,068円前後)
D-MINOR
D-MAJOR
ケーブルの途中にマイクリモコンを備えたモデルも用意している

最大の特徴は“手に取りやすい価格”だろう。イヤフォンは2モデルとも実売で1万円を切っており、下位モデルのD-MINORは6,000円台だ。

どちらもダイナミック型ドライバーを搭載したカナル型のイヤフォンで、振動板のサイズも10mm径で同じ。主な違いは、振動板や筐体の素材だ。

では、どのような違いがあるのか、サウンドも含めて詳しく見ていこう。

D-MINOR(実売6,435円前後)

D-MAJOR

D-MINORは、単に安価なイヤフォンではなく、「科学的数値に基づきチューニングされた、エントリークラスの新たなベンチマークとなるサウンドを目指した」という意欲的なモデルだ。

振動板は、LCPドーム・コンポジット・ダイヤフラムで、強度や剛性、軽さに加え、安定性の高さも追求したものだという。新世代ムービングコイルユニットを採用しているそうで、磁気回路の構造や、サスペンションシステムのための磁気回路設計、チューニングなどのアコースティック技術を組み合わせる事で、高い磁束や低歪み、高効率も実現している。

再生周波数帯域は15Hz~37kHz、インピーダンスは30Ω±3(@1kHz)、入力感度は108dB/Vrms(@1kHz)だ。

筐体のフロアキャビティには、この価格にも関わらず、亜鉛合金を採用。リアキャビティは3D樹脂製法で作った、透明樹脂のフェイスカバーを採用。耐久性と抗酸化性に優れているそうだ。

筐体内部には、ユニット内の空気供給を一定にする「導管式エアーベント構造」を採用。過度な空気圧の解放と、内部空気圧を安定させる効果を狙っている。

イヤーピースを外したノズル部分

注目は金属製のノズル部分。ノズル全体がネジ式で、フィルターごとノズルを交換できるようになっており、標準で装着されている「リファレンス」に加え、「ポップ」と「クラシカル」という、チューニングが異なる3種類のフィルターが付属している。つまり、ノズルを交換する事で、異なるサウンドが楽しめるというわけだ。

ノズルを外したところ。内部が見えている
チューニング用フィルター。上から見るとあまり違いがわからないが……
裏から見ると、フィルターの密度などが違うのがわかる

こうしたチューニング機能は、高級イヤフォンで付加価値として採用されるものだが、実売6,000円台のD-MINORで実現しているのは驚きというほかない。

またこのノズルを含め、金属製のパーツも使っているので、実機を触っても、とてもこのイヤフォンが6,000円台とは信じられない。「どうやったらこの値段で、こんな高級感のあるイヤフォンが作れるのか」と首をかしげるしかない。

ケーブルも凝っている。当然のようにリケーブル対応で、端子は0.78mm 2ピンを採用している。付属ケーブルはOFC銀メッキ線をリッツ編みにしたもので、クリアなシースを採用。デザイン的に美しいだけでなく、柔らかくて取り回しも簡単だ。

ケーブル着脱が可能
付属ケーブルはOFC銀メッキ線をリッツ編みにしたもの

入力プラグは3.5mmのシングルエンドのみだが、リケーブルできるので、別途バランス接続ケーブルに交換することも可能。

コスパの面では、凄いを通り越してもう笑うしかないが、なんとDACチップを搭載したUSB Type-Cアダプタまで付属している。しかもこのアダプター、PCMで最大384kHz/32bitまで対応するハイスペックなもの。本当に「どうやってこの価格を実現しているの?」と驚くばかりだ。

DACチップを搭載したUSB Type-Cアダプタまで付属している
イヤーピースも豊富に同梱。キャリングケースも付属する

D-MINORを聴く

D-MINOR

では、D-MINORのサウンドを聴いてみよう。Astell&KernのDAP「SR15」と3.5mmのシングルエンドで接続し、「ダイアナ・クラール/月とてもなく」を再生した。チューニングフィルターは、標準の「リファレンス」をセレクトした。

音が出てまず驚くのは、低音の深さと音像の肉厚さだ。この楽曲は、アコースティックベースの低音が豊富に入っているが、その低音がズシンと迫力たっぷりに深く沈む。6,000円台のイヤフォンの低音とは思えない、本格的な音だ。

驚くのは、これだけ深く、重い低音ながら、それがボワボワと膨らまず、適度に締まりがある事。迫力と同時に、ベースの弦が震える細かな情報もキッチリ見える。これは、振動板の軽量さ、振幅のスムーズさに加え、金属パーツも使った筐体の剛性が高い事も影響しているだろう。

低価格なイヤフォンは、どうしても低音をパワフルに出すと、筐体が負けて響いてしまい、プラスチックの響きなどの“鳴き”が発生し、それが音を汚して不明瞭なサウンドになるというパターンが多い。しかし、D-MINORではまったくそれが無い。そのため、聴いていても、安っぽさが感じられない。

低域にばかり注目していたが、中高域も十分にクリアだ。人の声に、わずかに金属質な響きを感じるが、逆にそれが清涼感を演出し、全体として気持ちの良いサウンドに仕上がっている。全体のバランスとしては、やや低域寄りだ。

低音がパワフルなイヤフォンなので、「米津玄師/KICK BACK」を聴くと、非常に気持ちが良い。まるで頭の上から鉄の棒を「ズゴーン」と打ち込まれたような、大迫力の低音に圧倒される。こんなに堂々とした低音を響かせるエントリー・イヤフォンが、これまであっただろうか。

……ここまでは、フィルター「リファレンス」を使ったが、他のフィルターである「クラシカル」と「ポップ」も試してみよう。

「クラシカル」を取り付けると、一気に全体のバランスが変化する。「リファレンス」ではちょっと過多に感じられた中低域の膨らみ、パワフルさが抑えられ、全体のバランスがとれ、モニターライクなサウンドになる。これは凄い。

「KICK BACK」を聴くと、中低域に張り出しが抑えられた事で、切り込むようなベースラインが、よりクリアに聴き取れるようになる。「リファレンス」の派手なサウンドも気持ちよかったが、個人的には「クラシカル」チューニングの方が好きだ。高域にも少し変化があり、クラシカルを装着すると、金属質な響きが抑えられ、よりしっとりと、アコースティックなサウンドにシフトする。

「ポップ」にすると、またガラッと変わる。中低域の膨らみが抑えられるのはクラシカルと同じ傾向だが、その代わりに、輪郭がよりソリッドになり、ドラムやベースのスピード感が増す。高域もより鋭く突き抜けるので、開放感が増す。気持ち良さを追求したようなサウンドで、これはこれでアリだ。

まとめると

  • 低域の大迫力を重視するならリファレンス
  • マニアも納得のバランス、アコースティックにもマッチするクラシカル
  • 低域のタイトさ、鮮烈さ、高域の抜けの良さ、刺激重視ならポップ

という感じだろうか。

いずれにせよ、1つのイヤフォンで3つのサウンドが楽しめるのは、お得感がある。

D-MAJOR(実売8,800円前後)

D-MAJOR

上位モデルのD-MAJORは、10mmのダイナミック型ユニットを搭載しているのはD-MINORと同じだが、振動板の素材に特徴があり、ベリリウムメッキの振動板を採用している。剛性と軽量性に優れており、振幅した時に、振動板がうまくピストンモーションせず、ねじれて歪が発生する分割振動を低減している。PUサスペンションを組み合わせる事で、動きのスムーズさも追求した。

磁気回路も凝っており、1テスラを実現したデュアル磁気回路を採用。さらに、内部をデュアル・チャンバー設計にする事で、臨場感のある再生を実現したという。

筐体も剛性が高い。リアチャンバーに亜鉛合金メッキ加工を採用し、シェルの耐久性を高めながら、金属シェル特有の重厚感も実現。フロントチャンバーは亜鉛合金による酸化処理を施し、耐酸化性/耐腐食性を確保している。

金属部分が増えているため、実際に触ってみると、D-MAJORと比べて、より“金属のカタマリ”感が強くなっている。高級感もアップしており、「これで8,800円は安すぎる」というのが正直な感想だ。

当然のように、このD-MAJORもノズルごとフィルターを交換でき、デフォルト、クラシカル、ポップから選択できる。0.78mm 2ピンでリケーブル可能。付属ケーブルは、こちらもOFC銀メッキ線をリッツ編みしたもの。USB-Cアダプタも付属している。

周波数帯域は15Hz~37kHz。インピーダンスは22Ω。感度は108dB(@1kHz)。重量は約12gだ。

ノズルは取り替え可能
チューニングノズルも付属する

D-MAJORを聴く

では、上位モデルのD-MAJORも聴いてみよう。フィルターは「リファレンス」だ。

D-MAJOR

「月とてもなく」を再生すると、「マジか」と思わずつぶやくほど、圧倒的にクリアな音が耳に入ってくる。D-MINORよりも、さらにベールを2枚剥いだような情報量の多いサウンドで、人の声のリアルさ、アコースティックギターの木の響きなど、細かな音の表情が良く見える。

振動板の剛性がより高く、筐体の剛性もアップしたためと思われるが、低域はタイトで、音像の輪郭が鋭い。アコースティックベースの旋律や、「KICK BACK」のエレキベースが切れ味鋭く、聴いていてハッとする鮮烈さがある。

トランジェントも良く、「月とてもなく」の、無音部分からピアノがスッと立ち上がる様子も鮮烈だ。演奏中に、ピアノのペダルを離した時の、かすかな「コクン」という音まで聴き取れる。アコースティックベースの低音の中にも、弦がブルブルと震える音や、その弦がどこかに当たって「ベチン」と跳ね返る硬い音といった、様々な音がキチンと聞き分けられる。イヤフォンとしての、基本的な再生能力の高さを実感できるサウンドだ。

面白いのは、ノズルフィルター交換による音の変化だ。

D-MINORでは、「リファレンス」が一番中低域がパワフルだったが、D-MAJORの「リファレンス」は、中低域の張り出しは抑えられており、3つの中で最もバランスの良い、モニターライクなサウンドだ。

「クラシカル」に変更すると、バランスの良さは「リファレンス」と同じだが、音像の輪郭描写が少しソフトになり、聴きやすい、ホッとするようなサウンドになる。「月とてもなく」のような、アコースティックな楽曲や、人間の声をじっくり味わいたい時は、クラシカルを選ぶといいかもしれない。

逆に、「クラシカル」で「KICK BACK」を聴くと、リファレンスで感じられた雷鳴のような鋭さが無くなり、少し大人しいサウンドになる。

では、「ポップ」に変更するとどうなるのか。これは想像通り、高域がよりむき出しになり、刺激的なサウンドになる。細かい音は強調されて、気持ちの良いサウンドではあるが、女性ボーカルの“サ行”が、やや耳に刺さる。

“細かな音の聞き取りやすさ”としては、「ポップ」は優れているが、楽曲に漂うぬくもりや、音の厚みといった雰囲気を消し去り、全ての音をむき出しにしているようにも聴こえる。個人的には、D-MAJORでは「リファレンス」を常用したいと感じた。

アップグレードケーブル「String」

String

価格を考えると、どちらも驚くクオリティのイヤフォンだが、そのサウンドをさらに進化させるアクセサリーも同時発売されている。

それが、単結晶銅銀メッキを採用したアップグレードケーブル「String」だ。価格はオープンプライスで、店頭予想価格は13,068円前後と、イヤフォンよりも高価なのがちょっとアレだが、音をステップアップさせる手段としては興味深い。

単結晶銅と古河銅銀メッキのハイブリッド構造を採用したブランド初のリケーブルで、合計84線芯の高純度単結晶銅を使っているため導電性が高く、信号伝送のロスを低減し、安定した信号伝送が可能だという。単結晶銅には銀メッキ加工を施すことで、線材の導電性能をさらに向上させ、銅の劣化を防いでいるそうだ。

入力プラグ部分にも注目。プラグ部が着脱可能になっており、3.5mmシングルエンドと4.4mmバランスを切り替えられる。イヤフォンは付属のケーブルは3.5mmシングルエンドのみだったので、ケーブルのグレードアップと同時に、4.4mmバランス接続も可能になるというわけだ。ケーブルの長さは125cm±3cm。

3.5mmシングルエンドと4.4mmバランスを切り替えられる

上位機のD-MAJOR(チューニングは「リファレンス」)で、付属ケーブルと聴き比べてみた。せっかくなので4.4mmバランス接続で、DAPも4.4mmバランスに対応したものを使っている。

D-MAJOR + String

付属ケーブルからStringに切り替えると、音が広がる音場が、より広大になり、そこに定位する音像も立体的になる。これはバランス接続の効果もあるだろう。音像は頭内に定位するが、音像の位置が頭の中心からより離れたところに感じられ、開放感がアップする。

音の輪郭1つ1つがよりクリアになり、音の響きがフワーッと空間に消えていく時の、見通しの良さもアップ。臨場感がさらに高まる。中高域のキレの良さ、細かな音の分解能も向上するようだ。

いずれにせよ、音色がガラッと変わるわけではなく、音場や分解能といった部分が進化するイメージなので、「気に入ってるD-MAJORサウンドの方向性は維持しつつ、音を進化させている」という感じだ。

D-MINOR + String

エントリーのD-MINOR(チューニングは「リファレンス」)でも、ケーブル交換の効果はハッキリわかる。1つ1つの音がよりダイレクトに耳に届く印象で、低域の力強さがさらに増す。

6,000円台のイヤフォンに、約1.3万円のケーブルを使うというのは、価格的にバランスが良いとは言えないが、一度聴いてしまうと、もう付属ケーブルの音には戻れないほどの効果はある。お気に入りのイヤフォンはそのままに、サウンドをグレードアップする体験ができるのが、リケーブルの面白いところだ。

1万円以下なのに不満が一切無し、驚異のコスパ

エントリーのD-MINOR、上位モデルのD-MAJOR、どちらも「文句のつけようがない」というのが正直な感想だ。

D-MAJOR

1万円以下のイヤフォンというと、どうしても「音がイマイチ」とか「筐体が安っぽい」とか「オマケが少ない」とか、何らかの不満が出るものだが、D-MINOR、D-MAJORのどちらも、音が良く、デザインがカッコよく、音のチューニングやリケーブルまで楽しめてしまうので、本当に文句をつけるところがないのだ。

この価格だと、「有線イヤフォンの入門モデル」というイメージだが、実際に使ってみると「入門イヤフォンなのに満足度が高すぎるので、もうこれがゴールでいいや」となってしまいそうで、逆に怖いくらい。有線イヤフォンを1個買ってみたいという人には、間違いなくオススメだ。

チューニングによって、その人が気に入るサウンドにカスタマイズできるのも、安心してオススメできるポイント。その上で、D-MINOR、D-MAJORどちらを選ぶか?という話だが、音楽に迫力を重視する人はD-MINOR、ハイレゾなどの情報量の多さを体験したいのであればD-MAJORを選ぶと良いだろう。

D-MAJOR
山崎健太郎