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有機ELテレビが変わる、革命的パネル「次世代RGB有機EL」がやってきた!

LGディスプレイが開発した「次世代RGB有機EL」を視聴する筆者

今年は「有機ELテレビ」の当たり年だ。

ご存じの通り、有機ELテレビは画素自体が発光する自発光ディスプレイである有機ELを採用したテレビのことだ。4K解像度なら、およそ800万を超える画素が独立して発光することで、瞳の輝きのような局所的な光から、画素がまったく発光しない“完全な黒”まで再現。画質面において液晶テレビを圧倒する実力を持つ。

そんな2025年、LGディスプレイから有機ELパネルの革命的な製品「次世代RGB有機EL」(プライマリーRGBタンデム)が誕生した。次世代RGB有機ELは、従来パネルの構造を大幅に刷新することにより、大進化ともいうべき高輝度化と広色域化を果たした。

「次世代RGB有機EL」とは一体どのようなパネルなのか――?

今回、LGディスプレイの日本オフィスに伺い、最新パネルの詳細な話を聞くことができた。これを読めば、2025年の最新有機ELパネルがどれだけスゴイか、お分かりいただけるはずだ。

1ピクセル単位で輝度と色を正確に制御する有機ELテレビ

まずは、有機ELテレビの基本原理をおさらいしておこう。

冒頭でも少し触れたが、有機ELはバックライトを持たず、画素そのものが発光して映像を作り出すディスプレイ方式だ。わずか数ミリ厚のガラス板に、電気を流すと光る非常に特別な有機材料が蒸着されている。

表面部分を拡大鏡で覗くと、1つの画素が4つのサブピクセルから出来上がっているのが分かる。その4つのサブピクセルとは、白、赤、緑、青。4K解像度の有機ELテレビの場合、合計約3,300万ピクセル(4K/3,840×2,160画素×4サブピクセル)が独立した光源として機能することで“1ピクセル単位”で輝度と色を正確に制御している。

一方、液晶テレビの場合は画素そのものは発光しない。数百~数万個のLEDもしくはミニLEDが光源として使われている。ミドルからハイエンドの液晶テレビは、この光源を数百~数千のエリアに分けて光の強弱をコントロールすることで映像の明暗を生み出している。

ミニLED液晶(左)と有機ELパネルの比較。1ピクセル単位で輝度と色をコントロールできる有機ELに対し、ミニLED液晶は原理上、限られたエリア毎でしかコントロールすることができない

ただ原理的に、画素単位で個別に色と輝度を制御できる有機ELに比べると、液晶テレビはクリティカルな部分で正確さには差が生じる。つまり、局所的な調光制御では、細かな色の移り変わりや微妙なコントラストの表現が困難なのだ。

誰でも一目で分かるのが、暗闇の中に光る星のような映像を表示したとき、星の周辺にも光が漏れてしまう「ハロー現象」だろう。キラキラと輝く星粒と宇宙の漆黒を表現できるのは、ピクセル単位で光り、そしてピクセル単位で完全に消灯できる有機ELならではの強みと言える。

ミニLED液晶(左)と有機ELパネルで、星雲を表示させた場合のイメージ
ミニLED液晶(左)と有機ELパネルの黒の表現をイメージしたもの。ミニLED液晶の場合は、最暗部が沈みこまず、また局所的な輝きを表現する際も、周辺にハローと呼ばれる光漏れが発生してしまう
Mini LED is just an LCD | OLED

明るさが向上、色域も拡大。次世代RGB有機ELは革命的パネルだ

これまでLGディスプレイが披露した有機ELは「青」、「黄」、「青」という3色の光を組み合わせることで光を作り、デジタルシネマで使われる色域DCI-P3もカバー率98.5%で、実用上全く問題がないレベルになっている。

従来(第3世代)の有機ELパネル

とはいえ“純度”という点では、少し弱かった。

これを理解するには、カラースペクトルを見るのが分かりやすい。2024年モデルまでのスペクトルを見ると、青の成分はピークがするどく急峻な形の山になっている。山の高さは出力の高さを示しており、周辺の色との混じりが少ないほど、ピュアな純度の高い発色が可能になる。

一方、赤と緑のピークに目を向けると、青色ほどの急峻な山ができていない。それに赤と緑が混ざった黄色なども含まれていることが分かる。赤、緑、青の三原色以外の色成分は白を表現する時以外には役に立たないので、光利用効率という点でもマイナスだ。

従来(第3世代)のカラースペクトル

そこで、最新の次世代RGB有機ELパネルの登場だ。新パネルでは、これまでの青・黄・青で白色の光を作るのではなく、青・緑・青・赤という色の三原色を含む全4層で白色の光を作る構造に変更。

緑と赤の層が加わることで、スペクトルが大幅に改善。これまで以上に純度の高い緑・赤の色が生み出せるようになった。ちなみに、青の層だけ2つあるのは青の光は波長が短く、1対1の比率では波長の長い赤や緑に量で負けてしまうためだ。

4層構造になった次世代RGB有機EL
次世代RGB有機ELのカラースペクトル

青・緑・青・赤の4層となったことによるメリットは、色の三原色の純度が高くなるだけではない。発光する層が3つから4つになるため、単純に1.33倍、実際には約40%の輝度向上も実現。色の純度が高まり、色の再現範囲も拡大し、しかも40%明るくなるという、まさに革命的なパネルに仕上がったわけだ。

LGディスプレイによれば、2025年の次世代RGB有機ELパネルのスペック値は、ピーク輝度で4,000nit、全画面輝度で400nitの性能を持つという。もちろんこれはパネルのスペック値であるため、実際のテレビセットになった場合の数値とは異なる。

とはいえ、ピーク輝度4,000nit、白輝度400nitとは、2年前のフラッグシップクラスの有機ELテレビと比べて倍近い性能であり、驚異的な大進化だ。

World's 1st Primary RGB Tandem Tech, Unmatched Picture Quality!! | 4th Generation OLED

次世代RGB有機ELは、省エネ性能もさらに改善!

筆者は2025年モデルの各社の薄型テレビを一通り見ており、もちろん次世代RGB有機ELパネルを採用したモデルも見ている。

実際のモデルを目にすると、その明るさや色再現は従来とは全く別物と言わざるを得ない。それほどに、高輝度&色再現性能が大幅にステップアップしているのだ。

次世代RGB有機ELパネルを採用する、LGエレクトロニクス・ジャパンの4K有機ELテレビ「G5」シリーズ

次世代RGB有機ELパネルを搭載する2025年モデル

メーカー型名サイズ
LGG583、77、65、55型
TVS REGZAX9900R65、55型
パナソニックZ95B65、55型

「有機ELテレビがよいのは分かっている、しかし価格が……」と、手の届きやすいミニLED液晶テレビに興味を示す方もいるかも知れない。

確かに価格という点では、有機ELテレビの方が割高だし、プレミアムな製品だと言えよう。ただ、次世代RGB有機ELパネルを搭載した最新テレビを、2024年モデルと比べると、価格はほとんど変わっていないのだ。劇的な進化を果たしたにも関わらず、である。

しかも、次世代RGB有機ELパネルでは、気になる消費電力も20%削減されている。パネル、そしてセットメーカーの努力により、有機ELテレビも年々消費電力は下がってきてはいたのだが、ここでより一層の省エネ性能が高くなったのは嬉しいところ。有機ELは電気代が高いというイメージも払拭されることはずだ。

少し有機ELに詳しい方なら「去年までの“MLA”はどうなったんだ?」と疑問に思っている方もいるだろう。

MLA(マイクロレンズアレイ)は極小のレンズの集合体をパネル前面に敷き詰め、本来なら四方に散ってしまう光を前面に集めて光効率を高める技術。消費電力を高めることなく、効率よく輝度を高めるものとして2023年、2024年発売のフラッグシップモデルにこぞって導入された。

2023年、2024年発売のフラッグシップモデルにこぞって導入されたマイクロレンズアレイ技術

しかし、今回の次世代RGB有機ELではMLA技術は使われていない。理由は、MLA無しでもRGBを4段に積層することで十分な高輝度が実現できたからである。そして、MLA工程を減らすことで量産におけるコスト低減にも寄与しているという。

LGディスプレイによれば、「MLA技術が不要になったわけではなく、必要があれば採用する可能性はある」とのこと。実際、LGエレクトロニクス・ジャパンが今年発売した一部ゲーミングモニターにはこのMLA技術が搭載されているので、今後も適材適所で活用して行くという事なのだろう。

MLA技術を搭載した、LGエレクトロニクス・ジャパンの44.5型5K有機ELゲーミングモニター「45GX950A-B」

次世代RGB有機ELで、有機ELの新時代が始まる

日本のテレビ市場は現在、比較的安価で手が届きやすくなっているミニLED液晶テレビのシェアが徐々に拡がりつつ一方、有機ELテレビは画質を重視する硬派なユーザーに選ばれるイメージがある。

しかし、これまで話してきたように次世代RGB有機ELは、飛躍的な画質進化を果たしながら、コストをキープし省エネにも貢献するという、まさに有機EL新時代のパネルだ。今までのイメージを覆す実力を持っていると思うし、もっと注目度が高まっていいと感じる。

後編では、ミニLED液晶テレビと比較しながら、次世代RGB有機ELを含む有機ELの魅力ついてもっと掘り下げていきたい。これまであまり触れられていなかったブルーライトやフリッカーの問題など、他にはない有機ELの良さをもっと詳しく紹介していこう。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。