藤本健のDigital Audio Laboratory

第1037回

iPhoneのスピーカーってこんなにイイ音だっけ? iPhone 17 Proと旧機種の音質比べてみた

iPhone 17 Pro

例年通り、9月「iPhone 17」シリーズが発売された。筆者も9月12日の予約開始と同時に申し込み、今年はなんとか初日にGET。「iPhone 16 Pro」から「iPhone 17 Pro」へ乗り換えた。

さっそくこのiPhone 17 Proを試してみたのだが、スピーカーから音を出して音楽を聴いてみて、「あれ? iPhoneってこんなにいい音してたっけ?」という印象を持った。

手元には両機種あるので、その内蔵スピーカーの音質についてちょっと実験をしながら調べてみた。

本体内蔵スピーカーから出した音がすごくいい感じに聴こえた

毎年この時期の争奪戦に参加し、恒例行事(?)となりつつあるiPhoneの新機種を購入した。新機能を使いこなしているわけでもないので無駄だなぁ、とも思いつつ、「DTM系の動作検証に最新機種は持っておくべきだろう」という理由で購入している。

もっともLightning端子からUSB-C端子に変わった「iPhone 15」以降は、互換性にほとんど変化はなく、あまり調べるほどのこともないのだが、主要機材は問題なく使える様子。また、オーディオ系でいうと最近、お気に入りで使っているQuestyle「QCC Dongle」も問題なく動作させることができた。

アナログのヘッドフォン出力がなくなった“USB-C接続のiPhone”の場合、オーディオ性能を調べるといっても、同じオーディオ変換アダプタを使っている限り、たいした音質差もなさそうだな……と思っていた中、ふと本体内蔵スピーカーから出した音がすごくいい感じに聴こえた。

「もしかして、iPhone 16 Proでもこんないい音だったのに気付かなかっただけかな?」と思い、ちょっと聴き比べてみた。そうしたら、やっぱりiPhone 17 Proのほうがいい感じに聴こえる。

けれど、ちょっと聴いただけで判断はしづらいし、単なる感想ではなく、何がどのように違うのか、もう少ししっかり調べてみたいところ。

そこでいろいろ実験をしてみることにした。

まず前提として、iPhone 17 Proは最新のiOS 26.0を入れているのに対し、iPhone 16 ProのほうはiOS 18.7のまま。これまでの環境を保存しておきたい事情があり、こちらはアップデートせずの状況。そのため、iPhone 17 ProとiPhone 16 Proの比較ではあるけれど、場合によってはiOSのバージョンの違いによるものである可能性もある。その点については今回検証できないので、ご了承いただきたい。

iPhone 17 ProとiPhone 16 Proの音を調べてみた

ではさっそく、音楽を聴いた際の違いに関する検証からしていこう。

最初にいい音、と思ったのはSpotifyを再生した際のものだったのだが(まだ、話題のSpotifyロスレスにしているわけではないが)、それをそのまま音として公開するわけにはいかないので、リニアPCMレコーダーの実験記事で使っているTINGARA「JUPITER」を、2つのiPhoneのミュージックアプリで再生し、それをTASCAMのリニアPCMレコーダー「Portacapture X8」で収録してみた。

それぞれをできる限り同じ条件にするため、まずデスクの上にスマホ/タブレット用スタンドを設置するとともに、三脚でPortacapture X8を設置。それぞれの音量をそろえるために、ボリュームを最大にして再生した。

ところが、ここでいくつかのトラブル? が発生。

聴感上iPhone 17 Proの音のほうが明らかに大きいけれど、時々音が歪んでしまっているようだ。とりあえず、いったんそのまま録音した結果をSound Forgeで表示させて比較すると、やはりiPhone 17 Proのほうが大きな音量になっていることが分かる。

iPhone 17 Pro
iPhone 16 Pro

けれど同じ設定のまま-6dBの1kHzサイン波をそれぞれで再生させてみると、波形の大きさは変わらない。

iPhone 17 Pro
iPhone 16 Pro

これはどういうことなのだろう?

一概にはいけないが、可能性として考えられるのはiPhone 17 ProもしくはiOS 26においてスピーカー再生させる際に、EQやコンプ、リミッターなど、なんらかのチューニングがされているのでは? ということだ。

いずれにせよ、音楽をスピーカー再生させると歪んでしまうのは大きな問題ではあるので、ちょっとレベルを下げてみよう、ということで、音量ボタンをそれぞれ5クリック分下げて、改めて同じ実験を行なってみた。

すると、Sound Forgeでの波形比較では、それほど大きくは変わらなくなるというか、iPhone 16 Proのほうが大きな音になる。けれど、やっぱりiPhone 17 Proの音のほうが、チューニングされているからなのか、ちょっといい感じに聴こえる気がする。

iPhone 17 Pro
iPhone 16 Pro

今度はこれらを音量感の違いではなく、音質的に比較するため、ちょっぴり波形編集的な加工をしてみた。具体的にはノーマライズ機能を使って音圧をそろえてみたのだ。

具体的にはEBU R128に基づき、−20 LUFSで正規化してみたのだ。

そのうえで、WaveSpectraを使ってFFT分析してみたのが下の図。

iPhone 17 Pro
iPhone 16 Pro

まあ、これだけを見てもあまりハッキリした違いは見られず、しいて言うとiPhone 17 Proのほうが中低域のボリューム感がありそうというところだが、気になる方は音を聴き比べてみてほしい。

TINGARA「JUPITER」録音サンプル

・iPhone 17 Pro → 17Pro_music-5-20LUFS.wav(11.29MB)
・iPhone 16 Pro → 16Pro_music-5-20LUFS.wav(11.30MB)

※編集部注:編集部ではファイル再生の保証はいたしかねます。再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

どちらの音も、あくまでiPhoneの音をリニアPCMレコーダーで録っただけの音だから、実際に耳で聴いた音よりもスカスカな音になっているのは事実。だから、これをそのままiPhoneの音と誤解しないで欲しいが、その違いの特徴はしっかり捉えてるはず。個人的にはiPhone 17 Proの音のほうがいいように思うが、ここは人それぞれの好みという面もありそうだ。

新機種より「iPhone 16 Pro」の方が“素直な音”?

続いて、先ほどの最大音量でのサイン波について、サインカーブが見えるところまで拡大してみた。

iPhone 17 Pro
iPhone 16 Pro

これを見ると大きな違いがあることがハッキリとわかる。

iPhone 17 Proはやはりなんらかの加工をしているからか、サイン波が明らかに歪んでいる。それに対し、iPhone 16 Proのほうはキレイな波形になっている。これは1kHzだから、ということはありそうだが、結構面白い結果ではないだろうか?

次に、この2つのサイン波測定の結果を「WaveSpectra」でFFT分析してTHDとS/Nを調べてみたのがこちら。

iPhone 17 Pro
iPhone 16 Pro

これは先ほどの歪み具合からもある程度予測できたことではあるが、iPhone 17 Proは2次・3次以降の高調波がかなり強く出ている。同様にTHD(全高調波歪率)=約4.6%とあまりいい結果ではない。それに対して、iPhone 16 Proのほうが、素直な音となっている。

ただし、5クリック分音量を下げた状態でサイン波を比較してみると、そこまで大きな差はなくなるものの、それでもiPhone 16 Proのほうがキレイな音のようだった。

iPhone 17 Pro
iPhone 16 Pro

もう一つ、おまけの実験として行なったのが20Hz~20kHzのスイープ信号の測定だ。

本来スイープ信号は低域から高域までフラットに音が出ていくものだが、実際に音を聴いてみると、iPhone 17 ProでもiPhone 16 Proでも、フラットとは程遠い、変な音になっている。

まあ、内蔵スピーカーはレンジが狭く、低域・高域がほぼ出ずに中域中心の音となる。そのため低域の音を出すと高調波が目立ち、本来の音がほぼ鳴らないのだ。ピークで比較すると、以下の感じとなる。

iPhone 17 Pro
iPhone 16 Pro

Sound Forgeの時間軸に沿った波形を見ると、実態に近いものが分かるはず。

iPhone 17 Pro
iPhone 16 Pro

ここから言えるのは、iPhone 17 Proは中高域寄りにエネルギーが集まり、iPhone 16 Proのほうがフラット寄りである、ということ。スイープ信号だと実態の音楽再生とは違うが、傾向は確認できる、といったところだろうか。

ここまで見てきた測定結果を数値で整理すると以下のとおり。

条件iPhone 17 ProiPhone 16 Pro
1kHzサイン波
(最大音量)
THD≈4.6%
S/N≈19dB
クレストファクタ≈8dB
THD≈1.9%
S/N≈28dB
クレストファクタ≈12dB
1kHzサイン波
(−5クリック)
THD≈2.9%
S/N≈22.8dB
クレストファクタ≈10dB
THD≈2.5%
S/N≈24.7dB
クレストファクタ≈12dB
波形の特徴
(最大音量)
頂点・谷が角張り、歪み強め、音が“詰まって”いる正弦波に近くクリーン、ダイナミックレンジが広い
波形の特徴
(−5クリック)
歪み減少、より自然な正弦波に近づく最大音量時と大差なく安定

ざっくり言えばiPhone 17 Proは最大音量で歪みが増える一方、音圧感を稼ぐチューニングで、データ上はともかく聴感上ではいい感じの味付けがされた音に聴こえる。それに対し、16 Proはよりクリーンで素直な再生傾向を持つことが分かるが、インパクトにはやや欠ける……といったところだろうか。

ただ、とくにiPhone 17 Proの場合、最大音量でスピーカーを鳴らすと歪みが大きくなるので、5クリック分程度下げて再生するのがお勧め。

なお、iPHone 17 Proでの味付けがハードウェアによるものなのか、iOS 26によるものなのか、もしくはその両方のためなのかはハッキリしていないので、機会があればiPhone 16 ProのOSをアップデートして音が変わるのか試してみたいところ。

読者の方でiOSのアップデートをすることがあるなら、ぜひ、そこで音に違いがでるのかチェックしてみると面白そうだ。

藤本健

リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。 著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。またブログ型ニュースサイトDTMステーションを運営するほか、All AboutではDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。Twitterは@kenfujimoto