レビュー

小さくても、オーディオは土台が命!クリプトン小型オーディオボード「AB-UT1」を使ってみる

クリプトン小型オーディオボード「AB-UT1」をマランツ「MODEL M1」と組み合わせたところ

小さなオーディオ機器でも振動対策は必要

デスクトップオーディオやハーフサイズのミニコンポなど、一般的な43cmの横幅より小さな機器を使っているオーディオファイルの皆さま。振動対策はお済みだろうか。

クリプトンが昨年10月に発売した「AB-UT1」は、約30cmの正方形で厚さ22.5mmのコンパクトなオーディオボードだ。既発売の「AB-555」などの薄型重量級ハイブリッドオーディオボードのサイズを、小型オーディオ向けに小さくした製品だ。

クリプトン小型オーディオボード「AB-UT1」

ただ、小さくなっても中身は本格的だ。クリプトンのオリジナル技術として、重量級の“鉄球サンド”がボードの中に入っている。非常に大きな比重を活かして機器の電磁ノイズを防止。また鉄球同士の隙間から生じるバラスト効果により、外部振動を大幅に低減・吸収するという。バラスト効果は、鉄道のレールとマクラギの間に敷き詰められた砕石を思い出してもらえると分かりやすい。砕石には、列車走行時の振動を吸収・緩和する役割がある。

実はこのAB-UT1よりも前に、電源BOXの下に敷くためのボードとして、より小さな「AB-PB1」という製品も発売されているのだが、それを2枚用意して大きなボードとして使うなど、ユーザーの使いこなしにも刺激を受けたこともあり、小型オーディオ機器でも使いやすいAB-UT1の開発に繋がったそうだ。具体的には、ハーフサイズのオーディオ機器や小型のブックシェルフスピーカーなどに、ちょうどいいサイズになっている。

電源BOX向けオーディオボード「AB-PB1」
小型オーディオボード「AB-UT1」

デザインはブラック。外形寸法は298×298×22.5mm(幅×奥行き×高さ/フット含む)、重量は2.4kg。価格は17,600円と、フルサイズ用のボードより低価格になっている。

サイズ的には、超小型オーディオ機器なら2台以上置くことも可能。最近流行りのネットワーク機能付のオールインワンコンポなら、ほぼピッタリといった案配だ。

箱から出すと、30cm四方の見た目からは、不釣り合いなほどの質量がある。本体を振ると、鉄球サンド(丸い鉄の砂)のサラサラという音がした。

では、AB-UT1を使ってハーフサイズの機器のみならず、ネットワークオーディオ機器などの様々な用途で試してみよう。

マランツMODEL M1と組み合わせてみる

まず、オールインワンコンポから試す。マランツの「MODEL M1」だ。ボードに置くと、ちょうどよく収まる。アンプも入ったネットワークコンポは国内外のブランドから次々と登場しているだけに、今後も盛況が期待されるジャンル。音質も小型な見た目を越える本格派。真のクオリティはアクセサリーで引き出したいところだ。

リビングでWi-Fi接続を行なってから、寝室へ移動。JBLの「STUDIO 220」をチェストに設置し、中央にM1を置いた。寝る前のリラックス時に小~中音量で聞く“ながらオーディオ”のイメージだ。試聴の際は、ベッドに腰掛けてスピーカーの真ん前でチェックした。

まず、AB-UT1無しで、Wi-Fi経由で接続したSoundgenicの音源を何曲か再生。その後で、チェストの上にAB-UT1を置いて、その上にMODEL M1を設置して聴き比べてみた。

一番変わったのは空間情報だ。奥行きや広がりがソース本来の姿を取り戻し、楽器音は立体的に変わった。繊細な抑揚が埋もれないことで、生演奏がよりリアリティを増している。

FINAL FANTASY VII REMAKE Orchestral Arrangement Albumから「ティファのテーマ -セブンスヘブン-」。冒頭のピアノの余韻は、ホールで鳴っている説得力が格段に向上。響きが消えゆくグラデーションは繊細に描写され、ホールで生オケを聴く時の感覚を思い出させてくれる。

音場がゴチャゴチャしていたのは、スピーカーの振動が柔なチェストの天板から伝わってしまっていたからだろう。本来のクリアな空間に楽器の音が立ち上がる気持ち良さは、ボード様々だ。“ゴチャゴチャ”の中身を解説すると、ステージが狭く平面的に感じられる、楽団の位置関係が曖昧になる、ミックスで演出された意図がピンとこないといった有り様のことである。

空間表現力どころか、演奏の躍動感までアップするものだから、ボードを敷いてないときは圧縮音源だったのかと思うほど落差が激しい。

上白石萌音の「白い泥」。アニメ版「MAJOR 2nd」の主題歌であり、映画「君の名は」の三葉の俳優が歌唱する疾走感のある爽やかソング。ボーカルは、輪郭が緻密に描かれることで、喉や身体の共鳴まで伝わってきそうな情報量。各パートの分離が良くなって、バンドサウンドとしての調和が復活したように感じた。特にベースとバスドラの解像度が上がったのはナイス。

ゼノブレイド3 オリジナル・サウンドトラックより「Moebius Battle」。特徴的なコーラスは、ボードを敷く前は合成音声のように聞こえていたのに、音像の立体感が向上し、抑揚も生声らしい繊細さを取り戻した。楽器もそうだが、やはり生が生らしく聴こえるようになると、音楽を聴いていてもっと楽しくなれる。

MODEL M1のような、全てが詰まっている1BOXタイプは、どこでも設置できるし、気軽に楽しみたいから、普通に家具の上に置いて使っている方も少なくないだろう。ただ、ほんの一手間。ちょっと板を下に敷くだけで、音楽の繊細な表情が、録音に込められた大切なニュアンスが、リスナーの耳をより満足させてくれるはず。想像していたより大きな効果が感じられて、クリプトンのオーディオボードいいじゃん!と筆者は上機嫌。

防音スタジオやデスクトップでも使ってみる

防音スタジオで使っているメインのシステムでも試してみよう。

ここでは、ネットワークトランスポートからUSB-DACを介して、プリメインアンプでスピーカーを鳴らしている。USB-DACの「NEO iDSD」にボードを敷いてチェックしてみた。

USB-DACの「NEO iDSD」

普段使っているインシュレーターはいったん取り外し、ラックに直接NEO iDSDを設置する。ラックはヒッコリーボードで組まれた特注品だ。

ラックにポン置きでも、決して悪くはなかった。音色に癖がなく、躍動感も出してくれる、お気に入りの素材だ。3段ラックの一番上ということもあって、床からの振動はだいぶ軽減出来ているのだろう。スピーカーからの音がラックを振動させているので、対策が不要とは思わないが。

AB-UT1を敷いて同じ曲を聴き比べる。UVERworldの「在るべき形」は、バスドラの躍動感が別次元だ。音が跳ねている。音の密度が上がって、質量感があるのに、音量変化は軽やかだ。

熱帯JAZZ楽団 XVI~Easy Lover~より「マルタ島の砂」。音の安定感が違う。重心が下がったというのが正しいか。地に足の着いた音は、リズムに乗っかって身体を揺らしたくなる。音が少し柔らかくなるのは、ボードの天板素材の個性と思われる。

交響曲ガールズ&パンツァーより「ガールズ&パンツァーのための狂詩曲」。ボードを敷くと、自分はホールにいるんだと自然と感じることができる。ステージマイクの位置に自分がいるとしたら、そこから楽団までの距離さえ見えるかのよう。演奏中に静寂が同居するような感覚がオケコンの醍醐味でもあると思うのだが、それが味わえるほど、空間情報の精度が上がる。ただ、音に素材の個性は乗るようだ。ボードを敷くと、まろやかで優しくなる。普段使っているインシュレーターは素材の個性を乗せないタイプの製品を使っているので、筆者の好みからは少し気になった。

続いて、単体アンプ系にも使ってみる。デスクトップオーディオの小型アンプだ。ボードに対して小さい製品でも、USB-DACのような上流の機器と一緒に置く使い方もできる。筆者環境ではケーブル配線の関係で、個別のテストとなった。

FX-AUDIO-のFX-1001Jx2は、普段はaet製VFEシリーズのインシュレーターを使用している。こちらを撤去し、机にポン置きの状態と、AB-UT1を敷いた状態とで比較する。

FX-AUDIO-の「FX-1001Jx2」。普段はaet製VFEシリーズのインシュレーターを使用

音楽以外のソースも聴いてみようとABEMAで、アニメ「Turkey!」の9投目(話目)を視聴。台詞は、ディテールが彫り深く、アタックは鋭く、サステインも速やかに収束していく。芝居に込められたかすかで一瞬のニュアンスも逃さないような音だ。劇伴は台詞との分離を改善させ、広がり感もアップ。ボードを取り除くと、定位があいまいになり、なんだか収まりの悪い感覚がある。“地に足の着いてない音”は、具体的に説明するのが難しいのだが、なんだかしっくりこない。聴き比べればピンとくる確かな違いだ。音声のシャープさもすっかり減衰してしまった。

AB-UT1を敷いた状態

比較対象が木製デスクだったため、AB-UT1に置き換えてもいわゆる「木材っぽい音」はあまりしなかった。他のシチュエーションでも共通する特徴として、まろやかで優しい音にはなるが、素材っぽい音はあまり乗せないタイプのボードだと思う。インシュレーターにせよボードにせよ、金属っぽい音・木材っぽい音・ゴムっぽい音は、聴けば感覚で分かるものだ。筆者は素材の音を乗せないアクセサリーをなるべく選ぶようにしてはいるが、ボードの個性を気に入って使うのもまた一興である。

左がデスクトップのUSB-DAC「SWD-DA15」

デスクトップのUSB-DACである「SWD-DA15」にもボードを敷いてみる。普段は、高剛性・重量級のラトック製CDドライブケースの上にaet製の小型インシュレーターを挟んで設置中だ。インシュレーターを撤去し、ドライブケースの上とデスクの上、それぞれ金属と木材による聴き比べからやってみた。

Audirvāna StudioでQobuzを再生。照井順政氏の『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』オリジナルサウンドトラックより「欲しいものすべて」とボーカルアレンジの「Far Beyond the Stars」。まずはドライブケースから。音場がゴッチャゴチャで立体感もなにもない。広がり感は不自然で、定位も曖昧。コーラスやボーカルはキンキンとハイ上がりで耳障りだ。これはない。たまらず机の上に移す。金属っぽい硬質感のある音はなくなったが、分離が悪く混濁した音場はそのままだ。

机との間にAB-UT1を敷く。ボーカルは伸びやかさが格別。コーラスの解像感は格段に高まる。バンドとストリングスの分離が良くなり、低域は引き締まってクリアだ。

TRI4THのアルバムCALM&CLASHより「A Tail of Yellow Bird」。ボード有りを聴いてから、ボードを撤去するとガッカリ感が激しい。ブラスの音がヘニョヘニョだ。あまりの腑抜け加減に、椅子から崩れ落ちそうになった。ピアノも響きが汚れていて、気品がない。ストリングスは繊細さがまるでなくなってしまった。

Beagle KickのRememberance(DSD 5.6MHz)は、筆者もホールレコーディングに同席したジャズカルテット。音が出た瞬間からもうボード有りは、その場に居合わせている感覚が段違いだ。ホールのステージの広さ・奥行きのリアリティが高い。ギターアンプから鳴っている音も、マイクで録った空気感を伝えてくれる。DSDらしい有機的な質感は、AB-UT1によって増幅されているように感じた。

AB-UT1の個性は、インシュレーターを組み合わせることで緩和するのも手かなと考え、元々使っていたインシュレーターをボードの間に敷いてみた。すると、音像のフォーカスが甘くなってしまう残念な結果に。おそらくボード内部の鉄球サンドによる振動吸収効果が十分に発揮できなくなってしまったのだろう。相性の悪い併用はやめた方が良さそうだ。

デスクトップオーディオに活用して感じたのは、もう少し小さなサイズのボードがあったら使いやすいということだった。CDジャケットサイズ、あるいはそれより小さな機器が珍しくない中、30cm正方形はちょっと大き目だ。確かな効果があるだけに、電源ボックス用AB-PB1、ハーフサイズコンポ用AB-UT1に続いて、デスクトップオーディオに特化したタイプも期待したい。

オーディオアクセサリーにも使ってみる

さて、この辺りでマニアックな用途にも使ってみよう。

リビングのネットワークオーディオは、ネットワーク分離のために「DATA ISO BOX」を導入しているが、その下に敷いてみる試みだ。AVアンプの「RX-V6A」でQobuzを再生するとき、上流のモデム兼ルーターからDATA ISO BOXにQobuzのデータは送られてくる。ネットワークスイッチN8を経由して、アンプに向かう経路だ。オーディオ専用ルーターにオーディオのデータが通過したとき、振動対策したら音はどれだけ変わる?という試聴。現状の振動対策は一切やっておらず、テレビ台の上に置いてあるだけ。サブシステムということもあり、なかなか漏れなく配慮を行き届かせるのも難しいのだ。

「DATA ISO BOX」に導入

橋本由香利の『全修。』劇伴集 始動。より「全修。」。ボードを敷くとシンセのきめ細かさが改善。ストリングスの広がりと演奏の重厚感が、生らしい躍動感で迫ってくる。音に腰が入った印象。

ロドリーゴ・イ・ガブリエーラのMettavolutionよりタイトル曲を流す。低域は引き締まって、キレもよくなった。リズムがピシッとゆらぎなく決まる感じが気持ちいい。アコギの立ち上がりも鋭敏で、生の熱い演奏は興奮を掻き立ててくれる。音の周りに滲みがなくなって、楽器音のディテールがハッキリと描かれている。なお、Soundgenicの音源も再生してみたが、DATA ISO BOXをオーディオデータが経由しないため、音の違いは分からなかった。ネットワーク機器の振動対策は、まず重要なオーディオデータが経由するポイントから実施するのがコスパの面でも望ましいといえそうだ。

マニアックその2。

DATA ISO BOXに供給する電源ユニットの下に敷いてみる。DC POWER BOXだ。現状は、置く場所がなくて、スタンド近くの床に直接という目を覆いたくなるような有様だ。かろうじてオーディオスパイダーシートを下に敷いている。ここに使えば、きっと効果はあるだろう。

DC POWER BOXに敷いてみる

まずスパイダーシートを撤去して、元あった場所(スピーカースタンドのすぐ傍)の床に置く。床に直置きすると、スパイダーシートを敷いたときに比べて、サウンドステージは混濁、下品な音になってしまった。

ボードを敷いて「全修。」や「Mettavolution」を聴くと、トラック同士の分離は改善し、空間表現は整理されて、ミックス本来の意図が再現出来ている気がする。音の粒立ちや立体感は向上した。地に足の着いた安定感のあるサウンドに変わった点もポイントが高い。シンセとストリングスはグチャッとせず、描き分けが上質だ。ただ、DC POWER BOXの自重が耐振動特性を高めているのか、変化幅はDATA ISO BOXよりも小さかった。

先ほどより、筆者のサブシステムの恥を晒しながら、音の改善をお届けしているが、まだまだ頭が痛くなるような惨状は控えている。一際、悪影響が著しいと思われるのがNASとネットワークスイッチの設置方法だ。

NASはHDDのSoundgenic(HG版)。ネットワークスイッチはサイレントエンジェルのN8を使用。設置場所はスピーカースタンドのすぐ下、100円ショップで買ってきた木のブロックにオーディオを始めた頃に使っていた安価な金属製のインシュレーターを敷いてSoundgenicを乗せている。N8は、aet製VFEのインシュレーターを敷いてSoundgenicの上に重ね置き。回転機構があるNASの上に、オーディオグレードのネットワークスイッチを置かない方がいいのは明白だが、ついついそのままになっていた。現状の設置方法とAB-UT1に2台とも直置きした場合とで比較した。ボードは床に直接置いている。

ボードを試す前のアクセサリーと木材

何曲かSoundgenicに保存した音源を掛けてみる。ちょっと待ってくれ。これは大反省会だ。改善効果が大きすぎる。サブシステムだの、置き場所がないだの、理由を付けて横着していた自分が情けなくなる。

ゼノブレイド3のサントラより「A Step Away」。ストリングス有りのボーカル曲。元々ミックスが素晴らしい楽曲だが、俄然、上品な音に生まれ変わった。ボーカルは生命感が溢れ、艶めかしさすら感じられるように。重心は安定して、地に足の着いた、安心して聴いていられる音に進化。分離も改善し、楽器やボーカルの輪郭はフォーカスよく描かれる。スピーカーから音離れする楽器も、ちゃんと前に出てくる。

男性ボーカルとしてフラチナリズムの「きみのうた」。最初アコギの弾き語り調で始まって、2番からはバンドオケに変わる。まず聴感上のS/Nが改善。トランジェントは鋭敏になって、ギターもシンセトラックもリビングで聞いたことがなかった情報量で耳に入ってくる。ボーカルやドラムの空気感も以前は大きく損なわれていたことを痛感した。少し中音域がまろやかになっているのはボードの個性だと思われるが、ともかくNASとスイッチのパフォーマンスが引き出された結果に感嘆のため息が幾度となく漏れた。

白状すると、かねてからこの問題はそろそろ何とかしようと考えていて、狭いスペースでもどうにか置ける木製の小さなラックを買っていた。組み立てたっきりセッティングしてなかったが、大慌てで床から移し替えたのは言うまでもない。ボードには劣るが、前より音は良くなった。

ということで、クリプトンのオーディオボードAB-UT1は、マルチユースで様々な機器の音質を改善できることがよく分かった。デスクトップオーディオではソース機器からアンプ系、スピーカーまで幅広く使えるし、ネットワークオーディオ機器を複数設置する使い方もたいへん有意義だった。お気に入りのオーディオ製品、まだまだ本来の実力引き出せていないかも。まずは振動対策から始めてみよう。

橋爪 徹

オーディオライター。音響エンジニア。2014年頃から雑誌やWEBで執筆活動を開始。実際の使用シーンをイメージできる臨場感のある記事を得意とする。エンジニアとしては、WEBラジオやネットテレビのほか、公開録音、ボイスサンプル制作なども担当。音楽制作ユニットBeagle Kickでは、総合Pとしてユニークで珍しいハイレゾ音源を発表してきた。 自宅に6.1.2chの防音シアター兼音声録音スタジオ「Studio 0.x」を構え、聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。ホームスタジオStudio 0.x WEB Site