トピック

A1000が話題、気鋭のオーディオブランドaurenderに迫る。“キャッシュ再生”へのこだわり

人気のネットワークプレーヤー「A1000」シルバー

A1000が話題、気鋭のブランドaurender

AV Watch読者の方々ならaurender(オーレンダー)というオーディオブランドを耳にしたことがあるだろう。aurenderは今から15年前の2010年に始動。音楽デジタルファイル再生と音楽ストリーミング再生に特化している気鋭のオーディオブランドである。企業名でもあるaurenderは、audio renderer(オーディオ・レンダラー)を略したものだ。海外のオーディオショウで常連的な存在のaurenderは世界的に知名度が高く、常にグレードの高い製品を世に送り出している。

キャッシングストレージのイメージ

最大の特徴は、内蔵するSSDにデジタルファイルを瞬時にキャッシュ(読み込み)して音楽再生すること。内蔵SSDをキャッシングストレージにすることでデータ伝送に関わる音質的な諸問題をスマートに解決しており、安定性に優れた音楽再生を実現しているのだ。

N50

彼らの現行フラグシップ機は8月に発売されたN50(6,270,000円)。ステレオサウンド誌のグランプリにも選ばれている、外部DACと接続する3筐体構成のデジタルトランスポートである。いっぽうでaurenderはアナログ出力を装備するデジタルプレーヤーにも注力しており、ピューリファイ製クラスDモジュールを搭載したオール・イン・ワンのインテグレーテッドアンプ「AP20」も登場している。直近の新製品はネットワーク経由による音楽ストリーミングの音質を飛躍的に高めた高性能スイッチングハブ「NH10」である。

スイッチングハブNH10

なかでも音質とパフォーマンスの高さから私が大いに注目しているのは、A1000という599,500円のネットワークプレーヤーだ(2024年11月20日発売)。戦略的ベーシックモデルに位置づけられているA1000は、RCA端子のアナログ出力とHDMI(ARC)やUSB接続DAC出力など豊富な入出力を装備していることが特徴だ。背面には最大8テラバイトのストレージ用2.5インチSSD/HDDを格納できるスロットが用意されており、キャッシングストレージ用の専用SSDは120ギガバイトのNVMeタイプである。日本市場でも大きな話題になっているから、聴いたことがある読者も少なくないのでは?

A1000ブラック

A1000はリリース間もない専用アプリ「aurender conductor V5」を使った操作性も良く、なんといっても音質が素晴らしい製品だ。ネットワークプレーヤーだからD/A変換回路を搭載しているわけだが、A1000はAKMのステレオDAC素子AK4490REQをチャンネルあたり1基使うという贅沢な構成。AK4490REQは768kHz/32bitと11.2MHzのDSD(DSD256)まで対応するVELVETSOUNDテクノロジーを採用した、S/N比120デシベルのプレミアムDAC素子である。驚くことにA1000では22.5MHzのDSD(DSD512)も再生可能になっている。Aurenderの技術陣はDSD512を再生する方法を独自に見出したのだという。A1000は電源周りも本格的だ。3基のトロイダル型トランスフォーマーを使った独立3系統のアナログ電源部で各セクションにクリーンな電源供給を行なっている。

A1000の内部

A1000の音質はDAC素子のAK4490REQに負うところが大きいわけだが、きわめて繊細な表現力が本質的な魅力ポイントに思われ、強弱のコントラストもじゅうぶんに高いという印象を受けた。オーディオファイルにも知られるノルウェーの女性シンガー、アネッテ・アスクヴィークの「リヴァティ」(48kHz/24bit)を聴くと、センターに音像定位する彼女の声色に質感の高い柔らかさ宿っていて、階調表現=グラデーションの滑らかさが心地よく感じられる。DSD256(11.2MHz/1bit)の井筒香奈江「どこか~窓の向こうに~」も同様といえる音質的な感触が得られており浸透力に優れた音という印象だ。鋭角的な鮮明さを得意としているESS製DAC素子とは明らかに異なる、緻密で丁寧な音を描いてくれるのがA1000の大きな魅力といえるだろう。

A1000のDAC回路

押しの強いタイトな楽曲も申し分なく、Qobuzで聴いた米津玄師「Plazma」は低音域の解像感も優れていて腰高の音調バランスにもならず、スピード感に優れた厚手の展開になったのが嬉しい。これは想像であるが、本格的なリニア電源部による電源供給と剛性の高いソリッドな筐体構造も音に大きく効いていると思う。ちなみに、オーレンダーの特徴であるキャッシュ再生はQobuzとTIDALのストリーミングでも有効になった。Qobuz Connectではそうならないから、同じ楽曲をキャッシュ再生のQobuzとリアルタイム再生のQobuz Connectで聴き比べると、キャッシュ再生の優位性がわかるだろう。

韓国のaurenderを訪問。デビュー作からキャッシングストレージ搭載

aurenderが入居しているビジネスビルO’ BIZTOWER

aurenderについて深掘りしたくなった私は、彼らの本拠地がある韓国の安養(アニャン)を訪れた。aurenderはソウル市から南に下った安養市にヘッドクオーターを構え、ソウル市内の一等地である江南(カンナム)にソフトウェア開発部門がある。安養市のランドマークである35階建てビジネスビルO’ BIZTOWERの16階の半分をaurenderが占めていて、地階には物流倉庫があるという。私と輸入元のエミライ一行を出迎えてくれたのは、アジア担当セールス・ディレクターのアンドリュー・キム氏である。

16階のaurenderエントランス。右端がアンドリュー・キム氏

彼らが行なったプレゼンテーションからaurenderの歴史を紐解いていこう。

創設者のハリー・リー(Harry Lee)氏は、韓国トップの名門大学であるソウル大学で電子工学を学んだエンジニアで熱心な音楽愛好家でもあった。某社の研究所で働いていたときに、彼はパーソナルコンピューターを使ったCDの再生に興味を抱き、プライベートで音質と操作性の両面から追求していくことに。当初はノイズの発生に悩まされたというが、問題を克服して高度に満足できる音質を得たという。音楽デジタルデータを内蔵のメモリー領域に蓄えて再生するというキャッシングストレージの概念は、この時すでに確立されていた。

2010年にハリー氏はWidealabという会社を興し、翌年にはaurenderのデビュー作であるS10を米国のオーディオショウで発表して大きな話題を集めた。最初から自社開発の音楽再生アプリが用意されていたことも大きなポイントだった。iPadを使ったタブレットによる操作を、すでに実現していたのだ。

S10

ここで注目すべきはデジタルファイル再生へのアプローチである。現在のネットワークオーディオはスコットランドのリン・プロダクツ社が2007年に発表したKlimax DSが源流といえる。リンのDSシステムはミュージックサーバーのNASに蓄えた音楽デジタルファイルを再生(LAN経由のパケット伝送)するというシンプルなものだが、aurenderは音楽デジタルファイルを本体に内蔵するSSDに瞬時に取り込んで再生するキャッシングストレージのスタイル。デビュー作のS10はストレージ用のHDDも内蔵していたミュージックサーバーである。同じネットワークオーディオの範疇ながらも基本コンセプトは全く違うといっていい。デビュー作のS10からすでに大型液晶画面を装備していたことも興味深い。

S10の背面

デビュー作のS10はデジタルトランスポートだった。音楽再生には他社製D/Aコンバーターとの接続が不可欠になるわけだが、そのことはデメリットなどではなく、むしろ市場から歓迎されたという。英国dCSを筆頭に音質に定評のあるD/Aコンバーターはすでに存在していたし、逆に彼らにはネットワークオーディオの知見がほとんどなかったので、aurenderのS10と組み合わせることでハイエンドなデジタルファイル高音質再生システムが構築できたからだ。S10は内部マスタークロックにOCXO(恒温槽付水晶発振器)を採用していたし、本格的なリニア電源部と堅牢な筐体構造を有するというハイエンドオーディオ機器に相応しい内容を持ち合わせていた。Widealabは業務用の映像モニターを手掛けるTVLogicと2012年に合併してオーディオ部門を担った。2017年にはaurenderとして独立して現在に至っている。

これまで述べているように、内蔵SSDに音楽デジタルファイルを瞬時に取り込んで再生するという独自のキャッシングストレージがaurenderの特徴である。しかしながら、たとえばfidata APPやmconnect HDなどサードパーティの汎用的な音楽再生アプリでは、キャッシングストレージという手法を動作的に反映させることができない。そのためaurenderでは、創業当初から専用アプリのaurender Conductorを自社開発して発展させてきた。その最新版は2025年12月にリリースされたaurender Conductor V5である。細部に至るまで洗練度を高めた専用アプリであるが、ユーザーからのリクエストが多かったUPnP対応に加えて、音楽ストリーミングのQobuzとTIDALでは楽曲を内蔵SSDに取り込んで再生するなど大幅に進化している。

AKM DACを選んだ理由と、アプリやOSまで自社開発する理由

現在のaurenderの組織図である。CEOのリー・ギョングク氏をトップにする少数精鋭のチームになっており、創設者であるハリー氏は北米を統括するaurender U.S.A.の代表を務めている。aurenderにとって最大の市場は広大な北米=アメリカ合衆国とカナダなので重要なポジションだ。ミーティングではアジア担当セールス・ディレクターのアンドリュー氏のほかに、ソフトウェア開発のチームリーダーであるエリック氏とハードウェア設計責任者のジョン氏、そして製品プランニング責任者でaurender製品の音質を決定する“Golden Ear”のジェフ氏に同席いただいた。海外とのコミュニケーションも多い彼らは、英語のファーストネームを使って互いを呼びあっている。驚くことにCEOのリー氏と創設者のハリー氏、aurender アジアのデイヴィッド氏、ジョン氏、ジェフ氏、そしてアンドリュー氏は同じソウル大学の卒業生なのだという。私たちが訪問した時、CEOのリー氏はヨーロッパ滞在中とのことだった。

aurenderのメンバーに話を聞いた

aurenderは安養の本社に18名、ソウル市内のソフトウェア開発が9名、そして米国・欧州・中国の拠点に9名という、総勢36名の体制ということだ。私は最初にaurenderがAKMのDAC素子を採用している理由を尋ねてみた。自宅で聴いて好感を抱いたA1000はAKM4490REQのデュアル使いで、私はその音の素性の良さに驚いたからだ。現行のaurender製ネットワークプレーヤー(彼らはアナログ・ミュージックサーバーと表記している)は、すべてAKM製DACを採用している。

製品プランニング責任者で“Golden Ear”のジェフ氏

製品の音決め責任者であるジェフ氏は、AKMの採用は本質的な音質の優秀さに加えて、自分を含む技術陣による使いこなしの結果であることを語った。本人的には音楽再生において最も重要と考える表現力の豊かさとニュアンスに富んだ音の描写能力が気に入っているという。DAC回路の独自開発という手段もあると思うけれども、しっかりとした電源回路で駆動されているA1000の音を聴いている私は納得である。ジェフ氏もA1000の音質に満足しているという。

ハードウェア設計責任者のジョン氏

ハードウェア設計責任者のジョン氏は、ジェフ氏が考えた製品企画をベースに、最良の音質を実現する回路設計の重要さを語ってくれた。aurenderの製品はすべて回路設計を自社開発しており、しかも信頼できる韓国内の協力工場で製造しているという。DAC素子に関しては、以前にDAC素子を手掛けている海外のメーカーが技術者と共にaurenderを訪れたことがあるけれども、音質を比較検討した結果として満足が得られず採用を見送った経緯があるそうだ。

ソフトウェア開発のチームリーダーであるエリック氏

ソフトウェア開発のチームリーダーであるエリック氏には、自社開発の音楽再生アプリであるaurender Conductorについて伺った。取材した時点では最新のaurender Conductor V5はまだリリースされておらず、デバッグを進めている段階だった。

エリック氏はユーザーからの使いやすさや付加機能のリクエストに応じるよう柔軟な開発を進めているというコメントがあったが、実はソフトウェア開発の部門はアプリのaurender Conductorだけではなく、機器本体のOSもすべて手掛けているそうだ。aurender Conductorは独立したアプリというわけではなく、aurender本体のシステム領域に関わっているプログラムだという。キャッシングストレージを実現することに加えて本体の深層領域もコントロールできるのが特徴で、たとえばA1000ではデジタルフィルターを5種類から選択できるし、DACの電流モードも3種類が用意されてアプリで設定できるのだ。

アジア担当セールス・ディレクターのアンドリュー氏

韓国aurenderへの訪問取材は2日間に渡って行なった。後編では音決めを行なっている本社の試聴室や品質管理部門、そして回路基板の製造とアッセンブルを行っている協力工場とソフトウェア開発の現場などを紹介していこう。

aurenderの試聴室
三浦 孝仁

中学時分からオーディオに目覚めて以来のピュアオーディオマニア。1980年代から季刊ステレオサウンド誌を中心にオーディオ評論を行なっている。