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“R2R DACの音”を多くの人へ、FIIOの挑戦。注目DAP「M33 R2R」から、4万円以下「BR15 R2R」まで
- 提供:
- エミライ
2026年4月10日 08:00
皆さんは“R2R”という言葉を聞いたことがあるだろうか? 最近の、高性能なDAPやUSB DAC、ネットワークプレーヤーなどでよく聞く言葉だが、高価なハイエンド製品が多いので、詳しく知らない人も多いだろう。
だが、「R2Rの魅力を多くのユーザーに届けたい」と動いているブランドがある。それは皆さんがよくご存知のFIIOだ。同社は実売約39,600円のUSB DAC「BR15 R2R」など、手頃な価格の製品にもR2R DACを搭載しており、搭載モデル数も増加している。その狙いに迫ってみた。
R2Rとはなにか
そもそも、R2R(またはR-2R、読みはアール・ツー・アール)とはなにかを基礎知識として簡単に説明していきたい。R2RとはDACの設計手法の一つであり、現在一般的に使われているDACとは大きく異なるものだ。
現在一般的に使われているDACとはデルタシグマ(ΔΣ)形式と呼ばれているもので、普通はIC化されている。これはDSD音源をそのまま再生できる「DSDネイティブ」形式であり、24bitのハイレゾ音源にも強い。
ただし、このことは大きく二つの課題をオーディオ業界に突きつけてきた。
まずDSD音源の時は良いのだが、音源としてより一般的なPCMの場合には、PCMからDSDの形式(パルス密度変調:PDM)に変換する必要があり、この変換が「デジタル臭い」と呼ばれる原因の一つとされている。そしてもう一つはIC化されているため、ICメーカーの事情により製品の製造側には供給不安が常に付きまとうことだ。
R2R DACのアプローチはそれとは大きく異なるものだ。R2RとはR(抵抗値)と2R(二倍抵抗値)のペアと言う意味であり、文字通りRと2Rの抵抗器を組み合わせたディスクリート方式のDACのことである。
ディスクリート方式というのは、出来合いのパッケージであるICではなく、抵抗のようにいくつかのパーツを組み合わせて作る回路のことだ。つまり旭化成(AKM)やESSなどのDAC ICメーカーではなく、FIIOなどの製品メーカーが自由に設計開発ができる。ハシゴのような構成からR2RはラダーDACとも呼ばれる。
R2Rの方式ではPCMデータの各ビットがそのままスイッチとして動作、前述のハシゴ状の抵抗回路に通すことで、足し算で合成してアナログ信号として出力することができる。
つまりR2R DACは従来のDACとは異なり、PCMを直接変換できる。これはいわば「PCMネイティブ形式」のようなものであり、DSDネイティブ再生がDSD音源を「デジタル臭く」なく滑らかに再生できるように、PCM音源を自然で滑らかに再生できると言われている。
一方でR2R DACには課題もある。まず抵抗器がたくさん必要になる。ハイレゾ再生ではRと2Rの抵抗ペア(2個)が24bit分必要なので、1chあたり24×2=48個の抵抗が必要となる。
さらに抵抗一つ一つの精度が高くなければならない。これはハシゴ形状だからであり、あたかも最上段でわずかにハシゴを踏み外すと、下の段全ての踏み幅がズレてしまうようなものだ。
つまりR2R DACがハイレゾに対応するためには、1Vという高さを登るのに1,600万段以上もの階段を隙間なく積み上げるような気の遠くなる精密作業が必要となる。もちろん基礎となる電源がクリーンでなければならないのは言うまでもない。
そしてR2R DACはデルタシグマ形式とは逆で、今度はDSD音源の再生で変換が必要になってしまう。そのための回路も必要だ。
実はR2R DACは最近の設計技術ではなく、デジタルオーディオ黎明期からの伝統的な手法だ。かつてはICチップ化もされていたが、測定上のスペックを競う高性能化競争の中で、製造効率と数値に勝るデルタシグマ方式に主役の座を奪われ、一時期は「過去の技術」と見なされていた。
しかし、時代は変わり、再びR2R DACが脚光を浴びてきた。先に書いた二つの課題をクリアできるのがR2R DACであり、近年のストリーミング全盛時代ではFLACなどのPCM音源がメインに使われているので音質的に有利だ。さらに近年注目されているIC不足に悩まされることもない。
また近年のユーザーにはアナログ的な音が好まれるという背景もある。時代は変わり、またR2R DACがもてはやされる時代となってきたわけだ。
FIIOのエンジニアに聞く、R2R DACへのこだわり
そのR2R DAC開発に今注力しているメーカーの1つがFIIOだ。
最近では、2月に独自開発のフルバランス24bit R2R DACを搭載したポータブルCDプレーヤー「DM15 R2R」(オープン/実売約48,400円)、Bluetooth受信機能も搭載したUSB DAC「BR15 R2R」(同約39,600円)、4月10日にはポータブルDAP(デジタルオーディオプレーヤー)「M33 R2R」(同約116,600円前後)を発売するなど、一気にR2R DAC搭載製品を増やしており、また、コストがかかる方式にも関わらず、手頃な価格の製品にも搭載している。
この狙いはどこにあるのか? FIIO技術開発部門の周郅彬氏に直接伺うことができた。前述の技術解説とも絡めて読んでいただきたい。
—— FIIOは従来は高性能な汎用DACチップを製品に採用していましたが、独自のR2R DAC開発をスタートしたのはいつ頃ですか? また、どのような狙いでR2R開発を開始したのですか?
周氏(以下敬称略):開発は2023年頃から始めました。汎用DAC製品以外のものを求める市場ユーザーの需要に応えるため、それまでの自社製品との差別化を図る目的で始めました。
汎用DAC製品の市場は飽和しつつあり、他社も同様にR2R DAC製品を出し始めたので、他社のR2R DAC製品との差別化を図ることも意識しました。
—— そのFIIOならではの独自性というのはどういうものでしょうか?
周:例えば市場のR2R DAC製品では、PCM入力の際は良いが、DSD入力の際にはPCM変換が必要なことが一般的です。そこで我々はDSD音源を入力する際には、R2Rのラダー抵抗回路をFIRフィルターとして働かせる仕組みを開発しました。
この仕組みによりDSDのDA変換に必要なローパスフィルターとしての機能を提供できるので、他社のようなPCM変換機能を必要としません。
—— その際、他社のようなPCM変換方式に対して、ラダー抵抗回路をFIRフィルターとして使用するFIIO方式の音質的な利点を教えてください。
周:DSDからPCMに変換する必要がないので音質劣化が少なく、元の音に近い音質になります。つまりデルタシグマDACのDSDネイティブ再生と同じ利点をR2R DACで得られるということです。
ただし、世の中の多くのデルタシグマDACはマルチビット方式のため、DSDを内部で別の形式に変換して処理しているのが一般的です。我々の方式はラダー抵抗回路をFIRフィルターとして直接活用する、より本当の意味でのDSDネイティブ処理と言えます。
—— FIIOの独自形式のR2R DACの名称はありますか?
周:独自の名前は命名していませんが、将来的にR2R DACがグレード分けされた際に“PRO”や“ULTRA”などの命名はするかもしれません。
—— FIIOがR2R DACで採用している0.1%という精度の抵抗は、比較的低精度のようにも思えます。この辺についての考えをお聞かせください。
周:これは普通のユーザーにも安く買って欲しいという願いからコストパフォーマンスを重視したものです。0.1%の抵抗のコストは0.01%の抵抗の数十分の一です。しかし0.1%でも十分な精度であり、我々の技術ならば高い音質を実現できます。
またその分で多くの抵抗器を搭載できるため、我々のR2R DACは192個もの抵抗を搭載していてフルバランスに完全に対応しています。(注:前述のように1チャンネルあたり、Rと2Rの抵抗ペア(2個)が24bit分必要なので、フルバランスの4チャンネルでは48x4=192個が必要となる)
他方で、今後は市場のフィードバックを参考にしながら、ハイエンド製品により高い精度の抵抗を搭載することも検討しています。
—— 他社では搭載するDACを、R2R搭載モデルに集約するブランドも多いのですが、一方でFIIOは、同じグレードの製品でも、R2R DACモデルと汎用DACチップ搭載モデルと、バリエーションを作っています(例: K11 R2RとK11)。この狙いを教えてください。
周:FIIOの考え方は音の好みはユーザーが選ぶべきというもので、ユーザーが比較しながらどちらも選べるというラインナップが健全だと考えています。
—— 今後、FIIOの独自のR2R DACはどう進化していくのでしょうか?
周:いままで発売したモデルは第一世代であり、これから第二世代のモデルの投入を考えています。これは少し高価なハイクラスのモデルとなるでしょう。
さらに第三世代ではサイズを小型化してスティックDAC(ドングルDAC)に採用することも検討しています。将来には真空管用のR2R DACなども視野に入れています。
FIIOのR2R DAC搭載モデルを聴いてみる
実際に、最近登場したFIIOのR2R DAC搭載 新製品をいくつか試聴してみた。
「BR15 R2R」(オープン/実売約39,600円)、「DM15 R2R」(同約48,400円)そして発売されたばかりの「M33 R2R」(同約116,600円前後)である。
BR15 R2RはBluetoothレシーバー機能がメインだが、本格的な据え置きオーディオの上流機として使用できる実力がある。
音質は温かく有機的で滑らかな音楽的なサウンドで、明瞭感もかなり高い。面白いのはアナログ出力だけでなく、デジタル出力でも温かみのある音であることだ。光出力だと硬い音になりがちだが、本機では温かみのある角が取れた音が楽しめた。これはBluetoothレシーバーとしては貴重な存在と言えるだろう。
DM15 R2Rは据え置きCDプレーヤーをミニチュア化したような可愛らしいポータブルCDプレーヤーだ。温かみのある滑らかな音質で、乾いたデジタル臭さは感じられない。特に女性ボーカルの表現が良いと感じた。低音もパンチのある音で、楽器音も美しく再現されている。
「M33 R2R」はAndroidベースのハイエンドDAPだ。ハイエンドながらスリムで持ちやすいのも特徴だ。音質はやはり温かみがあるアナログ的なサウンドである。
他方で囁くような女性ボーカルでは掠れていく細かさもよく再現されていて、DACの解像力という点でもかなり優秀だ。そのため女性ジャズボーカルでは艶やかでかつ生々しさが楽しめる。
M33 R2Rでは、DSD再生も試してみたが、DSDらしい音の滑らかさが感じとれ、FIIO独自のラダー抵抗回路をフィルターとして用いる独自機能の効果も感じ取れた。
総じていうと、三機種に共通するFIIO R2R DAC製品の音の特徴としては、“温かみがあって滑らか、かつ十分にクリアで解像力などの音質性能も高い”と言える。温かみと音質性能はバランスが取れていて、温かいが細部が潰れてしまうような音ではない。
M33 R2Rではかなり高い解像力の高さも感じられた。この効果として声や楽器の表情に温もりを加えることができる。特にヴォーカルに冷たさがなく、声の個性を感じさせるサウンドが堪能できた。
また、192個もの抵抗を搭載してフルバランスでの音質性能も高く、DSDも「ネイティブ再生」できている点から考えると、FIIOのR2Rへの取り組み、そしてアナログ的な音への挑戦は成功しているというべきだろう。
「ぼくらのR2R DAC」を作る、FIIOの挑戦
今回のR2R DAC製品の取材を通して、FIIOが大事にしているユーザーに寄った視点、質実剛健さ、そして独創性のある開発姿勢を再確認できた。
さらに将来の展開にも期待が高まる。真空管との組み合わせはR2R DACの特性をさらに活かせるだろうし、スティック型DACに内蔵されればスマホと一緒に気軽に持ち出せる。
R2R DACは単なる懐古的技術ではなく、PCMに強いのでストリーミング時代にこそ輝く技術ということを再認識させてくれる。FIIOのR2R DACへの挑戦はまだ始まったばかりだ。
R2R DACは日本のオーディオ界隈から見ると、どこかアナログサウンド回帰的で、かつて来た道のようにも思える。しかし中国ではオーディオ業界自体が新興の産業であり、かつてのアナログ全盛時代やオーディオ黄金期を通過していない。つまりR2R DACという技術は魅力的な新しい挑戦のように見えるのではないだろうか。
FIIOのR2R DAC製品は、“R2R搭載製品は高価なもの、DSDは不得意で当たり前”という固定観念にとらわれることなく、自由な発想から生まれたように見える。そして、この「魅力的な新しい挑戦」という視点は日本のデジタルネイティブの若いユーザーにとっても同じだろう。
コスパが良く斬新なFIIOのR2R DAC製品は、まさに今の時代の「ぼくらのR2R DAC」と呼べる存在ではないだろうか。














