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ポケットに入る“オーディオの醍醐味”、驚異のクアッド真空管DAP、Astell&Kern「A&ultima SP4000T」の魅力

Astell&Kernの「A&ultima SP4000T」

趣味性の高さを競うように進化したDAP

一昔前のDAPは、搭載するDACチップが最新かどうか、多彩なイヤフォン出力端子を備えているかどうか、搭載するアンプのパワフルさなどで競い合ってきた。だが、そうしたスペック面の進化が、特にハイエンドモデルでは一息ついた感がある。

では、どのDAPを選んでも大差がないのか? というと、そうではない。むしろ、ここから各社の思想、こだわりがにじみ出て、面白くなる。それを象徴するのが、長年DAP市場を牽引してきたAstell&Kernの「A&ultima SP4000T」(627,000円)だ。

「A&ultima SP4000T」

最初にSP4000Tの資料を見た時は、「これはまた趣味に走ったDAPだ」とニヤニヤしてしまった。

特徴を抜粋すると、ハイエンドDAPの1つとして、AKMの最新フラッグシップDAC「AK4499EX」と、専用プロセッサー「AK4191EQ」を左右チャンネル用に2基搭載する、非常にリッチな仕様。

そこに、業界初となるMIL(ミリタリー)スペック準拠のビンテージ真空管「Raytheon JAN6418」を、左右チャンネルそれぞれに2基、合計4基も搭載。さらに、真空管の動作モードを3つから選べ、プレート電圧も3段階で調整できる。

オペアンプも内蔵しているため、「真空管の音」と「オペアンプの音」を切り替えられる。さらに、その2つを好きな配分で“混ぜる”ことすらできる。これらを組み合わせると、なんと最大54通りの組み合わせがあるという。

オーディオファンの中には、「最新のアンプが欲しい」「真空管の音も楽しみたい」と、気がついたら部屋がアンプだらけになっていた……なんて人もいるが、そんな“趣味の極み”のような楽しさを、ポケットに入るDAP 1台で味わえるのが、A&ultima SP4000Tというわけだ。

SP4000Tの特徴

最大の特徴であるビンテージ真空管「RAYTHEON JAN6418」は、筐体の裏側にある“窓”から見ることができる。2基の真空管が横に並んでいるのだが、この他にもう2基が筐体の中に隠れている。

SP4000Tの背面から見えるビンテージ真空管「RAYTHEON JAN6418」
真空管をマクロレンズで撮影したところ。横向きに2基の真空管が配置されているのが見える
SP4000Tの内部。左上に、モジュール化した真空管のユニットが2つ配置されているのがわかる

4基も搭載しているのは、左右チャンネルそれぞれにデュアルの真空管を使っているため。これは、ピュアオーディオのハイエンド真空管アンプで採用される仕様だが、それをポータブルオーディオプレーヤーで再現してしまったわけだ。もちろん、真空管クアッド構成のDAPは業界初だ。

これらの真空管は、独立して動作するのではなく、各ペアが鏡面対称に向かい合う「ディファレンシャル(差動)構成」になっている。これにより、音楽信号は2倍の明瞭さで増幅しつつ、コモンモードノイズは打ち消し合うようになっている。

だが、これを実現するためには、真空管のノイズとゲイン特性を精密に測定し、特性が揃ったものをペアに組み合わせなければならない。手間と時間がかかる部分だ。

さらに、手に持って移動するDAPの場合、外部の振動によって真空管から発生するマイクロフォニックノイズも抑制しなければならない。しかも増えた真空管全部に対してだ。

モジュール化した真空管ユニットの構成図。真空管に振動を伝えないためのダンパーなどが施されている

SP4000Tでは、振動の影響を受けないように、メイン基板から独立・隔離したモジュール式のフレキシブル基板の上に真空管を配置。さらに、真空管への衝撃を吸収するシリコンベースのクッションを配置しているほか、真空管を包み込み、先端部分でフローティングさせるダンパーも用意。そして、真空管全体を覆うように、銅製のシールド缶を配置し、微細なノイズも抑制。

さらに、リード線を伝わってくる衝撃への対策として、リード線にカスタムしたシリコンチューブをかぶせている。中身を見ると、「よくこんな小さな空間で、これだけの対策を詰め込めるものだ」と感心する。

この真空管を通したサウンドが楽しめるわけだが、以下がSP4000Tのオーディオブロック図だ。

図を見ると分かるように、最終的なヘッドフォン/イヤフォンの駆動はオペアンプで行なっているが、その前段階の電圧増幅部分・倍音生成で真空管を使うか、それとも全てオペアンプで処理するかというのが、選べるようになっている。ポータブルDAPにおいて、真空管だけでヘッドフォンを駆動するのはバッテリー消費や発熱の点で現実的ではいので、合理的な設計と言える。

SP4000Tのオーディオブロック図

また、真空管を通す再生において、SP4000Tでは業界で初めて「トリプルTUBE モード」を備えている。これは、接続方法の違いのようなもので、詳しくは割愛するが、以下の3つのモードから選択できる。

  • 真空管特有の豊かな倍音を最大限に引き出す【三極管(Triode)】
  • 三極管の音色と五極管の出力を融合させた【ウルトラリニア(Ultra Linear)】
  • 真空管アンプの出力とダイナミックレンジを最大化する【五極管(Pentode)】
Tube Modeという欄に書かれているいのが、「トリプルTUBE モード」の選択部分

それぞれのモードで、音がどのように違うかは、後ほど聴き比べてみよう。

そして、SP4000Tは、従来のDAPと同じようなオペアンプモードも備えている。解像度の高さや、クリアさ、ダイナミクスなどを追求したサウンドも、1つのDAPで楽しめるわけだ。

さらに、SP4000と同様に、従来機の2倍のオペアンプを、水平に並列配置することで、電流を大幅に増加させ、豊かで緻密なサウンドにするという「High Driving Mode」というのも備えている。これも聴き比べてみよう。

High Driving Modeのイメージ図

DACも豪華だ。

SP4000Tは、旭化成エレクトロニクスのプレミアムデジタルDACである「AK4191EQ」を2基、デジタル信号処理用チップ「AK4499EX」を2基搭載している。

普通、DAPに搭載しているDACは1つのチップだが、このプレミアムDACは「AK4191EQ + AK4499EX」という2つのチップで構成されており、この組み合わせで使うことを前提として作られている。

詳細は以下の、SP4000のレビュー記事を見ていただきたい。ザックリ説明すると、一般的なDACチップは、1つのチップで音声信号を処理する中で、“デジタル信号とアナログ信号が共存している状態”がある。この状態がある事で、アナログ信号が劣化する。

そこで、共存が起こらないように、物理的にチップを2つに分けた。1チップの内で行なって工程から、前半の「入力されたデジタル信号にデジタルフィルターと⊿Σモジュレーターを通す」を「AK4191EQ」が担当。後工程を、マルチビットデータのインターフェイスとDAコンバーターだけを内蔵した「AK4499EX」が担当。音の劣化を防いでいるわけだ。

右上が一般的なDACチップの内部。右下が「AK4191EQ + AK4499EX」。処理工程がデジタルか、アナログかという区分けで、別のチップに分離しているのがわかる

真空管を搭載していないSP4000も、SP4000Tと同じAK4191EQ + AK4499EXを搭載しているのだが、構成がより究極的だ。具体的には、SP4000Tが「AK4191EQ×2、AK4499EX×2」であるのに対し、SP4000は「AK4191EQ×4基、AK4499EX×4基」と、左右チャンネルそれぞれのプラスとマイナス信号を、個別のDACで処理する“クアッドDAC”となる。

SP4000Tは、そこまでの仕様ではない代わりに、真空管をクアッド構成で搭載している。SP4000とSP4000Tは、どちらもハイエンドDAPだが、追求する方向性に違いがあるわけだ。

オペアンプの音から聴く。魅惑のHigh Driving Mode

qdcのカスタムIEM「Hybrid Folk-C」

真空管のサウンドとトリプルアンプシステムが気になるところだが、その前にオペアンプの音から聴いていこう。使用したイヤフォンは、qdcのカスタムIEM「Hybrid Folk-C」、ヘッドフォンはフォステクスの平面駆動型「RPKIT50」を使った(どちらも4.4mmバランス接続)。

ヘッドフォン出力は、3.5mmのアンバランスと、4.4mmバランスを備えている
オペアンプモードを選択

オペアンプモードの音は、まさに“最新ハイエンドDAPの音”という印象。前述の通り、AKMの最新フラッグシップDAC「AK4499EX」×2基、左右のチャンネルそれぞれに専用のプロセッサー「AK4191EQ」を配置するという、リッチなディスクリート回路によるSN比の良さがそのまま出ている。

「グレゴリー・ポーター/ホエン・ラブ・ワズ・キング」を再生すると、静かな空間にスッとピアノやボーカルが立ち上がる様子が鮮烈。静かな空間がしっかりと静かであり、そこから音がトランジェント良く、鋭く、ズバッと出現する。歌い出しにスッと息を吸い込む小さな音まで描写される。ドラムのブラシが、スネアの表面を擦る「ザーッ」という音も、粒が細かく、“細かな音が集まっている”のがよく分かる。

デジタル信号パスとアナログ信号パスを物理的に分離したことによるノイズの少なさ、音場の広さ、情報量の多さをそのまま味わっている印象。同時に、ユニットをキッチリ動かして、そうした微細な情報を鳴らすヘッドフォンアンプの駆動力の高さも感じる音だ。

通常状態でも素晴らしい音だが、「High Driving Mode」をONにすると音がさらに進化する。

SN比がさらに良くなり、ボーカルの声が響き渡る空間が広くなる。それに加え、音の1つ1つがより力強く、パワーがみなぎる。「米津玄師/KICK BACK」のような激しい曲でON/OFFすると、効果は歴然。音楽の下地を支えているエレキベースの吠えるような低音のラインが、ONにすると、より重く、深く、鋭くなる。これは最高に気持ちが良い。

イコライザーで低音を持ち上げたような変化ではなく、全体のバランスの良さや、低音のタイトさは変化しない。低音の力強さだけアップするような変化だ。そのため、低音が過多にはならず、解像度が低下したりもしない。Hi-Fiな情報量の多い音を維持したまま、迫力だけが増す変化だ。ONにするとバッテリー駆動時間は少し短くなってしまうが、一度聴いてしまうと、OFFの音に戻りたくなくなる。据え置きのピュアオーディオにおいて、アンプのグレードをワンランク上げたような違いが楽しめるのがHigh Driving Modeだ。

真空管の音楽しむ

オペアンプだけでも十分な実力を持つDAPだとわかるが、お楽しみはここから。真空管の音も聴いてみよう。

設定画面から「アンプ」の項目へ移動すると、「OP(オペ)アンプモード」「TUBEアンプモード」、「HYBRIDアンプモード」が選択できる。ここから「TUBEアンプ」を選べば、前述のクアッド構成・リアル真空管を通した音が楽しめるわけだ。

TUBEアンプモードを選択

TUBEアンプモード自体にいろいろモードがあるのだが、まずは「三極管(Triode)/プレート電圧:Mid」という設定を選び、前述のオペアンプモードと聴き比べてみた。

「手嶌葵/明日への手紙」を聴きながら、オペアンプから三極管モードにしてみたが、これが結構変わる。

オペアンプモードでは、静かで広大な空間が広がり、そこに、ピアノやボーカルの音がシャープかつクリアに響いていく。音色としてはクール寄り。手嶌葵の歌声も神秘的で、人間というよりも、天使が歌っているような印象だ。

だが、三極管モードにすると、オペアンプよりも空間が少し狭くなり、ボーカルと楽器の音像の距離がちょっと近くなり、密度感がアップ。ボーカルがグッと前に出て、高音と低音のコントラストが増す。メリハリの効いた、熱い音になる。

オペアンプで聴くと、音像の輪郭はシャーペンのような細い線でキリッと描かれていたが、三極管モードでは輪郭線がフワッと柔らかくなり、輪郭自体を意識させない音になる。オペアンプではクール寄りだった音色は、暖色寄りになり、中低域の響が増え、音にフワッとした膨らみが付帯する。

キツい擦過音は消え、声の温もりや、中低域の芳醇な膨らみを感じるようになる。うっとりと身を任せたい、美音になるともいえる。「これから一週間がんばるぞ!」と気分を上げたい時にマッチするのはオペアンプの音で、「疲れた金曜の夜に酒を飲みながら聴きたい音」なのは三極管モードという印象。前述の通り、三極管モードは「真空管特有の豊かな倍音を最大限に引き出すモード」とのことだが、まさにその通りという鳴り方だ。

これは面白い。ほかの真空管モードも聴いてみよう。

三極管モード、五極管モード、ウルトラリニアが選択できる

「五極管(Pentode)」モード(プレート電圧:Mid)に切り替えると、三極管モードで前に出ていた手嶌葵のボーカルが、さらにグッとせり出し、税対的によりパワフルな音になる。

面白いのは、1つ1つの音の勢いは増すのだが、輪郭の柔らかさは三極管モードと大きな違いはない。迫力が増しても、オペアンプのような「ゴリゴリでソリッドな音」にはならず、「フワッと柔らかさがありつつ熱い音」になる。DAPの基本的な情報量の多さ、アンプの駆動力の高さも維持されているので、不明瞭でモワモワした音にはならないのも良い。

先ほどの三極管モードを“豊かな響きの美音”とするなら、五極管モードは“濃くて熱い音”という印象。先ほど、オペアンプの試聴でHigh Driving ModeのON/OFFを試したが、三極管→五極管モードの音の変化が、それとちょっと似ている。

五極管モードは聴いていてとにかく気持ちが良いので、いろいろな曲を再生したのだが、「プリンス/レインボー・チルドレン」のように、もとから低音がパワフルな曲を再生すると、五極管モードはちょっと「やりすぎ」な印象になる。ベースの音が野太くなり、気持ちは良いのだが、ちょっと胃もたれしそうな音だ。

そんな時に最高なのが、「ウルトラリニア(Ultra Linear)」モード(プレート電圧:Mid)だ。切り替えてみると、まさに“三極管のウォームでナチュラルな音色”と“五極管のパワフルさ”といった特徴を、持ち寄ったような音になる。「ベースの迫力、ボーカルがグッと前に出る熱さ」がありつつ、それが主張し過ぎず、ホッとするナチュラルさも備えている。

なお、真空管使用時は、上記の3モードそれぞれで、プレート電圧を3段階から調整できる。

プレート(陽極)というのは真空管の中にあるパーツの名前で、カソード(陰極)から飛び出したマイナスの電子を引き付ける役割をしている。そこに電圧をかけると、カソードからプレートへ電子が流れるのだが、それをコントロールして増幅率を変化させる。A&ultima SP4000Tでは、それが「High」、「Mid」、「Low」の3段階から選べるわけだ。

選択を変えていくと、激変というほどの変化ではないが、確かに音の質感が変わる。傾向としてはHighの方がクリアでワイドレンジ、Lowの方が凝縮されて真空管のキャラクターが濃くなる印象だ。組み合わせが大量なので悩ましいが、まず「三極管」、「五極管」、「ウルトラリニア」から好きなモードを選び、あとは、微調整という感じでプレート電圧を選ぶと良さそうだ。

アンプモードの切り替えは、クイックメニューからも行なえる

ワガママなオーディファンの要望を全て叶える

真空管が特徴のDAPなので、真空管の音を楽しみたいと思う人が大半だろう。筆者も同じで、3つの真空管モードを切り替えながら、「こりゃ旨味が濃くて最高だ」と、女性ボーカルやヴァイオリンなどを、かなり長い間、うっとり聴き込んでいた。オペアンプモードの存在が頭から消えるくらいに。

しかし、先ほどの「プリンス/レインボー・チルドレン」や「米津玄師/KICK BACK」のような、激しめの楽曲や、最新の楽曲を聴いていると、「これって、オペアンプモードの方がマッチするのでは?」と気になってくる。

そしてオペアンプモードに戻ると、広大な音場に、ビシッとシャープに、精密に描写される気持ちよさに感動。「オペアンプの鮮烈な音はやっぱり最高だ」と思うようになる。

モントリオール交響楽団による「死の舞踏~魔物たちの真夜中のパーティ」から「サン=サーンス:死の舞踏 作品40」を聴くと、観客の小さな咳払いの反響でホールの広大さがわかり、オーケストラの演奏が始まると、シャープな音像がズラッと並ぶ。こうした楽曲も、オペアンプモードが得意とするところだ。

しかし、オペアンプにマッチする曲をあれこれ聴いていると、次第に、「真空管のホッとする音で、女性ボーカルが聴きたいな」とか「古いジャズをまったり流したいな」という気分になり、またモードを切り替え……という流れを、無限ループのように繰り返すようになる。

そんなオーディオファンの移り気な要望に終止符を打つ(?)機能として、「トリプルアンプシステム」がある。

これは、真空管の音とオペアンプの音を“いいとこ取り”するような機能で、アンプモードから「OPアンプ」や「TUBEアンプ」ではなく、「HYBRIDアンプ」を選ぶと、オペアンプと真空管アンプの特徴を融合できる。さらに、この“融合度合い”は、5段階から調整可能だ。

「HYBRIDアンプ」を選ぶと、オペアンプと真空管アンプの特徴を融合できる。モード下部の数値で、融合具合もカスタム可能

実際にこのHYBRIDアンプモードを使うと、オペアンプの時に良いと感じた音場の広さを残しつ、三極管モードでうっとりしたボーカルのウォームな描写も取り入れる……といった事が可能になる。調整機能を使えば、融合させた上で、ちょっとオペアンプ寄りの音に……と、カスタマイズできてしまう。

聴く曲にもよるが、例えば、個人的にいじった結果、「五極管モードで、数値は少しオペアンプ寄りの“2”」にすると、一番好みの音になった。理想の設定を探すのも、非常に面白い。

とはいえ、「HYBRIDアンプモード」があれば、他のモードは使わなくなるのか?というと、そうでもない。HYBRIDでしばらく聴いていると、「色気がもっと欲しい、TUBEモードだ」とか「クリアにズバッとした音が聴きたい!オペアンプだ」と、他のモードに浮気したくなる。

据え置きのオーディファンは、機器を繋ぎ変えたり、ケーブルを変えたり、セッティングを変えたりしながら自分の理想の音を追求するものだが、SP4000Tは、ディスプレイをタップするだけで、自在に要素を組み合わせ、理想の音を追求できる。ワガママなオーディファンの要望を全て叶える、懐の深いDAPだ。

SP4000T筐体には、導電性と耐食性に優れたStainless Steel 316Lが使われている

使っていて楽しいDAP、A&ultima SP4000T

聴く曲や気分によって、真空管の3モードやオペアンプモードを切り替えられるのが魅力だが、しばらく使っていると、組み合わせるイヤフォンやヘッドフォンでも最適解が変わってきそうだと感じた。

例えば、密閉されるカスタムIEMで、真空管の「五極管モード」を聴いて、「ちょっと空間が狭くて、音がこってりし過ぎているな」と感じたとする。しかし、同じ設定で、セミオープンで平面駆動型のヘッドフォン「RPKIT50」で聴くと、空間の狭さはあまり気にならず、ヘッドフォン自体の音がシャープでクールなため、五極管の“こってり感”が少し抑えられ、“シャープさがありながら、味わい深い音”になる曲もあった。

このように、SP4000Tは“メチャクチャ音が良い”と同時に、理想の音を追求する事自体に熱中してしまう、ちょっと試聴するだけのつもりが、真空管モードの音の違い、オペアンプとの融合具合などを選んでいるうちに、数時間経過している……なんてこともある。とにかく“使って楽しいDAP”であり、それこそが、SP4000Tの魅力と言える。

同時に、「自分がどんな音を求めているのか」「気持ち良いと感じるのか」という、内なる欲求と向き合い、それを追求するキッカケになるDAPでもある。ポータブルオーディオプレーヤーという小さな筐体の中で、見事に“オーディオ趣味の醍醐味”を体現してみせた。オーディオファン必聴の1台だ。

付属のケースはイタリアの名門タナリー、バダラッシ・カルロの『ミネルバ(MINERVA)』レザーを採用。ケースに入れた状態で、背面の真空管のLEDが見えるようになっている
山崎健太郎