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独自バランス回路のRME「ADI-2 Pro」。創始者がヘッドフォン再生に注ぐ想いを語る

 シンタックスジャパンは、DSD対応USBオーディオインターフェイス「ADI-2 Pro」や、「MADIface Pro」、「Fireface UFX+」など、4月に行なわれた「musikmesse 2016」で独RMEが披露した4製品の発表会を開催した。

DSD対応USBオーディオインターフェイス「ADI-2 Pro」

 RMEの共同創始者で、製品開発のトップであるマティアス・カーステンズ氏と、プロダクトマネージャーのマックス・ホルトマン氏が来日。ヘッドフォンに強いこだわりを持つカーステンズ氏が、「ADI-2 Pro」のオーディオ向けの特徴や使い方などを詳細に渡って解説した。

共同創始者で、製品開発トップのマティアス・カーステンズ氏
「MADIface Pro」を持つプロダクトマネージャーのマックス・ホルトマン氏

DSD再生やヘッドフォンバランス接続など、オーディオ向け機能が充実

 今回披露されたのは、PCM 768kHzとDSD 11.2MHzの録音/再生に対応したUSB 2.0オーディオインターフェイス「ADI-2 Pro」や、小型筐体に64ch対応のMADIインターフェイスを持つ「MADIface Pro」、1Uラック型でThunderbolt/USB 3.0/MADI対応のフラッグシップインターフェイス「Fireface UFX+」、機能を自由にアサインできるコントローラの「ARC USB」。日本での発売日は今後発表されるが、いずれも8~9月に順次発売される見込み。

musikmesse 2016で初披露された新製品。一番右が「MADIface Pro」、その左が「ARC USB」。奥が「Fireface UFX+」(下)と「ADI-2 Pro」(上)

 中でも特に注目は「ADI-2 Pro」。初のDSD 11.2MHz対応という音楽制作向け機材ながら、ヘッドフォンのバランス接続が可能なほか、スピーカーで聴いているように再生するという「バイノーラル・クロスフィード」機能など、オーディオリスニングのユーザーを強く意識した製品に仕上がっている。

 今回の発表会では、RMEのカーステンズ氏が、ヘッドフォン向け機能でこだわったポイントや、RMEの特徴の一つであるFPGA(プログラマブルなIC)をコアに搭載していることによるメリットなどを紹介した。

 ADI-2 Proは、同社の「Fireface UC」や「Fireface UCX」と同じハーフラックサイズで、2ch ADAT、光デジタルやAES/EBUなどを備えた「ADI-2」の基本仕様を継承しているが、「現代の最高水準のパーツを使い、全ての回路を見直した」という。最大768kHzのPCMや、DSD 11.2MHzの再生や録音にも新たに対応。価格は未定だが、20万円以下の見込み。なお、オーディオインターフェイスとしてのADI-2 Proの機能は、5月30日に掲載した「藤本健のDigital Audio Laboratory」で掲載している。

ADI-2 Pro

 ADCのチップには、AKM(旭化成エレクトロニクス)の「AK5574」を使用し、4チャンネル仕様のコンバータをデュアル・モノで使い、2chのアナログ入力で3dBのノイズ軽減を実現したという。DACもAKM製で、「AK4490」を2系統のステレオ出力に1基ずつ搭載する。オペアンプはTI製で、ヘッドフォン用に「OPA1602」、それ以外には「OPA1688」を搭載する。コンデンサはニチコンのオーディオ向け「MUSE」を採用。

内部基板
DAC/ADCチップなど

 ヘッドフォン出力は前面に標準ジャックを2系統装備。「メインのアナログ入出力以上にこだわった」としており、出力インピーダンス0.1Ω、最大出力レベル+22dBu、最大出力は2.2W×2ch。メイン/ヘッドフォン出力ともにSN比は120dBで“事実上ノイズフリー”としている。また、バランス対応ヘッドフォンのケーブルを2つの端子に接続するとバランス出力に自動で切り替える機能を備える。設定の切り替えによって、2つのヘッドフォンで異なるソースを聴くことも可能。

 DSDはネイティブ再生可能。「ダイレクトDSD再生機能」をONにするとDoP(DSD over PCM)に切り替わる。ただし、ON時はボリューム調整は行なえない。

 「バイノーラル・クロスフィード」機能を搭載。ヘッドフォンで聴いている時に、R側のヘッドフォンにLチャンネルの音声を、L側にもRチャンネルの音声をわずかにミックスすることで、スピーカーで聴くときのような定位で楽しめるという。

 また、出力が高いという特徴に合わせて、ヘッドフォンや鼓膜を保護するための機能も用意。ヘッドフォンを接続するとリレー回路が働き、ボリュームがミュート状態から3秒かけて当初設定されたボリュームに上がっていく方式となっている。ヘッドフォン接続時は背面のXLR出力が自動でミュートされる。

オーディオインターフェイスながら、ヘッドフォン向けの機能を充実

 「オーディオファイルに納得いただける機能を実現するため」として10層構成のPCB基板に集約。内部アナログ回路は、DAC/ADCともに全てバランス仕様で、FPGAを活かし、カーステンズ氏が考案したという新たなバランス回路を採用。

基板上の構成
10層のPCB基板を採用
「他社のUSB DACよりも省スペース」という点をアピール

 一般的なヘッドフォンのバランス回路では、DA変換やゲインアンプ後のアナログ領域でフェイズインバータで位相反転を行なっているのに対し、ADI-2 ProではDAC入力前のデジタル領域で位相反転を行なう。これにより「ロスレスで位相反転でき、正確なDAコンバートが行なえる」とアピールしている。

一般的なバランス回路(左)との比較として挙げた図。なお、図の右下の「L+」、「L-」は誤りで、正しくは「R+」、「R-」
モード別の出力のグラフ。出力の高いハイパワーモードを用意
高調波歪み+ノイズの他社製品との比較(32Ωのヘッドフォン利用時)

 ヘッドフォン向けに細かな音質調整機能も装備。前面ノブでのBASS/TREBLEのほか、55バンドのパラメトリックイコライザ、DA変換時のフィルタ(シャープ~スロー)などが利用できる。

前面ディスプレイでの表示例。詳細な設定が行なえる
現時点で、DSD 11.2MHz録音が可能なソフトとしては、アナログレコード録音用の「VINYLSTUDIO」があるという
768kHz PCM録音には、RMEのソフトが近日対応予定

Babyface ProにMADI搭載の「MADIface Pro」

 「MADIface Pro」は、Babyfaceシリーズと同様のコンパクトな筐体に、デジタル64ch入出力が可能なMADI端子を備えた、192kHz/24bit対応USBオーディオインターフェイス。トータルの入出力数は最大68chだが、伝送するサンプリング周波数により異なる。日本での価格は未定で、ドイツでは約1,199ユーロで販売される。

MADIface Pro

 既存のBabyface Proに備えているADAT端子をMADI端子に変えたのが大きな変更点。MADI(Multichannel Audio Digital Interface)は、AES/EBU信号を64ch分まとめて入出力できる規格で、光デジタルまたはBNCケーブル1本で長距離伝送できるのが特徴。光デジタルケーブルを使うと軽量/コンパクトで、信号の劣化が無く最長2,000mに対応可能としている。

 アナログ部のスペックはBabyface Proと同等。ヘッドフォン端子は2系統備え、イヤモニターなどを接続することを想定したステレオミニ端子はインピーダンスが2Ω、標準端子は10Ωで、幅広いヘッドフォン/イヤフォンを利用可能にしている。

Thunderbolt装備の最上位機「Fireface UFX+」

 「Fireface UFX+」は、従来のFireface UFXにMADI端子を備えたモデル。日本での価格は35万円前後を見込んでいる。なお、従来モデルも併売する。

Fireface UFX+

 ThunderboltとUSB 3.0を搭載。最新のインターフェイスを採用する理由については、同社のこれまでの主張通り「レイテンシーを下げるためでは無く、入出力数を確保するため。レイテンシーはUSB 2.0で十分」というスタンスをとっている。

 USBメモリやHDDを接続して、PCレスで最大60chのダイレクト録音ができる「DURec」も引き続き搭載。UFX+からの新機能として、DURecの録音時にタイムスタンプも付加できるようになったため、映像との組み合わせなどに活用できる。

 前面のUSB端子に、コントローラの「ARC USB」を接続して操作できるのも特徴。このARC USBに市販のフットスイッチを接続する端子も備え、パンチイン/アウトなどを足で操作できる。なお、ARC USBは従来モデルのFireface UFXには非対応。

ARC USB

RME 20周年。創業者が「欲しかったヘッドフォンアンプ」を製品に

 RMEは1996年に創業し、20周年を迎えた。大規模な施設などに設置する「Premium Line」と、音楽制作向けの「Pro Line」を展開し、信頼性の高いブランドとして知られるようになった理由について、前述の共同創始者マティアス・カーステンズ氏は、古い製品のドライバも開発し続けるといった「安定性」や、Windows/Macの環境を問わず使える「互換性」などを挙げる。品質を維持する要因としては「開発陣には自由な気質があり、上層部からの命令で作るのではなく、作りたいものを作れる環境になっている。今後もこの姿勢は変わらない」としている。

共同創始者マティアス・カーステンズ氏

 以前の来日時にも秋葉原のe☆イヤホンでヘッドフォンを購入したという長年のヘッドフォン好きだという。今回のADI-2 Proでレコーディング機能だけでなくリスニング向けの機能を強化した理由について「正しくヘッドフォンを鳴らせるアンプが欲しくて、30~40台のヘッドフォンを測定器で調べたが、カタログとの乖離があった。それで『自分で作るしかない』と思ったのが一番の動機」とする。今回バランス出力対応としたことについても、自身が対応ヘッドフォンを持っていることが理由の一つだという。

 基板についても、USB部がメイン省スペースで収まったのはドライバを自社で開発しているという点にある点などをアピール。スペックとしては、SN比が124dB、高調波歪み0.00003%、周波数特性0Hz~120kHzという高い数値を紹介。カーステンズ氏は「これは“カタログ値”ではありません。実際に測定してみてください」と自信を見せた。

RMEは創業20周年を迎えた
現在の製品ラインナップ