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「シャープはいつまでもシャープ」。株主総会で鴻海傘下入り承認

 シャープは、2016年6月23日午前9時30分から、大阪市西区のオリックス劇場において、第122期定時株主総会を開催した。会場には1,029人(前年は1,212人)の株主が参加。延べ19人(一人が重複)が質問。役員を経験したシャープOB株主をはじめ、仙台や広島などの遠方から訪れた株主など質問した。鴻海精密工業による出資に関しての経緯や、それに伴うシャープの考え方などに関する質問が相次いでいた。

高橋興三社長ら経営陣が株主に陳謝

 議長を務めた高橋興三社長は、開会宣言のあと、役員一同を起立させ、「当事業年度において、当期純損益が2,559億円の赤字という大変厳しい状況になり、また4期連続で無配となり、株主には迷惑をかけた。深くお詫び申し上げる」と陳謝。「早期に、株主に報いられるように、鴻海精密工業などに対する第三者割当増資の承認を得た後に、鴻海との戦略的提携のもと、再生と成長に向けた取り組みを加速させていく」と述べた。

会場のオリックス劇場

鴻海傘下で早期の経営再建を目指す

 監査報告、事業報告などを行なったあとに、高橋社長は対処すべき課題について説明した。

高橋興三社長

 「最終赤字とともに、連結決算で債務超過になるに至り、東証一部から二部への指定替えとなり、株主には申し訳なく、改めて深くお詫び申し上げる。設備等への投資が欠かせない状況が続いており、財務内容がさらに悪化することが考えられた。このような状況を打開し、再生と成長に向けて投資を行ない、財務体質を改善するために、鴻海精密工業をはじめとする4社に第三者割当を実施し、資金を調達することとした。鴻海精密工業は液晶事業において、当社と相互補完関係があり、事業をともに進めることで、当社事業の競争力強化が見込める。他の事業においても、鴻海精密工業が持つ世界トップクラスの製造技術の活用により、生産性やコスト競争力の強化が期待できる。提携によって生まれる相乗効果は大きく、当社の再建のために欠かせないものだと考えている。私は、鴻海精密工業などによる払込後、それを見届けて退任する。そののちは、鴻海の戴正呉副総裁が社長を務めることになり、当社出身の野村勝明が副社長として支える。戴副総裁は、日本語が話せ、鴻海において、多くの日本企業の取引を成功に導いてきた日本通である。野村副社長は、堺ディスプレイプロダクツにおいて、過去4年に渡り、会長を務めてきた。この2人を中心に、経営陣、従業員が一体となり、シャープは大きな変革を成し遂げ、早期の黒字化、早期の経営再建を果たせると考えている」と語った。

第三者割当の経緯
シャープと鴻海の戦略的提携

 続いて、鴻海精密工業との戦略的提携については、野村勝明副社長が説明。「鴻海との戦略的提携によって再建を確かなものとするために全力で準備を進めている。競争法の許認可を得次第、速やかに出資が実行されることになっている。その後は、戦略的提携をテコに、シャープが再び自らの足でしっかりと立ち、熾烈なグローバル競争に打ち勝つ強さを一刻も早く取り戻すことが大切である。そのためには、ディスプレイデバイス事業の抜本的な強化が大きな柱となる。世界初の液晶電卓の開発から、IGZO液晶や有機ELディスプレイまで、長年に渡るディスプレイ技術の蓄積がある。鴻海にはそれを全世界に向けて一気に展開できるスケールとスピードがある。両社の提携により、グローバル競争を勝ち抜いていく。また、コンシューマエレクトロニクス(家電事業)においても、変革に向けた布石を着々と打っている。ヘルシオお茶プレッソやヘルシオホットクック、蚊取空清など、目のつけどころがシャープな製品は、鴻海が持つ巨大な生産力や調達力を生かすことで大幅な伸びが期待できる。これからの世界はクラウドにつながったインテリジェントなエレクトロニクス製品を抜きにして語ることはできない。シャープは、こうした大きな市場を見据えて、人工知能やIoTをあわせたAIoTをビジョンとして掲げている。近年のロボティクス技術の急速な進展は、手塚治虫氏が描いた未来の世界が現実のものになっていることを予感する。これらの取り組みの象徴として、ロボホンを発売した。各方面から強い関心を得ている。エネルギーソリューション、ビジネスソリューション、電子デバイスといった領域においても、出資完了後の事業拡大に向けて、具体的な取り組みの検討を加速している」とした。

野村勝明副社長

 また、「鴻海は世界最大のEMSと表現されているが、その観点だけでは、新たな関係がもたらす本当のポテンシャルの凄みはわからない。中国で開催されたビッグデータ関連の展示会において、鴻海は最大規模のブースを設け、食品の安全などの様々なクラウドサービスの展示を行なっている。鴻海は最先端の技術に対して、積極的な投資や開発を進めており、その方向性は、シャープが進めてきた方向性と一致する。両社が培ってきた技術を融合することで、付加価値と利便性の高い新規製品を創出できる。シャープ・鴻海連合は互いの強みや特徴を相互補完できる環境にあり、これからのエレクトロニクス業界において高い競争力を発揮することができる。堺ディスプレイプロダクトにおける経験からそう確信している。新たな経営陣から従業員一人一人に至るまで、全員がシャープとしての誇りを持ち、他社に負けない技術をさらに磨き、もっとお客様や取引先、株主を大切にした事業活動を行なっていく」などとした。

鴻海のビッグデータ展示
新生シャープ

 会場からの質疑応答を前に、橋本仁宏取締役常務執行役員経営管理本部長は、事前に質問を得た事項について説明。鴻海精密工業と産業革新機構の両案を検討した結果、鴻海精密工業の案を受け入れた件について説明。「両方の案を慎重に検討した結果、成長投資資金の確保、財務体質の改善に加えて、提携によるシナジー効果の観点で、鴻海の支援を受けることがベストと判断した。交渉の詳細内容は、交渉相手があるため、了承していただきたい」とした。

橋本仁宏取締役常務執行役員経営管理本部長

株主から鴻海出資へ不安の声。有機ELは「LGを追う」

 会場からの質疑応答は、10時15分頃から始まった。

 質問では、鴻海精密工業からの出資が確実に完了するのかどうかといったことに対する株主の不安の声も相次いだ。

 鴻海精密工業との提携が決定したのちに、偶発債務があることを明らかにした結果、払込額が約1,000億円減少したことや、払込が実行されなかった際にも液晶ディスプレイ事業の売却条項が盛り込まれたことに関する質問については、橋本取締役常務執行役が回答し、「偶発債務の件については、出資をより確実なものにするために、総合的に勘案し、外部アドバイザーの意見を得て、その時の最善を尽くした」と説明。さらに、「交渉の経緯について説明できないが、確実に出資してもらいたいということを前提とした。経営状況、経営見通しの精査を重ねて、両社で真摯に協業してきた。その結果、88円の株価には合理性があり、また企業価値を高めることができると判断し、取締役会で契約内容の見直しに至った」と語った。

 また、液晶ディスプレイ事業の売却条項が盛り込まれた点については、「出資完了に向けて、両社で全力で取り組んでおり、このオプションが行使されることは想定していない」と橋本取締役常務執行役が断言。高橋社長は、「このオプションは、シャープが、この提携を辞めたいといった場合に発生する。鴻海に瑕疵があった場合には、このオプションは行使することができない。災害が発生し、生産設備に甚大な被害が発生し、シャープの事業を買うに値しないという場合などにも発生する。また、当局が止めに入った場合もこのオプションが発生することになるが、いま全額出資に向けて両社で話を進めている。各国の独占禁止法の審査を進めており、審査が終わっていないのはあと一国。もうすぐである」と述べた。

 高橋社長は、「2016年度第1四半期の決算内容によって、鴻海からの出資が無くなる懸念は持っていない」と語った。

 さらに、高橋社長は、「企業価値(デューデリジェンス)の確認は、産業革新企業が先行して行なっていた。最後の1週間で鴻海が追いついてきた。この内容を隠していたら出資自体がなくなる可能性があると判断した。産業革新機構が知っていることと同じ情報を提供する必要がある。その結果、鴻海に情報が提供するタイミングが遅れた」と説明した。

 鴻海とのシナジー効果については、「この株主総会で新経営陣を選んでいただき、そこからのスタートになる。その後、速やかに検討して、事業策定をしていくことになる」(野村副社長)とした。

 一部報道で、シャープ製品を3割の人が買いたくないという結果が出ていることについては、「これは残念なことである。だが、今週火曜日に出た、この土日までの結果を見る限りでは、相対的に実売に落ち込みがでている状況ではない。4Kテレビ、冷蔵庫もあがっている。3割が買わないというのであれば、7割は買ってもらえる」(高橋社長)とした。

 AIやIoT時代におけるシャープの差別化策については、長谷川祥典代表取締役専務執行役員が回答。「リアルの世界をやっていることが強み、これをバーチャルにつなげていくことに取り組んでいく。リアルの世界は、家電メーカーであるシャープがもっともよく知っている。リアルなものがあるからこそ、AI、インターネット戦略を打ち出すことができる。ソフトウェアは誰にでもつくれない。クラウドの世界のなかで、価値をユーザーに提供していく」とした。

コンシューマ・エレクトロニクス事業における提携

 一方、液晶ディスプレイ技術におけるジャパンディスプレイとの差に関する質問が飛び、桶谷大亥常務執行役員が回答。「これまでは、LTPS同士の戦いであり、それほど差がない。だが、IGZOを活用することで、額縁が小さい、消費電力といった点でも差が出るようになる。これは、LTPSとIGZOの融合によるものである。ジャパンディスプレイの工場は、第6世代であるが、シャープは、グループ全体では第10世代の生産工程を持ち、小さなものから、120型の大きなものまで対応できる」と発言。有機ELについては、「シャープには、量産ラインはないが、10数年に渡って基礎研究を行ない、それなりの特許を持っている。有機ELで駆動する基板は、TFT基板であり、LTPSとIGZOの組み合わせが生きることになる。また、鴻海との連携によって、商品の出口を確保できること、生産技術を活用でき、量産レベルの展開が可能になるという強みもある。早急に技術を確立して、先行するLG電子を追っていきたい」と語った。

ディスプレイデバイス事業における提携

 海外事業戦略においては、高橋社長が、「ここ数年、米国などの海外事業は撤退する方向であった。これは、資金がなかったためだ。出資が終わると海外戦略を加速させることができる」と説明。野村副社長は、「鴻鵠のグローバルの生産能力、調達、技術、顧客基盤を生かすことで、中国、アジアを中心に展開できる。だが、欧州、米国も縮小だが、グローバル企業として全方位の海外戦略を検討していきたい」とした。

 シニア向けの製品については、「私自身、3年間で7~8回、広島、郡山、塚口に出向いている。そうしたなかで、ロボホンのようなものを作り上げることができた。また、シャープOBの佐々木正氏からもアドバイスを得ている」とした。

 出演料が高い吉永小百合さんがシャープのテレビCMに起用し続けている理由はなぜかという株主からの質問があり、それに対して、「かつて吉永小百合さんを起用した、元社長の町田勝彦氏の影響がいまだにあるのではないかという指摘もあるが、それはない。吉永小百合さんは私より上の年齢層には絶大な人気がある。高齢者目線を忘れていないか、という指摘があったが、吉永さんが出演するCMは、高齢者の関心が強いところ。出演料が高額といわれるが、詳細はいえないものの、深くシャープのことを考えてもらっている」と回答した。

高橋社長退職金ゼロ。「シャープはいつまでもシャープ」

 さらに、シャープ元社長の片山幹雄氏が、日本電産に移籍したことをはじめ、多くのシャープ出身者が移籍していることについては、「就職や職業の自由は認められている。それを止めることはできない。誓約書として、得た知識や情報は、行った先では使わないことになっている。日本電産の事業を見ると、シャープと競合しているところはない。直接的な同業ではない。ただ、将来はどうなるかはわからない」と高橋社長が説明。

高橋社長が陳謝

 また、「私は3年前に社長になるという発表をした際に、経営理念、経営信条に立ち返ることに取り組んだ。また社内には、5つの蓄積という言葉があるが、それが実践できていたのかという反省がある。完璧であったとはいえない。これが実体である。3年間、その原点に立ち返る努力をしてきたが、世の中のスピードについていけなかったことが問題であった。改めてお詫びしたい」と語ったほか、「私には経営責任があり、鴻海に決まっても、産業革新機構に決まっても、退任することは決めていた。社長退任者が留まって助言をしてくれることはいいのだが、影響力が大きい。私は社長に就任する前にそれを実感していた。社長を辞めたら、顧問としても、相談役としても、残らないことを昨年決めていた」とした。

 現在、役員賞与はゼロになっていること、退職金もゼロになっていることも示した。

 片山元社長時代に、経営本部長だった野村副社長と、液晶事業本部長であった長谷川祥典氏が、取締役に就任することについては、片山元社長の暴走を止められなかった戦犯ではないかという指摘もあったが、「今回の人事は指名委員会、取締役会の総意によるもの。戦犯ではないかという指摘もあるが、社内の内容をよく知っている我々から見れば、その時々の立場があり、当時の2人は、その立場ではなかったと認識している」と語った。

 また、社外取締役候補に、パナソニック出身の中矢一也氏、ソニー出身の石田佳久氏が含まれていることについては、「シャープの判断として問題がない。当社では、社外役員の独立性判断基準を持っており、それに合致している」(橋本取締役)と述べた。

取締役10名の選任

 昨日、台湾で開催された鴻海精密工業の株主総会で、シャープにおいて、7,000人を解雇する計画に言及されていることについては、「人員は経営効率化の観点から絶えず見直しを行なうのが経営をするものとしての責務。最大の効果、黒字化に向けて、地域ごとの販売体制、生産体制など、5万人の社員のグローバルの適正化が必要だが、現時点で決まったものはない」とした。

 また、鴻海による出資時期については、「昨日の株主総会でも、郭台銘会長から、6月末までの払込を目指してがんばるという発言があった。最長で10月5日が期限であるが、そこまで延びるということではなく、一刻でも早く6月末を目指したい」と述べた。

 2016年3月18日に本社を売却。大阪市西田辺から、堺市への本社移転については、「財務上の問題、耐震上の問題のほか、自社所有物件の有効活用によるコスト削減、鴻海との効率的な業務推進体制という観点から、堺への移転を決定した。いい商品をきっちりと提供し、業績をあげていくことに力を入れたい」とした。

 シャープのブランド維持については、野村副社長は、「シャープの名前は残る。シャープはいつまでもシャープ、ということでがんばりたい」と発言。黒字化については、長谷川専務執行役員は、「できるだけ早期に黒字にしたい。いつというのはコミットできない。そのために取締役として残って尽力していく」とした。

定款一部変更

 定時株主総会では、本店所在地を大阪市から堺市に変更することなどを盛り込んだ第1号議案の定款一部変更の件のほか、鴻海精密工業に対して普通株式などを発行することにより資金を調達することなどを含めた第2号議案の第三者割当による募集株式(普通株式及びC種種類株式)発行の件、鴻海精密工業などによる払込まで高橋興三社長を続投し、払込後には戴正呉氏の社長就任を含む第3号議案の取締役10名選任の件に加え、第4号議案の会計監査人選任の件、第5号議案の取締役の報酬等の額の改定および内容決定の件、第6号議案のストックオプションとして新株予約権を発行する件については、すべて可決され、12時53分に閉会した。

 3時間23分は、過去最長となった昨年と同じだった。

 なお、午後3時30分からは、普通株主による種類株主総会が開催。鴻海精密工業など3社に対する普通株式およびC種種類株式発行による資金調達に関して定款を変更する議案が決議された。シャープでは、A種種類株式、B種種類株式を発行。鴻海にC種種類株式を発行するが、これにあわせて、普通株主向けに定時株主とは別に、種類株主総会を開催し、議案を決議する必要があるという。

 普通株主による種類株主総会では、議長を務めた高橋社長が議案の説明を行なったあと、株主からの質問を受けた。こでは午前中の定時株主総会に出席した株主も参加。延べ13人(10人の株主が質問し、一部が複数質問)が質問したが、定時株主総会の内容を繰り返す内容も見受けられた。

 高橋社長は、「88円の買い取り価格の設定については、証券会社や格付け会社では、20~100円という幅があり、中には高すぎるという声もあった。第三者のコンサルタントに評価してもらった結果であり、妥当な線であるとして決定した」と答えたほか、「鴻海から調達資金は、回転資金ではなく、成長資金に回す。そのこととして、有機EL事業に2,000億円を投資する」などとした。

 さらに、払込期日の設定についても説明。「仮に、今日すべてが決定しても、最短で払い込みが完了するのが6月28日。これをスタートとした。また、払い込みが実行されるには、各国の独占禁止法をクリアする必要があり、本来ならば、もっと多くの国での審査が必要になると想定していた。その結果、審査が完了するのは8月末から9月中旬を想定していたため、10月5日という期日を設定した。日本、台湾、中国、欧州で、すべにクリアしており、残っているのが中国だけ。韓国も時間がかかると思っていたが追加資料を提出することなく、審査が完了した。全体的に想定よりも速く進んでいる。なんとか今月中に中国での審査が完了するように、必要な情報などを提供している。10月5日よりも前にできるのは明らかであり、できれば、6月中に決着をつけたいと考えている。だが、これが実現できるかどうかは中国政府次第である」とした。

 また、「鴻海の出資後も、特許はシャープが単体で保有する。従来と同じように、シャープの価値が最大になるようにライセンス供給を行なったり、差し止め請求をできる」とした。

 普通株主による種類株主総会は、437人の株主が参加。午後4時40分に議案を可決して閉会した。所用時間は1時間10分だった。