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スマホで操作、Mojoから聴く、極めてユニークな「Poly」はどのように生まれたのか?
2017年3月17日 09:15
英Chord Electronicsが16日に発表した、ポータブルアンプ「Mojo」をプレーヤー化するモジュール「Poly」、そして音質にさらに磨きをかけた小型DAC兼ヘッドフォンアンプの「Hugo 2」。どちらも注目度の高い新製品だが、特にユニークな製品である「Poly」について、開発経緯や今後の展望などについて、CEOのジョン・フランクス氏、デジタル回路設計を担当するロバート・ワッツ氏、Polyを手掛けたCONSULTANT DIGITAL DESIGNERのRajiv Dave氏に話を聞いた。
Mojoをより手軽かつ快適に楽しむための「Poly」
Polyの話の前に、2015年10月に発売された「Mojo」について振り返ってみよう。他社のポータブルアンプと較べても非常に小さく、それでありながら高速なFPGAと、独自の「WTAフィルタ」を使い、オーバーサンプルを行ないながら、パルスアレイDACでアナログ電流へと変換するといったChord製品の特徴を搭載。直販73,440円(税込)と、Chord製品としては手頃であり、日本市場でも大きな話題を集めた。現在では、ポータブルアンプの代表モデルの1つと言っても過言ではないだろう。
ジョン氏は、Mojo開発は「成功を収めたHugoの音楽性豊かなサウンドや興奮を、ポケットの中に入れられる製品を作りたい」と考えた事がキッカケだという。小型でバッテリは搭載しているが、あくまで“デスクトップに置いて使うもの”であるHugoのサウンドを、より小型で、気軽に持ち歩ける形にしたものが「Mojo」というわけだ。
手がけたロバート氏は、最初“Hugoのサウンドをポケットに”というのは不可能だと考えていたという。しかし、XilinxのArtix7というローコストで、消費電力が約半分で、処理速度も速いFPGAが登場。「無理だと考えていた、ちょうどそのタイミングに、新チップの情報が届き、これならば(Mojoを)実現できる! と考えた」という。
こうして完成したMojo。日本市場で人気を集めたが、Chordのある英国でも大きな反響があったという。中には自分で購入するだけでなく、家族や友人などに紹介して3つも買う人もいるなど、「従来のオーディオファン以外にも広まっている」(ジョン氏)という。グラハム・ナッシュなど、ミュージシャンにも愛用されているとのこと。
そんなMojoを、プレーヤー化できる「Poly」。「Mojoをより手軽に、快適に楽しむために、Mojoをポケットに入れたまま、スマートフォンから操作できるプレーヤーは作れないか? ディスプレイはいらない。Wi-Fiで操作でき、DLANやBluetooth、AirPlay、Roonにも対応しストリーミングで再生できる一方で、ストレージも備えてそこからも再生できるような、Mojoの世界を広げるような製品を考えた」という。
この“Polyのアイデア”を形にしたのが、CONSULTANT DIGITAL DESIGNERのRajiv Dave氏。アイデアを実際の製品にしようとすると、Mojoよりも遥かに大きなサイズになってしまう。しかし、当初から“Mojoよりも小さな、現在のPolyのサイズに収める事”は目標として決まっており、「(Mojoの発売と同時期の)2年前あたりは、技術的な問題でこのサイズに収める事はできませんでした。しかし、技術進化がとてもいいタイミングで起こり、Polyのサイズを実現できました」(Rajiv氏)という。
こだわったのはサイズだけではない。搭載するmicroSDカード内の音楽ファイルはもとより、無線LANを使い、DLNA経由でNAS内の音楽を再生する場合でも、レスポンスを追求。実際に触ってみると、microSD内のファイルを聴くのとほとんど変わらないほど、楽曲を選び、タップし、再生されるまでのレスポンスが速い。
操作はスマートフォンのアプリから行なう。MPD(Music Player Daemon)方式を採用。Polyと同じLAN内にあるスマートフォンのMPDクライアントアプリを使って再生する。スマートフォンのテザリング機能を使い、Wi-Fi環境のない場所でも、モバイルSDカードプレーヤーとして操作する事も可能だ。
Chordは自身で再生アプリを作っておらず、汎用的なアプリが利用できる。「既に皆さんに浸透している(DLNA)アプリがありますので、それを使っていただくのがいい。我々がわざわざ作る必要はないと考えた」(ジョン氏)という。
小型筐体にワイヤレス系の機能を搭載しているが、ノイズ対策も徹底。スマートフォンとの距離や、無線LAN接続の状態によってノイズが出たりしないよう、アイソレーションにもこだわっているとのこと。
気になるのは、今後もPolyのような「Mojo向け拡張ユニットは登場するのか?」という点だが、「必要な機能は全てPolyに入っていると考えているので、現時点では、別のユニットの計画はなにも無い」(ジョン氏)という。
一方、Mojoについて気になる点も聞いてみた。それは、日本のポータブルオーディオ市場で広まりつつある“バランス接続”への対応について。だが、ロバート氏は「一般的なDACチップを使った機器の場合は、バランス構成にする事で、左右チャンネルのクロストークの低減や、歪の低減などの利点があるかもしれないが、(FPGAとWTAフィルタ、パルスアレイDACなどを使った)私のアプローチでは、そうしたDACチップを使っていないので、シングルエンドでもノイズや歪の少ないサウンドを実現できている」と語った。
「日本のポータブルオーディオファンの熱意が大好き」
既にヘッドフォン系のイベントなどで、何度も来日しているジョン氏とロバート氏。2人に、日本のポータブルオーディオファンの印象を聞いてみたところ、2人とも「熱意があり大好き」、「とても刺激をもらっている」と笑顔で答えてくれた。
「若人がとても多く、イベントで出会う人も、自分の使っている機器や、そのこだわりなどを熱く語ってくれる。皆さんの熱意に触れていると、自分達が40年ほど前、(据置きの)ハイファイオーディオの世界でエンジニアとして、いろんな意見を闘わせていた頃を思い出す」(ジョン氏)とのこと。
なお、Polyで気になるのは、今までにないユニークな製品であるため、詳しいオーディオファン以外の人には、どうやって使えばいいのか、わかりにくいのではないか? という点。
この問題に対応するため、microSDや、DLNA、AirPlay、Bluetooth、Roonといった、再生機能それぞれについて、どのように使うのかを解説したビデオも作成。今後公開する予定だという。
「スマートフォンの音質に不満を持っている多くの人に、誰もが使っているスマホの使い勝手の良さを活かしたまま、気軽に、なおかつ高音質で楽しめる製品として、Mojo+Polyの組み合わせを使ってみて欲しいですね」(ジョン氏)。