レビュー

小さな最強DACアンプ、さらに進化。CHORD「Mojo 2」を聴く

CHORDの「Mojo 2」

小型ながら、圧倒的な高音質と駆動力を持ったポータブルDACアンプの代表格と言えば、CHORDの「Mojo」だろう。スマホと接続するだけで、据え置きのオーディオ機器に匹敵するクオリティが手軽に楽しめる名機として以前から人気があるが、音楽配信サービスの普及により、活用の機会はさらに広がっている。そんなMojoに後継機「Mojo 2」が登場した。どんな音に進化したのか、これは聴かねばならない。

2月から発売されており、価格は79,980円。2015年に発売された初代が直販価格73,440円だったので、少し値上がりした。それよりも、発売からもう7年経過していることに驚きだ。その間、Mojoがポータブルアンプにおける独自のポジションを維持して来た事も凄い。ちなみに「Mojo」という名前は、「Mobile Joy」の略だ。

サイズ感やデザインに大きな違いはないので「マイナーチェンジモデルかな?」と思われがちだが、結論から言うとそれは違う。約7年の進化を実感できる、初代登場時にも負けない“インパクト大”なポタアンが「Mojo 2」だ。

CHORDの「Mojo 2」

USB-C入力が可能に

外観から見ていこう。Mojo 2の外形寸法は約83×22.9×62mm(幅×奥行き×高さ)、重さは約185g。Mojoが82×22×60mm(同)、約180gだったので、ほぼ同じだ。

左から初代Mojo、新製品はMojo 2

実物を目にして、持ち上げてみてもほとんど違いは感じられない。そのため、ボディに書かれたロゴの「Mojo 2」を見ない限り、どっちがどっちか、パッと見分けられない。初代からMojo 2への乗り換えを考えている人は、今までと同じサイズ感で使えるのは嬉しいだろう。

Mojo 2のヘッドフォン出力。3.5mmステレオミニ×2
Mojo 2 Caseも発売中。本革を使ったもので、ケースデザインはChord Electronicsのジョン・フランクスが担当。高品質のブラックフィニッシュドレザーと、対照的なレッドステッチのディテールが特徴だ

だが、端子を見ると大きな違いがある。まず、側面にヘッドフォン出力として3.5mmステレオミニ×2を備えており、最大2人まで同時リスニングできるのは初代と同じだ。バランス出力を備えていないのも同じで、CHORDはアンバランス出力のままでバランス出力並にセパレーションが良い為、バランス出力にするよりもアンバランス出力のままの方が経由するパーツ数も少なく安定していて音質が良いという考えがあるからとなる。このあたりは、CHORDらしい自信と揺るぎない理念を感じるところだ。

一方で、入力端子が変わった。初代はmicroUSB×1、同軸デジタル×1、光デジタル×1だったが、Mojo 2はUSB-C×1、microUSB×1、同軸デジタル×1、光デジタル×1と、USB-Cが1系統追加され、4系統入力となった。今やUSB-Cはモバイル機器の標準になっているので、7年間の歴史を感じさせるところだ。

Mojoの入力端子部
Mojo 2の入力端子部
Mojo 2ではUSB-C入力が可能に

音楽データの入力は最大でPCM 768KHz/32bit、DSD 256(11.2MHz)までのネイティブ再生が可能だ。

筐体はアルミニウム製で、ブラックアルマイト仕上げで質感が良いのは初代機と同じ。操作ボタンとして、多色ポリカーボネート製のボール(コントロールスフィア)を備えているのも同じだが、ボールの個数が3個から4個に増えた。これはメニューシステムと呼ばれる機能が増えたため。詳細は後述する。なお、数が増えたため、1つあたりのボールのサイズは少し小さくなった。

1つあたりのボールのサイズは少し小さくなった

音質面の進化点

CHORD DACの最大の特徴は、汎用のDACチップを使っていない事だ。要するに、旭化成エレクトロニクスの◯◯だとか、ESSの◯◯だとか、そういうチップを使っていないのだ。その代わりに、「FPGA」という、自由にプログラミングできるLSIを採用している。

Mojo 2では、Xilinxの「ARTX-7」というFPGAを搭載。このFPGAは、初代機と同じものだが、その使いこなしが進化している。

CHORD DACの独自性について、詳細は下記の開発者による解説をレポートした記事を参照してほしい。簡単にまとめると、CHORDが汎用DACチップを使わないのは、時間軸での精度、特にトランジェント(音の立ち上がり)の精度にこだわっているためだ。

Hugo/Mojo/DAVE、CHORDは何故汎用DACを使わないのか? キーマンがこだわりを解説

CHORDによれば、デジタルデータから、フィルタをかけてアナログ信号に戻す際に、汎用DACの単純なフィルタではタイミング誤差が100μSec以上あり、時間軸の精度が低く、密度の低いサンプルしか作れず、正確な波形に戻らないという。

対処方法はシンプルで、「無限に処理ができるフィルタを使って補完すれば、オリジナルの波形を復元できる」というもの。それは現実的に難しいので、トランジェントエラーを減少させるために、新たなフィルターを開発したり、タップ数(FIRフィルタの処理細かさを表したもの)を増やしていく。これを実現するためには、高い処理能力が必要なので、強力なFPGAを搭載している、というわけだ。この考え方に基づいて生まれたのが、開発者ロバート・ワッツ氏の名前がついた「WTAフィルタ」だ。

Mojo 2では、40個のDSPコアを使用し、WTAフィルタを改良する事で40,960タップを実現。この数字は、初代Mojoの38,896タップを超えている。ちなみに据え置きの「Hugo 2」は49,195タップだ。さらに、ノイズシェーパーの改良により、奥行き感やディテール感も向上させたそうだ。

WTAフィルタの処理で得られたデータを受け取り、アナログ信号に変換するアナログ出力段には「パルスアレイDAC」を使っているのだが、Mojo 2ではここも改良。歪みや帯域外ノイズを低減したという。さらに、カップリングコンデンサーを廃止し、より色付けの無いサウンドを目指しているのも特徴だ。

使い勝手も高めるために、新たに「UHD DSP」を搭載。これは“フルトランスペアレント型ロスレスDSP”と呼ばれており、32bitや64bitではなく、104bitで高精度な計算ができるというカスタムDSPコアを備え、「他のオーディオDSPと比較し、比類なき精度を実現した」という。

高音質化に寄与するだけでなく、UHD DSPにより、周波数帯域ごとに18段階の調整が可能になり、音量調整範囲も+18dB~-108dBに進化。メインボリュームに、“ローボリュームモード”と“ハイボリュームモード”の切り替え機能も追加し、より好みの音量に、細かく調整できるようになった。

さらに、DSP制御による4段階の“クロスフィード機能”も新搭載。“ヘッドフォンリスニングでもスピーカーのような空間演出が可能”という機能だ。これもあとで聴いてみよう。

ちなみに、初代ユーザーにはお馴染みだが、別売りの専用ストリーマー/サーバー「Poly」は、Mojo 2とも接続できる。PolyとMojo 2をドッキングすることで、ハイレゾストリーミングやmicroSDカードを使った最大2TBのライブラリ保存と再生が可能になる。要するに、Mojo 2をDAPのように使う事ができるわけだ。

PolyとMojo 2をドッキング

メニューシステムと新バッテリー充電システムで使い勝手向上

Mojo 2では新たに「メニューシステム」が導入された。

ロゴを正面に見た状態で、ボタンの機能は左から電源、ボリュームアップ、ボリュームダウン、メニューボタンと並ぶ。電源とボリュームボタンは説明不要で、音量によってボタンの色が変わるのは初代と同じだ。

新設されたメニューボタンを押すと、複数の機能を切り替えられる。見分け方はボタンの色だ。消灯や白色の時は「ボリュームレベル」、青色は「ボタンの輝度調整/クロスフィードモード」、赤色は「低音20Hz」、黄色は「低音125Hzシェルフ」、緑色は「高音3kHzシェルフ」、水色は「高音20kHz」、紫色は「ロックコントロール」を意味する。

赤色「低音20Hz」や黄色「低音125Hzシェルフ」は要するに、その帯域を持ち上げたり、下げたりといった調整ができる。4つの帯域において、9通りのブーストとカットが1dB単位で調整可能だ。

左端がメニューボタン。その色味で、どの帯域を調整するかがわかる

実際にヘッドフォンで聴きながら試してみると、「低音125Hz」モードにしてボリュームボタンを調整すると、低域の迫力がアップしたり、逆に膨らみを抑えてスッキリしたサウンドに調整できる。高域も輪郭の鋭さ、抜け感をカスタマイズでき、理想の音を追求できる。

この手のイコライザーは、使うと音質が低下する事が多く、結局あまり使わない事も多いが、Mojo 2では音質の低下がほとんど感じられない。これが高精度なUHD DSPの効果なのだろう。ヘッドフォンを接続した時と、イヤフォンの時で音を変えたり、アクティブスピーカーと繋いだ時は低域を持ち上げるなど、いろいろな工夫ができそうだ。

もう1つ便利な機能として、ボタンロックモードが搭載された。メニューボタンを6回押すと色がマゼンタになり、その時に音量の「+」と「-」を同時押しすると、ボタンコントロールが無効化される。鞄の中にアンプを入れて、不意にボタンを押してしまって大音量が流れて……なんてハプニングを防止できる。

ボタンロックモードが搭載された

Mojoの衝撃サウンドが、さらに進化

Mojo 2ではUSB-C入力が搭載されたので、USB-Cのホストケーブルを用意。スマホのGoogle Pixel 3 XLと接続して、サウンドをチェックしてみた。イヤフォンはAcoustune「HS1300SS」や、フォステクス「T40RP mk3n」を使用した。特に平面型RP振動板を採用したT40RP mk3nは、高級DAPでも鳴らしきれない手強い相手で、基本は据え置きのヘッドフォンアンプでドライブ。外出時は初代Mojoでドライブしてきた。

USB-Cのホストケーブル

再生するアプリは「Onkyo HF Player」を使用。DLしたハイレゾファイルを、USBで出力してMojo/Mojo 2に伝送するという流れだ。

Mojo 2を聴く前に、初代Mojoのサウンドを確認しよう。「Ado/うっせぇわ」を再生すると、曲の出だしから切れ味抜群のハイスピードサウンドが飛び出してくる。これは、CHORDのDACアンプ全般に言える事だが、とにかく情報量の多さが圧倒的で、その情報の並が物凄くパワフルに押し寄せてくる。“情報量の暴力”とも言えるサウンドは圧巻。この小さなDACアンプで、こんなサウンドが味わえる驚きは、約7年経ってもまったく色褪せない。

聴いていると「別にこれで十分なのでは」「ここから進化って、どんな音になるの?」という気もしてくるが、Mojo 2に切り替えると、思わず「おっわ!!」と声が出る。“情報量の暴力”スタイルはそのままなのだが、そもそも、音が出てくる空間の広さがMojo 2の方が圧倒的に広い。左右だけでなく、奥行きや上下方向にも広大で、その巨大な音場の中を、めちゃくちゃ細かい音まで聴こえる音の波が押し寄せてくる。

進化したのは空間の広さだけではない。気持ちよくぶつかってくる1つ1つの音が、初代Mojoより、Mojo 2の方がクッキリ、シャッキリしている。レンズのフォーカスがビシッ!! と合焦している感覚で、音像の表情や動きがより明瞭に聴き取れる。

これにより、低域の沈み込みもより深く、ベースが奏でるビートのキレもアップ。「うっせぇわ」サビの鮮烈さが増し、迫力もアップ。音楽のコントラストが深くなり、より楽曲のカッコよさをダイレクトに感じられる。

駆動力も強力で、鳴らしにくいフォステクス「T40RP mk3n」も、楽勝でドライブ。前述の通り、Mojo 2では低域の深さやキレも向上しているので、T40RP mk3nの繊細な描写に、パワフルさが加わり、このヘッドフォンで今まで聴こえなかった世界が楽しめた。

「うっせぇわ」の強烈なサウンドに打ちのめされたので、落ち着くために「手嶌葵/明日への手紙」を再生。ボーカルやピアノの余韻が広がる空間が、Mojo 2ではより遠くまで見渡せる。奥行きが深くなるので、音楽がより立体的に聴こえるようになる。

じっくり聴いていると、2つの事に気がつく。1つは、“音の出方”は、初代と言い意味で変わっていないという事。これは、据え置きのHugoシリーズにも共通するのだが、CHORDのDACアンプには、あまり「メーカーならではの音作り」みたいなものが感じられない。とにかく色付けをせず、原音をそのまま、何も手を加えず、むき出しで押し付けてくるような“鮮度の鬼”みたいなサウンドで、それが小さな筐体でも楽しめるのが初代Mojoであり、Mojo 2でも同じ路線のさらに先へと進んでいる事がわかる。

もう1つ気づいたのは、情報量や音のリアルさがさらに進化した事で、初代Mojoに感じていた“荒っぽさ”が、Mojo 2ではあまり感じられない事だ。女性ボーカルの声や、オーケストラのストリングスなどを聴いているとわかるが、Mojo 2の方が高域の質感がより豊かで、例えば、バイオリンの弦の震える様子や、バイオリンの筐体が共鳴するあたたかな響きなどが、よりしっかり味わえるようになった。

これにより、“鮮度の鬼”のようなむき出しサウンドの力強さだけでなく、質感もより明確に聴き取れるようになった事で、ゆったりと音楽が味わえるサウンドにもなっている。これは非常に嬉しいポイントだ。

Onkyo HF Playerから、ハイレゾ音楽配信の「Amazon Music HD」に切り替え、「村治佳織/ドミニク・ミラー」の「悔いなき美女」を再生。繊細なアコースティックギターの旋律の細かさ、それが空間の奥まで広がっていく様子がMojo 2ではよりハッキリと、スケール豊かなに聴こえる。スマホ + Mojo 2のコンパクトさで、膨大なストリーミング楽曲を、このクオリティで味わえるというのは、改めて驚きだ。

いつもは完全ワイヤレスでなんとなく聴いているストリーミング楽曲も、強力なDACアンプ+有線イヤフォンで聴くと、感動が桁違いだ。単体のDAPでもストリーミングサービスに対応したモデルが増えているが、通信機能が入っていないので、外出前にDAPのストレージに音楽を沢山ダウンロードしたり、屋外のWi-Fiを活用するなど、ちょっと面倒な事が多い。その点、スマホ + Mojo 2があれば、専用DAPに匹敵する高音質で、どこでもストリーミング音楽をフルに楽しめる。これは大きな魅力だ。

新たに搭載された“クロスフィード機能”も試してみた。「ヘッドフォンリスニングでもスピーカーのような空間演出が可能」になるというものだが、機能をONにしてみると、音楽のコントラストがより深くなり、音像の立体感が少しアップする。効果は3段階で調整できる。

ただ、よくある“バーチャルサラウンド”機能ほどは広がらないので過度な期待は禁物だ。一方で、しばらくONにした状態で聴いた後でOFFにすると、音楽全体が平坦で、サッパリした音に聴こえて寂しくなってくる。また、機能をONにした時の音質劣化の少なさも特筆すべきレベルだ。

パソコンやスピーカーとも組み合わせ可能

Mojo 2が接続する相手はスマホだけではない。パソコンとUSB接続し、USB DACアンプとしても活用できる。アクティブスピーカーと接続すれば、Mojo 2の高音質を、スピーカーから楽しむことも可能だ。

クリプトンのアクティブスピーカー「KS-11」のアナログ入力と、Mojo 2のヘッドフォン出力を接続して音を出してみると、情報量の多さ、パワフルでキレの良い低域といったMojo 2の特徴が、スピーカーからもキッチリ味わえる。いや、味わえるというか、音場の広さと、そこに定位する音場のリアルさ、低域の迫力アップといった面では、イヤフォン/ヘッドフォンで聴くよりも、スピーカーで聴く方がより高音質化の恩恵がより得られる印象だ。これは、スピーカーとも組み合わせないともったいない製品だ。

コンパクトさを活かして、カーオーディオとアナログ入力で接続している人も多いだろう。車載スピーカーでも、音場の拡大、低域の迫力アップなどは実感できるはずだ

そんな利用を推進するためか、Mojo 2には新たに“常時電源に接続したままにしておくこと”を想定した“インテリジェントデスクトップモード”が新たに搭載されている。このモードでは完全に充電されると、メニューボタンと充電表示LEDに紫色が表示され、充電サイクルが終了し、内蔵バッテリーを維持するために、充電を自動的に調整してくれるそうだ。

これにより、外では内蔵バッテリーで「スマホ + Mojo 2 + イヤフォン」を楽しみ、帰宅したら「パソコン + Mojo 2 + アクティブスピーカー」という使い方ができる。Mojo 2を活用する時間が増えるわけだ。

ちなみに、実際にパソコンと組み合わせて使っていると、スピーカーよりも近い場所、手の届く範囲にMojo 2が置いてあるので、ボリューム調整がしやすくて便利だ。ボリューム調整はアクティブスピーカー側で行なったほうが良いことは良いのだが、光るボタンが押しやすいのでついMojo 2側で操作することも多かった。

“音質と使い勝手”に磨きをかけた正常進化モデル

結論として、Mojo 2は“初代Mojoの音質傾向や、コンパクトさ”といった特徴をそのまま活かしながら、音質をさらに次の次元へ進歩させ、メニューボタンやクロスフィード機能、USB-C入力などを追加。“音質と使い勝手”に磨きをかけたモデルと言える。

なるべく色付けが少なく、情報量が多く、据え置きヘッドフォンアンプにも匹敵する駆動力の高さをこのサイズで実現しているのが大きな魅力だ。初代Mojoからの買い替えはもちろんだが、音楽配信サービスを活用しているスマホユーザーに、完全ワイヤレスでは味わえない音の世界を楽しむDACアンプとしても注目して欲しい。

働き方の変化で、喫茶店やワーキングスペースにノートパソコンとイヤフォン/ヘッドフォンを持ち込む人も増えている。そこでMojo 2も持ち込めば、喫茶店がオーディオルームに変わったかのような、リッチな体験ができるだろう。

(協力:アユート)

山崎健太郎