ミニレビュー
“スマホでラジオ”の新アプリ「ラジオクラウド」はradikoと何が違うのか
2017年2月3日 08:10
1月30日に、iOS/Android向けに「ラジオクラウド」というアプリが登場した。これは、TBSラジオやニッポン放送、TOKYO FMなどのラジオ局がネット配信向けに用意した番組コンテンツを、スマホなどでストリーミング/ダウンロード受信して楽しむためのアプリだ。だが御存知の通り、スマホでラジオを聴くアプリとしては「radiko.jp」が存在する。「ラジオクラウド」は何が違うのか? 実際に使ってみた。
試した結果を先に記載するが、スマホ向けアプリでradikoと使い比べた際、ラジオクラウドには以下のような良い点、イマイチな点がある。詳しく紹介していこう。
【ラジオクラウドがradikoより“良い点”】
- 過去の番組がアーカイブ配信されている
- 番組コンテンツがダウンロードできる
- (ダウンロードしておけば)回線負荷が無い
- スキップや倍速再生が可能
- 地域制限が無い
【ラジオクラウドがradikoより“イマイチな点”】
- 全ての番組が配信されているわけではない
- 一部しか配信されない番組がある
- TBSラジオ以外の局による配信番組が少ない
- アカウント登録が必須(radikoでは不要)
アプリの使い方
アプリに触れる前に、概要をおさらいしよう。アプリを作ったのはラジオ局ではなく、博報堂DYメディアパートナーズ。アプリ自体は無料で提供されており、サービスも無料で利用できる。
「ラジオクラウド」というアプリは、特定の放送局の番組に限定したものではなく、あくまで“音声コンテンツの配信プラットフォーム”という位置づけ。そのプラットフォームに、2月2日現在、TBSラジオ、文化放送、ニッポン放送、毎日放送、ラジオ大阪、ラジオ関西、京都放送、ラジオ沖縄、ラジオNIKKEI、TOKYO FM、J-WAVEの11局が参加している。
アプリをダウンロードすると、利用の前にメールアドレスやパスワードなどを入力する会員登録が必要。利用時もログインが必要だ。このあたりログインしなくても利用できるradiko.jpと違うので面倒に感じる人もいるだろう。なお、TBSラジオクラウドでアカウントを作成していたユーザーは、同じアカウントで利用できる。OSの推奨環境はAndroid 4.4以上、iOS 9以上だ。
簡単なチュートリアル後、ホーム画面が表示されると、ズラリとラジオ番組のバナーが並ぶ。構成としては、画面の上部にタブがあり、そこでTBSラジオ、文化放送、ニッポン放送……といった具合に放送局を切り替え、その下に各局のコンテンツが並ぶ。
聴きたい番組をタップすると、過去分も含め、配信しているコンテンツが並ぶ。好きなものをタップすれば、すぐにストリーミング再生がスタート。コンテンツの右端にある、下向きの矢印ボタンを押すと、コンテンツを端末にダウンロードできる。Android端末で試したが、ダウンロード先は内蔵ストレージで、microSDカードは指定できないようだ。
画面下部には「ホーム」、「マイリスト」、「設定」アイコンが並ぶ。マイリストを押すと、ダウンロードしたコンテンツが並び、そこから再生も可能。Wi-Fiに接続した環境で、聴きたいコンテンツをドンドンタップしてダウンロードしておき、後で通信を使わずに「マイリスト」から再生するといった使い方も可能だ。
再生中の画面では、前後15秒スキップする「固定秒数スキップ機能」、0.5倍、1倍速、1.5倍速、2倍速が選べる倍速再生機能が利用可能。長い番組をサクサク聴きたい場合に、1.5倍再生などは便利だ。
5分後、10分後、15分後、30分後、45分後、1時間後に設定できるスリープタイマーを装備しているのも、ラジオアプリらしいポイント。また、別のアプリに切り替えても音声を流し続けるバックグラウンド再生にも対応している。
今後は、目覚まし再生的な機能も追加して欲しい。さらにポッドキャスト配信のように、お気に入りに登録した番組の追加コンテンツを、自動的に端末にダウンロードしておくような機能も欲しいところだ。
音質は、アナログラジオと比べると当然ながら安定感抜群のステレオ品質が楽しめる。ただ、圧縮はされているので声の音圧がやや薄く、女性DJが話す番組では、じゃっかん高音に荒れも感じる。ただ、トーク番組を楽しく聴くには十分なクオリティだ。
radiko.jpと何が違うのか? 気になるポイントも
大まかな使い方は上記の通りだ。実際に使ってみると、いくつか気になるポイントがある。1つはコンテンツそのものの長さだ。
例えば、TBSラジオの人気番組「JUNK伊集院光深夜の馬鹿力」を聴こうとタップし、再生を開始すると、7分や8分と、番組が短い。もともとは月曜日の深夜25時~27時までの2時間番組なので、番組まるまるであれば2時間程度あるハズ。実際に聴いてみると、冒頭などのフリートークの部分だけを切り出して配信しているようだ。
ラジオに詳しい人は、ここでピンとくるだろう。というのも、radiko.jpが登場する以前から、ラジオ局はポッドキャストを使い、番組の一部をネット配信するというサービスを実施している。番組まるごととは別に、“ネット配信向けに編集したコンテンツ”を用意しているわけだ。内容は番組によって異なり、放送の抜粋版もあれば、放送では話せなかったこぼれ話をオマケ的にポッドキャストで配信するという番組もある。要するに、そうしたコンテンツを配信しているのが現在の「ラジオクラウド」のようだ。
ただ、前述の通り「ラジオクラウド」自体はプラットフォームに過ぎない。どのような番組を配信するかは参加しているラジオ局や番組によって異なる。例えば同じTBSラジオの番組でも、自転車の魅力を紹介する「ミラクル・サイクル・ライフ」という30分番組は、途中で流れる音楽などを抜いた、ほぼ全編(25分程度)が配信されている。
抜粋やオマケ的な番組をサクッと楽しみたいというニーズも存在しそうだが、できれば各番組の配信可能な部分だけ全編聴きたいところだ。
一方、radiko.jpはあくまで「現在放送しているラジオをネットでも配信する」というサイマル配信が基本のサービス。昨年10月から、過去1週間に限り、後から番組を聴取できる「タイムフリー聴取機能」が追加されたが、それでも基本はライブ配信であり、アーカイブが長期間保存され、それがいつでも再生できる「ラジオクラウド」とは根本的なスタイルが異なるわけだ。
そんな「ラジオクラウド」で、もう1つの気になる点は、参加しているラジオ局によって、コンテンツ量に大きな違いがあるところ。TBSラジオは、2月1日の時点で39番組が存在するが、文化放送は2番組、ニッポン放送は1番組、MBSラジオは3番組、ラジオ大阪は5番組、TOKYO FMは1番組、J-WAVEは1番組といった具合だ。つまり、「TBSラジオがものすごく頑張っている」ように見える。
TBSラジオは、これまで多くの番組をポッドキャストで配信してきたが、配信サーバーのコストが高く、ポッドキャストではユーザーの聴取動向などが把握しにくく、広告などの収益化に繋げにくい事から、昨年6月にポッドキャスト配信を終了。代わりに、PCやスマートフォンのブラウザで聴く「TBSラジオクラウド」を開始。
しかし、同サービスはストリーミング配信のみで、ポッドキャストのようなダウンロードはできない状態になっていた。そこで、ダウンロード機能も備えた「ラジオクラウド」に参加。「TBSラジオクラウド」で配信している番組数と、「ラジオクラウド」に展開している番組数はほぼ同じになっている。
ニッポン放送など、「ラジオクラウド」での配信番組数が少ないラジオ局も、ポッドキャストでは多くの番組を配信しているところは多い。今後、TBSラジオと同様に、ポッドキャスト配信と同レベルのコンテンツを「ラジオクラウド」にも用意してくれれば、「ラジオクラウド」のアプリとしての魅力は高まるだろう。
ビジネスモデルの面では、「ラジオクラウド」アプリはVAST2.0フォーマットを使った、動画や音声広告の再生に対応。既にアプリ内にバナーの広告も表示されている。ユーザー登録もしているので、利用者の属性に合わせた広告のターゲティング配信もできる。TBSラジオでは、企業などに向けて3月から広告販売もスタートするそうだ。ビジネスがうまく回り、radiko.jpとは異なる魅力を持ったサービスとして、盛り上がりを期待したい。