レビュー

数千円のアンプでも音は良いのか? 小さくても迫力サウンド「FX-AUDIO-」

机に置けるコンパクトなサイズのアンプでも、スピーカーで本格的な音が楽しめる製品があるのがオーディオの楽しさの一つ。高価格なモデルは上を見ると限りないものの、数千円のプリメインアンプ(プリアンプ+パワーアンプ一体型)でも目的のスピーカーをしっかり鳴らせれば、十分なシステムといえるだろう。今回注目した製品は、低価格ながらこだわりのつまった「FX-AUDIO-」のアンプだ。

FX-AUDIO-のプリメインアンプ。左が「FX-50」、右が「FX152J PRO」

FX-AUDIO-は、インターネット販売を中心に展開する日本のノースフラットジャパンによるオーディオブランド。同社は“出来る限り低価格で高品質の製品を提供すること”をコンセプトに、アンプだけでなくアクセサリーや電子部品なども取り扱っている。ボリュームゾーンの価格帯は4,000~7,000円で、初めてのデスクトップ用アンプとしても現実的。最高級モデルのUSB DAC付きプリメインアンプでも実売14,000円弱とリーズナブルだ。

徹底した情報公開を行なっていることも興味深い。アンプは中国で製造され、“安かろう悪かろう”を払拭するべく、日本人による現地監督・運営のもとで品質の安定化を図っている。全ての製品で内部構造写真を公開し、公式ブログでは開発秘話や電子回路のマニアックな話など、丁寧過ぎるくらいの製品紹介を行なっているのだ。筆者は学生時代、電子回路(弱電)ではなく、送配電などの強電を学んでいたので理解しきれない内容も多いが、好きな人にはガンガン刺さる内容になっていると思われる。

アンプのラインナップは、デジタルアンプICをデバイスとしている製品から真空管アンプまでとても豊富で正直迷ってしまいそうになる。今回紹介するのは、そんなライナップの中でも、比較的エントリークラスに位置する2機種「FX152J PRO」(3,280円/税込)と「FX-50」(5,980円/税込)。

なお、ACアダプタが別売という点には注意したい。1,000円~2,000円程度で、同社ストアにおいて推奨モデルが販売されている。

「FX-50」(下)、「FX152J PRO」(上)

オーディオマニアにしてみれば、低価格すぎて不安に思ってしまうのは認める。単に音が鳴ればいいという意図で製作されたアンプだと邪推する人もいるかもしれない。ただ、これからデスクトップオーディオを始めたい人が、CDアルバム2枚、あるいはBlu-ray 1枚ほどの価格でアンプを買えるのは魅力的なはず。そこで、実際にどんな音が出るのか試してみることにした。

デスクに“ポン置き”できるスピーカーとして、フォステクス製のハイレゾ対応スピーカー「P803-S」(ペア15,800円)と組み合わせ、これら2モデルのアンプを使ってみた。
P803-Sは、高域を40kHzまでカバーしながら、低域も強化しており、コンパクトながら豊かな低音が再生可能な点を特徴とするモデルだ。

P803-Sと組み合わせた

小型でも高級感のある本体から、ストレートでクリアなサウンド

まずは、より低価格なFX152J PROから。外形寸法75×107×30mm(幅×奥行き×高さ)、重量212gの小型筐体に、ヤマハのデジタルアンプIC「YDA138」を搭載。片手にほぼ収まる小柄なサイズで、アルミ合金製のボディから価格以上の高級感がある。

FX152J PRO

前面のBASS/TREBLEノブは、SN比や歪み率に配慮したTIのオペアンプ「NE5532」を使用したトーンコントロール。入力はステレオミニ。スピーカー出力は取り外し可能な四極ターミナルブロックを採用。最大出力は15W×2ch(4~16Ω)というのが主な仕様だ。

電源アダプターは別売だが、今回はメーカー推奨のACアダプター(DC12V/3.5A仕様)を使った。DC12V/電源容量2A以上(3A以上推奨)であれば、端子形状を確認して自分で用意してもよい。DCジャックは、外径5.5mm×内径2.1mm(センタープラス仕様)。

前面にBASS/TREBLEノブ
背面
メーカー推奨ACアダプタを使用した

筐体は、表面にはアルマイト加工とヘアライン加工を施し、見た目や肌触りもこのクラスで「ここまでやるか」と思えるほどに追求。ノブもCNC(コンピューター数値制御)による高い完成度の成形。縁の加工も丁寧で、回したときのトルクも安っぽくない。底面のスポンジ脚は、チープにも見えるが振動対策とコストダウンを優先した結果だろう。

バックパネルには、スピーカーケーブル接続用のターミナルがある。これはブロック式で取り外すことが可能。ネジは精密のマイナスドライバーで緩める。限られたスペースではケーブルの接続がどうしても困難な中、接続部自体を脱着可能にするという合理的なアイデアといえる。黒の本体に明るい緑というカラーの違いはあるものの、真後ろなので一度接続したら意外と気にならないと思う。

ターミナルブロックにスピーカーケーブルを接続

音を聴く環境について、再生機器はWindows 7パソコンと、プレーヤーソフト「HQPlayer Desktop 3」を使用。デジタルフィルター、アップサンプルはオフにしている。USB DACとしてNuPrime uDSDのRCA端子から出力した。

USB DACはNuPrime uDSDを使用

USB DACからアンプへのケーブルは、アコースティックリバイブ製のLINE-1.0R-TripleC-FM、および同等線材・構造を採用した「ステレオミニ⇔RCA特注版」を使用。スピーカーケーブルも同社製SPC-AV。

PCとUSB DAC、アンプ、スピーカーを接続

使ったケーブルの価格がアンプに対して現実離れしているものの、今回はあくまで比較用のシステムであり、筆者が普段聴く環境に近づけ、DACやケーブルによる個性をなるべく排除することを目的にに使っている。これから導入される方には、まずは安価で扱いやすいケーブルで始めていただければと思う。特に引き回しは机上の配置に関わってくるため、長さや柔軟性の選定は重要になってくる。ポータブルオーディオ周りのアクセサリーには、短くて曲げやすいケーブルもあるのでアップグレードしたい場合は候補にするといいだろう。

インストからボーカルまで何曲か音楽を聴いてみる。余計な脚色をせずフラットでクリアなサウンドに努めているようだ。スピーカーが小型なのとアンプの力量が相まって、低域は心許なく、物足りなさは否定できない。一方、劇伴などの生演奏の空気感やディテールの豊かさはきっちり描いてくれる。POPSは音像の特徴をきめ細かく描いて、ボーカルの色艶も伝えてくれた。uDSDは割と癖のないウェルバランスなDACであるが、その素性をストレートに引き出してくれるアンプだと感じた。

TIの「NE5532」を使用したバッファ回路は、前段機器を選ばない入力がウリとのことだが、筆者もLINE OUTを前提にしていないゲーム機で試してみた。PS Vitaをステレオミニケーブルで接続し、ゲーム機側の音量を最大にする。アンプの音量ノブの位置は10時から12時くらいで適正な音量が確保できた。ゲーム機でもこのレベルで音量が取れるなら、ポータブルオーディオプレーヤーなどはまったく問題ない。

PS Vitaを接続
ポータブルオーディオのPLENUE Mを接続

映像コンテンツも高音質。トーンコントロールも

メーカーはFX152J PROについて「癖が少なく聴き疲れしないから多用途に向いている」と説明していることもあり、音楽だけでなくYouTube視聴にも利用した。劇場版の「ラブライブ!サンシャイン!!The School Idol Movie Over the Rainbow」から公開された冒頭7分を再生。

フォステクスのスピーカーP803-Sから聴こえてきたのは、予想を超えるダイナミックな音場とクリアで明瞭な音声。直前に聴いたタブレットやPCの内蔵スピーカーとは雲泥の差である。本作は開始早々、アイドルユニットAqoursによる歌が流れるのだが、歌詞が聴きとりやすく、定位もハッキリしていて、ボーカルの空気感が伝わってきた。

続いてボイスドラマCDも聴く。テレビアニメ「月がきれい」Blu-rayの特典となるドラマCD「蒲団」。劇伴と声がハッキリと分離していてよく聴こえるし、ドラマへの没入感も内蔵スピーカーの比ではない。ただ、キーボードを打つときの距離感で聴こうとすると、舞台の音場にめり込む感じになって定位に違和感があった。

左右のスピーカーの距離と同等か、もう少し離れると自然に聴けた。スピーカーのサイズは、低域の再現性だけでなく自然な音場感を楽しむための距離を決定付けるため、どこに置くのか、どのくらいの距離で聴くのかによって、無理に大きなスピーカーを買わないよう注意したい。

特徴であるトーンコントロールも試した。ただ、センター位置がどこか分からないのは惜しい。ノブをセンター(12時方向)に合わせても特に手応えはなく、ノブの中央に刻まれた線と合わせる目印なども本体側に無かったので、中央を目で見て合わせる形。できればトーンコントロールを掛けていない(間違いなくセンター)という確証が得られるといいが、コストの問題でやむを得なかったのかもしれない。高域側、低域側と試してみると、さすがオペアンプを使ったこだわりのトーンコントロール回路で、歪み感は少ない。高域側はいっぱいまで上げると耳に付くが、刺激成分は意外に少なかった。

トーンコントロールのノブは中央の位置が明示されていない

現実的には、低域がブーミーな時に少しカットするとか、音量を上げられないときにセリフが聴こえやすくなるように高域をちょっと上げるみたいな使用方法をオススメしたい。基本はフラットで問題ない。

スマホからステレオミニで繋いだり、Bluetooth機能付のDACから接続したり、入力機器はマルチに選べそうだ。音楽専用にするのはもったいないアンプである。せっかく超小型なのだからいろんな用途に役立ててほしいと思う。

続いて、FX-50をチェックしていこう。外形寸法は92×124×42mm(幅×奥行き×高さ)とやはり小型。重量は2倍ほどの413g。ST Microelectronics製のデュアルBTL Class DデジタルアンプIC「TDA7492E」を搭載し、最大出力は50W×2ch(4Ω)となる。同社のアンプの中では、中出力クラスのデジタルアンプにおいてミドルクラスのモデルになるようだ。「アナログライクな聴き味は継承しつつも曇りの少ない高解像度な音が特徴」としている。

FX-50とスピーカーのP803-Sの組み合わせ

入力端子はRCAピン金メッキ仕様。スピーカーターミナルは金メッキ仕様で、バナナプラグにも対応する。ベースゲイン設定を切り替えられるディップスイッチがあり、プリ側の種類や能力、ゲインに合わせて20.8/26.8/30/32.8dBの4パターンから選択できる。

FX-50

MCU制御ソフトスタート(フェードイン)による、電源をONにした際のポップノイズ抑制機能も装備。音量を絞ってからの電源投入が基本だが、もしもときのスピーカー損傷を防ぐ場合もあるという。電源アダプターは同じく別売でDC12V~24V/容量2A以上が推奨されている。なお、推奨ACアダプターのみではプラグ形状が本体ジャックに合わないため、変換プラグを組み合わせて使っている。購入ページには、対応変換プラグへのリンクも貼ってあるので、購入時に一緒にカートに入れるといいだろう。

背面
ディップスイッチ
変換プラグを介してACアダプタを接続

ところで、写真を見て気付いた人もいるかも知れないが、実はこのモデルは発表当初、フロントパネルに「肉」という刻印があった。理由は不明だが強烈なインパクトがあった。ただ、「肉なしのバージョンが欲しい」という声が寄せられたため、現在のロットでは「肉」なしになったそうだ。もしリクエストが多ければ、再び「肉」有りモデルが復活するかもしれないとのこと。

初期ロットには「肉」の文字があった

このモデルもアルミ合金ボディで質感が高く、アルマイト硬化処理とヘアライン加工によって手触りも優しく、価格を超えた所有の満足感を得られる。スピーカーケーブル接続にあたっては、SPC-AVを直接ネジ留めした。ターミナルは各々が接近しているので、緩めるのが少し大変。筆者は指が細い方だが、それでも隣の端子に指が当たって回し難かった。あまり太いケーブルをネジ留めするのには向かないため、バナナプラグのケーブルを使うのがよさそうだ。

設置例

uDSDに接続し、まずは劇場版ラブライブ!サンシャイン!!の冒頭7分の映像から再生。音がグッと太くなってエネルギー感が向上したのが分かった。FX152J PROと同じ音量感でも、違いは明確だ。中低域に腰が入って逞しくなる反面、高域はやや強調気味。結果、音の輪郭はハッキリして分かりやすくなっている。押し出しが強いサウンドで、音量をあまり上げなくても十分なパワーが感じられた。

ホールで録音したジャズカルテットを聴くと、音像のディテールが強調される印象で小音量でも耳にスッと入ってくる。ボーカルや劇伴を何曲か聴いてみると、中低域の充実が楽器音のリアリティーを大きく底上げしている印象だった。スピーカーの機種的に低域側には制限があるものの、デスクトップシステムとしては十分な迫力がある。ハウス系の劇伴はビートの弾みがもたつかず、適度な制動が効いている。ホールで録音されたオーケストラ音源は、中低域だけでなく、全帯域に及ぶエネルギー感の向上がダイナミクスの表現に貢献しているようだった。アンプの基礎体力が向上することは、生演奏一発録りの音源でこそより光ってくる。それがよく分かる比較になった。

ゲインのディップスイッチは初期値で試聴したが、レベルごとの変化も確認した。当然ながら、段階的に音量が上がっていく。一般的なLINE出力なら初期状態で問題ないだろう。音量レベルの低いポータブル機やヘッドフォン端子から直接入力する場合は、音量をむやみに上げるとS/N上は好ましくないため、ゲインを上げて適正値を取ってあげるとよい。

本機は大型のスピーカーもドライブ可能とあったので、少し無茶な実験もしてみた。筆者の防音スタジオにあるミドルクラスのDALIブックシェルフスピーカーRUBICON2(4Ω)にバナナプラグで接続。音を出してみるという試みだ。結果は、いつものRUBICON2のサウンドとは打って変わって、ドンシャリ感が露骨に出てしまった。低域はアンプの見た目からは信じられないパワーで出ているものの、中域がポッカリと落ちていて、不自然さは否めなかった。大型スピーカーといってもさすがに限度があるようだ。ただこれはFX-50の個性であり、例えばPROを冠した他の上級機なら結果は違うのかも知れない。

RUBICON2にも接続してみた

2017年に発売された、48W×2ch出力で3,480円というハイコストパフォーマンスなモデル「FX202A/FX-36A PRO」も、デスクトップで使ってみた。こちらは筆者好みのサウンドだった。

上が「FX202A/FX-36A PRO」

FX-50のエネルギー感はそのままにモニターライクな音にまとまっている。最初に使ったFX152J PROよりわずかに高域が煌びやかだが、中低域はしっかり出ているし、スピーカーも余裕を持ってドライブしている印象だ。音楽のジャンルを選ばず、飾らない音を奏でてくれるアンプだと感じた。PROを冠したシリーズは同じような方向性でサウンドチューニングされているのかもしれない。FX–AUDIO-には、PROシリーズ最上位として「FX-502J PRO」(7,980円/税込)というモデルがある。真空管アンプと合わせたサウンドがどうなるのかも気になった。

最初のアンプにも、好きな音を追求したい人にも

FX–AUDIO-製品は、内部のオペアンプを交換できる機種が多く、ユーザー自身で音のカスタマイズもできる。自己責任にはなるが、音の変化が楽しめるそうなので、電子回路が得意な方はチャレンジしてみるといいだろう。

ACアダプターが別売というのもユニークだ。メーカー推奨品は確かに安心ではあるが、自分で用意して音の違いを楽しむこともできる。高品質なACアダプターとして筆者が思い浮かべたのはアイコー電子。ノイズの少ないトランス式と、効率が良く小型化が容易なスイッチング式、両方取りそろえている。ただ、トランス式は必要な電流値に届く製品が見つからなかった。ひとまずスイッチング式で、対応電圧と必要電流に注意して選び、試してみるといいかもしれない。

今回は2機種とも12VのACアダプターで試したが、24V対応のFX-50は電圧の違いで音がどう変わるかも興味深い。現実的にはスイッチング式を選ぶことになるだろうが、ノイズ対策でオーディオアクセサリーを併用してみたら効果があるのかも気になった。DC電源のノイズを除去するというと、iFi audioのiPurifier DC2が代表的だ。筆者は初期バージョンのiPurifier DCを持っていたので、それぞれの機種に適用。音は存外いい方向に変わった。音像が格段にクリアになって、サウンドステージは晴れ渡り、奥行きも向上。アンプの値段に対してアンバランスな組み合わせではあるが、アンプ本来の性能を存分に引き出せたことは特筆しておきたい。

iPurifier DCを接続してみた

今回使った機種は、豊富なFX-AUDIO-のライナップのほんの一部に過ぎない。しかし、機種ごとのコンセプトが分かりやすく、外観やサウンドは価格を超えるクオリティーであったのは間違いない。3機種を聴き終えて、他の機種の音も気になってきたが、どれも買えそうな価格ということもあって、通販サイトで各モデルを流し見するだけでも楽しい。

1万円でお釣りが来るオーディオは、コンパクトでリーズナブル、さらに選ぶ楽しさもあってハードルは決して高くない。今回の試用で実際の音を体験し、初めてスピーカーでオーディオを聴く人にもピッタリだと実感できた。それだけでなく、音を自分の好みに合わせてグレードアップしたいこだわり派にも注目のブランドといえそうだ。

橋爪 徹

オーディオライター。ハイレゾ音楽制作ユニット、Beagle Kickのプロデュース担当。Webラジオなどの現場で音響エンジニアとして長年音作りに関わってきた経歴を持つ。聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。Beagle Kick公式サイト